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第4章
29 戸惑う
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足が重い。気分も重い。久しぶりのお客様かと思ったらやっぱり変な人だった。少し緊張もあったが、ワクワクしてた気持ちもあった分、落胆さはかなりのものだった。
キアは足を止めて、つい先ほどの出来事を反芻した。食堂にいた髪をひとつにまとめた背の高い男。人の顔をジロジロ見てきたかと思ったら、何やらブツブツと呟いて、挙げ句の果てには違うと。
「違うって、誰と間違えたのかな。変な人…」
あと、突然流れ込んできた「誰か」の記憶。
気持ち悪い大きな目玉。おどろおどろしいさも感じたあの映像。あれはなんなのだろう。
やけに鮮明に映し出された三人の人の姿。あれは誰だったのかな。中の一人はあの人に似た人のような雰囲気だった。
あの人、酷く驚いていた。あの人と関係のある記憶なのかな。
キアは先ほどの光景を思い出してはぷくっと頬を膨らませては、すぐに元に戻した。少しだけ肩が沈む。
変な人だと思うけれど、違うと言った後の目はしょんぼりと落胆に満ちていた。なんだか可哀想とも思ってしまった。
変な客人を呼んでしまうのは宿の立地のせいなのか。ナユタの人柄のせいなのか。ここまで立て続けになると、どちらかに原因があるのではないかと考えてしまう。どちらも私にとっては大事な人(場所)だから、誤解があるなら解きたい。
しかも、謝られるかと思ったら、スルー。ナユタさんが間に入ってくれるかもと思ったら、何にもなくスルー。しかもムジさんに呼ばれているとかで席を離れなければならないのが何だか悔しい。うやむやにされてしまうのは嫌だなと思った。おかげで足取りはやっぱり重いままだ。キアはまた眉間に力を入れた(無意識)
「遅いぞ」
ムジの宿に入るや否や、入り口に立っていた男はキアを見て無愛想に呟いた。
伸びっぱなしの髭が邪魔くさいとナノハさんをはじめ、ご婦人たちが事あるごとに文句を言っているのをこの人は知っているのかな?いつか聞いてみたい。おとなしく切らせてくれるとは思わないけれど。
「…すみません」
キアは少し肩を落として頭を下げた。普段なら素直に聞ける小言も今日は無理そうだ。態度や顔に出てしまわないよう気をつけなきゃ。
「何だ機嫌悪いのか?」
ムジは眉間を触る仕草をした。皺が寄ったままなのを指摘されてキアは慌てて額をさすった。
「あ!いいえ。別に…」
気をつけなきゃと思っていた矢先に指摘をされて頬がみるみる紅潮していく。
「歯切れが悪いな。まあな。腹に貯めておくより、たまには発散したほうがいいからな」
「…はあ」
言いたいことを全部口に出せたら、どれだけスッキリするんだろうか。言いたいこと全部口に出して、モメた人を見た後だからこんなことが簡単に言えるのかな。
キアは意地悪く考えてしまった。先日まで水の宿にいたシダルは、今はムジの宿にいる。客と顔を合わせないよう奥まった部屋で過ごしているという。
怪我の具合は回復期に入っているそうだ。ただ歳のせいで全回復には時間がかかるということに納得がいかないらしい。
「アンジェから何度も説明を受けてるはずなのに、全然聞きやしねえ!」
「誰が言っても聞かない人っていますよね」
珍しく意見が一致した。
「違いねえな」
フッとお互いに小さく笑い合った。こんなふうにムジと笑い合う日が来るなんて思いもしなかった。
「あの。ナノハさんから、ムジさんが私に用事があると聞いたのですが」
「ああ。そうだそうだ。それについて話そうと思っていたんだ!」
忘れていたと髪の毛を豪快にかきむしった。
ボサボサなのは頭の毛も同じだった。ご婦人たちがハサミを持って…以下略。その光景が安易に想像ができてキアはムジに隠れて笑った。
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