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第3章「魔法大会予選 ‐エルクの秘められた力‐」
第11話「アリア」
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『ゴー』の合図とともに、お互いに剣を構え、間合いを取る。
アリアは左半身を前にしながら、右手に剣を、左手に盾を持つ片手剣スタイル。
それに対してジャコさんも左手には何も持たないが、右手のみで剣を持つ片手剣スタイルだ。
アリアが少し近づけば、ジャコさんは少し離れ距離を保っている。
お互いがジリジリと距離を保ったまま移動している。
するとジャコさんは左手で天を指さし、詠唱を始めた。
「サラマンダーよ、我が腕を弓にせん」
ファイヤボルトの詠唱か。
剣を持ったまま右腕を天に向け、「ここから出ますよ」と言わんばかりにアピールをして「炎系だからかき消そう」そう思わせる作戦か。
「主よ、彼の者に一時の加護を」
彼の詠唱に合わせ、一直線に彼の元へ走りながらアリアも詠唱を始めた。
「ファイヤボルト」
「シアルフィ」
多分彼の指さした上空からファイヤボルトが出てくるのを警戒し、視線を上に上げた瞬間に暗器が飛んでくるのだろう。
事前の情報で魔法も使えない事を知っているアリアだから、そんな見え透いた罠には引っかかるわけがなかった。
まっすぐ彼だけを見て走っていく。
「ちょっと、えっ……」
騙そうとしたのに引っかかる様子が無い彼女に驚き、慌てて左手を振るう。
袖から3つほどナイフが飛んでくるが、投げようとするところまで見えているのだ。もはやそんなものに当たるわけが無い。
彼女は盾でナイフを振り払い、そのままの勢いで突っ込んで行った。
ジャコさんはアリアのタックルをまともに受けて、仰け反りつつも必死に体制を整えて剣を構えようとするが、鼻先に剣をつきつけられている。
勝負は完全に決まった。
「まいった。降参だ」
苦笑いを浮かべ、両手を軽く上げ降参のポーズをとるジャコさん。
「勝負あり! 勝者アリア選手!」
「キャー! アリアお姉さまステキー!」
彼女の応援に来ていた学生達から、歓声の声が上がる。
それに対してアリアはオロオロしている。歓声に対してどう答えれば良いのかわからないようだ。
少しぎこちない様子でこちらに向かい軽く手を挙げて、そのまま退場していった。
退場する時も、少し歩いてはこちらを振り返ったりして少し挙動不審だ。彼女なりに緊張しているのだろう。
よし、それなら次の試合の相手の情報を教えるついでに、緊張をほぐしてあげよう。
僕は席を立ち、控え室に向かった。
☆ ☆ ☆
待合室のアリアは椅子に座りながらも、少し落ち着かない様子でキョロキョロしていた。
そんな彼女が僕を見つけると一目散に駆けてくる。
僕の肩を掴み、顔を近づけてくるがいつもより近い。思わず目線を逸らしてしまう。
「エルク、私おかしくなかった? 変じゃない?」
普段と違っておかしいと言えばおかしい、つまり変だ。
緊張に弱いのだろう。その結果応援さえも逆に彼女を追い詰める結果になっている。
アリアは身長が僕よりも高く、今は見上げる感じで彼女を見ているのだが、僕よりも大きいはずの彼女が、今は小さく見える。
変に思われていないか心配になり、周りの目が気になってキョロキョロと挙動不審になる。
その行動が不審に思い、注目を集めてしまう負のスパイラルに陥っているな。
「大丈夫、変じゃないよ」
「本当に?」
「はい。なので気にしなくて大丈夫ですよ」
「うん」
会話が途切れ、僕をジーッと無表情で見てくる。
何かを言おうとして口を開けるが、そのまま閉じてしまう。
彼女は口下手だから、どう言えば良いのかわからないのだろう。
「どうしました?」
「あのね」
「はい」
「胸がドキドキする」
「緊張してるんだね」
「うん」
緊張からか少し顔が赤い。
