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松穂

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第2部

尾行する弟、水奈瀬萩

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 ――水奈瀬萩がその人物に気づいたのは、本当に偶然であった。

 その日萩は、赤坂周辺を当てもなくぶらついていた。
 いよいよ年明けから特定の医療機関にて臨床実習に入るため、南青山にある某私立大学病院を下見してきた帰りだった。
 とはいえここ数週間、いくつか病院を回ったものの、何だかどこもピンと来ない。萩にしては珍しく、実習先の病院が決められず、目下悩み中なのである。
 今日も、ここだと決められないまま早々に撤退。この後、学校に戻る必要のない萩は、うーん、どうすっかな……と足の向くままブラブラ歩いていた。時刻は午後四時過ぎ、珍しくバイクではない。
 そんな時、タラタラと歩く萩の目に、一組の男女の姿が映った。
 バスやタクシーがジャンジャン通る大通り、人通りもそれなりに多い広い歩道で、何故かその男女にピタッとピントが合う。
 その二人は、ちょうど大通りに面した豪奢な建物から出てきたようだ。足早に歩く男と、小走りで後追う女。普通なら、目に映っただけで気に留めることはない光景。
 しかし、反射的に二度見して萩の足は止まった。……男の方に見覚えがあったからだ。
 萩の目線は二人が出てきたラグジュアリーな建物へ戻り、そのまま下から上へとなぞる。
 ――グランド・シングラー赤坂。
 この界隈でもトップクラスの外資系ホテルだ。
 止まったままの萩の足が、弾かれたように動き出す。
 遠く見失いそうになるその男女を――、ロックオン。


* * * * * 


「……ごめんなさい、仕事の邪魔をして。でも私、どうしてもあなたに会いたくて……許されないことだって、わかっているけど、でも……」

 ―― “許されない” ……? ……もしかして “不倫” ってやつ?
 小さくはない身を精いっぱい縮こまらせて、萩はその背後に全神経を集中させる。
 一杯五百円近くするアイスコーヒーは、まだ半分も飲んでいない。
 聞こえてくる女の台詞は、萩でなくともつい耳を傾けてしまうような只ならぬ雰囲気を醸し出しており、運よく首尾よくターゲットへ最接近することに成功した萩は、思わず振り返りたくなる衝動を必死に抑えていた。


 ――つい数分前。見知ったそのスーツ姿の男を見失うまいと、咄嗟に追跡尾行を開始した萩であったが、それは思った以上に困難を極めた。そもそも、気配を消して移動するなどという芸当は、萩にとって最も苦手とするところだ。
 人より背が高い萩は、人混みの中でもターゲットを見失いにくいという利点はあるが、逆にそれだけ見つかりやすいという難点も備えている(しかもターゲットも似たような条件ときている)。
 こそこそと、いかにも怪しい人物ですと言わんばかりに往来をジグザグしながら、萩は必死で後を追った。
 そのターゲットが五分も行かぬうちに某有名カフェチェーン店に入ったのは、幸いだったのか否か。
 一瞬迷ったものの、ええいっ入っちまえ!と店内へ入った萩は、その数秒後に「失敗かも」と舌打ちすることになる。

 まず、店員の「いらっしゃいませぇー」がこれ見よがしに高くてデカい。……そんな大げさに迎えられちゃ見つかっちまうだろ?
 そして、メニューに載ったドリンクが無駄にオシャレ過ぎる。……どれもこれもクリームだのシロップだの乗せやがって。フツーのアイスコーヒー、ねーのかよ。
 おまけに、ドリンクのサイズが分かりにくい。……フツー、S・M・Lだろ?
 萩が普段摂取する水分と言えば、水か麦茶かビールか焼酎、たまにアイスコーヒーくらいで、甘い飲み物は全く飲まない。だから当然、こういったおしゃれなカフェなど来ることもない。……マックなら得意なんだけど。

