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特別で禁じられた感情.

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5*カノン視点*

いつからだっただろうか、こんな気持ちを抱いたのは…
気付いたら、いつの間にかそこにあってなくてはならないものになっていた。

まるで彼のように、いつも感情が寄り添っているようだ。

その気持ちは、甘くて切なくてとても危険なものだ。

一歩間違えれば、取り返しのつかない事になる。
禁断の果実のように、触れる事すら許されないもの。

一度触れたら、それは終わりを意味するものになる。

だからこの気持ちを永遠に封印する事に決めた。
誰になんて言われようとも、心の奥底の誰も知らない場所に閉じ込めて大切に守る。

君は知らなくていい、知らぬまま傍で笑ってくれたらそれでいい。
私も君の美しい笑顔に応えて、ずっと笑い続けよう。

何も変わらない、いつも通りの日々が流れるだけ。

君が友と望むなら、ずっと友であり続ける事を神に誓おう。

それが、共にいる関係を崩さない唯一の方法だと思っている。

今日は大切な日だ、眠らないといけないのに目が覚めてしまう。

教会を離れて別のところで寝泊まりはした事がない。
何もかもが分からない、常識から外れた事はしたくない。

シスター達に聞いても「あまり考えすぎてはいけませんよ、いつも通りでいいんです」と言われた。

確かにいろいろと考えるべきではないと、その時は無心になろうと神に祈りを捧げた。

それでも、祈りが終わった途端に大丈夫かと考えてしまう。

不安な部分は他にもある、学院の寮暮らしなら共同生活が必須だ。

あまりに人が多いと眠れるか分からない、寝不足は身体に悪いのは当然だ。
いつもは人の目は気にしないが、神の前以外で無防備になるのはどうなのか。

まだそうなったわけでもないのに心配するのは気が早いか。

それに、フォルテもいるからきっと大丈夫だ…フォルテが頑張っているのに私だけ逃げ出すわけにはいかない。
フォルテに支えられるばかりではなく、支える存在になりたい。

硬く瞳を閉じて、その日はジッと眠りにつくまで動かなかった。

どのくらいそうしていたのか、いつの間にか眠っている事に気付いた。
窓の外を見ると、太陽の光がカーテンから差し込んでいた。

そろそろ起きなくてはいけない、頭がまだボーッとするが起き上がった。

ベッドから降りて、ふらふらとした足で洗面所まで歩いた。

鏡に映るのは、髪が乱れていてシャツのボタンが開けているだらしのない自分の姿だった。
こんなところ、誰にも見られたくないと思っていたがあの時の事を思い出した。

私が倒れた時に、フォルテが見舞いに来てくれた。
嬉しかったが、だらしのない私の姿を見せてしまった。

育ててくれた司祭様くらいしか見せた事はなかった。
こんな私でも、フォルテは幻滅せずにいつも通りでいてくれた。

でも、これ以上フォルテにだらしない姿を見せたくない。

顔を洗って髪を整えると、いつもの自分に近付いた。
食堂に向かうと、教会に住む人達が朝食を食べていた。

誰もいない厨房に入り、自分の朝食を作る準備を始めた。
玉子とベーコンだけの簡単な朝食を作り、トレイに皿を乗せた。

決まった席は司祭様以外にないから、適当に目についたところに座る。
朝食と片付けと歯磨きを終えてから、自分の部屋に戻った。

制服に着替えると、なんだか新しい自分になれたかのような不思議な気持ちになる。

本当の自分は、いったい何処の誰なんだろうか。

聖職者として、物心が付いた頃から浮わついた気持ちは禁じられていた。
欲を出す事すら許されず、一人だけと仲良くなるのではなく全ての人を想わなくてはいけない。

拾われた恩もあり、司祭様には逆らう事など考えていなかった。

私にはそんなもの必要ないから全然苦には思わなかった。
私には欲しいものなんて何もなく、きっとこれから先も変わらないと思っていた。

特定の友人は作らず、二人きりで遊ぶ事はなく誰にでも平等に接していた。
喧嘩の仲裁も上手くなった、誰か味方をする事はないからいつの間にかお互いが仲直りしていた。
どちらが悪いか、決着がつかないからバカらしく思ってくれたのかもしれない。

