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第121話 ミトリとトア
しおりを挟むその後も、ミリアの言葉に甘え、色んな種類の果物を取っていく。
よく分からない物は、隣に歩くクレハか、少し先をエメレアと歩くミリアに聞いた。
「というか、本当に〝アイテムストレージ〟に全部仕舞えるんだね……制限とか無いの?」
「今の所は無いな、まだまだ入るぞ?」
そう答えながら、更に果物を〝アイテムストレージ〟に仕舞って行く。
すると、とことこした足取りで、またミリアが新しい種類の果物を持ってきてくれた。
「〝クリムゾントマト〟と〝ジュースの実〟です」
「〝クリムゾントマト〟? 何だそれは? 一つ食べてみてもいいか?」
ミリアが運んできた、普通のトマトより、格段に色の深い真っ赤なトマトを、その場で食べてみる。
パッと見は普通のトマトよりも深い赤という以外は、元いた世界のトマトとあまり変わらなそうだが。
つーか、トマトは野菜だった気がする。
「──ッ!!」
あっま!! 何だこれ!?
「どうですか?」
「めちゃくちゃ甘くて美味いな、驚いたぞ」
これなら野菜じゃなくて、フルーツと言われても納得する。
トマト特有の酸味も殆ど無いし、コクの強い甘さがある。いくらでも食べられそうだ。
「よかったです。沢山あるので、どんどん持っていってください」
そう言うと、ミリアは本当にいっぱい〝クリムゾントマト〟をくれた。エメレアやクレハも手伝い、物の数分で100個近い〝クリムゾントマト〟を貰った。
「あ、ユキマサ君、ジュースの実はね、実の底の色で味が違うんだよ。それはオレンジ色だから、そのまんまオレンジジュースが中に入ってると思うよ」
と、クレハが〝ジュースの実〟なる、ヤシの実みたいな果実の説明をしてくれる。飲み方もヤシの実みたいに、実に穴を開けて飲むみたいだ。
「じゃあ、クレハのは紫だからぶどうジュースか?」
「うん、そうだよ。とっても甘くて美味しいんだ」
その後も、色んな物をミリアに貰った後、ミリアの家に戻り、ミリアの両親のお墓にも果物を供える。
「豪華なデザートになったな」
お墓には先程の果物が沢山並べられている。
20種類はあるだろうか? ちなみに、その半分以上は俺も知らなかった果物──異世界独自の果物だ。
「はい、それにあの果物の取り方や食べ方も、お母さん達から教わったんです。私の大好きな両親です」
嬉しそうにミリアは微笑み、お墓に目を向ける。
「そうか。それにミリアって名前を付けるぐらいだ。ミリアの母さんも父さんも、本当にミリアの事が大好きだったんだろうな」
「……え『ミリアって名前を付けるぐらいだ』って、どう言うこと?」
話を聞いていたクレハが首を傾げ俺に聞き返す。
「そのまんまの意味だよ。簡単で真剣な言葉選びの、十中八九のミリアの名前の由来の話だ──」
「私の名前の由来ですか?」
ミリアも聞き返してくる。
「ミリアの名前の由来……」
神妙な顔のエメレア。
コイツは気づいてるかなと思ったんだが。
……じゃあ、むしろ違うのか?
逆に少し心配になってきたな。
「ミリアの父さんの名前はトア・ハイルデートで、母さんの名前がミトリ・ハイルデートだろ?」
俺は今一度確認する。
「ええ」
これに答えたのはエメレアだ。
「ミトリとトア──ミリア」
「あ、気づかなかった。そう言うこと!?」
クレハは気づいた様子だ。
だが、まだミリア本人はピンと来てないみたいだ。
「ミトリとトア、ミトリトア、みとりとあ、ミとリとア──〝ミリア〟正直かなり安直だが、偶然にしてはでき過ぎだろう?」
逆に意図的じゃなきゃ、それのが凄いぞ。
「あ……お父さんとお母さんの名前……私の名前」
気づいてなかったみたいだな。つーか、俺も自分の名前の由来なんて聞いたこと無いしな。
自分の名前の由来を知らない奴は普通に多いんじゃないか?
「私……知りませんでした」
「無理もないだろ。それに本当にあってるかは分からないけどな。まあ逆に偶然ならそれのが凄いが」
「そっか、そっかぁ……」
ミリアは小さく何度も頷く。
「……ま、また、この私がミリアの事でユキマサなんかに遅れを取るだなんて……不覚だわ……泣きそう……」
項垂れるエメレアはその場に膝をつく。
「あ、あの、ユキマサさん! ──今までも、お母さん達が付けてくれた名前だから、好きでしたが、私もっと自分の名前が好きになりました」
「そうか、俺も良い名前だと思うぞ、ミリア」
俺が軽く微笑むと、ミリアは嬉しそうに笑った。
そしてミリアは両親のお墓へ向き直ると、少し長めに手を合わせていた。何を話していたかまでは流石に分からなかったが、きっと悪いことじゃないだろう。
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