自分の胸に手を当てて、心拍を確認するように。
そのしぐさで僕までドキドキしてしまう。
「緊張するのは、初めてですか?」
「ううん、前に火竜と対峙した時もドキドキした」
「あぁ、あの時は僕もドキドキしましたよ」
そっちのドキドキは顔が青くなったけど。
言葉少なだが、いつもよりも饒舌になっている。
無意識的に緊張を和らげるため、適当な話題でごまかそうとしているのだろう。
☆ ☆ ☆
っと、そろそろアリアの試合の時間か。
ついつい話し込んでしまい、対戦相手の情報を伝えてなかった。
「次の相手だけど、獣人のケーラさんって言う戦士だね」
確か前に卒業試験の護衛依頼失敗した時に、酒場でリンの匂いをクンクン嗅いでた犬耳の獣人女性だ。
「地剣術の使い手で、身体能力が高くてバランス感覚がずば抜けて高いみたいで、どんな姿勢からでも繰り出される斬撃が慣れない相手には厳しいって」
ちなみにランベルトさんの評価ではB+だ。
評価のランクについてはあえて伝えない。相手が格上だからと言って委縮してしまわないようにだ。
「それと『魔力感知』があるみたいだけど、アリアは別に魔法は使わないから関係ないかな」
「うん、わかった」
「観客席から応援してるから、頑張って」
「うん」
☆ ☆ ☆
「次の試合はケーラ選手対アリア選手。『魔術師殺し』の異名を持つケーラ選手でありますが、相手が剣士でもその実力をいかんなく発揮できるのか!」
ケーラと呼ばれた獣人の女性はピンと張った犬耳にふさふさの尻尾をたなびかせいる。
動きやすさを重視したノースリーブのシャツとショートパンツ、腰のベルトで左右に剣を、腰には短剣を携えている。
足の太ももにはナイフがそれぞれ2つづつ、投てき用だろう。
軽い足取りでリングに上がり、アリアに笑いかけている。
対するアリアは先ほどのようにぎこちない動きだ。また緊張してしまっているのだろう。
「アリアー、ガンバレー!」
僕の声が届いたのだろう。こちらをじっと見て、静かに頷いた。
彼女の動きからぎこちなさが消えた。
「ヒュー、良いねアンタラ。そういうの好きよ」
ケーラさんは僕らを軽く見て、何か勘違いしたのだろう、下品な笑い方をしていた。
「お互いがリングに上がりました、それでは準備は宜しいですね! 魔法大会、レディー」
審判がリングの中央に立ち、右手を大きく上げる。
「「「「「「ゴー!!!!!!!」」」」」」
合図とともにお互いが相手に向かい走り出した。さっきのアリアの試合とは逆の展開だ。
ケーラさんは右手に剣を持ちながら、左手でナイフを一本引き抜くとそのままアリアに向かって投げつけた。
ナイフを盾で振り払い弾くが、盾を構え弾く事により失速するアリアの前まで着くと、ケーラさんは左側にステップしながら剣を構え、その瞬間には振り下ろされていた。『瞬戟』か。
最初に投げたナイフを盾で弾かせ、その際に振り払った盾と反対方向に回り込み斬りかかる事によりアリアの盾を攻略するようだ。
キーンと、剣と剣がぶつかり合う音が響いた。アリアは『瞬戟』に反応して、右手の剣で受け止めている。
「おおー!」
一瞬の間に行われた攻防に観客も思わず声を上げてしまう。
すぐさま盾を彼女の前に構え直し、剣を振り上げる。
アリアの振り上げた腕がブレた瞬間には振り下ろされていた。『瞬戟』だ。
シオンさんと修行した成果だろう、アリアも『瞬戟』を扱えるようになっているようだ。
アリアの『瞬戟』を受け止めきれずケーラさんの剣は、場外まで飛んで行ってしまった。
「おおー!」
学生たちの声が上がる。
アリアが追撃をしようとする前に、彼女はバックステップで距離を取っていた。
「へぇ、思ったよりも結構やるじゃん、確か冒険者のランクEでしょ?」
「うん」
「もう十分Cランク以上の実力があるわ。良かったらうちのパーティ来る?」
「断る」
「そっか、残念」
アリアは会話する余裕が出来ている。
これならいけるんじゃないだろうか?
