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第3章「魔法大会予選 ‐エルクの秘められた力‐」
第6話「ヴェル魔法大会予選開始」
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第1回目の魔法大会の予選が始まった。
シオンさん達はあの日「俺達が予選参加中、イルナ様を見ていて欲しい」と頼むために来ていた。
勿論断る理由は無かったのでOKを出した。
「僕らは第1周目の予選は出ないので問題ないですよ」
「そうか、助かる」
お礼を言うシオンさんを見て。
「あれ? 私達は最初の予選は見送りだっけ?」
サラがそんなの決まったっけ? と言いたげだ。
色々とぶっとんだせいで、記憶が曖昧になってるから彼女も強くは言ってこない。
「はい、それで決まりましたよ」
勿論嘘だ。
だが堂々と言い張る僕を見て「そっか」で流してくれた。
シオンさんとフルフルさんは同じ南会場で参加する。
中央会場を選ぼうとしていたので「学園長が初日の南会場で参加するそうなので、南会場にしてはどうでしょうか? 学生の応援する人も一カ所になって楽になりますし」と言って南会場に誘導した。
何故知ってるか問われたら情報源としてスクール君の名前を出そうとしたけど、学園長の出場する予選は学生の噂になっていたらしく、何故知っているかは疑問に思われずに済んだ。
☆ ☆ ☆
ドーム型のコロシアム会場は中央会場と比べればやや小さいらしいが、それでも数千人は入れそうなスペースがある。
そしてまだ予選だというのに見物席は人で溢れかえっている。会場はほぼ満席だ。
僕らの周りには同じように学園長、シオンさん、フルフルさんの応援に来た学生だらけだ。
僕の左隣にはイルナさんが、右隣にはアリア、リン、サラの順番で座っている。
試合が始まるまでまだ時間があるというのに、会場は既に盛り上がりを見せている。
誰が優勝するか? どんな選手が出場するか? そんな会話が意識しなくても飛び込んでくる。
「そう言えば、シオンさん達は大勢の前で戦うけど緊張とか大丈夫かな?」
隣のイルナさんに話しかける。
猫耳事件の後、彼女達とは少しギクシャクしていて上手く話しかけれないからなぁ。
アリアとリンは2、3日したらわりとケロっとしていたが、サラは僕がリンと話している所を見るだけで睨んでくるし。
「あやつらなら大丈夫じゃろ、慣れておるからな」
「へぇ、そうなんだ」
「なんせ妾の護衛に選ばれるくらいじゃぞ。当然だ、アーッハッハッハッハ」
自慢気に高笑いをするイルナさん。周りから注目されてるけど本人にはどこ吹く風と言った感じだ。
確かにこれなら、大勢の人に注目されるのに慣れているかもね。
周りから歓声が沸き始めた、四角いリングの中央へ一人の男が歩いていく。
坊主頭に赤いスーツ、手には黒い棒状の何かを持っている。
「みなさまお待ちかね! 年に一度のヴェル魔法大会の予選が始まってまいりました!」
会場全体に声が響く、彼の声量はそんなのも凄いのか?
多分彼が手に持ってる棒状の物が、声を大きくするための魔道具か何かだと思うけど。
「大会において、選手の放った攻撃が客席に飛んで行った場合でも、会場の4ヵ所に建てられたポールから客席を守るバリアが展開されており、安全に努めてまいりますが。万が一バリアをすり抜けて当たってしまった場合においては、ケガや生死の保証は致しかねません事をご了承ください」
客席の最前列にそれぞれ四方を囲むようにポールが立てられている。あそこからバリアが出ているのか。となるとあのポールは何かの魔道具か?