「……アイスコーヒー、一番デカいやつ」
 と、テーブル席に背を向けつつボソボソとオーダーすれば、「店内でお召し上がりになられますかぁ?」と、また甲高い声。
 萩はおざなりに頷いて、財布から小銭を取り出しながら、そっと肩越しに店内をうかがい見た。
 割と混み合うカフェの中は、男も女も半々くらい。一人客もいればカップルもいるし、くたびれたオッサンもいる。――その奥に、見つけた。
 追いかけてきた例の男女が向かい合って座っている。男はこちらに背を向けて。
 しかも、何というタイミングの良さ――男の背側のテーブルが、今まさに空いた!
 萩は、「お待たせいたしましたぁ!」の声と同時に、アイスコーヒーのグラスとストローを引っ掴んで、出来うる限り忍びやかに、目指すテーブルへと身を滑り込ませたのだった。


「……だから、謝りたかったの……酷いことしたよね、私。ずっと悔やんできたの……あなたに許してほしくて……だって……まだ私のこと、怒ってるでしょう?」
「……こないだも言ったが、もう、昔のことだ……まったく気にしていない。謝罪も必要ない」
「ウソっ! 絶対怒っているでしょう? 私のことだって許せないはず!」
 聞き耳を立てずとも突き刺さる、感情的な女の声。
 顔は見えなくとも、うんざりするような男の気配。
 ……ナンだよこの会話。いかにも、昔ナニかアリマシタ……、な感じじゃん?
 店内はそこそこざわついているが、ヒステリックな女の声に、何だ何だ?とチラチラ目を向ける者もいる。萩は一応、手元のスマホゲームに夢中です、といった風を装っていたが、自分もどさくさに紛れて振り返ってやろうかと思う。

「ご、ごめん……私、つい……」
 自分が興奮しすぎたことに気づいたのか、女の声はしおしおと弱々しくなった。
 どんな感じの女だろう。その声からして若そうなイメージだが。
 追ってくる時は男の方ばかりに気を取られて、女の方はよく注視しなかった。確か、身綺麗な恰好をしたプチセレブっぽい女だったような……

「……お願い、私を許して? どんな罰でも受ける。あなたの言うことなら何でも聞く。私、あなたにだったら、何をされたって――、」
「――富田。必要ない」
 男の、低く抑揚に欠ける声が、容赦なく女の言葉を遮った。
「謝罪も償いも、一切要らない。何故なら、あの頃のことは今の生活にまったく影響もなければ、思い出すこともない。仮に思い出すことがあっても痛みすら感じない。その程度のことだからだ」
「……そん、な……だって……だって、泳げなくなったでしょう? 私のせいで、水泳ができなくなったじゃないっ! あんなにのめりこんでいたのに、つき合っていた私のことなんかほったらかしで、泳ぐことしか頭になかったあなたが、競泳部も辞めて、泳ぐことも辞めちゃったじゃない! 千尋ちゃんから聞いたもの! 私のせいで、あなたの将来の可能性が潰れたって……!」
「大げさだな。別に競泳選手を目指していたわけじゃない。……それに、今は何の支障もなく泳ぐことができる」
「……え……泳げる、の……?」
「ああ、普通に」
 ――泳ぐ? 競泳部? ……一瞬、萩の脳裏にちらと兄の顔が浮ぶ。
 いまいち意味は分からないが、『泳ぐことができる』と言った男の言葉がよほど予想外だったと見えて、女はしばし唖然としているようだ。
「……で、でも……私はあなたに……」
「――吉宮から全部聞いている」
「……え?」
「富田が抱える問題を、俺に持ってくるのは意味がない」
 すぐ背後なのに、男の抑えられた低い声は聞き取りにくい。萩は、音をなるべくたてないように座りなおし、より一層耳を背後に近づけた。

「……知ってるの……? 私が……」
「ああ、全部聞いた」
「……わたし……わ、たし……」
「……富田……俺のところに来るのは完全な現実逃避だ。逃げれば逃げるだけ現実は追ってくる。追われたくなければ向かい合え」
「……あ、なたに……何がわかるの? 私がどんなに苦しんでいるかなんて、少しも知らないくせに、『向かい合え』? そんなこと、簡単に言わないでよ!」

 ――再びヒートアップ。……つーか、このまま聞き続けんの、もしかしてマズイ感じ?
 スマホ画面に落としているはずの萩の目が、無意識にウロウロと泳ぎ出す。

「私だけが悪いの? どうしろっていうのよ? 寄ってたかって子供、子供って……できないのは私のせいじゃないわ! みんな私が悪いみたいな言い方をして、誰も私の味方なんてしてくれない……! 病院だってちゃんと行った……試せるものは全部試したの……! でも、できないんだもん! 仕方ないじゃない!」

