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知らないゲーム.

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24***

「ん…ぅ…」

意識が戻ってきて、木製の天井をジッと見つめていた。
俺の家の天井って、こんな感じだっただろうかと考える。
そもそも俺の家はコンクリートだから、木目はない。

俺、何してたっけ…起き上がると頭が痛くて、その痛みで思い出した。
そうだ、石を投げられて街の真ん中で意識を失ったんだ。
一瞬死んだと思ったから、まだ生きている事に感動した。

なんか不思議な事に、頭もすっきりとした感じがする。
そのおかげと言うのは変だけど、あの時の事を思い出した。

忘れてはいけない、ゲームでは語られなかった話。

ここは何処かの部屋だろうか、ベッドと小さな本棚と机しかない小さな部屋で俺の家ではない。

頭に触れると、ズキッと痛みを感じて包帯のようなものが巻かれていた。
誰かが手当てをしてくれたのか、そういえば意識を失う前に誰かがいた。
あの子はいったい誰だったんだろう、顔を見る前に気絶してしまったから分からない。

ベッドから降りようと思って、立ち上がるとバランスを崩して床に膝を付いた。
床がぐにゃぐにゃしているような感じで、上手く立ち上がれない。

立ち上がろうとしても、小鹿のようにプルプル震えるだけだ。
何度も試してみたが疲れるだけで、諦めて床に座り込んだ。

ドアが開く音が聞こえて、ドアの方を見ると一人の子供が立っていた。
銀色の容器を持っていて、俺に近付いてきて容器を床に置いた。

「まだ横になっていた方がいいですよ」

「…あ、ありがとうございます」

「お礼を言う必要はありません」

金髪のボブヘアーの子供は、感情を見せずに俺を立ち上がらせた。
ベッドに戻されて、銀色の容器を抱えて俺の横に座った。

銀色の容器の中には、包帯や消毒液などが入っていた。

俺の頭に手を伸ばして、包帯がスルスルと解けていく。

慣れた手付きで傷口を消毒していき、痛みで涙目になった。

少年の顔をジッと見つめると、視線に気付いたのか俺の方を見ていた。
まつげが長くて、薄いピンク色の唇が見えて慌てて目を逸らした。

見た目は女の子のように可愛いが、男の子なんだと気付いた。
それは、声とかで分かったわけじゃない…声も高いからそれだけでは正直分からない。

俺の包帯を取るために、俺に触れた時…脳内に変なものが浮かび上がった。

それは誰かのプロフィールで、写真が付いていて目の前の少年の面影を残した青年の姿をしていた。
大きくなると、可愛さを少し残しつつ美しい大人になっていた。

ミッシェルは攻略キャラクターのプロフィールは教えると言っていた。
これが、そのプロフィールだったのか…言葉で教えると思っていた。
だとすると、目の前の彼は攻略キャラクターの幼少期の姿だ。

名前はカノンと言い、教会の聖職者の青年だった。
幼少期の頃から司祭様に拾われて育てられている。
司祭様の教えを貫いて、罪を憎み正義を貫く性格だ。

俺とは絶対に関わり合いにならないであろうキャラクターだ。

ここが彼の住んでいる部屋だとすると、教会となる。

教会はゲームでもあったが、彼はゲームの攻略キャラクターではなかった。
司祭様は見た事がある気がするが、彼は一度もない。

これはいったいどういう事なんだ?彼は何者なんだ?

プロフィールの下に書いてある文字を心の中で読んだ。

出演作の情報が出ていて『闇夜に囁くディアナ』という作品だった。
ご丁寧にスマホゲームとまで書いてあり、俺が知らないのも納得だった。

もしかして、俺の知らないスマホゲームではフォルテ救済ルートがあるのか?
彼は実際助けてくれたから、きっとそうだったんだ。

一気に光が差したかのように生きる希望が出来た。

そして、俺はプロフィールの最後にとんでもないものを見た。

俺の希望が一気に叩きつけられる絶望のようなものだ。

死因『神の雷鳴の怒りで黒焦げ』

「どうされましたか?顔色が真っ青ですよ」

「……大丈夫です」

「そうですか、痩せ我慢でないといいですが」

少年はそう言って、容器を抱えて部屋から出て行った。

どうやって死ぬのか、実際に文章で見ただけなのに気分が悪くなる。
俺、雷で黒焦げになるのか?神の怒りって…ミッシェル?
脳内で『勝手に濡れ衣着せないでよ』と響いてきた。

いつの間にいたんだ?いるならいるって返事してくれてもいいのに。

俺は、黒焦げにされるほど酷い事をしていたんだ。

この国の子供にほとんどにそういう事をしていたから、きっとカノンにもしている。

なのに、カノンは俺を助けてくれたんだ…周りから俺がどう思われるのか分かっていても…

こんな事…俺の知らないゲームの話だ、俺が信用するのは実際に見た事だけだ。

まだお礼を言っていない事を思い出して、今度はゆっくりと立ち上がった。
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