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第220話 魔の手

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 ──エルフの国〝シルフディート〟
       王宮・フォルタニアの部屋──

「はぁ……疲れました……」

 ドサッと、フォルタニアはベッドに寝転がる。
 どちらかと言うと、肉体的疲れと言うよりは精神的疲れの方が大きいみたいだ。

(今日ほど、明日と言う日が来るのが億劫な日は今までにありませんね……)

「……ひっぐ……いけません……泣いてはいけませんのに……わたくしはこんなにも弱かったのですね……」

 その後、フォルタニアは一頻り涙を流した。どうか今だけは泣かせてほしい、明日は泣かないからと──

 *

「──ひぐ……ひっく……ひぐっ……」

 フォルタニアは泣いた。無力を嘆いて、昔、自分を拾い、育ててくれた父親のような存在のロキを思って。

 と、その時だ。
 が部屋に入ってきたのは。

「ホッホッホッ、フォルタニア殿、夜分に失礼します」
「……ボルス様。何かご用でしょうか?」

 ノックも無しに部屋に入ってきたのは、フォルタニアの婚約者であるボルスだ。

「いえいえ、用と言う程のことではありませんよ……」

 下劣な笑みを浮かべ、じゅるりと唾をすすりながら、ボルスはフォルタニアを押し倒す。

「きゃっ! な、何を!?」
「へへ、可愛い声出すじゃねぇか? なぁ、お姫様」

「わ、私を辱しめるつもりですか」
「あ? 夫婦になるんだ、これぐらい当たり前だろ? これからは毎日可愛がってやるぜ?」

「い、いやっ!」

 ドン! っと、フォルタニアはボルスを突き飛ばす。

「こ、この、小娘が!」

 乱暴にフォルタニアの髪を掴み、ボルスがフォルタニアを押さえ付ける。

 そうして、ボルスがフォルタニアの服を脱がしにかかろうとした、その時だ──

 ガチャ!

「失礼します! フォルタニア様!」
「あぁ? 今、取り込み中だ! 出ていけ、糞兵士!」

 入ってきた兵士に向かい、ボルスが怒鳴る。

 が、ボルスが次に見た光景は、視界が歪み、ボヤけながら映る、フォルタニアの部屋の天井だった。
 そこで意識が途切れる。

「!?」
「フォルタニア様、お怪我はありませんか?」

「え、えぇ、た、助かりました……でも、どうしてここに!?」
「失礼ながら、ゴ……ん、んっ。ボルス様の後を付けさせて貰っていました。この部屋に入っていくのも見ていましたが、何やらフォルタニア様の悲鳴が聞こえたので、こうして今に至る次第でございます」

「そうですか、ありがとうございます」

 そう言うフォルタニアの身体はまだ震えていた。

「……つかぬことをお聞きしますが、貴方様は私と何処かで会ったことはありますか?」
「さて、どうでしょうか?」

「お名前を伺ってもいいですか?」
「名乗る程の物ではございません。ですが、まあ、強いて言うならば、今はと名乗っています──」
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