 ――と、ここで何故か急に、萩の中で不快さが増した。
 ナンだろう……なんか、ヤな感じ。 “子供” に “病院” って――、
 手足の末端がワキワキするような感覚は、萩の第六感が警告している証だ。
 実は萩、姉のことがあってから、その手のネタに少々過敏気味なのである。(自覚はない) 
 ――その先はあんまし聞きたくねーぞ……

「――だいたいっ、子供を産んで母親になったら偉いの? 世の中にはヒドい母親だっていっぱいいるじゃないっ! 子供を虐待したり育児放棄する母親だっているわ! 中には産む前に中絶する人だっているのよっ! 授かった命を簡単に始末しちゃう人がいるのに、授かれない私だけがどうして悪く言われなきゃいけ――、」

 ――ガタン、と椅子を鳴らして、身体が勝手に立ち上がった。
 ギョッとしたようにこちらを向く数人の客たちの気配を感じたが、そんなことを気にする萩じゃない。背後のテーブルへ回り、仁王立ちのまま、萩は女を見据えた。
「……ねぇ、それを旦那に話したら? この人に話すだけ時間のムダじゃない?」
「――な……っ、何なのあなた――、」
 突然割り込んできた見知らぬ青年を、驚いた顔で見上げる女。
 一方、全く動じた様子のない男を目の端に入れながら、萩は女の方を見下ろす。その視線に込められたのは、怒り……よりも、憐みの方が強かったかもしれない。
「女の人はさ、大変だと思うよ。でもそーゆーこと、あんたの旦那に言わなきゃ始まらなくね? 言いたいことは本人に直接ぶつけなきゃ、あとあとコジれて取り返しのつかねーことになるんだよ」
「そ、そんなこ――、」
「それとも、本気でこの人と “不倫” しようとか考えてんの? 悪いけどたぶんこの人、あんたにはナニもしない、、、、、、と思うよ」
「――ちょっ……、」
 メイクも完璧な顔面にカァッと朱を走らせて、女は反論しようとする。が、男がとどめを刺した。
「――富田。俺は君に何もしない。ただ、これ以上仕事の邪魔をするなら、君の夫に、、、、慰謝料ぐらいは請求してやってもいい」
 真っ赤な顔が、一瞬にして青ざめた。ボッと出た炎に、ジュッと冷水を浴びせたような感じだ。
 萩は内心、へぇ、と思う。――この人もそんなセリフ、吐くんだな。
 妙に艶めいた唇をわなわなと震わせた女は、隣の椅子に置いてあったバッグと薄手のコートを引っ掴んで勢いよく立ち上がった。
「……っ……さよならっ!」

 テーブル脇に立つ萩を押しのけるようにして、カッカッカッとヒールの音を盛大に鳴らしながら、女は店の出口へ駆けていく。
 ふわんと舞い上がった香水の香りが、萩の鼻をくすぐった。上品な香りかもしれないが、萩の好きな匂いじゃない。
 店を出て行った彼女の後姿を見送りつつ、やっぱ旦那に知られちゃマズいよなー、などと呑気に考えていた萩の横に、ヌッとした壁ができた。
 ――男が……黒河侑司が、立ち上がった。
「……それで?」
「あ」
 まったくの無表情で萩を見下ろす黒河侑司。(萩の方が数センチ高いはずなのだけど)
「……スンマセン。……なんか、耐えられなくなっちゃって。つい」
 デカい体を縮こませてペコリとすれば、彼は何も言わず、テーブルに残されたカップとグラスをトレーに乗せて返却口に向かう。慌てて萩も、飲み残しのグラスを掴んで後を追った。

「……もしかして、オレが後ろにいること、気づいてマシタ?」
 周囲の好奇な注目をごっそり集めながら、二人は店を出た。問いかけた萩を一瞥した侑司は、出てきた店をわずかに振り返る。
「……この店の一番大きいサイズは “グランテ” という」
「――げっ、そんなとこからっ?」
 思わず叫んだ萩に構うことなく、さっさと歩きだす黒河侑司。
 再び彼の背中を追いながら、萩は心中、大いにやさぐれた。

 ――だからオレ、尾行とか向いてないんだって!


