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闇魔法の先生 2
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「お、お邪魔しま……うっ!」
うっ! なんて言ったのは不意にサンバのリズムに身体が滾ったからでは無い。あまりに埃臭くてむせ返ったのだ。
恐る恐る開いた部分から体を差し入れ、中の様子を探る。先ず目に入ったのはうず高く積み上げられた本の山だ。それも一山や二山ではない。俺の胸の高さまで積まれた本が足の踏み場もないほど乱立している。さながら賽の河原というやつだ。
「こっちに来て」
部屋の奥で少女の声がした。ドアの前で聞いたのと同じ声だ。俺は本の間を縫い、倒さないように細心の注意を払って奥へ進んだ。
何せ一つ一つが少しでも風が吹けば即入山規制が掛かりそうな、不安定な山なのである。一つ倒せば全ての山が崩壊しかねない。
慎重に慎重に進んでいき、何とか奥のスペースに辿り着いた。
そこには大きな日取り窓があり、差し込む光に無数の埃が舞う下に大きなテーブルがある。テーブルの前に一人の少女が立っていた。
「ようこそ」
少女は屈託の無い笑みを浮かべていた。いや、彼女を少女と言って良いのか俺には分からなかった。確かに身長は俺の胸より少し低いくらいで、顔の幼さは十歳前後だと思われた。頭には小さな三角帽子を乗せ、ハーフアップされた栗毛色の髪は地面に着こうかと思うほど長い。そして着ている服はゴッテゴテのフリッフリのゴスロリ衣装である。ただ……。
俺の視線はまた少し下がる。胸が大きい。いや、俺がロリコンだからこんな言葉が出てきたわけでは無い。一般的な女性と比べても不自然に大きいのだ。何か詰めているんだろうか。
「私が闇魔法専攻の担当のリーザ・リリーホワイトだよ。リーザ先生って呼んでね!」
有無を言わせぬ勢いでリーザ……先生が手を差し出してくる。俺もつられて手を差し出すと、不意にその手を取り、自分の胸に押し当てた。
俺はびっくりして固まってしまった。
その硬直とは対照的に、胸へ当てられた手は何とも言えない柔らかい感触に包まれていた。弾力を持った軟らかさだ。
いや待て、いきなり何だこの痴女は。最高だな。
暫くその状態が続いた。俺の理性がジリジリと焼き切れそうになっていた時、やっとリーザ先生が手を離した。
「うん、聞いてた通り。君には闇魔法の才能があるよ!」
「え、あの」
「君がクラウス君だよね? ギラから出荷されてきたっていう」
出荷とか言うな。豚か俺は。
「は、はい。それで……」
「おや? 私の胸が気になるのかなあ?」
少女は悪戯っぽい笑顔で俺の顔を覗き込んできた。胸の谷間がくっきり見え、先程の柔らかい感触が蘇ってくる。さっきも言ったが俺はロリコンではないし、ただ本能的に見てしまうだけである。
「見たかったら見ても良いんだよ。ほらほら」
不敵な笑みを浮かべるリーザ先生は、露出している部分から服に指を入れ、ずり下ろすかのような仕草を取る。流石にそれは不味くないか。立場上、美味しいけども。
「ちょ、先生。からかうのはやめてください!」
「私ね、不死身なの。五百年くらい前から生きてるの」
「へぇ……ええ!?」
幼女だと思ったら俺の婆ちゃんよりだいぶ年上だったでござるの巻。
「それに身体の造形も自由に弄れるから胸の大きさも自由に変えられるの」
「それは闇魔法の力……」
「違う違う! これは呪いね。あー、まあ闇魔法にも呪いを主体にする流派があるけど、これはそういうんじゃないの」
「はあ」
「もし私に好きな人が出来たとするじゃない? そしたらその人の思い通りの体型に変わることも出来るんだよ」
思い通りにならなくって良い。俺は今の先生のままで良いと思うが決してロリコンではない。
「あ、言い忘れたけど私はギラの第十三式・・・正統闇魔法【棺流】の正統後継者なの。君に教えるのも棺流の闇魔法になるからそのつもりで」
さっきからびっくりワードがポンポコスコスコ飛び出してきて、正直理解が追いついていない。何なんだ、そのギラ人が寝る前に妄想している物語のヒロインみたいなプロフィールは。
それに情報量が多すぎるし、会話のテンポとスピードが速すぎてコミュ障の俺には付いていけない。
ただ一つ補足しておくと、闇魔法と一言に言ってもその流派は沢山ある。原始的な闇魔法から、使いやすいように手を加えられたもの、はたまた召喚術を主とするものまで多種多様だ。
ギラには政府公認の闇魔法が全部で十二流派あり、第一式から第十二式まで「正統闇魔法」を名乗る事が許されている。
裏を返せば十三番目は存在しない。「我こそは十三番目の闇魔法なり」と息巻く流派は多いものの、ここ百年以上、新しい流派は認められていないのだ。
つまり彼女のように、十三式とか十三番目を名乗っている時点でパチモン確定なのである。
「あー、もしかして疑ってるね?」
言いながらリーザ先生はパチン、と指を鳴らした。不意に今いた空間がぐにゃりと歪む。意識が遠のいていくような感覚によく似ていたが、どうもそうではない。歪んで歪んで、もう部屋の原型が分からなくなった瞬間、俺達は荒野に立っていた。黄色い地面には疎らに草が生えており、遠くに雪をかぶった山岳が見える。
一瞬のことに俺は何が何だか分からなくなった。何だここは。俺が前世で土だった時の記憶か?
