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第1章「旅立ち」

第19話「ハーレムっぽい何か」

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 朝からタマゴを買いに行くことになった。
 なぜ朝からタマゴを買いに行くかって? 決まっている、サラが綺麗にパンを切った後、牛乳をぶっかけたからだ。

 やらないようにクギを刺したけど、どうやら無駄だったようだ。
 アリアに揺すって起こされた時点で、僕は全てを理解していた。

 買ってきた新鮮なタマゴを割り、次々とボウルに中身を入れていく。
 サラは所在無さ気に、こっちをチラチラ見ている。

「サラ、良いかな?」

 一瞬ビクッとされた、怒られると思っているのだろう。まぁ昨日言われた事を、やらかしてるわけだしね。

「今手が離せないから、火を付けてもらって良いかな?」

「わかった」

 家庭用魔法で火を起こしてもらう、その間にボウルをかき混ぜ、砂糖を一つまみ投入。
 牛乳を吸ったパンをボウルに次々入れて、手で揉む。パンを絞るように握ると、吸収した牛乳が出てくる。出て来た牛乳を卵とかき混ぜてからパンに染み込ませる、多分これで大丈夫だろう。

 フライパンを軽く火に近づけながら、バターを乗せて、溶けてきたら卵を吸った牛乳パンを入れて火を通す。そして両面に軽く焦げ目がつく程度に焼いていく。

「はい、フレンチトースト出来たよ」

 食卓にフレンチトーストと、お好みでかけれるようにハチミツを置いておく。
 さて、眉をへの字にして、困った顔で僕をチラチラ見ているサラには、反省してもらうためにあえてスルーをして今日の予定を確認しよう。
 明日の朝出発だから、今日は皆一日オフだ。

 アリアはリンと剣術の手合わせするそうだ、一応木刀だから大きなケガはしないだろうし、小さいケガなら二人は治療魔法が使えるし問題ないだろう。
 僕は冒険者ギルドに向かい、エプロンを返却だ。


 ☆ ☆ ☆


「エルク、その……ごめん、怒ってる?」

 冒険者ギルドへ向かう僕の後ろを、サラが付いてきている。
 まだ僕が怒っていると思っているのだろうけど、正直サラがやらかす予感はしていたので実は怒ってはいない。
 ただ今回は良いけど、これが旅の途中に残り少ない食料で同じ事をやったら、多分怒らないといけないだろう。
 もしかしたら、それでパーティの解散だってありうるのだ。食べ物の恨みは怖いって言うしね。

「本当に反省していますか?」

「うん、もうしない」

「いえ、やっても良いですけど……」

 別に彼女が料理をする事に反対はしない。まともに作るならだけど。

「えっ? でも」

「前にも言ったかもしれないですけど、料理をしたい時は、ちゃんと僕を呼んでからにしてくださいね。それならサラが何かミスしてもすぐにフォローできますから」

「うん、わかった! 次から絶対にエルクを呼ぶ!」

 よろしい! と言うかこのままいじけさせて「エルクが許してくれないので、他の勇者を探しましょう」になったら僕が損をするだけだ、何事も加減が大事だ。


 ☆ ☆ ☆


「おっす、ボウズ朝から早いな。ってなんだぁ、嬢ちゃんと二人っきりでデートか? 冷やかしなら帰ったかえっ、グギョ」

 僕とサラが二人きりなのをからかおうとしたチャラい職員さんの首を、屈強な職員さんにグギっと回され、チャラい職員さんは撃沈した。
 白目を向いて、口から泡が出ているけど大丈夫だろうか?

「あの、このエプロン返し忘れていたので、出発前に持ってきました」

「そのエプロンはお前にやろう。先日の勇者イジメを解決した礼だ」

 いらないから返しに来た、なんて言えない雰囲気だ。正直デザインがアレだからいらない。

「ボウズ、ソイツはヒートスパイダーの糸を練りこんだ特別製だぜ。火耐性と刺突耐性がたけぇし、鎧と違って軽くて動きやすい上に、料理する時にも使えるから今のお前さんにはうってつけだぜ」

