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第88話 ミリア・ハイルデートはミリアである9

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 *

 ミリアが次に目を覚ますと、自宅のベッドの上であった。

 外は日が昇ってる。
 でも、天気は曇りのようだ。

(夢……あれは夢だったのかな……?)

 頭がズキズキする。
 それと喉と目の奥が凄く痛い。

「ミリア……目が覚めたのね……!」

 隣に寝ていたお母さんが「よかったぁ! 心配したのよ!」と抱き締めてくる。

「お母さん……お父さんは?」

 ミリアは夢であってほしいと願いながら、藁にもすがる思いで、ミトリに質問をする。

 お母さんは凄く困った顔をした後に、首を横に振りながら「ごめんね。本当にごめんね……」と凄く悲しそうな顔で謝る。お母さんは何も悪くないのに。

 私は昨日、あの後、ずっと、叫ぶように泣き続けて、そのまま気を失って倒れてしまったらしい。

「ミリアお腹空いてるでしょ? 何か食べましょ?」
「…………うん。でも、少しでいい」

 ミトリに言われて、ようやく自分が空腹だったという事に気づくと、ミリアは軽く自分のお腹を撫でる。

 お腹は空いてるけど全く食欲が湧かない。
 不思議で変な気持ちだ。

「ちょっと待っててね」
「やだ……」

 ミリアは反射的にミトリに答える。

「え……?」

 ミトリは聞き違いかと自身の耳を疑う。

 今までミリアはミトリの言葉を『やだ』等とハッキリと断った事は無い。むしろ、何かを断る時は、理由を添え、お願いをするように言える大人びた子だ。

「私も行く」
「だ、台所に行くだけよ?」

 コクンと小さくミリアは頷く。

 それは分かってる。でも、今のミリアはという行為が凄く嫌なのだ。身体全体が拒否している。

「分かったわ。行きましょ」

 ミリアはベッドから降り、ミトリと台所へ向かう。

「昨日、食べられなかったシチューでもいい?」
「……他のがいい」

 シチューの鍋を見つめながら、ミリアはふるふると首を横に振る。

 昨日の晩御飯に作ったメニューはシチューだった。

 そしてシチューはお父さんの大好物だった料理だ。

 昨日の件があって、ミトリもミリアも昨日の夜から何も食べておらず、昨日の晩御飯に作ったそのシチューも手付かずの状態で、そのまま残っていた。

 そのシチューを見て、そこからミリアは父親の姿を思い出し、また泣き出してしまう。

「ミリア……」

 そんな娘の姿を見てミトリは酷く心が痛む。

「お母さん。ごめんなさい──今は他のがいい……」

 くしくしと涙を拭うミリア。

「ミリアが謝る事なんて無いわ。何が食べたい? 直ぐに作るわ」

 気持ちを察したミトリはミリアを抱き締め、優しく頭を撫でながら、食べたいものを尋ねる。

「シチュー以外なら何でもいい」
「分かったわ。ちょっと待っててね」

 そう言いミトリは今ある材料で朝食を作り始める。

 本当は今日、街に買い出しに行くつもりだったので、今は家に食材があまり無い。

 だからと言って、湖で魚か何か獲ってきたり、今から街に何か買いに行く気分でも無い。

 ミトリは本当に有り合わせの物で、トースト、サラダ、目玉焼きを手早く作り、ミリアと2人でテーブルに並んで座って朝食を取る。

 ──そしてこの日が、ミリアが生まれて初めて、で朝食を食べなかった日となった。

 普段の昼食のほとんどは、トアは冒険者の仕事中。

 夕食はトアが冒険者仲間達と食事を済ませて帰る日があったので、ミトリと2人の時は何度かあった。

 でも、朝食だけは家族3人で食べていた。

 妙な違和感が食事中ずっと頭の中をよぎり、ミリアがに気づいたのは、朝食を食べ終え、空いた皿を片付け始めた時であった──。
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