「これは仮想空間を作る魔法だよ。仮想空間だけど、ここでは現実世界と同じ方法を用いないと魔法が打てない」
リーザ先生が後ろから進み出てきた。
「だけど、どれだけ魔法を撃っても大丈夫。どれだけ破壊しても大丈夫。仮想空間だからね!」
相変わらず先生は小太鼓のように絶え間なく話し続ける。よくそんなに呼吸が続くな。肺が6つくらいあるんだろうか。
「そ・れ・に」
リーザ先生は俺の腕に自分の身体を絡めてきた。
「この場所だとエッチなことし放題だよ?」
先生は幼女とは思えない妖艶な目つきで俺を見る。流石五百才。そういう趣味のない俺でもちょっと興奮してきたな。
「まあそれは冗談なんだけど」
パッと俺の手を離すリーザ先生。ちょっとだけ寂しい。
「それに君たち魔法戦闘学部の学生達は直接戦うとかなり危ないからね。特に闇魔法は威力が鬼強だから直接命に関わりかねない。例外はあるけど、ほとんどの練習は仮想空間で行うから安心してよ」
待て。つい先日俺はその鬼強闇魔法とやらを直接喰らいそうになってあの世に招待されるところだったんだが。召されなくて本当に良かった。
不意にリーザ先生が目を閉じた。その時、空気が変わった。ドス黒く、不穏なものが辺りを満たしていく。
ざらりとした緊張感に全身の毛が逆立つ。この子はやはりただの幼女じゃない。
リーザ先生は手の平を上に向ける。そこにみるみる黒い塊が渦を巻きながら大きくなっていく。
「じゃあ撃つねー」
リーザ先生は手首を捻り、手のひらを山の方へ向けた。瞬間、手の平に溜まっていた黒い塊が雷光のように空気を裂いた。
塊は地を穿つ速さで飛び、瞬く間に山岳の方へ消えていった。
パッと鮮烈な赤さが弾ける。目を開けてられないほどの強烈な光だ。山に起こった爆発は邪悪に炎を吹き上げ、やや遅れて爆音が響く。俺は未だかつて体感した事の無いような突風に襲われた。
「うわああ!」
全く踏ん張ることも出来ずに俺は吹き飛ばされてしまった。
暫くして風がおさまる。山はどうなった!? 地面に伏せていた顔を恐る恐るあげる。山がない。俺の目に飛び込んできたのは抜けるような青空のみだ。
いや、おかしい。だってさっきそこに山があったはず。まさか、リーザ先生の魔法を喰らって跡形も無く消し飛ばされたって言うのか……?
「うーん、手加減し過ぎたかなあ」
いつの間にか俺の腹の上でマウントポジションを取っていたリーザ先生が耳を疑うような台詞を吐いた。あの悪魔のような威力で手加減し過ぎたって……。じゃあ手加減せずに打ったらどれだけの威力になるのかも気になるが、この体制が風紀的に問題無いのかはもっと気になる。
「これで少しは信じてくれたかな? 闇魔法は流派によって色々特色があるのは知ってると思うけど、私たち(棺流)はとにかく威力重視。この世で最も威力の高い魔法を目指して創られた伝説級の流派だよ」
俺の上から退いたリーザ先生が手を差し出してきた。立たせようとしてくれているらしいが、さっきのやり過ぎデモンストレーションを見た後の俺には、彼女の屈託のない笑顔を直視出来ない。怖過ぎる。
俺は目を逸らしたまま彼女の手を取った。
また景色が歪む。平衡感覚を失いそうになりながら立ち上がった時、すでに俺たちは元の埃臭い部屋に戻っていた。
「あ、ありがとうございます」
俺がリーザ先生と握った手を離そうとしたが離れない。向こうが割と強い力で握っているのだ。心なしか先生の瞳が潤んでいるように見える。
「やっと見つけたよ」
「え?」
「棺流闇魔法の正統後継者、ずっと探してたの」
おや? 何か話がおかしな方向に進んでないか?
