上 下
116 / 350

第115話 ミリア・ハイルデートはミリアである36

しおりを挟む


 *

「──え……クレハ達、明日、帰っちゃうの……」

 明日、クレハ達は〝大都市エルクステン〟に帰ってしまうと聞いた私は、かなりのショックを受けた。

「うん、元々はシスティアお姉ちゃんの休日に、何処か出掛けるっていう話で、私達も付いて来てたから」

 その話を聞いていた、お父さんの冒険者仲間の人達からは「それなのに盗賊倒してたりしたのか」「騎士隊長って本当に大変なのね」とか声があがっている。

「う……そっか……そっか……そっか……」

 よく考えなくてもそうだ。クレハ達が他の街から来ていたのなら、長期滞在や移住でもしない限り、数日で帰ってしまうのは、当たり前だ。

「ねぇ、ミリア、騎士に興味無い?」

 ショボくれる私に、エメレアが質問してくる。

「騎士?」
「ええ、私も〝大都市エルクステン〟のギルド直属の騎士隊に所属してるの。システィア姉さんはそこの第8隊の騎士隊長よ。それに今度クレハもを受ける予定なのよ──私が見た所だと、ミリアは魔力が高いわ。今すぐにじゃないけど、試験も十分に受かる可能性があると思うわ。もしよければどうかしら?」

 今まで私は騎士になる何て、考えた事も無かった。

 でも、誰かを守りたい。強くなりたい。
 そんな思いが私の中にも、ある事に気づいた。

「……わ、私も騎士になりたい」

 気づいたら、私は声が漏れていた。

「待てミリア、本当にいいのか? それにエメレアも、騎士にどうとは、あまり簡単に言えることでは無いのだぞ? 勿論、危険が付きまとう」

 〝それでも本当に騎士になりたいのか?〟と、システィアは真剣な眼差しで、ミリアに問いかける。

「わ、私も誰かを守れるようになりたいです。それができるのが騎士なら、私は騎士になりたいです」

 力強い言葉だった。
 その言葉と、その時のミリアの目を見て、システィアはミリアの中に強い気持ちがあることを感じる。

「そうか、疑うようですまなかった。ならば私も、可能な限り応援しよう。何かあれば何でも聞いてくれ」

 そのシスティアお姉ちゃんの言葉を聞いて、皆もホッとし、お団子屋のおばちゃん達や、お父さんの冒険者仲間達も、その事を応援してくれる雰囲気だ。

「あ、でも、騎士の養成所とかあるけど……〝大都市エルクステン〟までは、ミリアここから通うの?」

 具体的な問題をクレハが質問する。

「あ……どうしよう……」

 ……全然考えてなかった。クレハ達と一緒という事と、騎士になるという事で頭がいっぱいだった。

「ミリア、よかったら家に来る? おばあちゃんと二人暮らしなんだけど……部屋もあるし、女の子同士だし、どうかな?」
「……え、でも……いいの……?」

「うん、エメレアちゃんやシスティアお姉ちゃんもよく泊まりに来たりするし、遠慮しないで」

 私は少しだけ考えた後、クレハの言葉に甘える事にする。

「じゃ、じゃあ、不束物ふつつかものですが、お、お願いします」
「はい、お願いします。じゃあ、決まりだね!」

 そうして私は、生まれてはじめて、この家を離れる事を決める。不思議と怖くない。
 自分でも驚くほど、すんなりと受け入れた。

 その後は、お父さんの冒険者仲間の人達とシスティアお姉ちゃんが、おばちゃん達を家まで送っていった。

 クレハとエメレアは今日は私の家に泊まった。
 システィアお姉ちゃんにも、一緒に泊まらないかと声をかけたが──予約してた街の宿を三人全員が当日にキャンセルをするのも、流石に悪いと言って、システィアお姉ちゃんは、街の宿に泊まるそうだ。

