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第252話 国家壊滅
しおりを挟む──エルフの国〝シルフディート〟
南西付近──
そこには傷ついて〝夜叉鴉〟に掴まりながら〝シルフディート〟から脱出を試みるシリュウの姿があった。
エルルカからの魔法による攻撃の被害は甚大であった。足止めに入った残りの〝魔王信仰〟の部下全員がやられ、シリュウ自身も右腕を消失している。
それでも尚、命があったのは僥倖というものだろう。
「見くびりましたね……だが、この国は終わりです。死死死死、後は頼みましたよ──ウルスラ」
だが、世界樹の方角を見て、シリュウは目を丸くする。
「はっ!? ──な、何故、ウルスラが〝世界樹〟に刺さっているのですか!?」
いや、ホントに何で? みたいな、普段のシリュウからは考えられないような、シリュウらしくない顔をしている。黒龍が巨大樹に頭から突き刺さってるというシュールな現実がシリュウの頭を更に混乱させる。
「あ、あの男は!? あの男は一体どこに!?」
あの〝原始の黒〟を相手に、せいぜい時間を稼げても数分、長くて5分が限界だと思っていた。
だが、未だに足止めされてる……どころか、世界樹に刺さっているウルスラを見て、斬れた腕の痛みも忘れて、シリュウは〝夜叉鴉〟に揺られながら、唖然としていた──。
*
──エルフの国〝シルフディート〟
大広間・結婚式場跡地──
「……とんでもないことになったわね」
アルタイル達がシリュウを追った後、しばしの沈黙の中、女王がタメ息と共に口を開く。
女王がタメ息を吐くのも無理はない。王宮は壁は勿論のこと、床もズタボロ。王宮自慢の高い天井は見事に崩落しており、その隙間からは、黒雲渦巻く墨汁をひっくり返したような真っ黒な空が覗いている。
「命があっただけマシだと思いなさい。それにシアナ? 呑気に落ち着いてる暇は無いわよ?」
セミロングの金髪の髪を軽く揺らし、火澄が真剣な口調で女王に話しかける。この間も火澄は辺りを警戒し、常に魔法の使える状態でいる。
「目下の最大脅威は去っていないのよ? そもそも何で〝屍〟の侵入も〝魔術柱〟の破壊も〝封印石〟の破壊までも許したのよ? 〝シルフディート〟の最高戦力であるエルサリオンが病で亡くなってから、国家戦力が激減してるとはいえ、貴方らしくないわね」
沈黙。
女王は返す言葉が見つからなかった。
代わりと言っては何だが、女王は火澄の言葉を華麗にスルーし、まさかの逆に質問を試みる。
「……そもそも火澄。貴方、何でここにいられるの? 〝神霊祭〟の時以外は、世界樹からは離れられない身体の筈でしょ? ──〝樹霊守護者〟?」
再び沈黙。だが今回は火澄の沈黙だ。
数秒の間の後、火澄が口を開く。
「えーと、私も信じがたいんだけど……何か──〝世界樹〟壊されたみたいで……具体的には、魔力を持つ唯一の樹木である〝世界樹〟の、その中心部にある魔力中枢核がボキリと粉々かな? 簡単に言うと〝世界樹〟が機能していなくて、私自由みたい……」
あはは……と、最早、笑うしかないとばかりに火澄は苦笑いである。そして心底困った様子でもいる。
「う……嘘でしょ……」
額に手を当て項垂れる女王。今まさに──
・〝八柱の大結界〟の〝魔術柱〟の破壊。
・1000年近く守られてきた〝封印石〟の破壊。
・歴史ある国の中心である王宮の半壊。
・国のシンボルでもある〝世界樹〟の崩壊。
という、国家壊滅に近い報告を受けたのだ。
いくらポーカーフェイスの上手い女王とはいえ、今回ばかりは青ざめた顔を隠すこともできない。オマケに〝原始の黒〟の脅威は未だに続いているのだ。
しかもこの戦争の命運は何処の馬の骨とも分からない、花嫁泥棒の〝黒い変態〟に託されている。
女王の目の前が真っ暗になったのは言う迄もない。
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