上 下
122 / 350

第121話 ミトリとトア

しおりを挟む


 その後も、ミリアの言葉に甘え、色んな種類の果物を取っていく。
 よく分からない物は、隣に歩くクレハか、少し先をエメレアと歩くミリアに聞いた。

「というか、本当に〝アイテムストレージ〟に全部仕舞しまえるんだね……制限とか無いの?」
「今の所は無いな、まだまだ入るぞ?」

 そう答えながら、更に果物を〝アイテムストレージ〟に仕舞って行く。
 
 すると、とことこした足取りで、またミリアが新しい種類の果物を持ってきてくれた。

「〝クリムゾントマト〟と〝ジュースの実〟です」
「〝クリムゾントマト〟? 何だそれは? 一つ食べてみてもいいか?」

 ミリアが運んできた、普通のトマトより、格段に色の深い真っ赤なトマトを、その場で食べてみる。
 パッと見は普通のトマトよりも深い赤という以外は、元いた世界のトマトとあまり変わらなそうだが。

 つーか、トマトは野菜だった気がする。

「──ッ!!」

 あっま!! 何だこれ!?

「どうですか?」
「めちゃくちゃ甘くて美味いな、驚いたぞ」

 これなら野菜じゃなくて、フルーツと言われても納得する。
 トマト特有の酸味も殆ど無いし、コクの強い甘さがある。いくらでも食べられそうだ。

「よかったです。沢山あるので、どんどん持っていってください」

 そう言うと、ミリアは本当にいっぱい〝クリムゾントマト〟をくれた。エメレアやクレハも手伝い、物の数分で100個近い〝クリムゾントマト〟を貰った。

「あ、ユキマサ君、ジュースの実はね、実の底の色で味が違うんだよ。それはオレンジ色だから、そのまんまオレンジジュースが中に入ってると思うよ」

 と、クレハが〝ジュースの実〟なる、ヤシの実みたいな果実の説明をしてくれる。飲み方もヤシの実みたいに、実に穴を開けて飲むみたいだ。

「じゃあ、クレハのは紫だからぶどうジュースか?」
「うん、そうだよ。とっても甘くて美味しいんだ」

 その後も、色んな物をミリアに貰った後、ミリアの家に戻り、ミリアの両親のお墓にも果物を供える。

「豪華なデザートになったな」

 お墓には先程の果物が沢山並べられている。
 20種類はあるだろうか? ちなみに、その半分以上は俺も知らなかった果物──異世界独自の果物だ。

「はい、それにあの果物の取り方や食べ方も、お母さん達から教わったんです。私の大好きな両親です」

 嬉しそうにミリアは微笑み、お墓に目を向ける。

「そうか。それにって名前を付けるぐらいだ。ミリアの母さんも父さんも、本当にミリアの事が大好きだったんだろうな」
「……え『ミリアって名前を付けるぐらいだ』って、どう言うこと?」

 話を聞いていたクレハが首を傾げ俺に聞き返す。

「そのまんまの意味だよ。簡単で真剣な言葉選びの、十中八九のミリアの名前の由来の話だ──」
「私の名前の由来ですか?」

 ミリアも聞き返してくる。

「ミリアの名前の由来……」

 神妙な顔のエメレア。
 コイツは気づいてるかなと思ったんだが。

 ……じゃあ、むしろ違うのか?
 逆に少し心配になってきたな。

「ミリアの父さんの名前はトア・ハイルデートで、母さんの名前がミトリ・ハイルデートだろ?」

 俺は今一度確認する。

「ええ」

 これに答えたのはエメレアだ。

「ミトリとトア──ミリア」
「あ、気づかなかった。そう言うこと!?」

 クレハは気づいた様子だ。
 だが、まだミリア本人はピンと来てないみたいだ。

「ミトリとトア、ミトリトア、みとりとあ、──〝ミリア〟正直かなり安直だが、偶然にしてはでき過ぎだろう?」

 逆に意図的じゃなきゃ、それのが凄いぞ。

「あ……お父さんとお母さんの名前……私の名前」

 気づいてなかったみたいだな。つーか、俺も自分の名前の由来なんて聞いたこと無いしな。
 自分の名前の由来を知らない奴は普通に多いんじゃないか?

「私……知りませんでした」
「無理もないだろ。それに本当にあってるかは分からないけどな。まあ逆に偶然ならそれのが凄いが」

「そっか、そっかぁ……」

 ミリアは小さく何度も頷く。

「……ま、また、この私がミリアの事でユキマサなんかに遅れを取るだなんて……不覚だわ……泣きそう……」

 項垂うなだれるエメレアはその場に膝をつく。

「あ、あの、ユキマサさん! ──今までも、お母さん達が付けてくれた名前だから、好きでしたが、私もっと自分の名前が好きになりました」
「そうか、俺も良い名前だと思うぞ、ミリア」

 俺が軽く微笑むと、ミリアは嬉しそうに笑った。
 そしてミリアは両親のお墓へ向き直ると、少し長めに手を合わせていた。何を話していたかまでは流石に分からなかったが、きっと悪いことじゃないだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

勇者に幼馴染で婚約者の彼女を寝取られたら、勇者のパーティーが仲間になった。~ただの村人だった青年は、魔術師、聖女、剣聖を仲間にして旅に出る~

霜月雹花
ファンタジー
田舎で住む少年ロイドには、幼馴染で婚約者のルネが居た。しかし、いつもの様に農作業をしていると、ルネから呼び出しを受けて付いて行くとルネの両親と勇者が居て、ルネは勇者と一緒になると告げられた。村人達もルネが勇者と一緒になれば村が有名になると思い上がり、ロイドを村から追い出した。。  ロイドはそんなルネや村人達の行動に心が折れ、村から近い湖で一人泣いていると、勇者の仲間である3人の女性がロイドの所へとやって来て、ロイドに向かって「一緒に旅に出ないか」と持ち掛けられた。  これは、勇者に幼馴染で婚約者を寝取られた少年が、勇者の仲間から誘われ、時に人助けをしたり、時に冒険をする。そんなお話である

婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。

なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。 そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。 そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。 彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。 それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

処理中です...