「ちょ、ちょっと待って下さい。俺は確かに闇魔法を学びに来ましたけど、正統後継者になるなんて、いや、なれるなんて思ってませんよ」
「いいや、君には素質があるよ。五百年以上生きてきて色んな人を見てきたけど、その中でも一番の素質が。あとリアクション芸人の素質も」
二つ目の素質はいつ見出したんだよ。
「い、いや急にそんな事言われても……」
「クラウス君。君は前の学校でいじめられていたらしいね」
俺は閉口した。恐らく俺の素性は全てバレている。先生は俺の顔色が変わったのを見逃さない。目を細め、ニヤリと笑う。
「いじめてきた奴らを見返したいからここに入ったんでしょ? 棺流の正統後継者になれば、連中に潮を吹かせるのは簡単だよ?」
「泡ですよね!?」
「どっちも変わらないよ。さあ、どうする? 復讐のために棺流の正統後継者としてこれから三年間私の奴隷になるか、復讐は諦めてこれから三年間私の性奴隷になるか」
「どっちにしろ奴隷確定なの!?」
確かに俺はいじめてきた連中を見返したい思いでこの魔法学園に入った。しかし俺はさっきの爆発で萎縮してしまっていた。
ほぼ一ヶ月前まで土いじり以外していなかった俺に、あの威力の魔法が撃てるようになるとは思えないし、字の読み書きも出来ない俺がそこに至るまでの努力を出来るだろうか。
「自信がないんなら形から入ってみよう」
リーザ先生は部屋の隅にあるクローゼットに歩み寄り、一気に引き開けた。途端、雪崩の如くドサドサと衣装が飛び出してきた。
下着の類もかなりある。かなり際どいものが多い。それ、俺に見せて良かったのか。
「ああ、汚い汚い」
リーザ先生は犬のように衣類を散らし、かき分け、フード付きマントと、ローブを拾い上げ、俺の前に持ってきた。
「これ、ずっと大切に保管していたものなんだけど」
「嘘をつくな」
大人はみんな嘘つきだ。
「本当だよ。これ創始者のおじさんが着てたのだもん」
じゃあ尚更もっと大切に保管しとけよ! ……ん?
「え、創始者の方が着ていたものを俺が着ても良いんですか?」
「そうだよ。だって君はこれから正統後継者になるんだもん」
リーザ先生は事も無げに頷いた。拒否したかったが、リーザ先生には引く気配がない。
恐る恐るローブとコートを受け取り、改めて観察する。かなり古いもののようだ。どちらも黒を基調にしていて、よく見ると随所に金の刺繍で蛇や棺が彫られている。
そして背中側には大きく黒い棺と、それに巨大な白い蛇が巻きついた絵が縫い込まれている。
中二病でない俺でもちょっとゾワゾワする感じの格好良さがあった。
「早速着てみよう。着たら早速練習を始めようか」
リーザ先生は甘い声で言い、俺の後ろに回った。そして爪先立ちをして俺の首に両手を絡める。柔らかい感触が俺の背中に当たった。
今更気付いた。この部屋にいるのは俺とリーザ先生だけだ。ということは、この後秘密の闇(意味深)魔法トレーニングを行っても、誰にもバレないと言うことでは?
この態度から察して、リーザ先生もそれを望んでいるのでは……!? だってさっきもエッチなことし放題って言ってたもん! 合法ロリとか最高あ、つい本音が! とにかくここに来て桃色のスクールライフが実現するなんてな!