「それでは皆様、第一回戦を始めようと思います。初戦は皆様ご注目のこのカード! 元Sランク冒険者で、現在は魔法学園の学園長。その名もヴァレミーだああああああああああ!!!!!」
入場用の扉からゆっくりと歩いて出てくる学園長。
普段の学園で見かける姿とは空気が何か違う。右手に剣を持ち、左手には杖を持っている。
補助魔法の効果で、そこら辺の剣士よりは近接戦が強いとランベルトさんのメモに書かれていたっけ。
近づかれたら剣で、離れたら魔法で戦うオールレンジなタイプか。
それに対して相手は、メモにあった選手でランドルさんか。
評価はB+の戦士型、魔術師相手には特に勝率が良いと書かれている。
レイピアのような細身の剣と盾を持って、ゆっくりとリングの上まで歩いていく。
やや離れた位置でお互いの足が止まったのを確認し、リングの中央で赤いスーツの男が右手を高く上げる。
「お互いがリングに上がりました。それでは準備は宜しいですね! 魔法大会、レディー」
「「「「「「ゴー!!!!!!!」」」」」」
観客も彼の「ゴー」の合図に合わせて叫ぶ。
開始の合図に合わせて「カーン」と高い鐘の音が響き渡る。
まず最初に動いたのは学園長だ。
左手に持った杖を少し持ち上げて、そのままコンと地面をつく。
すると火柱が上がった。火の上級魔法ファイヤピラー、詠唱どころか溜めのモーションすらなかった。
ランドルさんは間一髪で避けるも、額に汗を浮かべている。
もしこれを事前に知っていたとしても、あんなのをまともに避けられる人は少ないだろう。
「ホッ! ハッ!」
学園長が杖をコツンコツンと突くたびに、色んな魔法が出てくる。
右へ左へと避けているランドルさんだが、これは正直時間の問題だ。
どの魔法がどこから出てくるのか全く分からないのだから。
会場も最初の頃は彼が紙一重で避けているのを見て盛り上がっていたが、明らかな劣勢に段々と声が小さくなっていく。
誰もが彼の勝利を諦めている。だからこそと声援を送る者も中には居るみたいだけど。
「これは学園長の勝利ですね」
「何を言っておる。先ほどからランドルは一度も当たっておらぬのだぞ?」
「うん、でも」
「紙一重で避けてるのが、段々余裕を持って避けてるように見える」
「見ておれ。あの男、諦めた人間の目をしておらぬ」
そう言うイルナちゃんは、ランドルさんが何かやる事を確信めいた目で見ている。
そのランドルさんはというと肩で息をして、悲痛な表情をしながら汗を浮かべてはいるが、確かに口元は笑っている。
もしかして、何か秘策があるのだろうか?
学園長が杖を振り上げると同時に、彼は雄たけびを上げながらまっすぐ学園長に向かっていった。
もしかしてこれが秘策か? もし『瞬歩』があの距離で使えるなら秘策になりえただろうが、彼は走っていってるだけだ。
足が速くはなっている。多分シアルフィの補助魔法をかけたのだろう、だがそれでも学園長が杖をつく前にたどり着くことは不可能だ。
「コツン」と杖をついた瞬間に、彼の足元からファイヤピラーが吹きあがった。
悲鳴が上がる、あんな至近距離で当たれば下手すれば即死だ。
しかし炎の中から雄たけびをあげ走って出てくる、所々焦げているが彼は無事だったようだ。
燃えて灰になった装備の一部がボロリと落ちた、その下には火竜の皮が見える。
あれは、そうか。僕らが売り払った火竜の皮や鱗を、彼が店で買って装備にしたのか。
キラーヘッドを倒すときに僕がやった作戦と似たようなものだ。流石にファイヤピラーじゃ魔法の規模が違う気がするけど。
ファイヤピラーから出てくるのは想定していなかったのだろう、一瞬の虚を突かれながらも振り下ろした彼の剣を学園長は剣と杖で受け止めるが、彼は走ってきた勢いのまま突進。
吹き飛ばす際にランドルさんは自らの武器を手放し、学園長の杖を握りしめて見事にそれを奪い。そのまま場外に投げ捨てた。
「わざわざ杖なんぞ取らずに、倒れてる老いぼれにトドメを刺したほうが早かったんじゃないのかな?」
「はぁはぁ……馬鹿言え。倒れたお前を追撃する前に魔法が飛んでくるくらい予想できる」
「なるほどのう、しかしどうやって魔法を予測した? もしフロストダイバーだったらお主は終わっておったぞ?」
「杖の角度だ。最初は振り上げる高さを疑ったが、角度によって属性が変わっているのに気づいた。他はわからねぇが属性さえ分かれば防ぐ方法はあるからな。それだけだ」
「ほっほっほ、正解じゃ」
そう言って左手を指さすと、ランドルさんのヤケドが治っていく。
「何をした!?」
「何って、傷を治しただけよ。まだちょっと痛むがそれは辛抱してくれい」
「バカにしてるのか!!!!」
「いやいや、せっかくこれだけ頑張ったんだから。ご褒美ご褒美」
ほっほっほと笑いながら白髭を触る学園長。余裕見せ過ぎじゃないのかな?
