吸血鬼 詰め合わせ

ritkun

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無邪気×もじもじ(微エロ)

年越し(無邪気サイド)

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 俺の特技は正確な移動。
 体を黒い煙へと変えて故郷と人間の世界を行き来するっていうのは同族みんなができることなんだけど、俺はその場所をめちゃくちゃ正確に調整できる。この能力を使って人間の世界で逃走犯を捕まえてる俺は、吸血鬼なのに退魔師で警察のために働くっていうよく分からない立場だ。

 監視役ということになっている人間の退魔師は真面目でのんびりしている。ちょっとズレてるのがちょっと残念な奴だ。
「お疲れ様でした。今日もお手柄でしたね」
「お疲れっしたー」
「あ、そうだこれ」
 故郷に帰ろうと煙になったら結界を張られた。見えないフェンスにぶつかった衝撃で実体に戻って、30センチくらいの高さから尻もちをついた。

「なにすんだよ!」
 引き止めるにしてもやり方ってもんがあるだろ。討伐されるかと思った。

 っていう俺の気持ちが伝わったかのような退魔師の返事。
「完全に帰ってから召喚されるほうが嫌でしょう?」
「それは、まあな」
 俺は自分の意思で取引として協力してるんだ。眷属扱いされてたまるか。

 退魔師が手よりも少し大きい日本酒の瓶を差し出した。
「福引きで当たったんですけど俺は呑めないので」
「やった。ありがと」
「いえいえ。良いお年をお迎えください」
 俺は血と水と酒しか口に入れられない。ありがたく受けとって故郷へと帰った。

 部屋に帰ると難しそうな本を読んでいた真面目そうな奴がソファから立ち上がった。実際に超真面目で、色々考えてるせいですぐには反応できずにモジモジしてるって感じ。

 俺の運命の相手で、こいつだけは俺が血を飲んでも灰にならない。一生一緒にいるんだからもっと楽にすればいいのに、あの退魔師もそうだけど疲れないのかな?

「お帰りなさい」
 敬語は俺がイヤだって言ったらやめてくれたけど、なんか他人行儀なんだよな。
「ただいま。これ貰ったぞ。ちゃちゃっとシャワー浴びてくるから準備しといて」

 受け取ったモジモジくんが酒瓶を見て俺を引き止めた。
「え、これお正月用。ちゃんと年明けに呑もうよ」
「なんか違うの?」

 俺が酒瓶を覗き込むと上擦った声で答える。
「えっと、まあ、そんなに……。ラベルくらいかな?」
 俺は別に相棒が「年明けがいい」って言うなら呑むのがたった1日ずれるくらい全然いい。ちゃんとした理由がなきゃ認めないとかじゃなく、ただ本当に酒の違いが気になっただけ。

 人間の世界では吸血鬼って怖いイメージだからな。俺のことも最初「ご主人様」って呼んだし。
 俺は緊張気味のモジモジくんの背中に右手を当てて左手で瓶の向きを変えてラベルをちゃんと見た。
「ああ、たしかにいつもより派手だな。じゃあさ、グラスもちゃんとしたので呑もうぜ。たしかどっかで見たんだよ。赤い盃。あとで探しに行こう」
「う、うん」

 まだ体が固い。あ、もしかして緊張じゃなくて今の俺って汗臭い?今日はけっこうハードなアクションかましたからな。とりあえずシャワー浴びて来るか。

 シャワーから出るといつもの水が用意されていた。ソファに座って飲みながら考える。
「とりあえず俺は倉庫見てくるから、お前は食堂な」
「俺が倉庫を見て来るよ。せっかくシャワー浴びたばっかりなんだから」

「そう?ありがと」
 なんでそこで驚くんだよ。この状況で礼も言わないと思われてるのは吸血鬼という種族なのか、俺個人なのか。

 この城には俺の他に10人くらい住んでいる。毎日寝起きしてる奴と寝床の一つにしてる奴といるから、正確な数は微妙。
 食堂に居合わせた仲間に訊いてみる。
「なあー、俺って怖い?」

 こいつの契約者は美少女で、今はこいつが洗った食器を美少女が受け取り拭いていくという作業中。美少女は無言の無表情。契約後すぐに元通りになったモジモジくんは珍しいケース。契約した時の体や心の状態で戻るまでの時間はそれぞれ。

 言った後で気付いた。50年以上も運命の相手と会話できてないこいつに訊くのは酷だったよな。贅沢言っちゃいけないよな。

 今更取り消すのも返って気まずくてどうしようって思ってたら普通に答えてくれた。
「いや全然」
 それから斜め上を見ながら考える。

「暮らしや種族の違いに戸惑ってるんじゃないの?頭固そうだし。少し元の暮らしも取り入れてあげたら?」
「元の暮らしかあ……」

 俺の頭の中を覗いたように笑いやがった。
「思いつかないだろ。勉強さぼって木に登ったり川に潜ったりしてたからだ」
「うるせーよ」
 別の奴だったらそうですごめんなさい教えてって言えるのに、こいつとはこういう会話の方が楽しいんだよな。

 訊けない空気になったから人間の世界に戻って退魔師に訊いてみることにした。部屋にいきなり現れるのは悪いから、玄関前に降りてチャイムを鳴らす。
 ドアが開いたら香ばしい匂いが溢れてきた。

「匂い大丈夫ですか?今おせちが届いたんですよ」
「それだ!」
「え?」

 運命の相手が食べる物は俺たちが飲む血の味や力にそのまま影響するから、生の野菜か果物以外は食べないで貰ってる。捕まえた奴らから察するに、普通の人間は俺たちにとっては重めな食べ物が好きだ。

 俺は拝むように両手を合わせて退魔師を見上げる。
「なあ、ちょっと分けてくんねえ?あいつに食べさせてやりたいんだ」
「え、俺は全然いいですけど、君の体は大丈夫ですか?」
「明日多めに血を飲んで明後日は俺が絶食する。
 あいつ契約したばっかりだからさ、いきなり全部俺に合わせさせるのも悪いだろ」

 それに退魔師も割と俺たちの食生活に近い。こいつが選んだ物なら俺への負担も少しは軽くなるだろう。

 退魔師が俺の頭を上から片手で包んだ。
「君は優しい子ですね。いいですよ。あの子がいての君の活躍ですからね。俺からのお年玉です」
「やった!ありがと!」

 和風の皿に血への影響が大きそうな物は避けてセンス良く盛り付けてラップをしてくれた。

 部屋に戻ってベッドの死角に隠す。床が石だからここなら傷まないだろう。
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