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第142話 流れる時間
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俺はすやすやと眠るクレハの顔を見ていた。
少し無防備過ぎる気もしなくないのだが、別に変なことはしてないし、これは俺を信用してくれてのことだと考えると、すこぶる悪い気はしない。
『明日は66日ごとに魔王が変わる日──』
そう告げたノアは──『残念だけど、今日はそろそろ時間みたい、今度はもっとゆっくり会おうね♪』と言い残し、また自分の髪を魔法で、銀髪から紫色に変え、白いフードを被り直して帰って行った。
1000年前に〝天聖〟が残した人類の生命線──〝八柱の大結界〟
これがある限り、残り三人の魔王が同時に行動ができないという、特殊で規格外な結界だ。
それにより行動できる魔王は何故か、66日ごとに変わり、以前にギルドでフォルタニアから聞いた話しだと──その間、動けない他の魔王は再度封印状態のような状態になってるらしいとのことだ。
以前は4人居たらしいが、残りの魔王は──
〝魔王イヴリス〟
〝魔王ガリアペスト〟
〝魔王ラフィメストス〟
の3人だ。
ちなみに現在活動できる魔王は〝魔王イヴリス〟らしい──それが明日変わる。
ノアが帰った後、エメレアが『何かどっと疲れたわ』と言いながらミリアに支えられ帰っていくと、入れ違いにクレハの婆さんが帰ってきた。
クレハの婆さんが帰ってくると、婆さんが夕食を作ってくれ、食事をし、シャワーを浴び、歯を磨き──この異世界に来てからのいつもどおり、こうしてクレハの部屋で、睡眠モードで今に至るのである。
今日はクレハが先に寝てしまった為、まだ俺はあまり眠くない頭で、これもいつもの如く、俺の左半身に抱き付いて寝ているクレハの様子を見て──
(何で、クレハ程の美少女が俺の隣で、俺に抱き付いて寝てるのだろうか?)と、割りと本気で考えるが、もしそれが俺では無く、どこか他の誰かだと考えると、何故か頭と胸と目の奥がズキンっと酷く痛む。
でも、それがエメレアやミリア、システィアやクレハの婆さんなら微笑ましいと思ってしまう。
(……なんだそりゃ、我ながら矛盾してる)
そういや、俺がこの異世界に来てからと言うもの……クレハは一日も欠かさず一緒にいてくれたんだよな。
それがどれ程ありがたかったか、心強かったか、嬉しかったか、俺はここで改めて自覚する。
男で、もう15の歳を越えた、元いた世界では一人暮らしや独立となっても、何も不思議では無い年の俺だが──それでも見知らぬ、それこそ誰一人知り合いもおらず、その世界の一般的な常識すらも何も分からない異世界で、こうして不自由無く生活を送れているのは、間違いなくクレハのお陰だろう。
クレハがいなければ、俺は今頃色々と難儀していたに違いない。少なくとも異世界初日の段階で俺は野宿──よくても24時間開いてるギルドの適当な椅子で仮眠を取るぐらいの、宿無し生活だったろう。
「……んっ……ユキマサ君……寝ないの……?」
寝ていたクレハがゆっくり目を覚ます。
「悪い、起こしちまったな」
「ううん、大丈夫だよ」
クレハが抱きつく力を優しく少しだけ強めながら、返事を返してくれる。
「ねぇ、ユキマサ君、少し聞いていい?」
「どうした、改まって? 何だ?」
寝起きだからだろうか、少し甘い声でクレハが俺に質問をしてくる。
「エメレアちゃんがいて、ミリアがいて、システィアお姉ちゃんがいて、お婆ちゃんがいて──それにこうしてユキマサ君が居てくれる……私、そんな毎日が、ずっと続いてくれないかなって最近……ううん、ユキマサ君と出会ってから毎日思うの」
「……えーと、ありがとう……で、いいのか?」
「それはこっちの台詞だよ、ねぇ、私がそんなことを願うのは贅沢かな? やっぱ、ダメかな……」
「どうした、急に?」
「ごめんね、何だか今日改めて大聖女様──ノアさんとユキマサ君が神様の事とかを話してるの見たら……なんだか、ユキマサ君が何処か遠くに行っちゃうような気がして──」
「何処かって何処だよ……生憎、ここ以外に俺は行く宛は無いぞ?」
俺は居候させて貰ってる身だが、これが自分でも不思議なぐらい居心地がいい──勿論、最低限の気は使うようにしてるが、何故かこの場所が凄く落ち着く。
まあ、毎日クレハに抱きつかれて、同じ寝室で寝るという、色んな意味でヤバイという気持ちもあるが、そこはクレハからの信頼と俺の理性と更なる理性で何とかしてる。
……実際、クレハの信頼を裏切るような真似は、例え天地がひっくり返っても、する気は微塵も無いしな。
「それに何を持って贅沢なのかは知らんが、いいんじゃないか? そんな贅沢ぐらいしても──多分、今名前を言った奴等は、全員同じことを言うと思うぞ?」
「ほんと? じゃあ、ユキマサ君も何処かに勝手に居なくなったりとかしないでよ? 約束だよ?」
きゅっと、クレハは抱きつく力を強め、じーっと真っ直ぐに俺を見ながら、言って来る。
「ああ、分かった──ほら、もう俺も寝る。クレハもゆっくり休め、明日は魔王が変わる日なんだろ? 俺はよく知らないが、何だか大変そうじゃねぇか?」
「うん、それに〝66日ごとの魔王が変わる日〟は、どの国も──特にこの〝大都市エルクステン〟や、エルフの国〝シルフディート〟それと〝中央連合王国アルカディア〟はピリピリしてるよ。この三ヶ所には〝八柱の大結界〟の基盤になる〝魔術柱〟があるから」
「確か魔王や魔族は、残り4つの〝魔術柱〟を壊したがってるんだよな?」
魔王側からしてみれば、自分達の動きを阻害される規格外な結界──〝八柱の大結界〟は向こう側からしてみれば、第一に破壊したい代物の筈だ。そして、万が一これが無くなれば、人類は総崩れするだろうな。
──〝魔術柱〟は残り8本中4本。
さっきの三ヶ所と、これは魔王軍には知られてないらしいが〝アーデルハイト王国〟にあるらしい。
「うん、後、歴史的にみても、魔王が変わった直後の当日が〝魔族の襲撃〟とかが多い傾向にあるからね」
「だとすると、ノアが神託で見たって言ってた〝赤い石〟と〝黒い山〟の信憑性が増すな」
それはそうと、ノアの神託の成功率はどんなもんなんだろうな? これは聞いとくべきだったな。
「何か怖いな……何も無ければいいんだけど」
「大丈夫だ、何かあっても俺が何とかしてやる」
表情が暗くなるクレハを励まそうと、俺は柄にも無く、そんな台詞を間も開けずに、そう言ってしまう。
「うん、じゃあ、安心だね!」
クレハは、俺に抱きついたまま嬉しそうに、パタパタと足を揺らす。
するとそのままクレハがゆっくりと口を開く。
「じゃあ、寝よっか、ユキマサ君、おやすみ」
「ああ、おやすみ──クレハ」
そう言い、クレハは相変わらず抱きついたままの状態で、俺達は目を閉じ、ゆったりと流れる、心地のよい時間の中で、たっぷり睡眠を取るのだった──。
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