「うん、エルクに似合ってるし良いと思うよ?」

 貰って嬉しくないけど、チャラい職員さんの言う事が本当なら、これは防具としてみたら優秀、なのかなぁ。
 でも一つ気になる問題が。

「このデザイン、どうにかならなかったんですか?」

 胸元は大きなハートになっており、肩の部分はフリルが付いている。少女趣味全開だ。

「それは俺の趣味だ」

 屈強な職員さんが頬を赤らめて答えた。聞かなかったことにしよう。


「そういやおめぇさん達、冒険者ランクがEに上がってっから、今度からDランクの依頼まで受けれるようになったぞ。もうランクアップなんざ、良いペースじゃねぇか」

「ついでにエルク、お前宛で指名クエストが届いている。すぐに終わる依頼だと思うが受けるか?」

 僕宛に指名クエスト?
 いったい誰からだろう?

「内容を教えてください」

 サラが冒険者ランクアップの説明を受けてる横で依頼の確認。僕は勇者だからランク上がらないので、ランクアップの説明は特に必要ない。

依頼 ゴブリンの肉の調理法を教えてくれ!
条件 勇者エルク指名、パーティで受注可
内容 冒険者ギルドの隣で『喧嘩っ早い親父のゴブリン亭』を切り盛りしているのだが、最近「エルクって奴が、世界で5本指に入るレベルの不味いゴブリンの肉を、食べれるレベルに調理した」と客が言ってやがった。
店の名前にゴブリンが付いてる俺としては黙っちゃいられねぇ、是非ともその調理方法とやらを教えてほしい、出来れば店の看板料理にしたい! もちろん調理法は他言しねぇ!
報酬 4ゴールド


 報酬を見て驚いた、調理法を教えるだけで4ゴールドだって!?
 ミスじゃないのか? そう思ってチャラい職員さんを見た。

「あー、俺も何度か確認したんだが、4ゴールドで間違いないみてぇだ。どうする?」

「受けます」

 4ゴールドなんて大金だ! 受けないわけがない。
 僕は即依頼を受けて冒険者ギルドを出て行った。魔力式簡易シャワーを買った分のお金をこれで一気に稼げる、ヴェルについた後にすぐに仕事が見つかるかどうかを考えると、お金は多い方が安心できる。


 ☆ ☆ ☆


 冒険者ギルドの隣の酒場『喧嘩っ早い親父のゴブリン亭』、まだ昼前だと言うのに飲んだくれだらけだ。
 こんな時間から飲んだくれてて、この人たちは大丈夫なのだろうか? と思ったけど、数日前の僕なんて引き籠りだったわけだし、人の事は言えないか。

「ここはガキの来る所じゃねぇぞ」

 エプロン来て、不機嫌そうな初老の爺さんが僕たちに話しかけてきた。店員さんだろうか?

「依頼で来ました、ゴブリンの調理の仕方を教えて欲しいって」

 「おいおい、親父の頭いかれたのか?」「いくらゴブリン亭だからって、マジでゴブリン肉出すつもりかよ」酔っぱらいがざわめきだすが、その中の一人が僕を指さして立ち上がる。