* * * * *


「そーいえば黒河サン。さっきの人、元カノ?」
「……」
「人妻なのに、アレはないよなー」
 無邪気に一人で「ナイわー」と頷く萩。しかし、前方を向き颯爽と歩く男は、冷たい視線をちらりと寄越しただけで答えを返さない。
 ――まぁ、だからナンだって、話だけどさ。

 カフェを出た後、どこへ向かっているのかわからないまま、萩は侑司について行った。
 別に彼を責めたかったわけじゃない。ただ何となく、もう少し話がしたかっただけだ。
 萩が澄ました顔をして横に並ぶと、侑司はその眉をわずかに上げる。
「……学校は終わったのか」
「ああ、今日は実習先候補の病院を見学に来たんすよ。……あんましピンとこなかったけど。もうこの後戻る必要ないんで、帰ろっかなと思ってたとこデス。黒河サンは? まだお仕事中っすか?」
 侑司の真横にピタリとくっつき、装うことなく尋ねれば、「ああ」と極々短い答えが返ってくる。
「残念だなー。せっかく会ったのに。こんなグーゼン、滅多にないっすよー?」
 勝手に後をつけ勝手に話を盗み聞きし、 “グーゼン” とはどの口が言う、である。

 おおよそ萩の中には “人見知り” や “はにかみ” 、“遠慮” といったものが標準装備されていない。それらがない分、人に不快感を与えない最低限の “屈託のなさ” だけは備えているらしいな、というのが兄曰くなのだが、果たして、黒河侑司にもその武器が有効だったのかどうか。
 侑司は少し黙って歩いていたが、ふと「これから慧徳へ行く」と呟いた。蓮や葵が聞いていたら、確実に「ああ、それを言っちゃあ……」と頭を抱えそうな “前フリ” である。
 当然、萩はパッと顔を輝かせた。その後に「一緒に乗ってくか? 送ってやるぞ」という言葉が続くのだと勝手に解釈したためだ。……あくまでもそこに打算はない。

「マジっすか。んじゃお言葉に甘えて。あ、オレんち妙光台なんすよ。裏道知ってるんでナビしますね。ヘタに街道をチンタラ走るより断然早く行けるンで」
 バイクで通い慣れた、都心~妙光台経由~慧徳の道筋を得意気に披露する萩は、色々な意味でイタイ子だ。
 しかし、グランド・シングラー赤坂の裏にあるコインパーキングに到着し、停めてあるSUVに乗り込む時、侑司は黙って、助手席に置いてあった荷物を後部座席に移動してくれたのだった。

 ――そんな流れで便乗した国産のSUV。
 流麗で躍動的なエクステリア、なめらかで力強い加速感、グレード高いインテリア……萩ほどの高身長でも窮屈感を与えない車内空間。
 高校卒業後、免許は持っているが車を持っていない、という単純明快な理由で、萩の移動手段はほぼ単車(バイク)オンリーだ。兄の車以外に乗るのも久しぶりである。
 ――屋根付き壁有りナビ付きメット不要。
 寒くねーし息苦しくねーし大型車に邪魔されねーし、快適だよな。俺もクルマ購入、本気で考えよっかな。燃費悪くても馬力あるやつがいいよな……あ、でもオレ、ナビはいらねーな……
 快走するハイグレードSUVの乗り心地をひとしきり楽しむこと十数分、街道から裏道へ曲がり入った頃、萩はようやく先ほどの “修羅場” に関心を戻した。