さっきの攻防を見たが、ケーラさん相手に戦えている。これならこのまま勝てるかもしれない。
剣はあと一本、もう一度打ち合いで飛ばすことが出来れば、ケーラさんはナイフと短剣しかなくなる、そうなれば一気に有利な状況だ。
先ほどまで余裕の表情で笑っていたケーラさんが、会話こそ軽いものの真剣な表情を見せている。まるで獲物を狙う獣のように。
軽く腰を落とし、姿勢を低くし、アリアに向かい走り出した。
先ほどと同じく、右手に剣を持ち、左手でナイフを抜き今度は2本アリアに投げつけてくる。
速度を上げ、盾で弾くのと同時に彼女の目の前まで来て左にサイドステップ。
ケーラさんが振り上げるよりも先に、アリアが剣を振り上げていた。次にくる行動が分かっていれば、先手を取る事は容易いだろう。
アリアの腕がブレる際に、ケーラさんの腕がブレるのも見えた。
甲高い音を立てて、ケーラさんの剣が飛んでいくのが見えた。
お互いの腕がブレた瞬間にアリアの剣はケーラさんの少し横に振り下ろされていた。
そしてアリアは腕を両手で掴まれ、振り下ろす勢いを利用されて投げ飛ばされていた。
そのまま背中から地面に叩きつけられたアリアに、ケーラさんが覆いかぶさるように倒れこみ、右腕を足で押さえ、左手で頭を押さえながら右手で腰の短剣を抜き、刃の無い方を首筋に当てていた。
「……降参」
「勝負あり! 勝者ケーラ選手!」
歓声が上がるが、学生達からは「あぁ」と言った落胆の声が聞こえる。
力を緩め、アリアの上からどき、アリアが起き上がるために手を貸すケーラさん。
差し出された手を掴み、起き上がったアリアをケーラさんが抱きしめていた。
「正直ギリギリだったよ」
「ううん、私はまだまだだった」
「そんな事ないさ。次があればまた手合わせしたいもんだ」
「次は負けない」
試合は負けてしまったが、アリアは十分凄かった。
というか凄すぎて最後何があったか良くわからなかった。
「アリアの振り下ろしの『瞬戟』に合わせて、ケーラは振り上げる『瞬戟』で軌道を少し逸らしてから剣を手放す『無手』に繋いだんだと思う。少し速すぎてちゃんとは見えなかったが」
シオンさんの解説を皆「へぇ」という顔で聞いていた。ほとんどの人が僕と同様何が起きたか分からなかったようだ。
「ちょっとアリアの様子を見に、待合室に行ってくるね」
☆ ☆ ☆
「ぐすっ……うっ……」
待合室では、ケーラさんが困った顔で、椅子に座り泣いてるアリアを宥めていた。
困った顔でキョロキョロしており、傍から見たらまるでイジメて泣かしたみたいに見える。
¥ そして目が合った僕に「見つけた」と言わんばかりにニヤァとした顔で近づいてくる。
「よう色男、私は次の試合があるからここは任せたよ。じゃ!」
僕の背中をバンと叩き、颯爽と去っていくケーラさんを尻目に、アリアに近づいた。
普段は泣いても声を出さない彼女が、声を出して泣いている。
両手で涙をぬぐっているが、とめどめなく溢れている。
「勝てるかもと思ったら胸がドキドキして……何も考えられなくなって……気づいたら負けた」
「仕方ないですよ。初めてなんですし」
「仕方なくない! 悔しかった、勝ちたかった」
普段無表情だからあまり気づかないが、彼女はクールでも何でもない。
普通の人と同じように負けず嫌いなのだ。
「せっかく皆が応援してくれたのに」
他人に興味無さそうで、他人に対して人一倍敏感だ。
彼女の頭をそっと撫でてあげる。 それが余計に刺激してしまったのだろう。
そのまま僕の胸に顔をうずめ、ワンワン泣いている。
「泣き止むまでこうしていますから、落ち着いたら皆の所に行きましょう」
「ぐすっ……うん」
ちょっぴり泣き虫な彼女が落ち着くまで、僕はずっと抱きしめていた。