「よ、よろしくお願いします!」
俺は硬い声で叫んだ。
「んふっ。じゃあ正統後継者になる話に同意したって事で良いね?」
リーザ先生の蕩けそうな声が耳元で響く。
「容赦しないから」
その声が急に低くなった。ちょっとだけ嫌な予感を感じながら、俺は先生の胸の感触を感じていた。
※この後めちゃくちゃしごかれた。
うっ! なんて言ったのは不意にサンバのリズムに身体が滾ったからでは無い。あまりに埃臭くてむせ返ったのだ。
恐る恐る開いた部分から体を差し入れ、中の様子を探る。先ず目に入ったのはうず高く積み上げられた本の山だ。それも一山や二山ではない。俺の胸の高さまで積まれた本が足の踏み場もないほど乱立している。さながら賽の河原というやつだ。
「こっちに来て」
部屋の奥で少女の声がした。ドアの前で聞いたのと同じ声だ。俺は本の間を縫い、倒さないように細心の注意を払って奥へ進んだ。
何せ一つ一つが少しでも風が吹けば即入山規制が掛かりそうな、不安定な山なのである。一つ倒せば全ての山が崩壊しかねない。
慎重に慎重に進んでいき、何とか奥のスペースに辿り着いた。
そこには大きな日取り窓があり、差し込む光に無数の埃が舞う下に大きなテーブルがある。テーブルの前に一人の少女が立っていた。
「ようこそ」
少女は屈託の無い笑みを浮かべていた。いや、彼女を少女と言って良いのか俺には分からなかった。確かに身長は俺の胸より少し低いくらいで、顔の幼さは十歳前後だと思われた。頭には小さな三角帽子を乗せ、ハーフアップされた栗毛色の髪は地面に着こうかと思うほど長い。そして着ている服はゴッテゴテのフリッフリのゴスロリ衣装である。ただ……。
俺の視線はまた少し下がる。胸が大きい。いや、俺がロリコンだからこんな言葉が出てきたわけでは無い。一般的な女性と比べても不自然に大きいのだ。何か詰めているんだろうか。
「私が闇魔法専攻の担当のリーザ・リリーホワイトだよ。リーザ先生って呼んでね!」
有無を言わせぬ勢いでリーザ……先生が手を差し出してくる。俺もつられて手を差し出すと、不意にその手を取り、自分の胸に押し当てた。
俺はびっくりして固まってしまった。
その硬直とは対照的に、胸へ当てられた手は何とも言えない柔らかい感触に包まれていた。弾力を持った軟らかさだ。
いや待て、いきなり何だこの痴女は。最高だな。
暫くその状態が続いた。俺の理性がジリジリと焼き切れそうになっていた時、やっとリーザ先生が手を離した。
「うん、聞いてた通り。君には闇魔法の才能があるよ!」
「え、あの」
「君がクラウス君だよね? ギラから出荷されてきたっていう」
出荷とか言うな。豚か俺は。
「は、はい。それで……」
「おや? 私の胸が気になるのかなあ?」
少女は悪戯っぽい笑顔で俺の顔を覗き込んできた。胸の谷間がくっきり見え、先程の柔らかい感触が蘇ってくる。さっきも言ったが俺はロリコンではないし、ただ本能的に見てしまうだけである。
「見たかったら見ても良いんだよ。ほらほら」
不敵な笑みを浮かべるリーザ先生は、露出している部分から服に指を入れ、ずり下ろすかのような仕草を取る。流石にそれは不味くないか。立場上、美味しいけども。
「ちょ、先生。からかうのはやめてください!」
「私ね、不死身なの。五百年くらい前から生きてるの」
「へぇ……ええ!?」
幼女だと思ったら俺の婆ちゃんよりだいぶ年上だったでござるの巻。
「それに身体の造形も自由に弄れるから胸の大きさも自由に変えられるの」
「それは闇魔法の力……」
「違う違う! これは呪いね。あー、まあ闇魔法にも呪いを主体にする流派があるけど、これはそういうんじゃないの」
「はあ」
「もし私に好きな人が出来たとするじゃない? そしたらその人の思い通りの体型に変わることも出来るんだよ」
思い通りにならなくって良い。俺は今の先生のままで良いと思うが決してロリコンではない。
「あ、言い忘れたけど私はギラの第十三式・・・正統闇魔法【棺流】の正統後継者なの。君に教えるのも棺流の闇魔法になるからそのつもりで」
さっきからびっくりワードがポンポコスコスコ飛び出してきて、正直理解が追いついていない。何なんだ、そのギラ人が寝る前に妄想している物語のヒロインみたいなプロフィールは。
それに情報量が多すぎるし、会話のテンポとスピードが速すぎてコミュ障の俺には付いていけない。
ただ一つ補足しておくと、闇魔法と一言に言ってもその流派は沢山ある。原始的な闇魔法から、使いやすいように手を加えられたもの、はたまた召喚術を主とするものまで多種多様だ。
ギラには政府公認の闇魔法が全部で十二流派あり、第一式から第十二式まで「正統闇魔法」を名乗る事が許されている。
裏を返せば十三番目は存在しない。「我こそは十三番目の闇魔法なり」と息巻く流派は多いものの、ここ百年以上、新しい流派は認められていないのだ。
つまり彼女のように、十三式とか十三番目を名乗っている時点でパチモン確定なのである。
「あー、もしかして疑ってるね?」
言いながらリーザ先生はパチン、と指を鳴らした。不意に今いた空間がぐにゃりと歪む。意識が遠のいていくような感覚によく似ていたが、どうもそうではない。歪んで歪んで、もう部屋の原型が分からなくなった瞬間、俺達は荒野に立っていた。黄色い地面には疎らに草が生えており、遠くに雪をかぶった山岳が見える。
一瞬のことに俺は何が何だか分からなくなった。何だここは。俺が前世で土だった時の記憶か?