「――ねぇ黒河サン。さっきの人、ちょっと芝居クサくなかったっすか? 自分に酔っちゃってる感じ?」 
 デリカシーのない萩、蒸し返すのも平気である。
「つーか黒河サン、あの人にナニかされたんすか? いやほらあの人、『私を許してー』とか言ってたし?」
「……」
「あ、そーそー、『あなたになら何されてもいいのー』とか言っちゃってましたよね。にしては、けっこーマンザラでもない感じ? マゾなんすかね」
「……」
 ……反応なし。
 ちらりと隣を窺い、萩は「ま、いっか」とばかりに肩をすくめた。他人がどうこう言うことでもない。
 そりゃあ、色々と気になる点はある。
 萩だって、人並みに(否、以下だ絶対)男女の機微を知っているつもりではある。過去に何があったかは分からないが、先ほど見た光景は明らかに、円満な関係を築いてきた男女のやり取りではなかった。
 一方、萩の姉がこの男に抱いている特別な感情も、何となく知ってしまっている。あの夏の終わりに見てしまった姉の涙は、不可思議でカオスな “女心” というやつを、まんまと萩に知らしめた。
 そんな姉の心情を踏まえれば、今ここで『あの女、ナニ? 二人してホテルから出てきちゃってさ。葵のことどう思ってんの?』と詰め寄ることも、考えないわけではない。
 ――しかし、だ。
 萩はどういうわけか、この黒河侑司という男に対し、まるで不信感が湧かなかった。
 何故だろう。姉の元彼(と称するのも忌々いまいましいが)に対しては、今も尚しつこく、許し難い感情をグツグツ持て余しているというのに。
 あんな場面を見せられた(勝手に盗み見した、とも言う)侑司に対しては、さほど敵愾心は芽生えない。
 この男から感じる、揺るぎない強靭さのせいだろうか、それとも、色事を感じさせない鋼鉄のような無機質さのせいだろうか。
 いずれにせよ、あの女は今後、この男の前に現れないような気がする。故に、二人がどうなることもない。その辺は妙に確信があった。
 ただの勘と言えばそれまでだが、基本、その場その時の直感を信じて生きてきた萩である。一度「ま、いっか」となれば、切り替えも早い。
 というわけで萩は、黒河侑司に関わるややこしそうな事情はマルっと意識の外に飛ばした。関心は再び、憧れの四輪車へと移る。
 やっぱ車いいよなー、と深々背を預けたところで、不意に隣の侑司が口を開いた。

「……お前、リハビリ専門学校に通っているのか」
「あ? ああ、そうですよ。新宿の御苑脇にあるやつです。知ってるんすか?」
「いや」
 普通ならここで会話終了となるくらい、侑司から伝わる対話意欲メーターは低いものなのだが、萩はそういうところをあまり気にしない。
「オレ、今三年なんで、年明けから臨床実習が始まるんすよね。うちのガッコはいくつかある候補の中から自分で医療機関を選べるんですけど、何かいまいち決めらんなくて。見学に行っても何か違うんだよなーって……別に選り好みしてるわけじゃないんすけど……」

 ――ふと、侑司がこちらを見た。
 続きは?と促された気がして、萩はちょっと考える。
 いつになく乗り気になれない心情、パパッと決められない心の迷い……数か月前のちょっとした出会い、心に残る寂し気な笑顔。
 ――自分でもよくわかんねーけど……頭ん中で引っかかってんのは……

「……夏休み入る前にね、指定病院の見学実習っつーのがあったんすよ。……豊城総合病院、知ってます? そこで。……で、その帰りにね、困ってるおばーちゃんがいて、手を貸したんです。いや、ただ乗っている車椅子のタイヤがパンクしちゃったらしくて、病院まで負ぶっていってあげただけなんすけど」
 クラスの仲間三人で帰る途中、たまたま病院の近くで見かけた老齢の女性。自走式の車椅子を動かそうとしてもタイヤが回らず、途方に暮れていた。病院へ行けば迎えの車を呼べるというので連れて行ったまでだ。
 一番ガタイのいい萩が彼女を背負い、他の二人が車椅子を運ぶことになった。病院までのごく短い道中、背負った老婦人は驚くほど軽くて、優しい声をしていた。

「そのおばーちゃん、足が悪くって……なんつってたかな……持病の関節リウマチが悪化して静脈瘤も併発したって言ってたっけか。……だけど、手術はイヤなんだって、リハビリはもっとイヤだっていうからさ。どーしてだよって聞いたら、ムダだって、言ったんすよ。手術してリハビリして、仮に歩けるようになっても、老い先短い歳でいつお迎えが来るかわからない身だから無駄なのよ、って。……おばーちゃん、諦めちゃっててさ」
「……それは――、」
「ん? ナンすか?」
 一瞬何か言いかけた侑司に萩は首を傾げるが、彼は「いや」と短く言って口を噤んだ。
 隣の男がその時、何に思い当たったのか知る由もなく、萩はぽつぽつと話を続ける。