私は誰かを感情的になり怒ったり、説教なんてしない。
そうしなくてはいけないと、子供心に思っていた。

そんな私が誰かを庇って、今まで誰も入れなかった部屋に招くとは思わなかった。
あの時の私は確かに感情的になり、声を張り上げていた。

私が今まで平等に接していた事を全て否定されたようだった。
何も悪い事をしていない子供を大勢が罰を与えるなんて、あってはならない。

彼の事は知っているし、実際に会った事もあった。
変わった趣味を持っている、第一印象はそれだけだった。

なのに何故周りの人達は、そんなに目の敵にするのか分からなかった。

ちゃんと祈る時は大人しくしているし、あんな事をされても許してもらおうと一生懸命だ。
私はフォルテを応援する、誰がどう言おうと変わらない。

私に出来た、特別な友人…司祭様に初めて隠し事をした。

母のように慕っているシスターにだけフォルテの話をしていた。
私の事でいろいろと心配掛けていたから、とても喜んでくれた。

友人だと信じて疑わなかった、あの日あの時までは…

私とフォルテは勉学のために、しばらく遊ぶ事も会う事もしなかった。
それでも気分転換が必要だと思って、フォルテの家に遊びに行った。

いつものように、フォルテのお母様に挨拶をしてフォルテの姿が見えた。
変わらないフォルテがそこにいると、そう思っていた。

突然床に座ったと思ったら、動かなくなり心配した。

目を覚ました時のフォルテの顔は忘れる事が出来ない。
私を瞳の中に映して、身体を震わせて怯えて拒絶された。

今日はなにか嫌な事があって、偶然にも私が会いに来た…それだけだと自分に言い聞かせていた。
また別の日にしようと、その日は大人しく帰る事にした。

教会のお祈りをしている時、いつもなら何も考えずにやっていた。
でも、もしフォルテに嫌われているならどうすれば良いのか。

当たり前だと思っていたその日常に、フォルテがいなくなる。
そんな未来を想像すると、怖くて手が震えてしまう。

体調も悪くなり、お祈り中に意識を失い倒れてしまった。

そこで、私はフォルテを失うのが怖いんだと気付いた。
その感情の名は分からない、初めて抱いた感情だった。
混乱する頭の中で、これだけははっきりと分かる。

その感情は私が抱いてはいけない欲の塊であった。

会いたい欲とずっと傍にいたいという欲をフォルテが知ってしまったのかもしれない。
だから、私を拒絶したのだろうか。

考えれば考えるほど、気持ちが落ち込み…食事も喉を通らなかった。
とても心配を掛けたシスターには悪い事をしてしまった。

初めての辛く苦しい感情に、私自身が付いていけなかった。
これが、聖職者として禁じられた感情そのものだろう。

恋愛感情そのものがダメなのではない、聖職者でも家庭を築いている人はいる。
中途半端の浮ついた感情がダメなんだ、一生添い遂げる人物にしか抱いてはいけない。

覚悟が出来ない子供のうちに恋愛はしてはいけない。
自分から相手を好きになってはいけない、あくまで自分は全ての人間を愛さなくてはいけない。
それは家庭を築いていても、家族のように周りの人間も愛す事を当たり前だと思わなくてはいけない。

部屋で塞ぎ込んでいた時、私には無理だなと思った。
全ての人をフォルテと同じように好きになれるかと聞かれても自信がない。

フォルテが傷付けられた時、私は周りの人間に嫌悪感を覚えた。
いろんな性格の人間がいるのは知っている、人それぞれだから押し付けてはいけないのも分かっている。
それでも私は、フォルテを傷付けた人達を許す事は出来ない。

フォルテが会いに来てくれて、誤解だったようで仲直りした。

良かったのか悪かったのか分からないが、私の欲をフォルテは知らない。
それでいい、フォルテが友人だと望むなら私はフォルテの友人であり続ける。

聖母像の前に立ち、瞳を閉じて無心で祈りを捧げる。

私を、神は許してはくれないだろう…周りには隠せていても神には隠し事は出来ない。

「カノン!迎えに来たよ!」

「…今行く」

後ろからフォルテの声が聞こえて、聖母像に背を向けてフォルテのところに向かった。
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