33 / 41
うちの子は傷ついていた
2
しおりを挟む
お好み焼きを食べて片付けをして二人で玄樹の部屋に戻ると、玄樹が急に抱きついてきた。甘えてるっていうだけじゃなくて不安だったっていうか、悲しそうっていうか。
俺が右腕をしっかり腰に回して左手で背中をぽんぽんすると更に頬を俺の頭に擦りつけてきた。
「なんかあったのか?」
「ううん」
今までならここで「そうか」って言ってたな。でもヨコの寂しそうな悔しそうな顔と声が胸を締め付けて違う言葉が押し出される。
「言わなきゃ分かんないだろ。
じゃあ俺から先に、言わないと分かってないだろうなってこと言っとこうかな」
玄樹の体が一瞬だけ数ミリ離れて、また縋るようにくっつく。
「……なに?」
「友達ができたのは嬉しいけど実はちょっと妬いてる」
玄樹が肩から上だけ離れて、意外そうな顔で俺を見る。
「玄樹は石黒くんみたいに引っ張っていくタイプの方が合ってるのかなって不安もあるよ」
言い終わらないうちに凄い勢いで抱き寄せられて、ドア側にいた俺と立ち位置が入れ替わる。靴も脱がないままなのに俺が痛くないようにそっと押し倒されて、胸におでこを押し付けられた。
「嫌だった」
『だった』?
右手で玄樹の後頭部を包んで左手で体を起こす。
「何かされたのか」
玄樹は自分でも俺にしがみついたままで首を振った。
「壁ドンされただけ。でも『近いよ無理』って思った」
「壁ドンってなんで……。あいつやっぱり」
あいつにその気があるって不安や玄樹に迫った怒り、玄樹が拒んだって安心が混ざって左手でも玄樹を抱きしめる。
玄樹がもう一度首を振った。
「いつも俺といたがる割に二人の時不自然だなって思ってそれとなく言ってみたんだ。そうしたらヨコさんと晃ちゃんを二人にしたいって。その時の俺の反応で晃ちゃんへの気持ちに気付かれて、『俺が忘れさせてやるよ』て壁ドンされた。本当はヨコさんのことが好きだけど慰め合おうって」
「なんだそれ」
意味が分からない俺に玄樹がちゃんと説明してくれる。
「石黒くんは色んな情報をバラバラに聞いてヨコさんが晃ちゃんを好きだと勘違いしてたんだよ。ヨコさんが好きなのは晃ちゃんの前の主任だよって教えてあげた」
知ってたんだ。
俺がさっき知ったことは普通に流して玄樹が続ける。
「石黒くんはうっかり誰にでも話しちゃいそうだから、俺たちが付き合ってるって言えなくて。それで黙ってたら、こうして二人でいても気にしてないんだから望みないよとか言ってきて、そんな気がしてきて……」
小さかった声が更に小さくなっていった。
押し付ける力の弱くなっていった頭を抱きしめ直す。
「気にしてないんじゃなくて直視できなかったんだよ」
玄樹はまだ力が戻らない。
「石黒くんが『二人になりたい』って言うと『俺はヨコの部屋にいる』ってあっさり言うの、正直いつもちょっとショックだった。
また興味を無くされたのかなって」
『また』って? 両親のことか?
そうだ。両親のことは吹っ切れていると口では言っていても、無意識の深い部分についた傷は簡単には癒えない。
石黒くんが玄樹を傷つけないかなんて心配してる場合じゃなかった。俺が何もしないことが玄樹を傷つけていたんだ。
玄樹の両脇に手を入れて俺の口元に耳がくる高さにする。
「今日は素直に話をしよう」
これだとただの話し合いだと思われるかな。
「『俺の玄樹』に、確認したいことがたくさんある」
玄樹がはにかむように俯いた。
「準備してくる」
よかった通じた。
俺が右腕をしっかり腰に回して左手で背中をぽんぽんすると更に頬を俺の頭に擦りつけてきた。
「なんかあったのか?」
「ううん」
今までならここで「そうか」って言ってたな。でもヨコの寂しそうな悔しそうな顔と声が胸を締め付けて違う言葉が押し出される。
「言わなきゃ分かんないだろ。
じゃあ俺から先に、言わないと分かってないだろうなってこと言っとこうかな」
玄樹の体が一瞬だけ数ミリ離れて、また縋るようにくっつく。
「……なに?」
「友達ができたのは嬉しいけど実はちょっと妬いてる」
玄樹が肩から上だけ離れて、意外そうな顔で俺を見る。
「玄樹は石黒くんみたいに引っ張っていくタイプの方が合ってるのかなって不安もあるよ」
言い終わらないうちに凄い勢いで抱き寄せられて、ドア側にいた俺と立ち位置が入れ替わる。靴も脱がないままなのに俺が痛くないようにそっと押し倒されて、胸におでこを押し付けられた。
「嫌だった」
『だった』?