控室に居た他の参加者はそんな僕らを見て、ちょっと困ったような顔で見て見ぬ振りをしてくれた。
アリアは左半身を前にしながら、右手に剣を、左手に盾を持つ片手剣スタイル。
それに対してジャコさんも左手には何も持たないが、右手のみで剣を持つ片手剣スタイルだ。
アリアが少し近づけば、ジャコさんは少し離れ距離を保っている。
お互いがジリジリと距離を保ったまま移動している。
するとジャコさんは左手で天を指さし、詠唱を始めた。
「サラマンダーよ、我が腕を弓にせん」
ファイヤボルトの詠唱か。
剣を持ったまま右腕を天に向け、「ここから出ますよ」と言わんばかりにアピールをして「炎系だからかき消そう」そう思わせる作戦か。
「主よ、彼の者に一時の加護を」
彼の詠唱に合わせ、一直線に彼の元へ走りながらアリアも詠唱を始めた。
「ファイヤボルト」
「シアルフィ」
多分彼の指さした上空からファイヤボルトが出てくるのを警戒し、視線を上に上げた瞬間に暗器が飛んでくるのだろう。
事前の情報で魔法も使えない事を知っているアリアだから、そんな見え透いた罠には引っかかるわけがなかった。
まっすぐ彼だけを見て走っていく。
「ちょっと、えっ……」
騙そうとしたのに引っかかる様子が無い彼女に驚き、慌てて左手を振るう。
袖から3つほどナイフが飛んでくるが、投げようとするところまで見えているのだ。もはやそんなものに当たるわけが無い。
彼女は盾でナイフを振り払い、そのままの勢いで突っ込んで行った。
ジャコさんはアリアのタックルをまともに受けて、仰け反りつつも必死に体制を整えて剣を構えようとするが、鼻先に剣をつきつけられている。
勝負は完全に決まった。
「まいった。降参だ」
苦笑いを浮かべ、両手を軽く上げ降参のポーズをとるジャコさん。
「勝負あり! 勝者アリア選手!」
「キャー! アリアお姉さまステキー!」
彼女の応援に来ていた学生達から、歓声の声が上がる。
それに対してアリアはオロオロしている。歓声に対してどう答えれば良いのかわからないようだ。
少しぎこちない様子でこちらに向かい軽く手を挙げて、そのまま退場していった。
退場する時も、少し歩いてはこちらを振り返ったりして少し挙動不審だ。彼女なりに緊張しているのだろう。
よし、それなら次の試合の相手の情報を教えるついでに、緊張をほぐしてあげよう。
僕は席を立ち、控え室に向かった。
☆ ☆ ☆
待合室のアリアは椅子に座りながらも、少し落ち着かない様子でキョロキョロしていた。
そんな彼女が僕を見つけると一目散に駆けてくる。
僕の肩を掴み、顔を近づけてくるがいつもより近い。思わず目線を逸らしてしまう。
「エルク、私おかしくなかった? 変じゃない?」
普段と違っておかしいと言えばおかしい、つまり変だ。
緊張に弱いのだろう。その結果応援さえも逆に彼女を追い詰める結果になっている。
アリアは身長が僕よりも高く、今は見上げる感じで彼女を見ているのだが、僕よりも大きいはずの彼女が、今は小さく見える。
変に思われていないか心配になり、周りの目が気になってキョロキョロと挙動不審になる。
その行動が不審に思い、注目を集めてしまう負のスパイラルに陥っているな。
「大丈夫、変じゃないよ」
「本当に?」
「はい。なので気にしなくて大丈夫ですよ」
「うん」
会話が途切れ、僕をジーッと無表情で見てくる。
何かを言おうとして口を開けるが、そのまま閉じてしまう。
彼女は口下手だから、どう言えば良いのかわからないのだろう。
「どうしました?」
「あのね」
「はい」
「胸がドキドキする」
「緊張してるんだね」
「うん」
緊張からか少し顔が赤い。
自分の胸に手を当てて、心拍を確認するように。
そのしぐさで僕までドキドキしてしまう。
「緊張するのは、初めてですか?」
「ううん、前に火竜と対峙した時もドキドキした」
「あぁ、あの時は僕もドキドキしましたよ」
そっちのドキドキは顔が青くなったけど。
言葉少なだが、いつもよりも饒舌になっている。
無意識的に緊張を和らげるため、適当な話題でごまかそうとしているのだろう。
☆ ☆ ☆
っと、そろそろアリアの試合の時間か。
ついつい話し込んでしまい、対戦相手の情報を伝えてなかった。
「次の相手だけど、獣人のケーラさんって言う戦士だね」
確か前に卒業試験の護衛依頼失敗した時に、酒場でリンの匂いをクンクン嗅いでた犬耳の獣人女性だ。
「地剣術の使い手で、身体能力が高くてバランス感覚がずば抜けて高いみたいで、どんな姿勢からでも繰り出される斬撃が慣れない相手には厳しいって」
ちなみにランベルトさんの評価ではB+だ。
評価のランクについてはあえて伝えない。相手が格上だからと言って委縮してしまわないようにだ。
「それと『魔力感知』があるみたいだけど、アリアは別に魔法は使わないから関係ないかな」
「うん、わかった」
「観客席から応援してるから、頑張って」
「うん」
☆ ☆ ☆
「次の試合はケーラ選手対アリア選手。『魔術師殺し』の異名を持つケーラ選手でありますが、相手が剣士でもその実力をいかんなく発揮できるのか!」
ケーラと呼ばれた獣人の女性はピンと張った犬耳にふさふさの尻尾をたなびかせいる。
動きやすさを重視したノースリーブのシャツとショートパンツ、腰のベルトで左右に剣を、腰には短剣を携えている。
足の太ももにはナイフがそれぞれ2つづつ、投てき用だろう。
軽い足取りでリングに上がり、アリアに笑いかけている。
対するアリアは先ほどのようにぎこちない動きだ。また緊張してしまっているのだろう。
「アリアー、ガンバレー!」
僕の声が届いたのだろう。こちらをじっと見て、静かに頷いた。
彼女の動きからぎこちなさが消えた。
「ヒュー、良いねアンタラ。そういうの好きよ」
ケーラさんは僕らを軽く見て、何か勘違いしたのだろう、下品な笑い方をしていた。
「お互いがリングに上がりました、それでは準備は宜しいですね! 魔法大会、レディー」
審判がリングの中央に立ち、右手を大きく上げる。
「「「「「「ゴー!!!!!!!」」」」」」
合図とともにお互いが相手に向かい走り出した。さっきのアリアの試合とは逆の展開だ。
ケーラさんは右手に剣を持ちながら、左手でナイフを一本引き抜くとそのままアリアに向かって投げつけた。
ナイフを盾で振り払い弾くが、盾を構え弾く事により失速するアリアの前まで着くと、ケーラさんは左側にステップしながら剣を構え、その瞬間には振り下ろされていた。『瞬戟』か。
最初に投げたナイフを盾で弾かせ、その際に振り払った盾と反対方向に回り込み斬りかかる事によりアリアの盾を攻略するようだ。
キーンと、剣と剣がぶつかり合う音が響いた。アリアは『瞬戟』に反応して、右手の剣で受け止めている。
「おおー!」
一瞬の間に行われた攻防に観客も思わず声を上げてしまう。
すぐさま盾を彼女の前に構え直し、剣を振り上げる。
アリアの振り上げた腕がブレた瞬間には振り下ろされていた。『瞬戟』だ。
シオンさんと修行した成果だろう、アリアも『瞬戟』を扱えるようになっているようだ。
アリアの『瞬戟』を受け止めきれずケーラさんの剣は、場外まで飛んで行ってしまった。
「おおー!」
学生たちの声が上がる。
アリアが追撃をしようとする前に、彼女はバックステップで距離を取っていた。
「へぇ、思ったよりも結構やるじゃん、確か冒険者のランクEでしょ?」
「うん」
「もう十分Cランク以上の実力があるわ。良かったらうちのパーティ来る?」
「断る」
「そっか、残念」
アリアは会話する余裕が出来ている。
これならいけるんじゃないだろうか?
