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第181話 過去編・花蓮ノ子守唄12

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 温泉から出ると、丁度のタイミングで理沙と婆ちゃんも温泉から出てくる。

「おばーちゃん、お風呂広かったね」
「そうね、たまには広いお風呂もいいものね」

 楽しげに笑う理沙は婆ちゃんに心底なついている。

「おおい、次は飯じゃ、飯、寿司を食いに行くぞ」
「寿司はいいよな、腹へったぜ」

「はーい、理沙ちゃん、お寿司は初めてなんだったかしら?」
「うん、だから楽しみ」

「回転寿司じゃがの、好きなだけ食べるといい」
「うん、おじーちゃん、ありがとう!」

 そうして俺達は車で回転寿司へと向かい、入店後10分ほど待たされ席に案内される。
 
「さあ、食うぞ! 今日はマジで忙しかったからな」
「私も今日はヘトヘトだよ、ユキマサ、それマグロ?」

「正確にはマグロの赤身だな、食うか?」
「食べる!」

 まあこれがマグロ以外に何に見えるのかだが、初めての寿司に理沙は興味津々だ──その後、皆でいただきますをし、各自食事を始める。

「ぷあはぁ! 風呂上がりのビールは最高じゃな」

 と、早速一杯やってる爺ちゃん。
 まあ、帰りの運転は婆ちゃんがいるからいいけど。

「おじーちゃん、サーモン食べていい?」
「好きに食え、イチイチ確認はいらんぞ?」

「うん、ありがとう、いただきます!」

 綺麗に箸を使い、理沙がサーモンを食べ始める。ちなみに家に来た頃の時はあまり上手じゃなかった箸の使い方は母さんが教えた。
 今では、誰が見ても綺麗な箸使いである。

「あ、美味しい!」
「寿司、美味いよな、理沙、これもどうだ?」

 と、俺が差し出したのは中トロだ。

 マグロばかりじゃないかって?
 いいんだよ、寿司はマグロで。

「これはまたマグロ?」
「中トロだよ、脂が乗ってて赤身とはまた違う美味さだぜ?」

「こ、これが中トロ……」
「つーか、知識ぐらいはあるだろ? 食べたこと無くても?」

「そりゃあるけど……だって、実物見るのとは違うもん」
「そういうもんか?」

「そういうもんだよ」

 ぷくりとムクれる理沙。

「理沙ちゃん、理沙ちゃん、こういうのはどう?」

 寿司を物珍しく見て、少し大げさにも思える反応をする理沙に婆ちゃんが楽しげに話しかける。

 その手に持つのはイクラだ。

「食べたい!」

 目をキラキラさせ、まるで宝石でも眺めるようにイクラを見る理沙を見て、婆ちゃんは満足そうにしている。

「あ、私これ好き! でも、マグロも好き!」
「じゃあ、寿司が好きなんじゃないか?」

「そうかも! あ、でも、おかーさんやおばーちゃんのご飯も好きだよ」
「メニューの話しだぞ?」

 すかさず謎のフォローをする理沙に俺はツッコミを入れる。

「お、茶碗蒸しだ、食うかな」
「あ、私も食べたい! ……あ、でも、せっかくお寿司食べに来たんだからやめとく」

「サイドメニューも醍醐味だいごみだぜ?」
「でも、茶碗蒸しは、おかーさんの作ってくれたのが好き」

 そーいや、母さんが前に茶碗蒸し作ってくれたな。茶碗蒸しって蒸し器かその代用になる物と卵と三つ葉があれば、あれって意外と簡単に作れるんだよな。他の具材も椎茸とかかまぼことかお好みでいいし、味付けは簡単にめんつゆか白だしだけでよかったりする。

「母さんが聞いたら喜びそうな台詞だな」
「だって本当だもん……」

 お世辞とか打算とかではなく、理沙は本音で言ってるから、母さんは更に喜ぶだろう。

「……て、爺ちゃん、いつの間に三本も飲んでんだ?」
「ん? まだまだいけるぞい?」

「そんな心配はしてねぇよ……」
「まあ、たまにはいいんじゃないかしら? 悪酔いしたら怒りますからねー」

 と、婆ちゃんの許可も出る。
 それによく見ると爺ちゃんは、いつの間にか唐揚げも頼んでるし、寿司食えよ! 寿司!

「ねぎとろ、おーいしっ♪」

 婆ちゃんは婆ちゃんでマイペースに食事をしている。
 つーか、俺も食うぞ! こっから挽回だ!

 と、何だかんだで、一番食ってなかった俺は、びんちょうまぐろ、ねぎとろ、マグロの赤身、中トロ、大トロといった、ザ・マグロ尽くしを各2皿ずつ注文し、待ってる間にレーンから流れてきたサーモン、えんがわ、イクラ、玉子、かっぱ巻き、サラダ軍艦と言った皿を取り、食べながら待つ。

「ユキマサは食べ盛りねー、いっぱい食べなさい」
「そりゃそうじゃ、男の子じゃからの、たくさん食べて、たくさん大きくなってもらわにゃ困る」

 ふふふと笑ってくれる婆ちゃんと、酒を飲みながら、うんうんと頷く爺ちゃん。

「──ッ……ありがとな……」
「おい、魅王みおう、理沙、見ろ! ユキマサがデレたぞ!」

 なっ……///

「で、デレてねぇよ! この盲目酔っ払い!」
「聞こえんの」

 ひょい、パクっと唐揚げを口に運ぶ爺ちゃん。

 その後も食事を続け、俺は40皿、理沙は10皿、婆ちゃんは8皿、爺ちゃんは15皿と皆で結構食べた。
 ちなみに爺ちゃんは締めとか言って、ラストスパートで寿司を頬張っていた。あと理沙はよく10皿食ったな、意外に量あるぞ?

「「「「ご馳走さまでした!」」」」

「どうだった、理沙ちゃん?」
「スッゴく美味しかった!」

「それはよかったわ、また来ましょうね!」
「うん! また来たい、その為にはまたお店のお手伝い頑張らないとだね!」

「そうね、じゃあ、また夕方ぐらいに完売したら来ましょうか?」
「て、婆ちゃん、それはいつになるか分からんぞ? 今日の混み方は異常だぜ? それこそ完売記録だ」

「う……確かにそうね、じゃあ、普通に完売ぐらいで」
「それだと逆に多くないか? 週5は完売するぜ?」

「難しいわね……」

 いや、つーか、店の完売を基準に考えなきゃいいんじゃないか?
 普通に月1とかさ?

「あ、なにこれ!?」

 スマホを見ていた理沙が声を上げる。
 スマホは連絡用にと親父が理沙に買った物だ。

「どうしたの?」
「こ、これ……」

 その画面を見ると、有名人のインスターグラムのアプリのアカウントだ。
 だが、俺達が一番に目を向けたのはそこではない。映っているのだ、このインスターグラムのアカウントの有名人の写真に家の栗モナカや饅頭にどら焼きが。

 いいねの数も尋常じゃない。今日、店がいつもより、異常なまでに混んだのはこれが原因か!

「あら、家の和菓子ね」
「誰か客が乗せたんじゃろ?」

 ことの事態がイマイチ分かってない様子の爺ちゃんと婆ちゃん。……まあ、いいか。

「有名人のアカウントだぞ、それ。今日やけに混んだのはそれが宣伝になったからだと思うぞ?」

 と、状況があまり理解で来てない二人に、俺は軽めに説明しておいた。
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