 そして、はじめての友達とのお泊まり、楽しくて、皆で少しばかり夜更かしをしてしまったけど、その日は、ぐっすりとよく寝れた。

 *

 ──翌日。

「結構、多くなっちゃった」

 ミリアは大きなリュックに荷物を纏める。

 そして手には、お父さんの形見の魔法の杖と、お母さんの形見になってしまった青く光る宝石──〝聖海せいかい青玉せいぎょく〟が握られている。

「うわぁ、綺麗だね。それに魔力の気配もあるね」
「うん、これはお母さんから貰って、杖はお父さんから貰ったの」

「そっか、じゃあ、それはもうミリアの宝物だね!」

 クレハがまるで自分の事のように嬉しそうに、そう言ってくれる。

「うん、私の宝物です──あ、あと、クレハ、この杖と青玉せいぎょくを、一緒にできるように加工できるようなお店、知らない?」
「〝エルクステン〟の街になら、いくつかそういう依頼も頼める武器屋があるよ、着いたら行ってみる?」

「あ、うん、行きたい、お願いします」

 こくこくと頷くミリア。

「クレハー、ミリアー、準備はいい?」

 もう外で待ってるエメレアが声をかけてくる。

「すぐ行くよ」
「わ、私も」

 そして家を出て、戸締りをする。

 よく考えたら、私は家の戸締まりは生まれて初めての経験だ。だって、敷地内にはタケシがいるから、怪しい人は入ってこれないのだから。

 それでも、私は、このお家への自分の気持ちの一区切りとして鍵をかけた。

 また必ず戻って来る。お墓参りにも頻繁ひんぱんに来る。

 だから寂しくない。

「後は、システィア姉さんと〝ルスサルペの街〟の入り口で、落ち合うだけね」
「あ、エメレアちゃん、待った──」

 と、クレハが指さす先には、家を出ると、ちょうど近くの空を通りかかったタケシに「行ってくるね!」と声をかけ手を振った後、家のすぐ隣にある、両親のお墓の前へとミリアがタッタッタと走って行く。

 そして、お墓の前で手を合わせ──

「お父さん、お母さん、行ってきます」

 しっかりと両親に〝行ってきます〟を伝える。


『『──いってらっしゃい!!』』


「……えっ……? お父さん、お母さん?」

 聞き間違えようの無い、ミリアの大好きな両親の声がしたような気がした。ごしごし、ごしごし。と、ミリアは目を擦る。
 だがもう一度、その場を見ても誰もその場にはいなかった。気のせいかな? と、ションボリするミリアの目に飛び込んできたのは、目をまん丸に見開き、口をポカーンと開けた──クレハとエメレアだった。

「クレハ、エメレア、ど、どうしたの!?」

「……エメレアちゃん……?」
「……ええ、ということはクレハも?」

 クレハとエメレアは同じものを見て、ミリアは声を聞いた。
 果たしてこれは見間違いや聞き間違いだったのだろうか? だが、3人とも背筋に冷たいものではなく、凄く温かい感覚を感じた。

 今の答え合わせは要らない。
 3人はそれ以上、言葉には出さなかった。

 代わりに一頻り笑った。嬉しそうに3人で。

 そしてミリアはクレハとエメレアと共に歩き出す。

 ドキドキする、新しい未来へ向かって──
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者に幼馴染で婚約者の彼女を寝取られたら、勇者のパーティーが仲間になった。~ただの村人だった青年は、魔術師、聖女、剣聖を仲間にして旅に出る~

霜月雹花
ファンタジー
田舎で住む少年ロイドには、幼馴染で婚約者のルネが居た。しかし、いつもの様に農作業をしていると、ルネから呼び出しを受けて付いて行くとルネの両親と勇者が居て、ルネは勇者と一緒になると告げられた。村人達もルネが勇者と一緒になれば村が有名になると思い上がり、ロイドを村から追い出した。。  ロイドはそんなルネや村人達の行動に心が折れ、村から近い湖で一人泣いていると、勇者の仲間である3人の女性がロイドの所へとやって来て、ロイドに向かって「一緒に旅に出ないか」と持ち掛けられた。  これは、勇者に幼馴染で婚約者を寝取られた少年が、勇者の仲間から誘われ、時に人助けをしたり、時に冒険をする。そんなお話である

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

王女に婚約破棄され実家の公爵家からは追放同然に辺境に追いやられたけれど、農業スキルで幸せに暮らしています。

克全
ファンタジー
ゆるふわの設定。戦術系スキルを得られなかったロディーは、王太女との婚約を破棄されただけでなく公爵家からも追放されてしまった。だが転生者であったロディーはいざという時に備えて着々と準備を整えていた。魔獣が何時現れてもおかしくない、とても危険な辺境に追いやられたロディーであったが、農民スキルをと前世の知識を使って無双していくのであった。

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

処理中です...