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第135話 タブー

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「ああ、ちょうど、お前に渡そうと思ってたんだ」

 俺はそう言いながら、アルケラを倒した後に残った〝魔力核まりょくかく〟を〝アイテムストレージ〟から取り出し、ロキに手渡す。

「「「「「「「!!」」」」」」」

 クレハとフィップ以外の面子が、揃ってその〝魔力核〟に目を奪われる。

「アルケラを倒したのですかっ!!」

 ロキは目を輝かせる。

「ああ、一度は逃げられたが、丁度タイミングよくフィップが足止めしてくれてな。何とか追い付けたよ」

 と、俺はフィップに視線を向ける。

「あたしは別に何もしてない。むしろ瀕死のアルケラにすら、一泡吹かされる所だった」

 だが、フィップは不満そうに呟く。

「あ、あのごめんなさい。私がわがままを言ったから……」

 泣き腫らした顔を少し上げ、レヴィニアが謝ってくる。俺がアルケラと戦ってる最中に『イルザを助けて』と言い、俺がそちらを優先した事により、一度はアルケラを取り逃がした事に責任を感じてるようだ。

「いや、お前のせいじゃない。謝る必要もない。俺もイルザを助けたかったしな」

 と、俺はレヴィニアに声をかける。

 すると、何かつっかえていた物が取れたかのように、そっとレヴィニアは力を抜き「ありがとう、本当にありがとう……」と、また泣き始める。

「というか、魔族が逃げたのか……」

 システィアが唖然とした顔でボソリと言う、すると俺の少し後方にいるクレハが、うんうんと頷く。

「ユキマサさん、その、もしよろしければ何ですが、これを我々に……」
「やるよ、俺は要らないしな」

 目が欲しいと言っているロキに俺は言葉の途中で返事を返す。いや、本当にマジで要らないしな。

「いやいや、いただくと言うわけにはいきませんよ〝聖教会〟や〝アルカディア〟には勿論、ユキマサさんの名前で報告いたしますし、それに……」
「それに? また褒賞金か何かか?」

(いや勿論、ありがたいっちゃ、ありがたいが、だからはあまり好きじゃないんだよな……)

「勿論それもですが、魔族の討伐は〝中央連合王国アルカディア〟から正式に勲章が授与されますよ」

 ……え、それも超要らねえ。
 畏まったり、畏まられるのも好きじゃないんだよ。

 どうせ、『面を上げい!』とか『ははぁ~』とか言って、下手すりゃ〝領主〟や〝爵位持ち〟に祭り上げられたりすんだろ? 俺がそうなってどうすんだよ……? それに何よりも、色々と動きづらいだろ。

「勲章が貰えると言われて、こんな面白いまでに嫌そうな顔をする奴は初めて見るのです」

 そう言い、俺を見るのはドン引きアリスちゃんだ。

「安心しろ、お嬢、あたしもだ」

 と、フィップが俺の後ろから真横に歩いてきて、俺の顔を覗き込みながらアリスの意見に同意する。

「にしても、いいご身分じゃねぇか。リアル美少女お姫様のレヴィニア嬢ちゃんに抱きつかれながら、あたしのアリスお嬢に構って貰えるなんてよ?」

 最初はニヤニヤし、最後の方は本気で殺気を込めて、フィップが俺の肩に手を乗せて来る。

「お前な……アリス好きすぎだろ? 俺、今ドン引かれてんだぞ?」
「……うるせっ。それに賞金も勲章も要らんて、お前何なら欲しいんだよ? あ、もしかして女か? むっつり男め」

 ポンと、手を叩き本気半分、冗談半分の顔でフィップが聞いてくる。

「──ハッ!? く、黒い変態!?」

 息を呑み、何かに気づいたような様子のイルザは俺を見て、真ん丸に眼を見開く。

「オイ、待て!」
「し、失礼しました。先日のヒュドラの〝変異種ヴァルタリス〟を討伐した〝黒い変態〟が現れたという話は私も記事で見まして……少し今回の件にが落ちたと言いますか……申し訳ありません」

「その記事なら俺も見た。つーか、どこまでひろがってんだよ?」
「あの記事なら、各国に1枚は大体あると思うぜ? いーじゃねぇか、黒い変態、その名前あたしは好きだぜ? ぶふっ」

 最後は吹き出すフィップ、この野郎……

「その件はもういい! あ、なんだ。ロキ、号外記事で思い出したが──〝白獅子しろしし〟って誰だ?」

 あの記事に、確か『白獅子再来か!?』みたいな事が書いてあったのを、ふと思い出し、話題をそらす。

「「「「「「「「!!」」」」」」」」
「……」

 あれ……何か不味いこと聞いたか?
 その場の全員の視線が俺に集まる。

 だが、ただ一人、レヴィニアだけは何かを考えるように、少し下を向いて無言でいる。

「ゆ、ユキマサ君、ちょっと!」

 ──ヒュン、パッ!

 パタン。

 クレハが俺の横から、俺の腕を掴むと、ギルドマスター室の扉の前に〝瞬間移動〟で移動し、その後は背中を押されるようにして、一度部屋を出る。

「あのね〝白獅子〟は〝イリス皇国〟ではタブーなの、その〝7年前の魔王戦争〟で活躍した人なんだけど……」

 小さな声でクレハがその説明をしてくれる。
 だが、その途中……

「ユキマサ、クレハ大丈夫よ。ユキマサは本当に知らなかったのね、今フォルタニアから聞いたわ。私は大丈夫だから、中で一緒に話しましょ?」

 そう言いながら、レヴィニアが出てくる。

 俺は「悪い」と、謝りながらクレハと再び、ギルドマスター室に入る。

(つーか、この話……〝7年前の魔王戦争〟の関わりって事はクレハにとってもデリケートな話しだぞ)

 ひしり……

 そんな俺の感情を読んでか、クレハが俺の左手の袖を、そっと握り「私は大丈夫だよ、それにユキマサ君は色んな話しを聞くべきだよ」と言ってくれた。
 ド正論で返された俺は「分かった、ありがとう」と、小さな声でクレハに返事を返すのだった──。
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