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第93話 ミリア・ハイルデートはミリアである14

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 ──ルスサルペの街 湖
  ハイルデート家 私有地・境界線付近──

「この線を越えなければ。ただ、本当に睨んで来るだけのようみたいですね……」

 足元の境界線と、空に浮かぶ青い竜を交互に見ながら、エルフのが小さく口を開く。

「フォルタニアちゃん、本当によかったのかの? あの団子屋の女将に任せてしまって? 湖には魔物も出る筈じゃが、あの女将に魔物と戦うような事ができるようには見えなかったがの?」

 次に、そのエルフのギルド職員に話しかけたのは、白髪頭で髭を生やし、少し色黒の筋肉質の60代ぐらいの男性──ギルド第2騎士隊長リーゼス・ロックだ。

「先程のお団子屋の女将さんの言ってる事に嘘はありませんでした。それにそういう危険な面も含めて、大丈夫と申していたと判断しています。それにそちらの──空竜の〝変異種ヴァルタリス〟でしたか? その竜は私達には近づいただけで、この臨戦態勢ですが……お団子屋の女将さんには、何も敵意を示していません。私達はこの竜と戦いに来たのではありませんし。いずれにせよ、今はお団子屋の女将さんを待つ他ありませんね」

 フォルタニアは、相手の言葉が嘘か本当かが分かる──スキル〝審判ジャッジ〟を使った、数十分前のお団子屋の女将さんとの会話を思い出しながら、リーゼスに返事を返す。

「なるほどの。すまんの、疑うような感じになってしもうて。断じて、フォルタニアちゃんを信用してないわけじゃ無いんじゃが……」

 フォルタニアが〝大都市エルクステン〟のギルドに来たのは──〝魔王ユガリガ〟の率いる魔王軍との〝魔王戦争〟の後である。

 フォルタニアのスキル〝審判ジャッジ〟──これは本当にフォルタニアが持つ、嘘か本当かを見抜き、暗示や濁すような言葉の真偽も判別ができる優秀なスキルであった。

 本人のみでの使用ならば、特に気にするわけでは無いのだが……もし、その情報をフォルタニアが、他者とするとなると、少しばかり話がややこしくなってくる。

 例えば、現在この場において、フォルタニアはこの場の者の嘘を、全て見抜く事ができるが……
 リーゼスを含め、他の者達は、もしフォルタニアが嘘を吐いても、その嘘を見抜くすべはない。

 言わば、これはフォルタニアが周りの人々達から、という、の上で、初めて成り立つ話だからだ。

 でないと、フォルタニアの気分次第で、嘘も本当もどうとでもなってしまう。それでは何の意味も無い。

 故に、今のフォルタニアとリーゼスは、出会って、一年経つか、経たないかぐらいの間柄であり……
 まだ、完全にリーゼスが、フォルタニアの言葉を、あます所無く100%の信用をできるか? と言えば、隊長というにも、少し難しい所であった。
 
「構いませんよ。むしろ、私などの為に、第2騎士隊長と隊の方から護衛に付いて貰えるとは少し驚きです。ロキ……ギルドマスターの差し金ですか?」
「そうじゃよ。わしらはギルドマスターから頼まれたんじゃ『フォルタニアさんを──次期、の彼女の護衛を是非によろしくお願いします』とな?」

「──!? ちょっと待ってください。副ギルドマスター? 何の話ですか、私、何も聞いてませんよ?」

 さらっと、吐かれたロキの思惑おもわくに、フォルタニアは焦った様子を見せる。ここで『本当ですか?』や『嘘ですよね?』みたいな確認を取らないのが、嘘が分かるスキルを持つフォルタニアである。

「おっと……これはギルドマスターに、まだ秘密にしてくれと言われていた事じゃったの。わい……」
「嘘ですね。リーゼス隊長。口は滑ってませんね」

 『ませんね?』では無く『ませんね』と言い張るのも、スキル〝審判ジャッジ〟があってこその物言いだ。

「正解じゃ。すまんの……」

 フォルタニアが言うとおり、今のは完全なリーゼスの駆け引きブラフであった。フォルタニアを少し試したのだ。

「謝るなら、ギルドマスターに謝った方がいいのではありませんか? 先程の最初の『まだ秘密にしてくれと言われてた事』の部分はと判断しますが──」

「──!!」

 その指摘にリーゼスは目を見開いて驚く。
 完全なる図星である。

 リーゼスは今の話は秘密にしてくれと、本当にロキギルドマスターに言われていたのだが、その言い付けをリーゼスは今さっき破ったのだ。

 このやり取りで、リーゼスは今後のフォルタニアへの信用度を大きく上方修正する事になるのだが……

 それと同時に、破ってしまったのお詫びに、この街で何か良い茶葉でも買って──後程、ロキに謝りに行こうと、リーゼスは心に決めるのだった。
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