「……たぶん、そんな患者さんはたくさんいるんだよな。諦めちゃってる患者さん。オレも昔、“手術してもリハビリ受けてもムダじゃん” って治療を拒否った覚えあるし。でも、いつの間にかそんな気持ち、忘れちゃってたなーって」

 萩の背の上で、穏やかに微笑みながら「老い先短い歳だから」と老婦人は言った。突っぱねるでもなく怯えるでもなく、ただ静かに「無駄なのよ」と。そんな彼女に、萩は何と声をかければいいのかわからなくなった。
 結局、そこから彼女と別れるまで、何を話したかよく覚えていない。老婦人の静かな諦観は、少なからず萩を考え込ませるものだった。
 とはいえ、この出来事はひとまず記憶の奥にしまわれた。学校は夏休みに入り、その間姉のことで忙しくなったのもある。だが、夏が明けて後期が始まり、臨床実習がいよいよ目前と迫ってきた今日この頃、あの老婦人の寂しそうな笑顔が脳裏にチラつき、実習に対し乗り気になれない自分がいる。

「……どこか悪くしたことがあるのか」
 ふと、フロントを見据えたままの侑司が低く尋ねた。萩は身体ごと彼に向く。
「そーなんすよ。オレ、中二ん時、腰ヤっちゃって。よりによってサッカーの地区大会前。とにかく試合に出たくて痛いの我慢してたら、ヒドくなっちゃって、結局手術する羽目になって。あれはツラかったっすよ、マジで」
「腰……腰椎疲労…… “分離症” か」
「詳しいっすね。ソレです。もっと早く医者に行って治療を受けてれば、固定するだけで手術しなくて済んだらしいっすけど、オレってばちょっと耐えすぎましたよ。医者にも散々怒られましたし、大会にも出れなくなって、あれは精神的に地の底オチましたね」
 隣の侑司が小さく頷く。……ああわかるよ、と同調されたような気がした。

「大会出れないんなら手術してもムダじゃん、リハビリとかやる意味ねーじゃん、って母親にも散々八つ当たりして。あのおばーちゃんが言ってたようなこと、オレも言ってたなーって思い出したんすよね。おばーちゃんほど、割り切れてはなかったっすけど。――あ、でもオレはちゃんと、手術もリハビリも受けましたよ?」
 ちらりと視線が向けられ、萩は口を尖らせる。
「その目、疑ってんでしょ! ちゃんと大人しく手術、マジメにリハビリ、受けマシター。つーか、リハビリ担当のセンセーがゴーインだったんすよ。枡井ますいセンセーっていって、親父の後輩で……ああ、オレの親父、もう死んでるんですけど、同じ理学療法士で」
 すると、隣でもう一度頷く気配。
 ……ん? 知ってた? ……ま、いっか。

「その枡井センセーね、いきなりオレの病室へやってきて、『俺がリハビリを担当してやる。またサッカーがしたいなら手術しろ』とか言うの。超ゴーイン、マジであり得なかった。オレが『はぁ? なにコイツ』って思ってる間に母さんと手術の日とか決めちゃってて。んで、気づいたらオレ、手術台の上っすよ」
 あり得ねーっしょ?……と運転席に振りながら、ちらっと思う。……なーんかオレ、今日、おしゃべりじゃね?
 どうしてか、最近まで思い出しもしなかった昔の記憶がするすると出てくるのだ。まるで芋づる式。口が勝手に懐かしい場面を並べていく。

「まぁ、手術も無事に済んで、リハビリやることになって。そん時、枡井センセーから親父のことをたくさん聞いたんすよね。つーか、こっちが必死で平行棒掴んで膝なんかブルッてるっつーのに、耳元で勝手に話しかけてくるんすよ。『知ってるかー、お前の親父さんはこの業界で有名なんだぞー、スゲー人なんだぞー。尊敬しろー、敬えー』って。どんなマインドコントロールだよって、思いません?」
 ――と、隣を見れば、口元に微かな笑みの色。萩は何となく嬉しくなる。

