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第150話 合流

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 *

 ──大都市エルクステン 大砦の門──

「クソッ、魔族にも逃げられた、本当に厄介だな」

 その惨状に俺は舌打ちをする。

 〝座標石〟で、魔王を移動させた後、魔族奴孔楼ドクロウおのれ自身も〝座標石〟で移動し、姿を消す。

「すいません、全て私の失態です」

 シラセが謝る。

「お前のせいじゃない、あまり謝るな」
「ですが……」

「それを言うなら、ミスミス呆けてた俺の責任でもある、お前はそれを責めるか?」

 俺は少し、このシラセと言う人物の性格に対して、意地悪な質問をする。

「いえ……責めません」
「お互い様だ、そんな事より魔王を追うぞ? お前も来るか?」

 こくり、とシラセは頷く。
 も当たり前かのように。

「なら急ごう、俺は魔王を討つ、シラセは奴孔楼ドクロウを討て、それでいいか?」
「魔王を貴方は一人で倒すつもりですか?」

「協力者がいるなら、是非もないが、魔族や魔物──それを他の奴等が引き受けてくれてんだ。俺は魔王ぐらい何とかしなきゃだろ? そもそも俺は元よりその為にここにいる」
「本当に貴方は何者なのですか? さっきの魔王の一撃、比喩でなく、私は死を覚悟しましたよ」

「神様に頼まれてこの世界に来たって言ったら、シラセは信じるか?」
「え? え、えーと、か、神様ですか!?」

 俺の斜め上の言葉に、急にシラセは言葉を崩す。

「──ユキマサ!」

 システィアがこちらに走ってくる。

「どうした?」
「私たちは一度ギルドに戻り、他の隊と合流しながら街の魔物の掃討に当たる──君は魔王を追うのか?」

「ギルドに戻るのか? それと何度も言うが、そのつもりだ、魔王は俺が倒す」

「そうか、君ならば、もしかすると、もしかするかもしれんな? それに街中に魔物があんな形でバラ撒かれる何て想定外だ。ギルドは避難所にもなってるが、騎士隊長は出払ってる。今ギルドは守りが薄い。私たちはギルドに避難している人たちの安全も確保しなければならない──街の魔物を片付けたら、私も必ず援軍に行く。色々任せてしまい本当にすまない」

「なるほど、分かった。期待してるよ」

「シラセ殿も魔王や魔族を任せっきりで申し訳ない」
「いえ、システィア隊長、私への気遣いは無用ですよ。そんな事よりも急ぎましょう、戦場では1分1秒がとても重要となってきますから」

「だが、まずは街中うんぬんよりも、この辺りの魔物を片付けないと。またぞろぞろと集まってきたぞ」

 そう言って俺は戦闘体制を取る。
 少し先の第8隊の騎士達はもう戦い始めている。

「ユキマサ! シラセ殿! ここは私達に任せて先に行け──! 魔王の相手には君達の力が必要だ!」

「──ッ!?」

 俺は押し黙る。

 勿論、システィアもエメレアもミリアもそうだが、ここに残った場合のクレハの万が一の心配が一番に頭をよぎってしまう。

 何だこの感覚は……怖い、俺は怖いのだ。

 魔族を見ようが、魔王を見た後でも言える。クレハが万が一死んでしまうような事があるという事が、身体の芯、頭の奥、心臓の奥から震えるように怖い。

「ユキマサ君! 行って、私も直ぐ追い付くから!」
「クレハとミリアの事は全て私に任せなさい! 死んでも守るわ!」

 クレハとエメレアが俺に声をかける。

「──ッ……分かった、ここは頼んだぞ」

 ここの魔物をクレハ達、第8騎士隊に任せ、俺はシラセと共に魔王ガリアペストを追う──。

 *

 ユキマサとシラセが魔王を追った後、ギルド第8騎士隊は現れた魔物と戦っていた。

(大丈夫……最初は凄く怖くて驚いたけど、ユキマサ君の顔を見たら落ち着いてきた……)

「クレハ! 戦える!?」
「うん、大丈夫だよ! 任せて、エメレアちゃん!」

「よかった、でも無茶はダメよ? それにミリアも臨戦態勢で、いつでも支援魔法を撃てるように備えてくれてるわ」

「うん、ありがとう。でも、それにしても数が多いね」

 ──ヒュン、パッ!!

