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第119話 昼食
しおりを挟むお墓の前で手を合わせ終えると、皆で食事を摂る。昼食はミリアの両親のお墓の前にシートを敷き、皆で食べるのだが……クレハがいて、エメレアがいて、ミリアもいて──墓前だというのに、何処か賑やかな雰囲気になってしまう。でも、勿論嫌じゃない。
「お味噌の汁……ですか?」
俺が鍋から人数分の味噌汁をお椀に装っていると、ひょっこりと不思議そうにミリアが顔を覗かせる。
恐らくミリアの頭の中では、味噌汁という名前から連想される、ただ単に〝味噌をお湯で溶いただけのスープ〟みたいなイメージでいるのだろう。
「ああ、味噌汁だ、米によく合うんだ。ミリアも食べてみてくれよ」
「は、はい。いただきます。あ、何か、凄く良い香りがします」
俺から味噌汁を受け取ると、くんくんと味噌汁の匂いを嗅ぐと、ミリアは顔を綻ばせる。
「ミリア、危険よ。こっちに来なさい」
そんなミリアと俺の間に身体を割って入って来たエメレアは、俺からミリアを遠ざけるようにする。
「なんだよ……ほれ、お前の分だ。後、一応言っとくが、もし要らなきゃ、そのままにしとけよ、俺が食うから」
と、俺がエメレアにも味噌汁を渡すと……
くんくん。
すんすん。
毒でも調べるかのように、恐る恐ると匂いを嗅ぎ、エメレアは次の瞬間、カッと目を大きく開ける。
「ま、まあ、せっかくだし……も、貰っておくわ!」
あれ……断られると思ってたんだがな?
良くても、毒見とか言って、クレハかミリアの分を一口飲むぐらいだと思ってた。ちょっと意外だな。
「な、何よ、返さないわよ」
くるっと、身体を半ターンし、エメレアは俺から受け取った味噌汁を庇うように持つ。
「……ん、あ、いや。ちょっと意外だったんでな? てっきり、毒見とか言い出すんじゃないかと思ってた」
「あなた、私を何だと思ってるのよ?」
うーん。エメレアかな。
「……あ、ほれ、クレハ、冷める前に食おうぜ」
そんなエメレアを横目に、俺はクレハと自分の分の味噌汁も装う。
「ちょっと、聞きなさいよ!」
「悪い悪い、今のは謝る。すまん」
まあ、毒見がどうのは完全に冤罪だしな。
「まあまあ、エメレアちゃん。ミリアも待ってるし、早く食べよ」
上手くクレハがエメレアを宥めてくれた。
ちなみにミリアは分かりやすく、お腹を空かせた様子で、両手で味噌汁を持ち、おにぎりや唐揚げを見ては、ふるふると首を振って食欲に抗っている。
「「「「いただきます!」」」」
手を合わせ、食事を摂り始めると、俺もクレハ達も4人揃って、味噌汁から食べ始める。
〝水仙味噌〟とか言う──この異世界産の味噌で作った味噌汁だから、味はどうなるかと思ったが……
よかった。普通に味噌汁だ。それに味噌自体の質も良かったみたいで味噌の風味やコクも強い。
この味噌は買って正解だったな。
「あ、美味しい♪ 私これ好き……あれ、でも、何で魔力が回復してくの? 味噌汁ってそうなの?」
隣に座るクレハから、そんな声が上がる。
(──ん? 魔力? 確かに言われてみれば、この味噌汁……味は普通に味噌汁だが、食べた後にボワッと魔力の回復するような感覚がある……)
クレハに貰って〝魔力回復薬〟を飲んだ事があるが、まさにその時の感覚と同じ感じだな。
急速に魔力が回復すると言うのは、元いた世界では感じた事の無い感覚だが──感覚的には全身がホッとするような、私的には結構気持ちの良い感覚だ。
「いや、味噌汁には、そんな驚き効果は無い筈だが……それとも味噌か? 水仙味噌ってのを使ったんだが、何か心当たりはあるか?」
「水仙味噌? ──ううん、私もそれ使った料理を他に食べた事あるけど、そんな効果は無かったよ」
てことは、素材は関係無いか。
(……確か、スキルに〝料理師〟とか言う、料理スキルがあったな? なんだっけ、あれ?)
気になった俺はスキル──〝天眼〟を使い、スキルでスキルの詳細を調べる。
・〝料理師〟
調理した料理に怪我や傷の回復効果。
(うわ、シンプル……てか、魔力関係ねぇし!)
てことは、あれか──?
俺のユニークスキルの〝異能〟の方の、魔法とかスキルを使った時に独自の追加効果が発動される方のやつか? その追加効果が〝調理した料理に魔力の回復効果〟だったって事になるのか。
後、不便な事に、スキル〝天眼〟だと、ユニークスキルの〝異能〟の追加効果の方は見られないんだよな。
理由としては、スキル〝天眼〟よりも、ユニークスキル〝異能〟の方が高位のスキルだからなのか〝魔法やスキルに独自の追加効果が付く〟という、漫画のあらすじみたいな初歩の初歩部分までは、それでも見れたのだが、それ以上の深い詳細までは見れなかった。
相手のスキルならともかく、自分のスキルなのにな、何で見れないんだよ。
「俺のスキルの〝料理師〟の効果で〝調理した料理に怪我や傷の回復効果〟が付くらしい。それに+ユニークスキルの〝異能〟の独自の追加効果で〝調理した料理に魔力の回復効果〟があるみたいだ」
ちなみに怪我や傷の回復効果に対して、誰も何も言わなかったのは、今は皆怪我とかしてなかったから、特に気づかなかったからだろう。
俺のユニークスキルの〝異能〟に関しては、こないだクレハと──そしてエメレアにも話してある。
「な、何それ……そんなこと聞いた事ないよ……」
おにぎりを片手に味噌汁を飲むがクレハ呟く。
「俺も初めて聞いた。元いた世界で料理作っても、こんな事にならなかったしな」
と、言いながら俺はおにぎりを口に運び、最初は普通におにぎりを味わい、最後は味噌汁で胃に流す。
やっぱ、おにぎりには味噌汁だよな。
クレハの握ってくれたおにぎりも絶品だ。
「相変わらず呑気だよね……別に嫌いじゃないけど」
そう言うと、クレハは少し顔を赤くし、おにぎりを口に運び、俺と同じく最後に味噌汁を飲むと、優しく「あ、本当だ。美味しい♪」と、微笑んでくれた。
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