上 下
157 / 350

第156話 走ってきた

しおりを挟む


 *

 ──大都市エルクステン 壁外・上空──

 その時、俺は落下していた。
 奴孔楼ドクロウの〝座標石〟で遥か上空へと飛ばされたからだ。

 そんな上空何百mと落下する最中──

「なんだあれは?」

 地面にうごめく魔物の大群を発見する。
 100や200じゃない、軽く1000はいるぞ。

 種類も様々で、鎧を着た骸骨みたいなのからミノタウロスやら、でかい蛇の生えた熊まで本当に沢山だ。

 それが全部、エルクステンの街へと向かっているように見える。
 ただでさえ魔王城の魔物だけでも、てんやわんやだってのに……この数の魔物が追加でエルクステンの街に攻めていったら、死傷者の数が跳ね上がるぞ!

「先にこっちを片付けるか……魔王の方もノアなら、まだ大丈夫な筈だ──踏ん張ってくれよ!!」

 そうして俺は剣を構える。

 *

 ──大都市エルクステン・西部──

「く……何て強さなの」
「ヴィエラさん、僕が囮になるのでその内に飛んで逃げてください」

 ヴィエラとルドルフは血塗れでそんな会話をする。

「バカ言わないで! 私も戦うわ!」

 ヴィエラがルドルフに返答すると、二人に向かって嘲笑混じりの声が笑いかけられる。

「──そうだぜ、もっと楽しもうぜぇ」

 魔族──愧火キビの声だ。着流しの和服で刀を肩にかけ、全身から顔に至るまで包帯ぐるぐる巻きの姿の、鋭く赤い目で、ヴィエラを見る。

 と、その時だ──

 ドバンッ!

 何者かが愧火キビを魔力弾で攻撃する。
 だが、首を少し動かしただけでその攻撃を避ける。

「今の攻撃は、エミルさん!?」

 *

 ──大都市エルクステン 西部高台──

 そこには女性の様に髪の長い黄緑色の髪のエルフの男性が、自分の背丈ほどある魔力銃で愧火キビに狙いを定めていた。その狙撃手の正体はギルド第7騎士隊長──エミル・ネルギである。

「あっちこっちで戦いがあるが、今私の攻撃が届く範囲だと、ここが一番戦況が不味そうだ」

 第7隊員達は街の魔物の討伐にあたっている。
 エミルは隊と離れ、一人こうして援護射撃を行っていた。

 *

 ──大都市エルクステン・西部──

「エミルさんの援護射撃は助かりますが、はたしてそれでも魔族を倒しきれるかどうか……」

 口元の黒い口当てを触りながら、悔しげにルドルフは呟き、猫人族キャットヒューマンの特有のよく聞こえる猫耳をぴょこぴょこと動かし、辺りを探る。

 そんなルドルフがハッと動きを止める。
 その先には城塞の城壁がある。

 そこには一人の女性が立っていた。
 黒くたけの長いドレスローブを着て、長ドスを両手に持ち長い黒い髪を靡かせている。その姿は一言で言うなら──そんな言葉がよく似合っていた。

「──え、エルルカ・アーレヤスト……!? 六魔導士の〝剣斎けんさい〟が何故ここに? 予定だとエルクステンに来る六魔導士は〝独軍ウヌエクルトス〟だけの筈じゃ……!?」

 血の流れる肩をヴィエラが押さえながらエルルカに向かい話しかける。

「エルフのリュセルの方に連絡があってね。私はこの魔王戦争が始まってから呼ばれたのよ──シラセは勿論、何故かパンプキックまで今この街に来てるわよ」

「は、始まってからって……〝中央連合王国アルカディア〟から〝大都市エルクステン〟まで一体何kmキロ離れてると思ってるんですかっ!?」

 次に口を開いたのはルドルフだ。
 こちらも腕から流れる血を押さえながら話す。

「エルフの国シルフディートからよ。それでも走って1時間かかったわ」

「いや、それでも……」

 早いと言うレベルでは無いと──〝エルフの国シルフディート〟から〝大都市エルクステン〟までの距離を知るものなら、皆が口を揃えてそう言うだろう。

「よぉ、面白れぇ奴が来たじゃねぇか、俺と戦えよ」

 すこぶる楽しそうな様子で愧火キビがエルルカに話しかける。

「……ええ、そのつもりよ」

 その瞬間にエルルカは移動し、愧火キビに斬り付けていた。

「速ぇじゃねぇか! ハハ、面白れぇよ、お前!」

 エルルカの斬撃を受けた愧火キビだが、少しばかり血を撒き散らしながら、尚も楽しげに笑っている。
 刃を直接体に受けたが、魔力をまとい防いだのだ。けれども、その全ては防ぎきれなかった。

無粋ぶすいね、貴方嫌いだわ」

 こうしてこの街でまた一つ、魔族との戦いが幕を開けた──
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者に幼馴染で婚約者の彼女を寝取られたら、勇者のパーティーが仲間になった。~ただの村人だった青年は、魔術師、聖女、剣聖を仲間にして旅に出る~

霜月雹花
ファンタジー
田舎で住む少年ロイドには、幼馴染で婚約者のルネが居た。しかし、いつもの様に農作業をしていると、ルネから呼び出しを受けて付いて行くとルネの両親と勇者が居て、ルネは勇者と一緒になると告げられた。村人達もルネが勇者と一緒になれば村が有名になると思い上がり、ロイドを村から追い出した。。  ロイドはそんなルネや村人達の行動に心が折れ、村から近い湖で一人泣いていると、勇者の仲間である3人の女性がロイドの所へとやって来て、ロイドに向かって「一緒に旅に出ないか」と持ち掛けられた。  これは、勇者に幼馴染で婚約者を寝取られた少年が、勇者の仲間から誘われ、時に人助けをしたり、時に冒険をする。そんなお話である

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

【完結】死後の世界は人手不足 ―魔法は使えませんが空手家ですー

SHOTARO
ファンタジー
ただ、強い男が魔物をボコすだけのお話です。 しかし、ボコしすぎて…… 感染症で死亡した蒼井隼人は、見知らぬ世界の墓場の近くで目覚めると周囲はアンデッドの群れだった。 異世界で何ら特殊能力の無い蒼井だが、アンデッドの大群を振切り、ゴブリンの群れを倒し、魔法使いを退け、魔人との死闘。 そんな蒼井の特技は、東京オリンピックで競技種目にもなった日本の伝統派空手だ。 今日も、魔物の首筋に必殺の“高速上段突き”が、炸裂する。 そして、闘いのあとは、日本の緑茶で健康を維持するのであった。 蒼井の飲む異世界の緑茶は苦い!? 以前、小説家になろう様で投稿しました『お茶と空手があれば何とかなります』を再編集しました。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~

未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。 待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。 シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。 アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。 死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

番だからと攫っておいて、番だと認めないと言われても。

七辻ゆゆ
ファンタジー
特に同情できないので、ルナは手段を選ばず帰国をめざすことにした。

処理中です...