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5.スキルとローズの過去
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この世界にはある時期を境に、無数の異世界人が飛来してきた。
飛来と言っても本当に空を飛んで来るわけではない。
何の前触れもなく街中に出現したり、人格だけ赤子に乗り移ったりと様々だ。
老若男女、時期、場所、本人の意思。その全てに法則性はなく、防ぐ手立ても見つからない。
だが共通しているのは、彼らのすべてがおよそ人知の及ばない現象を引き起こす力を持っている事。
A地点からB地点へ一瞬で移動する、時間を巻き戻す、見たもの全てを看破する、人間を支配できる声を発する、核分裂を引き起こす、相手の心を読む、物の正確なコピーを生み出す、死者を蘇らせる……
スキルと呼ばれるそんなバカげた現象が、ある日突然、自分の隣で起こるのだ。
恐慌と混乱は避けられないだろう。
彼らに『能力持ち』という呼称が定着するのでさえ10年かかった。
そんな異世界人が漂流するようになってから、500年経った今でも、根本的な解決の糸口は見えていない。
※
ローズは物心ついた頃には王都の教会にいた。
彼女は実の父親と母親を知らない。
ただそう呼べる家族には恵まれた。
4歳の誕生日を迎える頃、ローズのいる教会に一組の夫婦が訪れた。
子に恵まれない、大工と農民のありふれた夫婦だ。
彼らがローズを選んだのは、彼女の髪色が自分たちの子どもでも不思議がない色だったのと、偶然というほかない。
その後のローズの人生はごく普通の農村の子どもとして、幸せそのものだった。
寝るときには母に子守歌を歌ってもらい、父の腕にしがみ付いて遊ぶ、泥だらけになれば叱られ、病気になれば付きっ切りで看病してもらえる。
そんな幸せな家庭だった。
あの日までは。
その夜、ローズが最初に見たのは真っ赤に燃える火だ。
自分の髪より赤く燃え盛る火。
母に連れられ外に出た頃には村は炎で埋め尽くされていた。
悪い夢だと思おうとするローズを、頬に当たる熱い火の粉が否定してくる。
父と背丈の似た炭を跨ぎ、村から出ようと母とともに走り出す。
目の前が真っ赤に染まったのはその時だ。
目に血液が入ったと気付くのに随分かかった。
隣の母が倒れている現実を受け入れるのはもっとかかった。
翌日、王都のゴミ溜めで震えるローズは、自分がなんで生き残ったのか覚えていない。
ただ捨てられた新聞から、ローズの村を襲撃した魔物を退治したとして、異世界人の冒険者が載っていたのを見つけた。
ローズはその顔が笑いながら村民を殺している光景を、炎の揺らめきの間から見ていたというだけだ。
飛来と言っても本当に空を飛んで来るわけではない。
何の前触れもなく街中に出現したり、人格だけ赤子に乗り移ったりと様々だ。
老若男女、時期、場所、本人の意思。その全てに法則性はなく、防ぐ手立ても見つからない。
だが共通しているのは、彼らのすべてがおよそ人知の及ばない現象を引き起こす力を持っている事。
A地点からB地点へ一瞬で移動する、時間を巻き戻す、見たもの全てを看破する、人間を支配できる声を発する、核分裂を引き起こす、相手の心を読む、物の正確なコピーを生み出す、死者を蘇らせる……
スキルと呼ばれるそんなバカげた現象が、ある日突然、自分の隣で起こるのだ。
恐慌と混乱は避けられないだろう。
彼らに『能力持ち』という呼称が定着するのでさえ10年かかった。
そんな異世界人が漂流するようになってから、500年経った今でも、根本的な解決の糸口は見えていない。
※
ローズは物心ついた頃には王都の教会にいた。
彼女は実の父親と母親を知らない。
ただそう呼べる家族には恵まれた。
4歳の誕生日を迎える頃、ローズのいる教会に一組の夫婦が訪れた。
子に恵まれない、大工と農民のありふれた夫婦だ。
彼らがローズを選んだのは、彼女の髪色が自分たちの子どもでも不思議がない色だったのと、偶然というほかない。
その後のローズの人生はごく普通の農村の子どもとして、幸せそのものだった。
寝るときには母に子守歌を歌ってもらい、父の腕にしがみ付いて遊ぶ、泥だらけになれば叱られ、病気になれば付きっ切りで看病してもらえる。
そんな幸せな家庭だった。
あの日までは。
その夜、ローズが最初に見たのは真っ赤に燃える火だ。
自分の髪より赤く燃え盛る火。
母に連れられ外に出た頃には村は炎で埋め尽くされていた。
悪い夢だと思おうとするローズを、頬に当たる熱い火の粉が否定してくる。
父と背丈の似た炭を跨ぎ、村から出ようと母とともに走り出す。
目の前が真っ赤に染まったのはその時だ。
目に血液が入ったと気付くのに随分かかった。
隣の母が倒れている現実を受け入れるのはもっとかかった。
翌日、王都のゴミ溜めで震えるローズは、自分がなんで生き残ったのか覚えていない。
ただ捨てられた新聞から、ローズの村を襲撃した魔物を退治したとして、異世界人の冒険者が載っていたのを見つけた。
ローズはその顔が笑いながら村民を殺している光景を、炎の揺らめきの間から見ていたというだけだ。
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