「そのガキ知ってるぞ! 冒険者ギルドでゴブリンの肉を調理して、まともな食い物にしたヤベェガキだ。俺もちょっと食ったけどマジで食えるレベルにしてたぞ!」

 初老の店員さんは腕を組み、僕を足元から頭まで、ジロリと見ている。

「俺が依頼主で店主のホブだ、どうやら本当に調理できるみたいだな、厨房まで行くぞ」

 不機嫌そうなホブさんの後を付いていく、サラも一緒にだ。
 厨房につくなり「さぁやれ」の一言、前にギルドで作った物と同じ要領で説明しながら作って行く。

 ゴブリンの肉の臭さにホブさんもサラも顔をしかめて見ている、「本当にこんなものがまともな食べ物になるのか?」と言う感じだ。作っている僕でもそう思う位だし。

 適当な野菜で包んだ「ゴブリン肉の野菜包み」を完成させた。
 作ったのは自分だから責任持って一口食べる。うん不味い。

「……不味いな」

 ホブさんも一口食べる。まずさで顔をしかめているから、これはダメかな。

「……だが、食えなくはない。約束の報酬だ」

 ジャラジャラと音のする布袋を僕に投げてよこした。
 依頼報酬の4ゴールドだが、正直簡単すぎて良いのかな? と思えてしまうくらいだ。

 依頼が終わり、ホールに戻ると、客がさっきの倍近く居た。
 どうやらゴブリン肉の噂が一瞬で流れたようだ。店はお客さんでごった返しになっている。

「テメェらうるせぇぞ。注文聞きに行くまで黙って待ってろ!」

 客の多さに、ホブさんだけではどう見ても捌ききれない。態度の悪い客に対しては殴って捌いてる、喧嘩っ早いって店の名前は伊達じゃないね。

「もし宜しければ、料理なら出来るので、手伝っていきますが」

 流石に4ゴールドも報酬をもらっているんだ、少しくらい手伝ってもバチは当たらないだろう。

「だったらさっさと厨房に入りやがれ!」

 怒鳴っている割には、まんざらでもない顔をされた。
 まったく、そんな顔をされたらやる気を出さないわけにはいかないじゃないか。

 ホブさんが注文を聞いて、店中に響き渡るような大声で厨房に居る僕に伝えてくれる。僕は厨房で料理を作って、それをサラがホールまで持っていったら、ホブさんが受け取って客席まで届けてくれる。
 サラは「なんで私まで」と言いつつも、ちゃんと手伝ってくれた。


 ☆ ☆ ☆


 1時間程たったか、何とか落ち着いてきた。
 ゴブリンの肉は思ったよりも注文が少ない。どちらかと言うと注文する人を見に来た人が多い感じだ。

 落ち着いてきてせっかく厨房が使えるから、サラに料理を教えるのも良いかもしれない。
 野菜炒めの注文を受け、隣に立って教えながらサラに作らせてみる。

 炒めている最中に「色が変わってきたけど大丈夫?」と何度も不安そうに言ってくるサラ。
 料理を初めて作る時って、ちょっと色が変わってきただけで不安になるから良くわかる。
 出来た料理を皿に盛り付け、不安そうにお客さんの所まで届けて、お客さんが食べる様子をじーっと見ている。
 明らかにガン見されて、食べづらそうだが、一口パク、二口パク。

「あ、あの、味どうでしょうか?」

 そこでお客さんが、サラの視線の意味を理解する。

「あ、あぁ、凄くおいしいよ!」

「本当!?」

 そのまま僕の元に走り出して、胸ぐらをつかみながらブンブン振り回してくる。

「聞いた? 聞いた? 美味しいって! 私の料理おいしいって言ってくれたの、エルクちゃんと聞いてくれた?」

「あぁ、うん」

 ブンブン振り回されそろそろ振り回すのをやめて欲しい所だけど、素直に喜ぶサラの笑顔を見たら、このまま振り回されるのも悪くないかと思う。

「えへへ、おいしいって、えへへ」

 サラが一人で料理して、ちゃんとしたのを出せたのはこれが初めてだ。
 それを美味しいと言われて嬉しいのだろう、頬が緩みっぱなしだ。

 サラに「美味しい」と言った男性客は、ポーッとした顔でサラを見ている。確かに今のサラだけを見たら素直な美少女だ、惚れてしまうのもわからなくはない。
 しかしサラの笑顔が僕だけに向けられてるのを見て、少し俯きため息をつき、少し悲しそうな笑顔で僕に親指を立ててきた。いやサラとはそういう関係じゃないけどね!

「エルクがここで料理をしてると聞いて来たです」

「お腹空いた、エルクご飯早く」

 どうやらギルドに寄って、僕がここにいる事を聞いたアリアとリンが来た。
 アリアもリンも相当お腹が空いているのか、サラに振り回されている僕の裾を引っ張って来る。ニヤニヤしているリンは状況を分かって、わざとやってる可能性があるが。
 彼女たちにもみくちゃにされている僕を見て、さっきのお客さんだけではなく、周りのお客さんまで鬼のような形相で親指を下げていた。だからそういう関係じゃないって。

 特殊装備
 ハートのエプロン(ヒートスパイダー仕様)
 台所は戦場だ!
 いつの時代も台所は戦場である。いつ鍋が爆発するとも限らない、いつ包丁が飛んでくるとも限らない。
 しかしこれさえあれば大丈夫、炎が飛んできても包丁が飛んできてもへっちゃらさ!
 そう、これは数多の戦場を潜り抜けた、歴戦の勇者としての風格を漂わせる一着である。
 (著:ユニークウェポン協会 『世界の特殊装備~防具編~』より)
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