92 / 378
第91話 ミリア・ハイルデートはミリアである12
しおりを挟む──6年前・大都市エルクステン
ギルドマスター室──
「フォルタニアさん、誰かの心臓の見分けってつきますか?」
ギルドマスター室にて、せっせと書類整理をこなすフォルタニアにロキは唐突に質問をする。
「急に何ですか? 少なくとも私にはできません」
予想外の質問に対し、少し書類整理の手が止まるが、直ぐにまた手を動かし始める。
「先日の〝魔王信仰〟の件。私が心臓の入った壺を持ち帰った時の話です。正確には、あれは魔王信仰の者を倒した方から任された物なのですが。その時、その魔王信仰を倒した方が5つの心臓を持ち帰りました」
ロキの話を、フォルタニアは作業を続けながら、何だかんだでしっかりと聞いている。ロキが魔王信仰を倒し、心臓の入った壺を持ち帰る事は以前もあったが、今回は何か気になる部分があったらしい。
「少し調べた所。ある冒険者パーティーの5名が、先日の〝魔王信仰〟の件で亡くなっています。そのパーティーは〝魔王信仰〟を倒した方の、旦那さんが所属しておりました。そしてその旦那さんは残念ながら先の件で亡くなっています」
「数と辻褄が合うという事ですか?」
「はい。もしそれを意図して持ち帰ったとしたら、彼女には心臓の見分けがついたのではと思いましてね」
「……だとしたら、相当の実力者ですね。ロキ、それでその話しに何の意味があるのですか?」
話の趣旨が見えないロキの話しに、痺れを切らしたフォルタニアが、率直に話の意図を聞き返す。
「いえ、深い意味はありませんが〝昨年の魔王戦争〟で〝魔王ユガリガ〟率いる魔王軍を相手に多大なる犠牲を伴い、幸運にも、何とか4人の魔王の1人を討ち取りましたが……ですが、人類が受けた被害はあまりにも大きかった──」
いつも通りの胡散臭い話し方だが、ロキは天井を仰ぎ、少し疲れた様子で話を続ける。
「国が6つと、それにあの〝中央連合王国アルカディア〟の八魔導士からも死者が出て、このギルドの第8隊長や各隊からも戦死者を出し、各国の兵士や冒険者や国民の死者は最早数える気も起きません」
「同意します。そういえばロキ? 今は第8隊の隊長は、システィアさんが引き継いでくれていますが〝中央連合王国アルカディア〟の八魔導士は何故、呼び方まで変わり、今は六魔導士になっているのですか?」
フォルタニアは、平たく言えばロキに『何故、人類の中心である国の八魔導士という、人類トップクラスの戦力を補充せずに、六魔導士と呼び名まで変えて、そのままの人数で存続させているのか?』と訪ねる。
「そこが難しいところでして……魔王戦争後のアルカディアでの会議には、私も出席しましたが〝王国魔導士団〟に関してだけは、抜けたから補充するみたいな事は避けると言う意見で一致してしまったんです〝王国魔導士団〟は強さは勿論ですが、内面も重視されますから、そう易々と後釜は見つかりませんね──簡単に言ってしまえば量より質と言うことです」
中央連合王国アルカディアの少数精鋭特殊部隊。
──○人の王国魔導士団。通称・○魔導士。
人類のトップクラスの実力者集団にして、
対する残り3つの魔王軍相手の人類最後の砦。
この部隊だけは、一定の強さや、人柄をクリアしなければ入ることは許されない。
それ故の強さと信頼度を誇るからこその、少数精鋭部隊なのだ。
「それに八魔導士だから八人いるのでは無く、その名に相応しい方々が八人いたから八魔導士なんです。呼び方なんて人数によっては、二魔導士でも百魔導士でもいくらでも変わりますよ?」
相応しい人物がいればその分いくらでも増えるし、逆に言えば、相応しい者がいなければ壊滅もあり得るという──結構シビアな部隊でもある。
「なるほど。現にアルカディアの〝王国魔導士団〟は人類からの支持は高いですね──となると、候補は大分狭まります。それに残念ながら、二つ名持ちの冒険者の方達も、先の戦いでおよそ半数が亡くなっています」
そのフォルタニアの視線の先には──冒険者登録の際に、冒険者達の血判を押して貰ってある、魔力を帯びた〝特殊な紙〟がある。
これは血判を押した者が亡くなると、薄茶色のこの紙全部が赤く染め上がるという、一種の安否確認の為に用られる魔道具である。
そして、そこに束になって置かれているその紙は、その一枚一枚がどれもが赤く染まっていた。
「ええ。ですから〝剣斎〟エルルカ・アーレヤスト様を最後に〝王国魔導士団〟は新たな人員は配置されていません──」
「〝剣斎〟エルルカ・アーレヤスト様。いつか私が直接お礼を申し上げなければいけない方ですね。是非とも顔を会わせる機会があればいいのですが……」
何か恩のような物ががある様子のフォルタニアだが──どちらかと言うと、そわそわした様子で、その顔は憧れのスターにでも会いたいみたいな表情だ。
「そうですね。ちょくちょくは〝エルクステン〟を訪れてるので、いつか会える時が来ると思いますよ」
優しく微笑むロキ。そして、フォルタニアは小さな声で「……はい」と少し恥ずかしそうに返事を返す。
「そ、それでロキ。その〝ルスサルペの街〟の付近で魔王信仰を討伐した方は、実力的には王国魔導士団への推薦等はどうなのですか? あの数の魔王信仰を軽々と倒すとなると、かなりの実力者で、聞いた話しからすると内面も問題ない方なのでは?」
「そうですね。実力的には問題ないでしょうが、本人がそれを望まないでしょう。それに彼女には、他に守るべきものがあるように見えました」
「そうですか……本人が望まない。そういった問題もあるのですね」
「ええ。ですが、時折見かけますね。急に現れる実力者達を。今回の彼女や、先の白獅子もその1人です。そんな方達が力を貸してくれればいいのですが……」
ロキは少し口籠った後に、改めて力強く口を開く。
「いえ、これからはそういった、今現在では人類の戦力に計算されていない大戦力。それこそ、お伽噺などにある──勇者のような方が現れない限り、このままでは、人類は近い未来に滅びると私は考えています」
ロキは一瞬だけ、とても険しい表情を見せる。
「ロキ……」
いつも胡散臭い笑顔では無く、真剣な表情で『このままでは人類は近い未来に滅びる』と言う、ロキの言葉に、何か励ませるように返せる言葉を、今のフォルタニアは、残念ながら持ち合わせていなかった──。
66
お気に入りに追加
539
あなたにおすすめの小説

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜
仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。
森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。
その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。
これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語
今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ!
競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。
まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる