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第188話 過去編・花蓮ノ子守唄19

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 ──バスに乗り、稗月ひえづき家の墓地へ俺と理沙は向かう。

 途中、花束と線香、ライターを買った。
 親父への酒は牧野が持ってきてくれていた。

「──あれからもう8年以上経つのか……」

 窓の外を見ながらボソリと俺が呟く。
 あの日──親父と母さんが山の事故で亡くなってからの年月だ。

「ユキマサ……」

 そっと、理沙が俺の手に手を合わせてくる。

「悪い、ありがとな」

 自分の中で何となく整理をつけたと思ったが、今でもまだ、変な喉のつかえのような物が残っている。

「あ、降ります!」

 ポンと理沙がバスのボタンを押す。

 バスを下りると、徒歩で墓地へ向かう。

「ねぇ、ユキマサ、お化けっていると思う?」
「どうした? 唐突に?」

「ううん、何でもない」
「……いるかどうかは知らないが、見たことは無いな」

「幽霊でも何でもいいから、私はもう一度おとーさんとおかーさんに会いたい……」
「理沙……」

 涙ぐむ理沙に俺はそれ以上の言葉を返せず、繋いだ手を少しばかり強く握る。

 そのまま無言で墓へ歩く。

「着いたな」
「うん」

「まずは掃除だな、つーか、一ヶ月でここまでよく汚れるよな」

 雨風に当たり、砂埃を被った、親父達の墓は掃除しなきゃなと思うぐらいには汚れていた。

「うん、バケツも借りてきたし、雑巾も持ってきたよ」
「よし、取りかかろう」

 と、俺と理沙はバケツに水を汲み、
 軽く流した後、しっかりと雑巾で墓を磨く。

 墓の掃除が終わると花を飾り、お供え物を供え、線香に火をつけて墓に手向たむける。

 理沙は少しばかり長く手を合わせていた。

 *

「意外と時間かかっちまったな」

 時計を見ると13時半を回っている。
 お昼にしては少し遅めの時間だろう。

「ユキマサ、お腹空いた?」
「ああ、減ってきたな」

「私も、じゃあ、お昼にしよっか」
「勿論賛成だ、腹へった」

 墓の階段に腰を掛け、理沙の作った弁当を広げる。

 メニューはおにぎりとサンドウィッチに卵焼きだ。
 それに水筒に味噌汁も持ってきてくれている。

「「いただきます!」」

 俺はおにぎりを口に運ぶ。

(これは鮭か、美味いな!)

「はい、お味噌汁」
「お、悪いな」

「ホントよく飽きないよね。朝もごはんと味噌汁食べたのに、またお昼におにぎりと味噌汁何て」
「3食いけるぞ? つーか、理沙、また腕を上げたな?」

「えへへ、本当? おにぎりはあまり握らないのがコツなんだよ」

 嬉しそうに笑う理沙はサンドウィッチを食べている。ちなみにその前の話からするに理沙は連続で米は嫌だったらしい……

「なるほど、にしても沢山作ったな?」

 20はあるぞ? これ……
 それに対するサンドウィッチは3つ……

「残しちゃダメだからねー」
「いや、残さないけどよ?」

 まあ、これぐらいは俺ならペロリだ。
 それに味も美味しいしな!

 昼飯を食べ終えると帰路に着く。

「おとーさん、おかーさん、また来るね」

 そんな言葉を理沙は残していた。

 *

 ──その夜

 俺は既に熟睡していた。

 パタン。

 部屋のドアが開く音がする。

「えい!」
「ごふっ」

 俺の鳩尾みぞおちと腹に理沙の拳があたる。
 寝ている俺に肩でも叩くかのようにハンマーパンチで起こされた。

「こんな時間に何の用だよ……つーか、普通に起こせ」
「寝れないから眠くなるまで一緒に起きてて」

「何だそりゃ? まあ、別にいいけどよ」
「ほんと? なら、少し話そうよ」

 と、言うわけで理沙と一緒にベットに腰かけ、他愛の無い話しをするが、
 一時間ぐらい話した所で理沙は寝てしまった。

「つーか、俺のベットで寝るんかい……」

 まあ、寝てしまった物は仕方がない。
 俺は床で寝るか。せっかく寝付けたのに起こすのも悪いし、まさか一緒のベットに潜り込む訳にはいかないしな。

 そう思った俺は小さく「おやすみ」とだけ理沙に言い、少々固いが床で寝るのだった──
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