「これは仮想空間を作る魔法だよ。仮想空間だけど、ここでは現実世界と同じ方法を用いないと魔法が打てない」
リーザ先生が後ろから進み出てきた。
「だけど、どれだけ魔法を撃っても大丈夫。どれだけ破壊しても大丈夫。仮想空間だからね!」
相変わらず先生は小太鼓のように絶え間なく話し続ける。よくそんなに呼吸が続くな。肺が6つくらいあるんだろうか。
「そ・れ・に」
リーザ先生は俺の腕に自分の身体を絡めてきた。
「この場所だとエッチなことし放題だよ?」
先生は幼女とは思えない妖艶な目つきで俺を見る。流石五百才。そういう趣味のない俺でもちょっと興奮してきたな。
「まあそれは冗談なんだけど」
パッと俺の手を離すリーザ先生。ちょっとだけ寂しい。
「それに君たち魔法戦闘学部の学生達は直接戦うとかなり危ないからね。特に闇魔法は威力が鬼強だから直接命に関わりかねない。例外はあるけど、ほとんどの練習は仮想空間で行うから安心してよ」
待て。つい先日俺はその鬼強闇魔法とやらを直接喰らいそうになってあの世に招待されるところだったんだが。召されなくて本当に良かった。
不意にリーザ先生が目を閉じた。その時、空気が変わった。ドス黒く、不穏なものが辺りを満たしていく。
ざらりとした緊張感に全身の毛が逆立つ。この子はやはりただの幼女じゃない。
リーザ先生は手の平を上に向ける。そこにみるみる黒い塊が渦を巻きながら大きくなっていく。
「じゃあ撃つねー」
リーザ先生は手首を捻り、手のひらを山の方へ向けた。瞬間、手の平に溜まっていた黒い塊が雷光のように空気を裂いた。
塊は地を穿つ速さで飛び、瞬く間に山岳の方へ消えていった。
パッと鮮烈な赤さが弾ける。目を開けてられないほどの強烈な光だ。山に起こった爆発は邪悪に炎を吹き上げ、やや遅れて爆音が響く。俺は未だかつて体感した事の無いような突風に襲われた。
「うわああ!」
全く踏ん張ることも出来ずに俺は吹き飛ばされてしまった。
暫くして風がおさまる。山はどうなった!? 地面に伏せていた顔を恐る恐るあげる。山がない。俺の目に飛び込んできたのは抜けるような青空のみだ。
いや、おかしい。だってさっきそこに山があったはず。まさか、リーザ先生の魔法を喰らって跡形も無く消し飛ばされたって言うのか……?
「うーん、手加減し過ぎたかなあ」
いつの間にか俺の腹の上でマウントポジションを取っていたリーザ先生が耳を疑うような台詞を吐いた。あの悪魔のような威力で手加減し過ぎたって……。じゃあ手加減せずに打ったらどれだけの威力になるのかも気になるが、この体制が風紀的に問題無いのかはもっと気になる。
「これで少しは信じてくれたかな? 闇魔法は流派によって色々特色があるのは知ってると思うけど、私たち(棺流)はとにかく威力重視。この世で最も威力の高い魔法を目指して創られた伝説級の流派だよ」
俺の上から退いたリーザ先生が手を差し出してきた。立たせようとしてくれているらしいが、さっきのやり過ぎデモンストレーションを見た後の俺には、彼女の屈託のない笑顔を直視出来ない。怖過ぎる。
俺は目を逸らしたまま彼女の手を取った。
また景色が歪む。平衡感覚を失いそうになりながら立ち上がった時、すでに俺たちは元の埃臭い部屋に戻っていた。
「あ、ありがとうございます」
俺がリーザ先生と握った手を離そうとしたが離れない。向こうが割と強い力で握っているのだ。心なしか先生の瞳が潤んでいるように見える。
「やっと見つけたよ」
「え?」
「棺流闇魔法の正統後継者、ずっと探してたの」
おや? 何か話がおかしな方向に進んでないか?