 と、クレハは〝空間移動〟で移動し、魔物の背後を取り自身の武器である〝短剣ダガー〟を使い魔物の急所を的確に刺す。

「深追いはせずバラけるな! 基本1体に対して2名以上で当たれ! 着実に数を減らすぞ──!」

「「「「「「「「「「ハッ!!」」」」」」」」」」

 システィアの指示どおり、着実に魔物を倒していく。

 その時だ──

 魔王城から新たに何かが飛び出してきたのは。

 その姿は大きい──10mメートルは越えている。全身は真っ黒で両手には槍を持っていて、黒い兜のような顔で、2本の大きな角が生えている。
 人型と言えば人型だが、纏う雰囲気は人のそれではない。

 それを見た第8騎士隊員の一人が声を洩らす。

「……魔族──〝駕樂ガラク〟」

「魔族!?」
「魔族だと!!」

 クレハとシスティアがそちらの方を向く。

「魔王様の邪魔をする奴は我が許さん、嘆かわしい人の民よ、さあ、剣を抜け──これはだ!!」

 *

 魔族が現れてからは戦場が一変した。

 先陣を切ったのはシスティアだ。魔法を絡めた技でシスティアは容赦なく、魔族──駕樂ガラクを攻撃する。

「はぁッ!!」

 だが、その攻撃も防がれる。

「我には足らぬ」

 駕樂ガラクはピシャリと言い放つと、ドン! と、槍でシスティアを吹き飛ばす。
 
「システィア隊長ッ!!」

 第8隊の隊員達がシスティアを庇うように立つ。

「うぐ……大丈夫だ、やはり一筋縄ではいかんな」

 と、その時だ……

 システィアを吹き飛ばした駕樂ガラクは、次は第8隊員に向き合う。

 その視線の先にいたのは──

「ミリア危ないッ!!」

 エメレアが叫ぶ、クレハが〝空間移動〟でミリアの元に飛ぼうとするが、一瞬反応が遅れ間に合わない。

 ザクリッ! ブシュッ!
 そんな音を立て、ミリアの横腹に槍が命中する。

「「「──よくもッ!!」」」

 システィア、クレハ、エメレアは怒りをあらわに武器を構え、魔法を唱え魔族に飛びかかる。

うるさいハエ共め」

 駕樂ガラクは槍でシスティア達を一蹴する。
 
 ──ヒュン、パッ!!

 クレハは一度駕樂ガラクから目を離し、ミリアの元に駆け寄る。

「うぅ……あぁぁぁ……」

 ミリアの横腹がザックリとえぐれていた。
 ダラダラと血が流れ、ミリアは傷口を必死に押さえながら、凄く痛そうに苦悶の表情を浮かべる。

「ミリア! 酷い怪我……すぐに〝上回復薬ハイポーション〟を」

 クレハが〝上回復薬ハイポーション〟を取り出そうとするが、駕樂ガラクがクレハとミリアに追い付く。

「まずは二匹」

「《聖なる樹木よ・我らに守りの加護を授けよ》──木の壁ウッド・ウォール!!」

 クレハ達を守るように、太い木の壁が現れる。
 この魔法の主はエメレアだ。

 だが、紙でも切るかのように、その木の壁は破壊されてしまうが──エメレアの狙いはそこではない。

 ──ヒュン、パッ!

 クレハがミリアを連れて〝空間移動〟をする。
 エメレアの作ってくれた、一瞬の隙をクレハは見逃さず、冷静にミリアを連れて攻撃を回避した。

「小賢しい」

 だが、駕樂ガラクの動きは早い。
 移動したクレハとミリアとの距離を一瞬で詰める。

「クレハ、ミリアッ!」

 システィアがクレハとミリアの名前を叫びながら、クレハ達の元に向かうが、間に合わない。

 と、その時だ……

「そこまでにして貰おうかねぇ!」

 ドバンッ!

 刹那、クレハと駕樂ガラクの間に割って入ってくる人影が現れ、駕樂ガラクを強く殴り飛ばす。
 威力は強く、駕樂ガラクは魔王城まで吹き飛ばされる。

「お、お婆ちゃん……!?」
「……お婆ちゃん……?」

 目の前の光景にクレハとエメレアの二人は目を丸くする。
 その窮地に現れたのは、クレハの祖母──マリア・アートハイムであった。
 
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