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僕は大人になったから
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スマホの着信音で目を開けた。休日の22時から8時はサイレントにしてるからもう8時過ぎってことか。ヘッドボードに手を伸ばして確認すると9時だった。メールが何通か来てる。
今の着信音はカニちゃんだった。『今年はお邪魔なタイミングだと悪いからこの時間にしたよ』という最後の文に思わずにやける。うん、日付が変わる瞬間はそういうことしてたんだ。お気遣いありがとう。
嬉し恥ずかしくって、後ろから抱きしめていてたぶん起きてる晃ちゃんに画面を見せる。
「見抜かれてるね」
「やべ。カニちゃんの誕生日普通に24時に送ってたわ。俺もこれから9時にしよ」
「いいんじゃない。タマさんは普通に24時だし、やっぱりその時間にもあると嬉しいし」
タマさんとヨコさんと石黒くんは24時、副社長と持田さんは8時に来ている。実は過去最多の誕生日メール。メッセージ画面じゃなくてトークの一覧画面を見ていたらなんか晃ちゃんの空気が暗くなった。慰めるように抱きしめて僕の頭にキスをする。
もしかして父親から来てないことを気にしてくれてるのかな。誕生日くらいは来てるって思ってたのかな。大丈夫だよ毎年来てないから全然期待してない。
それか成人する記念の年くらいは来るって思ってたのかな。
僕は大丈夫だよ。3日に撮影でみんながお祝いしてくれた時と同じことを言う。
「こんなにお祝いしてもらって幸せ」
それから温かい気持ちで寝返りをうって晃ちゃんに抱きつく。
「それに晃ちゃんとこうやって迎える誕生日をずっと夢見てた。今年は最高の誕生日だよ」
「『こうやって』って日付が変わる瞬間のこと?」
晃ちゃんが僕の頭を抱きしめる。いつもならこの体勢になったら頭へのキスがセットなのに今はしていない。いつも話すとしても1回チュッってしてからなのに、今日はそれも無しで続ける。
「それとも今のこと?」
囁く吐息が掛かって、言い終わってもまだキスしない。
いつもなら「焦らさないで」って言うだろうけど、疲れが抜けてない今は安心する。日付が変わる瞬間のとんでもなく追い詰められた感覚を思い出しながら感じるホワホワがたまらなく幸せ。
「ああいう夜からのこういう朝」
それだけ言ってキスも愛撫もないただのハグに包まれる。スマホを置いて改めて晃ちゃんの腕の中に納まっても、僕も鎖骨や喉仏へのキスをしないでいる。疲れ切った体にはこれくらいが丁度いい。
でもきっと晃ちゃんはまだいけるんだろうな。確かめて「イタズラするな」って流れは今はやっちゃいけない気がするから大人しくしとく。
抱きしめ方、肌の感触と温度、髪に当たる息や胸の上下。布団の中は温度じゃない温かさが濃くなって、痺れるとまではいかない電気を帯びてるような不思議な空気。
めちゃくちゃ貴重な体験がアラームで打ち切られた。
「え、10時のアラーム? 今9時だったよね?」
晃ちゃんも同じ感覚だったみたい。少しの間仰向けになってぼーっとしてから現実に着地した。
「起きるか」
今日は何年振りか、記憶では初めてに近い母親との食事。帰国するから最後にと向こうから言ってきた。彼女の恋人は祖父の会社で経理をしていた人で法律にも詳しい。何か僕に不利な約束をさせられないようにって持田さんが同席してくれる。
本当は関係を言わずに晃ちゃんと行くつもりだった。でも相手は上手に不倫して華麗に転職、去年の離婚騒動でも慰謝料や再婚のことでうまいこと立ち回ったらしい。今の僕に何かあったら会社に迷惑が掛かるからって晃ちゃんに言われて、近くで待ってるからとも言ってくれたから素直に持田さんに報告した。
支度をしていたら10時半に電話が来て、彼女の体調不良でドタキャンされた。
今の着信音はカニちゃんだった。『今年はお邪魔なタイミングだと悪いからこの時間にしたよ』という最後の文に思わずにやける。うん、日付が変わる瞬間はそういうことしてたんだ。お気遣いありがとう。
嬉し恥ずかしくって、後ろから抱きしめていてたぶん起きてる晃ちゃんに画面を見せる。
「見抜かれてるね」
「やべ。カニちゃんの誕生日普通に24時に送ってたわ。俺もこれから9時にしよ」
「いいんじゃない。タマさんは普通に24時だし、やっぱりその時間にもあると嬉しいし」
タマさんとヨコさんと石黒くんは24時、副社長と持田さんは8時に来ている。実は過去最多の誕生日メール。メッセージ画面じゃなくてトークの一覧画面を見ていたらなんか晃ちゃんの空気が暗くなった。慰めるように抱きしめて僕の頭にキスをする。
もしかして父親から来てないことを気にしてくれてるのかな。誕生日くらいは来てるって思ってたのかな。大丈夫だよ毎年来てないから全然期待してない。
それか成人する記念の年くらいは来るって思ってたのかな。
僕は大丈夫だよ。3日に撮影でみんながお祝いしてくれた時と同じことを言う。
「こんなにお祝いしてもらって幸せ」
それから温かい気持ちで寝返りをうって晃ちゃんに抱きつく。
「それに晃ちゃんとこうやって迎える誕生日をずっと夢見てた。今年は最高の誕生日だよ」
「『こうやって』って日付が変わる瞬間のこと?」
晃ちゃんが僕の頭を抱きしめる。いつもならこの体勢になったら頭へのキスがセットなのに今はしていない。いつも話すとしても1回チュッってしてからなのに、今日はそれも無しで続ける。
「それとも今のこと?」
囁く吐息が掛かって、言い終わってもまだキスしない。
いつもなら「焦らさないで」って言うだろうけど、疲れが抜けてない今は安心する。日付が変わる瞬間のとんでもなく追い詰められた感覚を思い出しながら感じるホワホワがたまらなく幸せ。
「ああいう夜からのこういう朝」
それだけ言ってキスも愛撫もないただのハグに包まれる。スマホを置いて改めて晃ちゃんの腕の中に納まっても、僕も鎖骨や喉仏へのキスをしないでいる。疲れ切った体にはこれくらいが丁度いい。
でもきっと晃ちゃんはまだいけるんだろうな。確かめて「イタズラするな」って流れは今はやっちゃいけない気がするから大人しくしとく。
抱きしめ方、肌の感触と温度、髪に当たる息や胸の上下。布団の中は温度じゃない温かさが濃くなって、痺れるとまではいかない電気を帯びてるような不思議な空気。
めちゃくちゃ貴重な体験がアラームで打ち切られた。
「え、10時のアラーム? 今9時だったよね?」
晃ちゃんも同じ感覚だったみたい。少しの間仰向けになってぼーっとしてから現実に着地した。
「起きるか」
今日は何年振りか、記憶では初めてに近い母親との食事。帰国するから最後にと向こうから言ってきた。彼女の恋人は祖父の会社で経理をしていた人で法律にも詳しい。何か僕に不利な約束をさせられないようにって持田さんが同席してくれる。
本当は関係を言わずに晃ちゃんと行くつもりだった。でも相手は上手に不倫して華麗に転職、去年の離婚騒動でも慰謝料や再婚のことでうまいこと立ち回ったらしい。今の僕に何かあったら会社に迷惑が掛かるからって晃ちゃんに言われて、近くで待ってるからとも言ってくれたから素直に持田さんに報告した。
支度をしていたら10時半に電話が来て、彼女の体調不良でドタキャンされた。
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