「でも、それで親父に対する見方が変わったっつーか。……あの頃、親父はホントに忙しかったらしくて、オレが手術ん時も顔を見せなかったし、見舞いにも来なかったんすけど。でもホントは、手術の後、麻酔で朦朧もうろうとしているオレの傍で、ずっと親父が付き添っててくれた……とか、面会時間外に病院へ駆けこんで看護師さんに叱られた……とか、枡井センセーに毎日何回もしつこく電話してきてうっとおしい……とか、色々教えてくれて。――お前はそんだけ心配されてんだぞ、ってね。たぶんオレが、顔を見せない親父に対してスネてたこと、全部お見通しだったンすよ、あのセンセー」
 思い出すまま語るうち、今度は、あれ?もしかして話がズレてきてる?と思う。と同時に閃く、小さな直感。……そう、オレはたぶん――

「……んで、やる気なかったはずのリハビリも、結局マジメにしちゃってて。……おっかしいな、オレ、地の底オチてたはずなんだけど、って思ったりして。でもそのおかげで割と早く回復することもできたし、親父のこともちょっと考えるようになって。……オレ、親父の仕事って、それまで全然知らなかったんすよ。どんなところでどんなことやってんのかってのも。けど、枡井センセーを見ているうちに、うちの親父も毎日毎日こうやって、色んな患者に手を貸して声かけて励まして……寄り添ってんのかなー、って」
 あの時初めて萩は、理学療法士という仕事を “職業” として見た。父親の仕事を、外側から第三者の目で、見ることができたのだ。
 ――そうだ、だからオレは……

「……どうも、そん時のイメージが強く残ってんでしょーね、オレん中で。親父や枡井センセーみたいな理学療法士PTに、なれんのかなオレ、って……」

 ――そうだ、これだ。
 萩は、侑司に向かって語りながら、今まで自分の足に憑りつき歩みを妨げていた何かが、ようやくわかった気がした。
 実習先の医療機関選択に迷っていたんじゃない。老婦人の言葉を言い訳にするのはただの逃げだ。
 ――自分の行く先に、情けなくも尻込みしていただけじゃないか。
 専門学校に通い二年と半分、知識や理論はそれなりに学んできた。が、いよいよ実習だ。現場に入る。本物の患者と向き合う過酷な現場に。患者としての体験がある萩は現場の大変さも少しは知っている。だからそのプレッシャーは大きい。柄にもなく、不安になっている。
 ――でも、一番相談したい父は、もういない。
 父親が亡くなったのは、萩が退院して一年も経たない頃だった。
 萩を始め家族全員が茫然自失となった、突然の知らせ。
 理学療法士、という父親の職業に、萩がほんのちょっとだけ興味を持ったことすら、きちんと伝えることができなかった。
 迷ったままの自分……宙ぶらりんな気持ちのまま、実際の現場へ臨み患者と向き合うことなどできるだろうか――

「……その先生が今勤めている病院は?」
 ふと侑司に問われて、萩は我に返る。
「え? あ、枡井センセー? えーと、もう何年も前に、福岡の大学病院へ転任することが決まった、って連絡があって……それからちょっと連絡取ってなくて……」
 と、侑司に説明しながらも、萩の胸の内でピンッと何かが弾くような音がした。
 ――枡井センセー……福岡……、そっか……そこは考えなかったな……

 萩が通う専門学校は、実習先の医療機関が充実しており、全国各地に点在している。
 地方から上京してきている学生は、実習先に地元の医療機関を選び、その期間だけ実家に帰省する者も少なからずいる。そうでない学生が遠方を選んだ場合は、マンスリーアパートなどを借りて下宿しながら実習先に通うのが通例だ。
 萩は最初から首都圏内に絞っていた。臨床実習期間は気力体力ともに根こそぎ持っていかれると聞いている。わざわざ伝手も知り合いもいない遠方のアウェイに飛ぶよりは、自宅から通った方が少しでも余裕をもって臨めるんじゃないか、と思っていた。
 ……だがしかし。
 ――父はいない。けれど、枡井先生がいる。もし、彼の近くで実習に臨めるのなら……?

