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第183話 過去編・花蓮ノ子守唄14

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「あなた、朝ですよ!」
「……ん……後5分……つーか、真っ暗じゃねぇか」

「そりゃ日の出を見るんですから、外は暗いに決まってるじゃないですか」

 えいっと、吹雪は木枯こがらしの布団を取る。

「そりゃそうだな、よし、目が覚めてきたぜ!」

 木枯が上体を起こす。

「軽食を買ってきてありますので朝食はそれで済ませましょう」
「ああ、助かる」

 起き上がると吹雪と木枯は防寒等の準備をし外に出る。

「本当に真っ暗だな」

「──おや、あなた方も日の出を見に?」

 すると年配の夫婦が二人に話しかけて来る。

「ああ、爺さん達もかい?」
「我々は毎年のことでさぁ、お二人さんも楽しんでってくだされや」

 ニコニコと愛想よく笑う老人は、まるで山の管理者のようだと、二人は思う。

 そして二人は持ってきた9秒チャージのゼリーを飲み干し、山を登る。

 そして、二人は時折手を取り、水分補給をし、山の山頂へとたどり着く。

「何とか間に合ったな、空気は少し寒いし薄いが味は格別だな」
「そうねぇ、気持ちいいわ! 空気も美味しい」

 ふぅ~はぁ~と吹雪は深呼吸をする。

 辺りを見渡すとさっきの老夫婦も到着したみたいだ。目が合うと小さく手を振ってくれた。

 数分待つと、山と山の間がく染まってくる。──日の出だ。

「来るぜ? 吹雪」
「ええ」

 そう返事を返す吹雪の視線は日の出に釘付けだ。

 次の瞬間──
 ピカーっと辺りを塗りつぶすかのように、真っ赤に光る赤い日が登る。

「おぉ……!」
「綺麗……!」

 あまり言葉は交わさなかったが、日の昇る数分の時間を二人は手を繋ぎ、神秘的な光景を目に心に記憶し、全身で日の出を堪能した。

 日の出を見ながらお茶を飲み終わったところで、

「よし、戻るか! 山小屋で朝食だ!」
「はい、それにしても綺麗でしたね」

「そうだな、なんつーか、幻想的だった」

 帰り道、二人はそんな話しで盛り上がる。

 ──だが、その時だ。

 ゴゴゴと地震のような音の後に、

 ドカドカドカーン!!!!!!

 山が噴火したのは──

「何だ、噴火か!」
「あなたっ」

「吹雪、俺から離れるな!」
「は、はい」

「──ッ!!」

 噴煙に紛れ、噴石ふんせきが二人を襲う。

 木枯こがらしが拳を構える。

 そして木枯がバンッと噴石を叩き落とす!

「長くは持たねぇ、急いで下山するぞ!」
「わ、分かりました!」

(不味い、不味い、噴火の位置が近すぎる)

 木枯は焦る。

 そんな木枯にそっと手が差しのべられる。

「大丈夫ですよ、あなた、落ち着きましょう」
「……あぁ、ありがとな、お陰で頭が冷えてきた」

 その時だ──

「ぎゃあぁぁぁ!」

 悲鳴が聞こえる。
 急ぎ、悲鳴の上がった方角へ向かうと、

「爺さん!」

 それは今朝方話をした老夫婦の老人であった。

「あんた、あんた!」

 ズン、バシュ──

「婆さん!」

 噴石が、お婆さんの頭を撃ち抜く。
 どうみても致命傷──いや、即死だ。

 確認するまでもなかった。

「吹雪! 行くぞ!」
「でも、あのお爺さん達が!」

「どうみても即死だ、それより自分の身を案じろ」

 木枯は直ぐに頭を切り替える。
 山で出会い、言葉を交わした老夫婦が目の前で亡くなろうとも、木枯には第一に守らなければならない者があった。

「吹雪、こっちに来い! 一気に下りるぞ!」

 吹雪をお姫様抱っこで抱える。

 ドン! バシュ、バシュ!

 噴石が木枯の背中に当たる。
 噴石──その一つ一つが、銃弾ライフルほどの威力がある。

「うっ……」

 優しくない威力の噴石が降り注ぐ、山中を痛みに堪えながら愚痴を溢す。

「ユキマサがいりゃあな、100人力なんだが……」

 次の瞬間だ──
 吹雪に向かい。大きい噴石が近付く。 

 木枯はそれを防ごうとするが、反応が遅れた──
 間に合わない。

「吹雪ぃぃぃぃ!!」

 そして木枯は自身の身で吹雪を庇う。

「あなたぁ!」
「グフ、ガフ、大丈夫だ、怪我はないか?」

「私は大丈夫です! 怪我を見せてください」

 普通なら即死だ。そんな威力だった。

「いいから、下山を優先するぞ」

 心配する吹雪の手を木枯がそっと止める。

 吹雪を抱えると、木枯は山の斜面を下りる。

「しっかり掴まってろよォ……!」

 だが、自然の猛威は容赦無く二人を攻撃する。

「──ッ!! 危ねぇ!」

 ドンドン、バンバン!

「うがっ、吹雪、無事か!」
「ゴフッ! すいません、少し不味いかもです」

 広範囲に落ちてきた噴石が木枯を貫通し、吹雪にも命中する。傷口からはダラダラと血が流れる。

「吹雪、吹雪!」
「そんな泣きそうな声出さないでくださいよ」

「だって、だって……おかしいだろ!」

 不運にも吹雪の当たった噴石は致命傷だった。

 ドン!

 鈍い音が木枯を襲った。

「ガハッ」

「あなた!」

 ガシリと木枯を吹雪が受け止める。

「ハハハ、俺も受けちまったようだ……」

 その声は弱々しい。致命傷に近いダメージだ。

 それでも飛んでくる噴石を片手で弾く木枯が「うっ……」と、呻きをあげ、膝を吐く。

 ガシリと吹雪を抱き締める。

「吹雪、俺がいなくてもここから逃げられそうかい?」
「いいえ、私も限界です」

「……そうか、なら俺が安全な場所まで運ばねぇとな」
「あなた、怪我は!?」

「大丈夫だ、吹雪一人ぐらいは運べる」

 ドン、ドン、バン!

 続けて、木枯の背中に噴石が当たる。

「あなたッ!!」
「うっ……」

 普通の人間ならば意識を保つ事さえできないだろう。
 そんなレベルの噴石を木枯は浴びる。

「悪りぃ、少し噴石を浴びた」  

 ドン、ドン、バン!

「吹雪!!」

 吹雪に噴石が当たる。
 それは最早、自由に動きができないレベルのダメージであった。

 バサリと吹雪がその場に倒れる。
 対する木枯も内蔵をいくつか噴石が貫通している。

「うっ……」
「クソ、ユキマサが居れば! グフッ、ガフッ!」

「あなた……手を握ってくれますか……」
「勿論だ」

 両手で大事そうに包み込み、木枯は吹雪の手を握る。

「あなた、一人でも下山できそうですか?」
「バカ言うな、一人で下山して何の意味がある!」

「──なら、私とここで一緒に死んでくれますか?」
「ああ、吹雪を置いて無様に生き残るぐらいなら、俺はお前と一緒の死を選ぶ!」

「本当は心細かった、あなた、ありがとう」
「何言ってんだ、約束しただろ? 死ぬまで、いや死んでも俺とお前はずっと一緒だ。あの世に行っても、三途の川を手を繋いで二人で一緒に渡ろうぜ──」

 にししと精一杯に笑う木枯。

 そうして二人は脱力しその場に抱き合い倒れ込むのだった──
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