「ちょ、ちょっと待って下さい。俺は確かに闇魔法を学びに来ましたけど、正統後継者になるなんて、いや、なれるなんて思ってませんよ」
「いいや、君には素質があるよ。五百年以上生きてきて色んな人を見てきたけど、その中でも一番の素質が。あとリアクション芸人の素質も」
二つ目の素質はいつ見出したんだよ。
「い、いや急にそんな事言われても……」
「クラウス君。君は前の学校でいじめられていたらしいね」
俺は閉口した。恐らく俺の素性は全てバレている。先生は俺の顔色が変わったのを見逃さない。目を細め、ニヤリと笑う。
「いじめてきた奴らを見返したいからここに入ったんでしょ? 棺流の正統後継者になれば、連中に潮を吹かせるのは簡単だよ?」
「泡ですよね!?」
「どっちも変わらないよ。さあ、どうする? 復讐のために棺流の正統後継者としてこれから三年間私の奴隷になるか、復讐は諦めてこれから三年間私の性奴隷になるか」
「どっちにしろ奴隷確定なの!?」
確かに俺はいじめてきた連中を見返したい思いでこの魔法学園に入った。しかし俺はさっきの爆発で萎縮してしまっていた。
ほぼ一ヶ月前まで土いじり以外していなかった俺に、あの威力の魔法が撃てるようになるとは思えないし、字の読み書きも出来ない俺がそこに至るまでの努力を出来るだろうか。
「自信がないんなら形から入ってみよう」
リーザ先生は部屋の隅にあるクローゼットに歩み寄り、一気に引き開けた。途端、雪崩の如くドサドサと衣装が飛び出してきた。
下着の類もかなりある。かなり際どいものが多い。それ、俺に見せて良かったのか。
「ああ、汚い汚い」
リーザ先生は犬のように衣類を散らし、かき分け、フード付きマントと、ローブを拾い上げ、俺の前に持ってきた。
「これ、ずっと大切に保管していたものなんだけど」
「嘘をつくな」
大人はみんな嘘つきだ。
「本当だよ。これ創始者のおじさんが着てたのだもん」
じゃあ尚更もっと大切に保管しとけよ! ……ん?
「え、創始者の方が着ていたものを俺が着ても良いんですか?」
「そうだよ。だって君はこれから正統後継者になるんだもん」
リーザ先生は事も無げに頷いた。拒否したかったが、リーザ先生には引く気配がない。
恐る恐るローブとコートを受け取り、改めて観察する。かなり古いもののようだ。どちらも黒を基調にしていて、よく見ると随所に金の刺繍で蛇や棺が彫られている。
そして背中側には大きく黒い棺と、それに巨大な白い蛇が巻きついた絵が縫い込まれている。
中二病でない俺でもちょっとゾワゾワする感じの格好良さがあった。
「早速着てみよう。着たら早速練習を始めようか」
リーザ先生は甘い声で言い、俺の後ろに回った。そして爪先立ちをして俺の首に両手を絡める。柔らかい感触が俺の背中に当たった。
今更気付いた。この部屋にいるのは俺とリーザ先生だけだ。ということは、この後秘密の闇(意味深)魔法トレーニングを行っても、誰にもバレないと言うことでは?
この態度から察して、リーザ先生もそれを望んでいるのでは……!? だってさっきもエッチなことし放題って言ってたもん! 合法ロリとか最高あ、つい本音が! とにかくここに来て桃色のスクールライフが実現するなんてな!
「よ、よろしくお願いします!」
俺は硬い声で叫んだ。
「んふっ。じゃあ正統後継者になる話に同意したって事で良いね?」
リーザ先生の蕩けそうな声が耳元で響く。
「容赦しないから」
その声が急に低くなった。ちょっとだけ嫌な予感を感じながら、俺は先生の胸の感触を感じていた。
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