 萩は、顔を上げる。
 ぽんと湧き出た一つの新しい選択肢は、まるでそれ自体が発光体のように眩く見えた。
「……なぁ、黒河サン。オレ……行ってもいいと、思う?」
 どこへ、とも言わず隣の男に問えば、彼は萩の思考をすべて読んでいたかのように即答した。
「尊敬できる人の傍で仕事を覚えられる幸運は、そう滅多にない。チャンスがあるなら無駄にすることはない」

 その言葉は、思った以上に心の奥深くダイレクトに響いて、萩はちょっと、照れた。
 尊敬、だなんて、そんな大層な心情を抱いているつもりはなかったが、言われてみて、改めて意識しなおせば、ちょっと尻がむず痒い気もする。……自分が、一端(いっぱし)の夢追い人みたいで。
 軽く咳払いをしてモゾモゾと脚を組み直し、萩はよっしゃと心を決めた。……さっそく、明日調べてみっか。
 枡井の勤める病院――福岡の大学病院は、確か実習先候補に入っていなかったと思うが、彼と同じ大学病院でなくとも、連携している近隣病院はあるはず。そこを選ぶのもアリだ――

 モヤモヤと霞がかった視界が一気にクリアになった。来たる臨床実習が、何やら楽しみになってきた気さえする。――こういうところは、単純な萩ならではの長所であり、短所でもある。
 加えて、複数のことを同時並行で考えられず、何か一つに夢中となれば、その他はすっかり頭の片隅に追いやってしまう萩である。当然、先ほど目撃(尾行&盗み聞き)した一件は、もはや完全にすっぽり忘れてしまっていた。
 だから、まったく他意はないのだ。無意識に出た邪気無しの言葉だ。そろそろ自宅マンションも近くなり、何となく別れ際の挨拶程度に、ポロリと口から出したに過ぎない。

「――あ、そーいえば、葵は元気っすか?」
 だって、この男と自分の共通項といえば、ソレくらいしかない。
「最近、全然連絡してなかったンすけど、昨日、ひっさびさに珍しく葵から電話してきて。『さっき私に電話した?』って……ナンダカナーでしょ? んなの履歴見てわかんねーのかよって」
 黙ったまま反応を返さない侑司。微妙な温度変化に気づかない萩を責めてはいけない。感情の波を抑えることに長けた侑司の方が上手うわてだっただけだ。
 萩は暢気に続ける。
「あー、でもあいつ、携帯とか全然イジらねーからなぁ、履歴とか見ねーのかも。一体いつのだよ、っつー型のガラケーだし。あ、もしかして、便所とかに落としちゃったり……? んで、アドレスみんな消えちゃったとか……葵ならあり得るな……ねぇ、黒河サン?」
「――着いたぞ」
「え?」
 気づけば、まさに自宅マンション前。
 おお、電車より早かったかも、と、萩はそそくさシートベルトを外した。
「ありがとうございます。助かりましたよ」
「……ああ」
「――あ、黒河サン」
 呼び止めてしまったのは、やはり何かを感じ取ったから、なのだろうか。
 しかし、この時の萩には、具体的な何かが形となって見えることはなかった。
「……えっと……葵に、よろしく」

 助手席のドアを閉める前に告げた言葉は、侑司の片手を軽く上げさせただけだった。
 グレーメタリックのSUVを見送りながら、萩はううーんと伸びをする。いくら広い内装だったとはいえ、デカい身体はそれなりに圧迫されていたようだ。

 ――いっやー、マジでラッキーだったぜ。送ってもらえたし、黒河サンってケッコーいいヒトなのな。……しっかし、なーんか色々考えちゃったなー。親父や枡井センセーのことなんて久しぶりに思い出したぜ。おかげでちょっとヒラけた感じじゃね? ヤベー、オレってば大人の階段、上っちゃってんな~。

 ホクホク自画自賛の萩は、マンションエントランスへの平階段をひょいひょいと上る。
 その時ふと、言い方間違えたかな、と思った。
 間違えた? どこを? ……あ、そっか。

 ――葵のこと、よろしく。

 そう、言えばよかった、……か?
 一瞬立ち止まった萩は、すぐに、ナンダカナーと頭を振りながら、エントランスの中へ入った。




 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
※ 腰椎分離症……ジャンプや腰の回旋などを繰り返し行うことで腰椎後方部分に負荷がかかり、亀裂が入る症状。身体が柔らかい十歳代に多く、スポーツ選手にも多く見られるそうです。

※ 話中にあるリハビリ専門学校は作者のフィクションであり、それに関するすべての記述は、実際の事情とは異なります。
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