右手で玄樹の後頭部を包んで左手で体を起こす。
「何かされたのか」
玄樹は自分でも俺にしがみついたままで首を振った。
「壁ドンされただけ。でも『近いよ無理』って思った」
「壁ドンってなんで……。あいつやっぱり」
あいつにその気があるって不安や玄樹に迫った怒り、玄樹が拒んだって安心が混ざって左手でも玄樹を抱きしめる。
玄樹がもう一度首を振った。
「いつも俺といたがる割に二人の時不自然だなって思ってそれとなく言ってみたんだ。そうしたらヨコさんと晃ちゃんを二人にしたいって。その時の俺の反応で晃ちゃんへの気持ちに気付かれて、『俺が忘れさせてやるよ』て壁ドンされた。本当はヨコさんのことが好きだけど慰め合おうって」
「なんだそれ」
意味が分からない俺に玄樹がちゃんと説明してくれる。
「石黒くんは色んな情報をバラバラに聞いてヨコさんが晃ちゃんを好きだと勘違いしてたんだよ。ヨコさんが好きなのは晃ちゃんの前の主任だよって教えてあげた」
知ってたんだ。
俺がさっき知ったことは普通に流して玄樹が続ける。
「石黒くんはうっかり誰にでも話しちゃいそうだから、俺たちが付き合ってるって言えなくて。それで黙ってたら、こうして二人でいても気にしてないんだから望みないよとか言ってきて、そんな気がしてきて……」
小さかった声が更に小さくなっていった。
押し付ける力の弱くなっていった頭を抱きしめ直す。
「気にしてないんじゃなくて直視できなかったんだよ」
玄樹はまだ力が戻らない。
「石黒くんが『二人になりたい』って言うと『俺はヨコの部屋にいる』ってあっさり言うの、正直いつもちょっとショックだった。
また興味を無くされたのかなって」
『また』って? 両親のことか?
そうだ。両親のことは吹っ切れていると口では言っていても、無意識の深い部分についた傷は簡単には癒えない。
石黒くんが玄樹を傷つけないかなんて心配してる場合じゃなかった。俺が何もしないことが玄樹を傷つけていたんだ。
玄樹の両脇に手を入れて俺の口元に耳がくる高さにする。
「今日は素直に話をしよう」
これだとただの話し合いだと思われるかな。
「『俺の玄樹』に、確認したいことがたくさんある」
玄樹がはにかむように俯いた。
「準備してくる」
よかった通じた。
0
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた
黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」
幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。
会えないままな軍神夫からの約束された溺愛
待鳥園子
恋愛
ーーお前ごとこの国を、死に物狂いで守って来たーー
数年前に母が亡くなり、後妻と連れ子に虐げられていた伯爵令嬢ブランシュ。有名な将軍アーロン・キーブルグからの縁談を受け実家に売られるように結婚することになったが、会えないままに彼は出征してしまった!
それからすぐに訃報が届きいきなり未亡人になったブランシュは、懸命に家を守ろうとするものの、夫の弟から再婚を迫られ妊娠中の夫の愛人を名乗る女に押しかけられ、喪明けすぐに家を出るため再婚しようと決意。
夫の喪が明け「今度こそ素敵な男性と再婚して幸せになるわ!」と、出会いを求め夜会に出れば、なんと一年前に亡くなったはずの夫が帰って来て?!
努力家なのに何をしても報われない薄幸未亡人が、死ぬ気で国ごと妻を守り切る頼れる軍神夫に溺愛されて幸せになる話。
※完結まで毎日投稿です。
だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。
彼を傷つける者は許さない!私が皆叩き潰して差し上げましょう
Karamimi
恋愛
公爵令嬢アリシアは、16歳の誕生日を心待ちにしていた。なぜなら16歳になると、魔物討伐部隊に参加できるからだ。
彼女は5年前から魔物討伐部隊に参加している愛する婚約者、第一王子のルーカスの役に立ちたいという一心で、5年間血の滲む様な魔力の訓練を続けてきたのだ。
ただルーカスとは今まで一度も会った事もなく、両親からも正体を隠して討伐部隊に参加する様言われた。
それでもルーカスに会えるとあって、誕生日の翌日には意気揚々と旅立って行ったのだった。
一方ルーカスは、甲斐甲斐しく自分や隊員たちの世話を焼いてくれるアリシアに、次第に惹かれていく。でも自分には婚約者がいるからと、必死に自分の気持ちを抑えようとするのだった。
心惹かれている彼女が、実は自分の婚約者とも知らずに…
そんな2人が絆を深め、幸せを掴むまでのお話しです。
ファンタジー要素強めの作品です。
よろしくお願いいたしますm(__)m
前世で医学生だった私が転生したら殺される直前でした。絶対に生きてみんなで幸せになります 2
mica
ファンタジー
続編となりますので、前作をお手数ですがお読みください。
アーサーと再会し、王都バースで侯爵令嬢として生活を始めたシャーロット。幸せな婚約生活が始まるはずだったが、ドルミカ王国との外交問題は解決しておらず、悪化の一途をたどる。
ちょうど、科学が進み、戦い方も変わっていく時代、自分がそれに関わるには抵抗があるシャーロット、しかし時代は動いていく。
そして、ドルミカとの諍いには、実はシャーロットとギルバートの両親の時代から続く怨恨も影響していた。
そして、シャーロットとギルバートの母親アデリーナには実は秘密があった。
ローヌ王国だけでなく、ドルミカ王国、そしてスコール王国、周囲の国も巻き込み、逆に巻き込まれながら、シャーロットは自分の信じる道を進んでいくが…..
主人公の恋愛要素がちょっと少ないかもしれません。色んな人の恋愛模様が描かれます。
また、ギルバートの青春も描けたらと思っています。
忘れられた妻
毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。
セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。
「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」
セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。
「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」
セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。
そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。
三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる