上 下
266 / 284

第265話 伝言と報告

しおりを挟む


 *

 ──大都市エルクステン
        聖教会・大聖堂(先日)──

 ロキが〝聖教会〟の大聖堂を訪れ、ノアにギルドマスターを引き継いで、やってもらいたいというロキの頼みをノアが承諾した時までさかのぼる。

『一つだけ聞かせてもらってもいいかな?』
『なんなりと』

 ノアとロキ、二人の会話だ。ロキはこうべを垂れ、自身の左胸に手を当て紳士的な姿勢でいる。

『ユキマサ君にフォルタニアさんの救出を頼んだ時に、ロキさん、貴方はどうやって頼んだの?』
『頼み方ですか……? 私は私の持てる精一杯の姿勢で、理由を洗いざらい話し頼んだつもりです』

 何かイケなかったか……と、少し慌てた様子でロキは答える──対するノアは冷静に告げる。

『うん、それがイケなかったかな? ユキマサ君の言う通り、随分と追い詰められてたみたいだね。普段の貴方なら、こんな簡単なこと直ぐに
『……? えーと、それは一体? ユキマサさんが何かおっしゃっていたのですか!?』

『うん。エメレアさんからの伝言だけどね? それと気づけた筈ってのは簡単な話し、フォルタニアさんが要る時点で嘘の類いは吐けないよね? それで、シアナ女王の前で「ギルドマスターからの差し金か?」みたいな質問をされた時点でアウト、しかも貴方はシアナ女王との契約で動くことができない、もし動いたらフォルタニアさんの扱いはもっと悪くなる──それは同じことだよね?』
『──ッ!? そ、それは盲点です』

 いつものロキなら余裕で気づいていたことだろう。
 そんなことすら気づかないほど、フォルタニアが居なくなってからのロキは気が動転していた。

『だからユキマサ君はどちらにしろ、ロキさん、貴方の頼みは断らざるを得なかった』
『では、ユキマサ様は……』

『うん〝シルフディート〟に向かってるよ。それに貴方が私にギルドマスターを任せようとする事までユキマサ君は読んでたみたいだよ? ふふ♪ ロキさん、これは一本取られたんじゃないかな?』
『ぐうの音も出ませんね。分かりました。私はユキマサさんを信じます。申し訳ありませんが、先程の話は保留でお願いします』

『了解、何か進展があれば伝えるね♪』
『ありがとうございます。それでは失礼します』

『あ、それともう一つだけ質問いいかな? ユキマサ君、どうするつもり? 行動次第では誘拐犯とか、国家反逆罪とかになるんじゃない?』
『勿論、全ての責任は私が負いますよ。当たり前の話しです。彼は私と違って人類を救うのに必要不可欠な方ですから、万が一にも彼が罪人になるような真似はさせません』

『そう、なら私から言うことは何もないかな? ロキさん、陰ながら貴方達の幸せを祈っているよ♪』

 その言葉を最後にノアは何も言わない。
 ロキは頭を下げ大聖堂を後にする。

 *

 ──大都市エルクステン
        聖教会・大聖堂(現在)──

「大聖女様! 〝シルフディート〟より、報告──〝原始の黒・ウルスラ〟撃破! 再封印を確認! また〝しかばね〟シリュウ・ブラックの撃退に成功とのことです! 尚、シリュウ・ブラックは〝星艦せいかん〟殿達が後を追ってましたが、こちらは逃げられたようです」

 〝精神疎通テレパス〟で報告を受け取った、ノアの付き人である、黄緑色の長い髪のエルフの女性──ヴィクトリア・フィーは受け取ったままの情報を伝える。

「ふふ、それはよかった♪ 流石だね、ユキマサ君とエルルカさんは元気かな?」
「エルルカ殿は〝魔力枯渇マジックダウン〟を起こし、一時意識不明とのことでしたが、今は無事回復してる様子です」

「ふむふむ。──あれ? ユキマサ君は?」
「その……フォルタニア殿を連れて、何処かへ逃走したそうです。ですが〝シルフディート〟からはフォルタニア殿の追跡はとのことです」

「意味深だね、誰かが裏で糸を引いてそうかな」

 そう言うとノアは髪の色を魔法で白から紫に変え〝アイテムストレージ〟から、お出掛け用の白フードを被り、出入り口へと向かう。

「大聖女様どちらへ!?」
「取り敢えず、今の話をロキさんに伝えにかな? この話を彼が誰よりも一番に聞きたがってる筈だから」

「分かりました。お気をつけて──」

 礼儀正しく、頭を斜めに下げたヴィクトリアは、引き続き〝シルフディート〟からの〝精神疎通テレパス〟での報告を注意しながら、ノアの背を見送るのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~

雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。 元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。 ※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。

追放幼女の領地開拓記~シナリオ開始前に追放された悪役令嬢が民のためにやりたい放題した結果がこちらです~

一色孝太郎
ファンタジー
【小説家になろう日間1位!】 悪役令嬢オリヴィア。それはスマホ向け乙女ゲーム「魔法学園のイケメン王子様」のラスボスにして冥界の神をその身に降臨させ、アンデッドを操って世界を滅ぼそうとした屍(かばね)の女王。そんなオリヴィアに転生したのは生まれついての重い病気でずっと入院生活を送り、必死に生きたものの天国へと旅立った高校生の少女だった。念願の「健康で丈夫な体」に生まれ変わった彼女だったが、黒目黒髪という自分自身ではどうしようもないことで父親に疎まれ、八歳のときに魔の森の中にある見放された開拓村へと追放されてしまう。だが彼女はへこたれず、領民たちのために闇の神聖魔法を駆使してスケルトンを作り、領地を発展させていく。そんな彼女のスケルトンは産業革命とも称されるようになり、その評判は内外に轟いていく。だが、一方で彼女を追放した実家は徐々にその評判を落とし……? 小説家になろう様にて日間ハイファンタジーランキング1位! 更新予定:毎日二回(12:00、18:00) ※本作品は他サイトでも連載中です。

異世界転生令嬢、出奔する

猫野美羽
ファンタジー
※書籍化しました(2巻発売中です) アリア・エランダル辺境伯令嬢(十才)は家族に疎まれ、使用人以下の暮らしに追いやられていた。 高熱を出して粗末な部屋で寝込んでいた時、唐突に思い出す。 自分が異世界に転生した、元日本人OLであったことを。 魂の管理人から授かったスキルを使い、思い入れも全くない、むしろ憎しみしか覚えない実家を出奔することを固く心に誓った。 この最強の『無限収納EX』スキルを使って、元々は私のものだった財産を根こそぎ奪ってやる! 外見だけは可憐な少女は逞しく異世界をサバイバルする。

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

聖ロマニス帝国物語

桜枝 頌
恋愛
 北大陸にある聖ロマニス帝国と、南大陸にあるヴェルタ王国は、歴史上何度も戦争をしていた。  激戦地となるのは決まって二つの大陸を繋ぐような地形で存在するフロリジア公国。この公国は北の聖ロマニス帝国に帰属している。  現代、フロリジア公国は爵位と国の継承問題で揺れている。前公妃の娘で第一公女ジュエリアは継承順位第一位ではなく第二位。継承順位第一位は後妻であるセルマ公妃の娘で、ジュエリアの妹のミア公女になっていた。  ミアの婚約者はヴェルタ王国の王族、ジュエリア公女の婚約者は帝国近衛士官のシベリウス。公室の現状に、国民の誰もが近い将来戦争が再び起こることを覚悟した。  そしてなぜか完全な政略結婚で決められたはずのシベリウスが、初対面からジュエリアを溺愛し執着している……。 ※タイトル一部削除変更しました🙇🏻‍♀️

もしも○○だったら~らぶえっちシリーズ

中村 心響
恋愛
もしもシリーズと題しまして、オリジナル作品の二次創作。ファンサービスで書いた"もしも、あのキャラとこのキャラがこうだったら~"など、本編では有り得ない夢の妄想短編ストーリーの総集編となっております。 ※ 作品 「男装バレてイケメンに~」 「灼熱の砂丘」 「イケメンはずんどうぽっちゃり…」 こちらの作品を先にお読みください。 各、作品のファン様へ。 こちらの作品は、ノリと悪ふざけで作者が書き散らした、らぶえっちだらけの物語りとなっております。 故に、本作品のイメージが崩れた!とか。 あのキャラにこんなことさせないで!とか。 その他諸々の苦情は一切受け付けておりません。(。ᵕᴗᵕ。)

処理中です...