さっきの攻防を見たが、ケーラさん相手に戦えている。これならこのまま勝てるかもしれない。
剣はあと一本、もう一度打ち合いで飛ばすことが出来れば、ケーラさんはナイフと短剣しかなくなる、そうなれば一気に有利な状況だ。
先ほどまで余裕の表情で笑っていたケーラさんが、会話こそ軽いものの真剣な表情を見せている。まるで獲物を狙う獣のように。
軽く腰を落とし、姿勢を低くし、アリアに向かい走り出した。
先ほどと同じく、右手に剣を持ち、左手でナイフを抜き今度は2本アリアに投げつけてくる。
速度を上げ、盾で弾くのと同時に彼女の目の前まで来て左にサイドステップ。
ケーラさんが振り上げるよりも先に、アリアが剣を振り上げていた。次にくる行動が分かっていれば、先手を取る事は容易いだろう。
アリアの腕がブレる際に、ケーラさんの腕がブレるのも見えた。
甲高い音を立てて、ケーラさんの剣が飛んでいくのが見えた。
お互いの腕がブレた瞬間にアリアの剣はケーラさんの少し横に振り下ろされていた。
そしてアリアは腕を両手で掴まれ、振り下ろす勢いを利用されて投げ飛ばされていた。
そのまま背中から地面に叩きつけられたアリアに、ケーラさんが覆いかぶさるように倒れこみ、右腕を足で押さえ、左手で頭を押さえながら右手で腰の短剣を抜き、刃の無い方を首筋に当てていた。
「……降参」
「勝負あり! 勝者ケーラ選手!」
歓声が上がるが、学生達からは「あぁ」と言った落胆の声が聞こえる。
力を緩め、アリアの上からどき、アリアが起き上がるために手を貸すケーラさん。
差し出された手を掴み、起き上がったアリアをケーラさんが抱きしめていた。
「正直ギリギリだったよ」
「ううん、私はまだまだだった」
「そんな事ないさ。次があればまた手合わせしたいもんだ」
「次は負けない」
試合は負けてしまったが、アリアは十分凄かった。
というか凄すぎて最後何があったか良くわからなかった。
「アリアの振り下ろしの『瞬戟』に合わせて、ケーラは振り上げる『瞬戟』で軌道を少し逸らしてから剣を手放す『無手』に繋いだんだと思う。少し速すぎてちゃんとは見えなかったが」
シオンさんの解説を皆「へぇ」という顔で聞いていた。ほとんどの人が僕と同様何が起きたか分からなかったようだ。
「ちょっとアリアの様子を見に、待合室に行ってくるね」
☆ ☆ ☆
「ぐすっ……うっ……」
待合室では、ケーラさんが困った顔で、椅子に座り泣いてるアリアを宥めていた。
困った顔でキョロキョロしており、傍から見たらまるでイジメて泣かしたみたいに見える。
¥ そして目が合った僕に「見つけた」と言わんばかりにニヤァとした顔で近づいてくる。
「よう色男、私は次の試合があるからここは任せたよ。じゃ!」
僕の背中をバンと叩き、颯爽と去っていくケーラさんを尻目に、アリアに近づいた。
普段は泣いても声を出さない彼女が、声を出して泣いている。
両手で涙をぬぐっているが、とめどめなく溢れている。
「勝てるかもと思ったら胸がドキドキして……何も考えられなくなって……気づいたら負けた」
「仕方ないですよ。初めてなんですし」
「仕方なくない! 悔しかった、勝ちたかった」
普段無表情だからあまり気づかないが、彼女はクールでも何でもない。
普通の人と同じように負けず嫌いなのだ。
「せっかく皆が応援してくれたのに」
他人に興味無さそうで、他人に対して人一倍敏感だ。
彼女の頭をそっと撫でてあげる。 それが余計に刺激してしまったのだろう。
そのまま僕の胸に顔をうずめ、ワンワン泣いている。
「泣き止むまでこうしていますから、落ち着いたら皆の所に行きましょう」
「ぐすっ……うん」
ちょっぴり泣き虫な彼女が落ち着くまで、僕はずっと抱きしめていた。
控室に居た他の参加者はそんな僕らを見て、ちょっと困ったような顔で見て見ぬ振りをしてくれた。
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使命も宿命も無き救世の勇者は、今日も欲望と理性を秤にかけて我が道を往く。
※ 更新予定日は【月曜日】と【金曜日】です。
※第301話から更新時間を朝5時からに変更します。
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