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愛の力

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フォルテの腰に腕を回して引き寄せて、唇が触れ合った。
想像していたものより、とても柔らかくて気持ちが高ぶった。
それと同時に、私達の関係の終わりを教えてくれた。

傍にいられなくなっても、フォルテが笑顔でいてくれるなら私は構わない。

少し開いた口の中に舌を捩じ込んで、フォルテの舌と触れ合った。
最初はビクッと驚いていたが、恐る恐る私の舌に触れていた。

口の隙間から吐息が漏れて、さらにフォルテの舌を吸って絡めて撫でた。

身体が震えている、怖いだろうけど我慢して…魔人を追い出すためなんだ。

腰を掴む手を強めて、さらに身体を密着させて体温が触れ合う。
私にすがり付くように、フォルテの手が腕を掴んでいる。

その仕草一つ一つたまらくなって、必死に我慢する。
これはただの治療で、フォルテにとっては何でもない事だ。
恋人同士でもないのに、こんな事してごめんなさい。

少し強く舌を吸うと、袖を掴む手が強くなっていく。
このままお互い溶けて消えてしまえば、楽になれたのかな。

どのくらいそうしていたのか、唇をゆっくりと離す。

このやり方が合っているのか分からないけど、魔人を吸えたのかな。
私の中に魔人がいる感じはしない、あるのはフォルテへの愛だけだ。

目の前のフォルテを見て、目を丸くして固まった。

唇はお互いの唾液で濡れていて、頬は赤く色付いている。
息も乱れていて、私を映す瞳は熱を帯びたように潤んでいた。

つられるように、私の顔も赤くなってフォルテの肩に触れた。
これ以上密着していたら、私の欲がバレてしまう。

こんな顔を見せられて、私はどうしたらいいのか分からない。
いや、どうもしなくていいんだ…何を言ってるんだ私は…

「ふ、フォルテ…君なのか?」

「うっ……ん」

フォルテの身体は操り人形が糸を切られたように崩れた。
とっさに支えて抱きしめると、小さな寝息が聞こえてホッと胸を撫で下ろした。

顔色もいい、これで目を覚ませば成功した事になる。

いつの間にか火柱は消えていて、キラキラと光る粒が降っていた。
手のひらに落ちる粒は冷たくて、上を見上げると驚いて声が出なかった。

周りの植物達が凍っていて、氷の粒が舞っていた。

後ろからラウルの「お二人さん、お邪魔して悪いけどそろそろ行かない?」という声が聞こえた。
ラウルの方を見ると、手のひらサイズの瓶を指先で転がしていた。

あれはフォルテを助けるためにラウルに頼んでいた道具だ。
植物を凍らして保存する薬品で、魔術の炎にも効果があると本に書いてあった。

火柱で周りの植物に燃え移らないようにしてくれたみたいで、感謝している。

ユリウスの言うように、私一人だけではフォルテを助けられなかった。
ユリウスのおかげで犯人を捕まえられて、ラウルのおかげで植物園が火で包まれる事はなかった。

寒くないようにフォルテを地面に置いていた上着で包んだ。
優しくお姫様のように抱き上げてから、歩き出した。

ユリウスは男達を気絶させたのか、ぐったりしている彼らを見ていた。

「さっきラウルがついでに教師や保健医を呼んだから」

「分かった」

「何処行くつもりだ?」

「フォルテを温かい場所に運ぶだけだ」

すれ違う時に「フォルテを助けてくれてありがとう」と言った。
ユリウスは驚いて後ろを振り返っているが、私はそのまま歩みを止める事はなかった。

こんな寒いところで待たせたら、風邪を引いてしまう。
またあの時のように辛い思いはさせたくない、病み上がりでもあるから。

入り口付近でフォルテを寝かせたら、棚の中にあるタオルを数枚手にした。
私の上着も掛けて、なるべく寒くないようにした。

随分急いでいたのか棚が荒れていた、まるで強盗に入ったようだ。

タオルをフォルテに掛けて、教師達の到着を待った。

入学して間もないけど、早速問題児になってしまった。
良くて停学で、悪くて退学だろうな……司祭様の期待を裏切って申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

それでも、フォルテが無事なら後悔なんて一つもない。

もう、私はフォルテの傍にいられない…それなら退学でもいいのかもしれない。
最後に、フォルテの手を優しく包み込むように握りしめた。

教師数人と保健医はすぐに植物園の中に入ってきた。

フォルテは保健医によって、島の中にある病院に運ばれていった。

私達三人と、元凶の男達はそれぞれの部屋で事情聴取を受けた。
自分が見たものと、勝手に寮を抜け出して図書館に入った事を話した。
あの時は隠すつもりだったけど、やっぱり私には隠し事は出来ない。

フォルテへの気持ちだって、墓場まで持っていくつもりだったのに出来なかった。

結果は明日に引き伸ばされて、私も足の怪我で病院に連れていかれた。

かなり酷い状態だったのに、よく歩けたねと医者に驚かれた。
自分の事なんて、二の次でいいと思っていたから平気だ。

私と友人だからか、フォルテの隣のベッドで入院する事になった。
想いを伝える前なら、ありがたいと思っていたかもしれない。
今は、どうせなら離れていた方がフォルテのためになるんじゃないかと思う。

横を見ると、目蓋を瞑って眠っているフォルテがいた。

小さな声でフォルテの名を呟いて、腕を伸ばした。
指先がフォルテに触れる事すら出来なくて、腕を引いた。

「愛して、ごめんね…フォルテ…友達でいられなくて」

頬を伝う温かな涙は、誰かに見られる事はなかった。
こんなに人を愛して、守りたいと思ったのは初めてだった。

やっぱり、司祭様の言う通り…欲深くなってしまったからダメだった。
フォルテの今まで見た事がない、顔が頭から離れない。

下半身が痛い…こんな事、してはダメだ…これ以上フォルテを汚してはいけない。
そう思うのに、ズボンの中に手を入れて甘い吐息が漏れる。

ダメだ、やめないといけないのに…手は自分の意思では止まらない。
こんな友人、失望されて当然だ…汚れた手を見つめて思う。

私は最低な罪人だ、こんな私をどうかお許し下さい。
両手を握りしめて、自分のしてしまった行いを悔いた。

しばらくして、洗面台でいろいろと洗い流そうと思って病室の洗面台に向かった。

鏡に映る自分の顔は直視出来ないほどに酷くなっていた。

そういえば、唇を離した時にはもう火柱はなくなっていた。
ラウルは茶化しているように聞こえたが、本心は何を考えているのか分からない。
キスしているところをラウルとユリウスに見られたのか。

フォルテの顔を見られるのは嫌だな、と思いながら顔を洗った。
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