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第165話 誤算
しおりを挟む俺とクレハが割れた魔王城の地面から飛び上がり、奥に潜むガリアペストに目を向けると、城からガリアペストが飛び出してくる。
「にしても、空気が悪いな」
雰囲気の話しじゃないぞ?
辺りを取り巻く空気が毒々しいのだ。
その毒をボワリと俺は回復魔法で浄化しながら足を進める。
──そして戦いは刹那の瞬間に始まる。
バンッと、距離を詰め──
俺はガリアペストに月夜を抜き、攻撃する。
腰を屈め、ガリアペストの胸の辺りから顎にかけて、下から上に右手で斬り上げ──その隙に残りの心臓部である、左胸部を〝アイテムストレージ〟から取り出した短剣を構えた左手で狙う!
……が、ガシッと、左腕を押さえられる。
右手の攻撃は通ったが、致命傷ではない。
「ユキマサ君!」
クレハが叫ぶ──
「──クレハッ! よせ!」
俺は次にクレハのしようとする行動を止めるが、
──ヒュン、パッ!!
(速い、流石は空間移動だ!)
両手で短剣を構え、ガリアペストの心臓を背後から狙うクレハは、確かにガリアペストの死角を突いてはいる。
「──切裂短ッ!?」
尻尾だ、三本の長い尻尾がクレハを狙う。
ガリアペストはクレハの方を見もせず、当たれば致命傷の攻撃を仕掛けてくる。
「クレハ!!」
ドバンと、空を蹴り、俺はガリアペストの尻尾をザンッと剣で斬るッ!
間一髪、クレハへの攻撃は免れる。
「ご、ごめん、ユキマサ君、ありがとう!」
「気にするな! 気を入れろ! 次が来るぞ!」
そんな話をしてる間にも魔王は待ってはくれない。
次の瞬間、バッと魔王が俺の方を振り返る。
「!?」
その顔を──
いや、正確にはその口元を見て俺は驚く。
隕石3つを軽々しく防いだノアの結界を破壊した魔王の一撃──熱線だ!
この攻撃には溜めがあるから油断していた……この魔王は、今の俺のクレハとのやり取りの間に気付かれないように熱線を溜めていたんだ。
俺目掛けて絶妙なタイミングで、光の速度で放たれる──熱線に俺は身体を捻るが、横腹を抉る。
「ユキマサ君ッ!!」
(ッ、痛ってぇな……)
俺はドクドクと血の流れる横腹を手で押さえる。
「ユキマサ君、回復魔法!!」
クレハに言われ、痛みからハッと我に返る。
そのまま、俺は自分自身に回復魔法を使うが……
──バチバチバチンッ!
それを拒むように、まるで身体全体に電流が流れるような感覚が俺を襲う。
(クソッ……! これは!?)
──俺の回復魔法でも治せない物が今までに3つある。
・1つは生まれつきの病や怪我。
・2つは死者の蘇生
・3つは風邪
これらの状態を無理に回復魔法を使おうとすると、頭に電流が流れるような感覚と共に魔法が弾かれる。
そして今の自分への治療で、この症状が現れた。
それと精神的な物も治せないが、これはまたベクトルが違うのでカウントはしないでおく。
「マジか……俺は自分への治療はできないみたいだ」
「えっ!? ど、どういうこと!!」
焦るクレハ。
まあ、俺も、この誤算には少しは焦ってるけど。
──ヒュン、パッ!!
クレハが俺の横に移動し、俺の傷口に何やら緑の液体の入った容器の中身を俺にかけてくる。
「〝上回復薬〟だよ! き、効くよね!?」
「ああ、助かる」
流石に傷が直ぐに塞がるまではいかないが、ボワッとした感覚と共に傷口が比較にならないほど楽になる。
今の一連の流れは時間にして数秒だが、
何だかえらく長く感じた。
そしてゴォォと、空飛ぶ魔王城に風が吹く。
「なあ、魔王──そろそろ、決着を付けようか?」
俺が魔王を睨み付けると、空気が変わる──
頃合いだろう、このままじゃ何処までも飛んで行っちまう……そもそも何処に向かってるか知らねぇが。
魔王も返答は無いが、纏う空気が重く冷たくなる。
最初に動いたのは俺だ──
魔王城の地面を蹴り、魔王に向かう!
剣を構え、魔王の左側から首を狙う──
……振りをして、ぐるんと身体を回転させて、剣に魔力を強く纏わせ、背後から首を狙う!
獲ったと思ったが、首の半分の所で押し止まる。
魔王が魔力を纏い間一髪の所で防いだのだ。
「ちっ、やっぱ魔族とは格が違うな」
だが、首が半分落ちたんだ──いくら魔王とは言え、少なくないダメージはある筈だ。
後は頭部の脳と左胸部の心臓の破壊、それでこの戦いは終わりだ──
そうして俺は再び剣に魔力を込める。
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