「あー、学園長の奴。多分キレておるのう」
「えっ? 凄く笑っているけど?」
「妾も聞いた話なんじゃが。学園長が本気で折檻する時は、先にケガを治したりしてから折檻するそうじゃ。本気で殴るために」
と言うと学園長は怒っているのか?
明らかに有利な試合だったと思ったのに、それとも杖が相当大事な物だったのかな?
傷をいやされて額に青筋浮かべるランドルさん。こっちもこっちでキレてる気がする。
「ふざけやがって、ぶち殺す!!!!」
目を血走らせ、剣を振りあげ、突撃していく彼に学園長の顔が段々険しくなっていく。
「ふざけておらぬわああああああああああ」
お互いの剣戟でかん高い音がキンキンと鳴らっている。
僕はその動きに驚かざる得なかった。ランドルさんが剣を構えたと思ったら、剣を持っている辺りの腕がブレて見え、すると既に振り下ろされているのだ。
凄い速度で振っているのか?
「あれも技か何かですか?」
「あれは瞬戟、瞬歩の腕バージョンみたいなもの」
腕への負担と、外してもちゃんと止めないと剣が地面に当たって壊れたり、地面に刺さったりしちゃうのが弱点なんだろうな。きっと。
しかし学園長もそれを確実にいなしている。
ただ一瞬よろけさせたところで、姿勢を整えた瞬間に『瞬戟』が飛んでくるから、攻めるタイミングを考えあぐねているようだ。
ランドルさんが攻めて学園長が防御に徹する、完全に形勢逆転している。
「まさかまさかの展開に! 優勝候補ヴァレミーがここで終わってしまうのか!?」
「はっ、余裕を見せて治療なんてさせるからこんなことになるんだぜ」
「余裕? そんなもんは近づかれた時点で無いわ!」
「じゃあなんで治療なんてしたんだ?」
「魔術師として負けたのが」
その瞬間、学園長の腕が一瞬ブレた。
剣を構えようとする彼よりも、一瞬早く『瞬撃』をしたのだ。
『瞬撃』は彼の剣を捕らえ、そのまま吹き飛ばした。
観客席まで飛んで行ったその剣は、バリアに当たり、カランと音を立てて場外に落ちた。
「悔しいからに決まってるだろおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「あっ」と言う表情で自分の剣が飛んで行った事で一瞬注意がそれた彼に、学園長は武器を捨て、右ストレートを構え、その瞬間には腕がブレて彼の右頬を捕らえていた。瞬撃パンチだ。
殴っられた勢いでそのまま壁まで吹き飛ばされて、ドサリと倒れ動かない。今ので気絶したのだろう。
ってか気絶だよね? 死んでないよね?
