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第268話 提案

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「んー、満腹、ご馳走さまでした」
「はい、お粗末さまでした」

 宣言通り、フォルタニアに飯を奢って貰い、俺は大満足の食事を終える。
 つーか、こういう感じで良いんだよ。エルフの国! 大樹たいじゅで作られた店に、優雅な緑色の木々の風景、そして〝世界樹〟! ……だったんだが、さっき〝世界樹〟は穴開けてきちゃったからな。これは自業自得か。

 いや、でも、正確には〝世界樹〟に大穴開けたのウルスラだぞ? 突き刺さってたし。
 俺は吹っ飛ばしただけだ。うん。ダメかな?

 クソ、正直〝世界樹〟観光めっちゃしたかったな。高さ500m級の超巨大樹なんて今後拝めるわけがない。

「ユキマサ様?」

「ああ悪い、飯ご馳走さま、本当に美味かった」
「喜んでいただけたようで、私も本当に嬉しいです」

 また来ましょうね。と、微笑むフォルタニアは本当に美人だ──エルフ美人。そんな言葉がよく似合う。

「さて、帰るか──〝エルクステン〟に?」
「はい!」

 元気な声が返ってくる。

「あ、でも、乗り合いの竜車が出てるでしょうか?」
「あー、すまん、そこら辺はマジでよく分からん」

 頭を掻きながら困る俺をフォルタニアが、くすくすと笑いながら返事をして来る。

「ユキマサ様でも困る時があるのですね。何だか新鮮です」
「そりゃあるだろ? 俺だって人類だぜ? それと〝エルクステン〟までの移動手段は何があるんだ?」

「基本的には地竜車ですね。近くの街や村を回ってく物と直通があります。最速手段だと空竜もありますが、少数や夜は使われませんね」

 気づくと日が傾いてきている。
 あと数時間もすれば立派な夜だろう。

「ユキマサ様、提案ですが、こちらで一泊して明日の早朝に出ると言うのはどうでしょう? まあ、この状況ですから、明日も地竜車が出てるとは限りませんが……」
「明日も竜車が無かったら、そしたら俺がフォルタニアを担いで走ってってやるよ? 行きは少し迷ったから時間がかかっちまったが、帰りは覚えてるから大丈夫だ。数時間で着く」

「走ってきたのですか!?」
「その方が早かったからな」

「……ユキマサ様は足の速さもエルルカ様並みですか?」
「いや、エルルカのが速いんじゃないか? 魔法も合わせていいならどうなるか分からないけど。まあ、じゃあ、取り敢えずは宿探しだな。空いてるかな?」

 店を出て、それなりに広い集落の中を歩き、宿屋を探すと、あったよ宿屋。さっきの店のよりも大分大きい大木を使った宿屋だ。

「あそこでいいか?」
「はい、私はどこでも大丈夫です」

 店はガラガラだった。貸しきりと言っても良い。

「すまない。一泊で2部屋用意できるか?」
「あ、ユキマサ様、迷惑じゃなければ、部屋は1つでお願いしたいです」

「? 一緒ってことか?」

 違います。ユキマサ様は床です。とかは言わない奴だということぐらいには、俺は信用してる。

「はい。迷惑でしょうか?」
「俺は別に構わないぞ──度々、すまないな。部屋は一つで一泊、二人で頼む」

「かしこまりました。前払いになります。小金貨1枚になります」
「悪いな、助かる。小金貨1枚だ」

 店員に小金貨を渡すと、部屋の鍵を渡される。

「よし、行くぞ? フォルタニア?」
「はい!」

 何故だかフォルタニアはすこぶるご機嫌だ。
 そんなに一部屋がよかったのか──? あー、昨日の件もあるしな? 一人じゃ怖かったんだろうな。

 でも、いくらあの豚エルフのボルスの野郎でも、流石にここまでは追って来ないと思うが。それでも怖いものは怖いよな。こればっかは理屈じゃない。

 まあ、ボディーガードぐらいはやってやるさ。
 美味い食事も奢って貰ったし、お安いご用だ。
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