「わああああああああああああああああああ」
「最後に貫録を見せたヴァレミー! 見事一回戦勝利!」
観客席から声援が沸いた。
一試合目からなんて高レベルな戦いだったんだ。思った以上に凄かった。
「アリアだったら、この場合学園長とどうやって戦います?」
彼女も一応予選突破は出来ると思われている位なんだ。もしかしたら今の戦いを見て何か攻略方法が思いついているかも。
「無理」
バッサリ無理と言われた。彼女でも流石にあの強さは相手するの不可能なのか。
リン達の表情を見てみるが、顔を引き継いっている。
「私、あんなバケモノが出る大会に出場しないといけないの?」
サラがちょっと弱気になっていた。
☆ ☆ ☆
「魔術師としては負けたけど、戦士としてはワシのが強かったから良いもん」
学園長は今回の試合が不満で、勝ったのに控室で壁に向かって言い訳してた、と言うのを後日シオンさんから教えてもらった。
シオンさん達はあの日「俺達が予選参加中、イルナ様を見ていて欲しい」と頼むために来ていた。
勿論断る理由は無かったのでOKを出した。
「僕らは第1周目の予選は出ないので問題ないですよ」
「そうか、助かる」
お礼を言うシオンさんを見て。
「あれ? 私達は最初の予選は見送りだっけ?」
サラがそんなの決まったっけ? と言いたげだ。
色々とぶっとんだせいで、記憶が曖昧になってるから彼女も強くは言ってこない。
「はい、それで決まりましたよ」
勿論嘘だ。
だが堂々と言い張る僕を見て「そっか」で流してくれた。
シオンさんとフルフルさんは同じ南会場で参加する。
中央会場を選ぼうとしていたので「学園長が初日の南会場で参加するそうなので、南会場にしてはどうでしょうか? 学生の応援する人も一カ所になって楽になりますし」と言って南会場に誘導した。
何故知ってるか問われたら情報源としてスクール君の名前を出そうとしたけど、学園長の出場する予選は学生の噂になっていたらしく、何故知っているかは疑問に思われずに済んだ。
☆ ☆ ☆
ドーム型のコロシアム会場は中央会場と比べればやや小さいらしいが、それでも数千人は入れそうなスペースがある。
そしてまだ予選だというのに見物席は人で溢れかえっている。会場はほぼ満席だ。
僕らの周りには同じように学園長、シオンさん、フルフルさんの応援に来た学生だらけだ。
僕の左隣にはイルナさんが、右隣にはアリア、リン、サラの順番で座っている。
試合が始まるまでまだ時間があるというのに、会場は既に盛り上がりを見せている。
誰が優勝するか? どんな選手が出場するか? そんな会話が意識しなくても飛び込んでくる。
「そう言えば、シオンさん達は大勢の前で戦うけど緊張とか大丈夫かな?」
隣のイルナさんに話しかける。
猫耳事件の後、彼女達とは少しギクシャクしていて上手く話しかけれないからなぁ。
アリアとリンは2、3日したらわりとケロっとしていたが、サラは僕がリンと話している所を見るだけで睨んでくるし。
「あやつらなら大丈夫じゃろ、慣れておるからな」
「へぇ、そうなんだ」
「なんせ妾の護衛に選ばれるくらいじゃぞ。当然だ、アーッハッハッハッハ」
自慢気に高笑いをするイルナさん。周りから注目されてるけど本人にはどこ吹く風と言った感じだ。
確かにこれなら、大勢の人に注目されるのに慣れているかもね。
周りから歓声が沸き始めた、四角いリングの中央へ一人の男が歩いていく。
坊主頭に赤いスーツ、手には黒い棒状の何かを持っている。
「みなさまお待ちかね! 年に一度のヴェル魔法大会の予選が始まってまいりました!」
会場全体に声が響く、彼の声量はそんなのも凄いのか?
多分彼が手に持ってる棒状の物が、声を大きくするための魔道具か何かだと思うけど。
「大会において、選手の放った攻撃が客席に飛んで行った場合でも、会場の4ヵ所に建てられたポールから客席を守るバリアが展開されており、安全に努めてまいりますが。万が一バリアをすり抜けて当たってしまった場合においては、ケガや生死の保証は致しかねません事をご了承ください」
客席の最前列にそれぞれ四方を囲むようにポールが立てられている。あそこからバリアが出ているのか。となるとあのポールは何かの魔道具か?
「それでは皆様、第一回戦を始めようと思います。初戦は皆様ご注目のこのカード! 元Sランク冒険者で、現在は魔法学園の学園長。その名もヴァレミーだああああああああああ!!!!!」
入場用の扉からゆっくりと歩いて出てくる学園長。
普段の学園で見かける姿とは空気が何か違う。右手に剣を持ち、左手には杖を持っている。
補助魔法の効果で、そこら辺の剣士よりは近接戦が強いとランベルトさんのメモに書かれていたっけ。
近づかれたら剣で、離れたら魔法で戦うオールレンジなタイプか。
それに対して相手は、メモにあった選手でランドルさんか。
評価はB+の戦士型、魔術師相手には特に勝率が良いと書かれている。
レイピアのような細身の剣と盾を持って、ゆっくりとリングの上まで歩いていく。
やや離れた位置でお互いの足が止まったのを確認し、リングの中央で赤いスーツの男が右手を高く上げる。
「お互いがリングに上がりました。それでは準備は宜しいですね! 魔法大会、レディー」
「「「「「「ゴー!!!!!!!」」」」」」
観客も彼の「ゴー」の合図に合わせて叫ぶ。
開始の合図に合わせて「カーン」と高い鐘の音が響き渡る。
まず最初に動いたのは学園長だ。
左手に持った杖を少し持ち上げて、そのままコンと地面をつく。
すると火柱が上がった。火の上級魔法ファイヤピラー、詠唱どころか溜めのモーションすらなかった。
ランドルさんは間一髪で避けるも、額に汗を浮かべている。
もしこれを事前に知っていたとしても、あんなのをまともに避けられる人は少ないだろう。
「ホッ! ハッ!」
学園長が杖をコツンコツンと突くたびに、色んな魔法が出てくる。
右へ左へと避けているランドルさんだが、これは正直時間の問題だ。
どの魔法がどこから出てくるのか全く分からないのだから。
会場も最初の頃は彼が紙一重で避けているのを見て盛り上がっていたが、明らかな劣勢に段々と声が小さくなっていく。
誰もが彼の勝利を諦めている。だからこそと声援を送る者も中には居るみたいだけど。
「これは学園長の勝利ですね」
「何を言っておる。先ほどからランドルは一度も当たっておらぬのだぞ?」
「うん、でも」
「紙一重で避けてるのが、段々余裕を持って避けてるように見える」
「見ておれ。あの男、諦めた人間の目をしておらぬ」
そう言うイルナちゃんは、ランドルさんが何かやる事を確信めいた目で見ている。
そのランドルさんはというと肩で息をして、悲痛な表情をしながら汗を浮かべてはいるが、確かに口元は笑っている。
もしかして、何か秘策があるのだろうか?
学園長が杖を振り上げると同時に、彼は雄たけびを上げながらまっすぐ学園長に向かっていった。
もしかしてこれが秘策か? もし『瞬歩』があの距離で使えるなら秘策になりえただろうが、彼は走っていってるだけだ。
足が速くはなっている。多分シアルフィの補助魔法をかけたのだろう、だがそれでも学園長が杖をつく前にたどり着くことは不可能だ。
「コツン」と杖をついた瞬間に、彼の足元からファイヤピラーが吹きあがった。
悲鳴が上がる、あんな至近距離で当たれば下手すれば即死だ。
しかし炎の中から雄たけびをあげ走って出てくる、所々焦げているが彼は無事だったようだ。
燃えて灰になった装備の一部がボロリと落ちた、その下には火竜の皮が見える。
あれは、そうか。僕らが売り払った火竜の皮や鱗を、彼が店で買って装備にしたのか。
キラーヘッドを倒すときに僕がやった作戦と似たようなものだ。流石にファイヤピラーじゃ魔法の規模が違う気がするけど。
ファイヤピラーから出てくるのは想定していなかったのだろう、一瞬の虚を突かれながらも振り下ろした彼の剣を学園長は剣と杖で受け止めるが、彼は走ってきた勢いのまま突進。
吹き飛ばす際にランドルさんは自らの武器を手放し、学園長の杖を握りしめて見事にそれを奪い。そのまま場外に投げ捨てた。
「わざわざ杖なんぞ取らずに、倒れてる老いぼれにトドメを刺したほうが早かったんじゃないのかな?」
「はぁはぁ……馬鹿言え。倒れたお前を追撃する前に魔法が飛んでくるくらい予想できる」
「なるほどのう、しかしどうやって魔法を予測した? もしフロストダイバーだったらお主は終わっておったぞ?」
「杖の角度だ。最初は振り上げる高さを疑ったが、角度によって属性が変わっているのに気づいた。他はわからねぇが属性さえ分かれば防ぐ方法はあるからな。それだけだ」
「ほっほっほ、正解じゃ」
そう言って左手を指さすと、ランドルさんのヤケドが治っていく。
「何をした!?」
「何って、傷を治しただけよ。まだちょっと痛むがそれは辛抱してくれい」
「バカにしてるのか!!!!」
「いやいや、せっかくこれだけ頑張ったんだから。ご褒美ご褒美」
ほっほっほと笑いながら白髭を触る学園長。余裕見せ過ぎじゃないのかな?
「あー、学園長の奴。多分キレておるのう」
「えっ? 凄く笑っているけど?」
「妾も聞いた話なんじゃが。学園長が本気で折檻する時は、先にケガを治したりしてから折檻するそうじゃ。本気で殴るために」
と言うと学園長は怒っているのか?
明らかに有利な試合だったと思ったのに、それとも杖が相当大事な物だったのかな?
傷をいやされて額に青筋浮かべるランドルさん。こっちもこっちでキレてる気がする。
「ふざけやがって、ぶち殺す!!!!」
目を血走らせ、剣を振りあげ、突撃していく彼に学園長の顔が段々険しくなっていく。
「ふざけておらぬわああああああああああ」
お互いの剣戟でかん高い音がキンキンと鳴らっている。
僕はその動きに驚かざる得なかった。ランドルさんが剣を構えたと思ったら、剣を持っている辺りの腕がブレて見え、すると既に振り下ろされているのだ。
凄い速度で振っているのか?
「あれも技か何かですか?」
「あれは瞬戟、瞬歩の腕バージョンみたいなもの」
腕への負担と、外してもちゃんと止めないと剣が地面に当たって壊れたり、地面に刺さったりしちゃうのが弱点なんだろうな。きっと。
しかし学園長もそれを確実にいなしている。
ただ一瞬よろけさせたところで、姿勢を整えた瞬間に『瞬戟』が飛んでくるから、攻めるタイミングを考えあぐねているようだ。
ランドルさんが攻めて学園長が防御に徹する、完全に形勢逆転している。
「まさかまさかの展開に! 優勝候補ヴァレミーがここで終わってしまうのか!?」
「はっ、余裕を見せて治療なんてさせるからこんなことになるんだぜ」
「余裕? そんなもんは近づかれた時点で無いわ!」
「じゃあなんで治療なんてしたんだ?」
「魔術師として負けたのが」
その瞬間、学園長の腕が一瞬ブレた。
剣を構えようとする彼よりも、一瞬早く『瞬撃』をしたのだ。
『瞬撃』は彼の剣を捕らえ、そのまま吹き飛ばした。
観客席まで飛んで行ったその剣は、バリアに当たり、カランと音を立てて場外に落ちた。
「悔しいからに決まってるだろおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「あっ」と言う表情で自分の剣が飛んで行った事で一瞬注意がそれた彼に、学園長は武器を捨て、右ストレートを構え、その瞬間には腕がブレて彼の右頬を捕らえていた。瞬撃パンチだ。
殴っられた勢いでそのまま壁まで吹き飛ばされて、ドサリと倒れ動かない。今ので気絶したのだろう。
ってか気絶だよね? 死んでないよね?
「わああああああああああああああああああ」
「最後に貫録を見せたヴァレミー! 見事一回戦勝利!」
観客席から声援が沸いた。
一試合目からなんて高レベルな戦いだったんだ。思った以上に凄かった。
「アリアだったら、この場合学園長とどうやって戦います?」
彼女も一応予選突破は出来ると思われている位なんだ。もしかしたら今の戦いを見て何か攻略方法が思いついているかも。
「無理」
バッサリ無理と言われた。彼女でも流石にあの強さは相手するの不可能なのか。
リン達の表情を見てみるが、顔を引き継いっている。
「私、あんなバケモノが出る大会に出場しないといけないの?」
サラがちょっと弱気になっていた。
☆ ☆ ☆
「魔術師としては負けたけど、戦士としてはワシのが強かったから良いもん」
学園長は今回の試合が不満で、勝ったのに控室で壁に向かって言い訳してた、と言うのを後日シオンさんから教えてもらった。
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※第301話から更新時間を朝5時からに変更します。
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