87 / 350
第86話 ミリア・ハイルデートはミリアである7
しおりを挟む「ロキ・ラピスラズリ? 聞いた事のある名前ね。確か──〝英雄ロキ〟とか言うのは貴方の事ね?」
ミトリは警戒するタケシを〝待ちなさい〟と片手で合図しながから、ロキへそんな質問をする。
「英雄なんて呼ばれるほどの、何かの功績を成し遂げた記憶はありませんけどね……ですが、世間様が呼ぶ、その名前は私の事で間違いないと思いますよ?」
―ステータス―
【名前】 ロキ・ラピスラズリ
【種族】 半霊人
【年齢】 53
【性別】 男
【レベル】70
その隙に、ミトリはロキの〝ステータス画面〟をスキル──〝天眼〟を使い覗き見る。
(嘘では無いみたいね……〝半霊人〟ってのは始めて見たけど、別に今はそんな事はどうでもいいわ……)
「ギルドの援軍にしては少し早過ぎる気がするけども……それで、私に何か用かしら?」
「そうですね。結論から言いますと、私は正式にギルドから派遣された援軍と言うわけではありません」
淡々と話すミトリに対し、ロキは相変わらずの胡散臭い表情で話す。
「本当に偶然、この先の街からの帰りに寄った〝ルスサルペの街〟が何やら騒がしかったので、街の方々のお話を伺いこの辺りの様子を見に来た所、ちょうど貴方がここに居たと言うわけです」
とても胡散臭いが、ミトリにはロキが嘘を吐いているようにも、敵意があるようにも見えなかった。
「……そう。なら、後処理は任せていいかしら? それも貴方の仕事の内でしょう? ギルドマスターが、こんな場所まで来て、野次馬だ何て言わないわよね?」
少し嫌みったらしくミトリは告げながら、トアの心臓が入っている壺に視線を向ける。
その中には、トア以外の誰かの心臓も入っている。
正直な所、ミトリはトアの心臓。それと強いて言えば、トアの冒険者仲間の心臓以外に用は無かった。
だが、この中に〝魔王信仰〟に心臓を抜き取られた自分達と同じ境遇の者や、その者達の遺族の事を思うと、このまま放っとくのも些か気が引けた。
そこに、降って沸いたのがこのロキである。
立場的にも適任だろう。もしロキが拒んだとしても、ミトリはその場を立ち去るつもりだったが……
「分かりました。後は全てお任せください」
ロキは一切、顔色を変えず元々そのつもりで来たとばかりに、あっさり返事を返す。
「……」
ミトリはその対応を無言で見つめ、
「私は帰るわ。娘が待っているの」
そう告げて、壺からトアの心臓を両手で包み込むように抱えると体を翻す。
「迷惑で無ければ、こちらをお使いください」
立ち去るミトリに、ロキは何にとは言わず、いくつかの種類の袋を投げる。
「そのままだと驚かれてしまうでしょう?」
「……助かるわ」
ミトリは渡された袋の中の1つに、トアの心臓を大切に仕舞う。そして、残った他の袋には、スキル──〝天眼〟を使って判別した、トアの冒険者仲間の心臓を袋に仕舞い、それ以上は何も言わず、その場をタケシの背に乗り立ち去るのだった。
*
──〝ルスサルペの街〟お団子屋・花選──
そこには、お団子屋のおばちゃんに連れられ、何も言わずに椅子に腰かけるミリアの姿があった。
その表情はとても暗い。
「ミリアちゃん、何か食べるかい……?」
お団子屋のおばちゃんがミリアに話しかける。
だが、その顔や言葉は何処か辿々しい物だ。
ふるふるとミリアは首を横に振る。
「大丈夫です……何か食欲が無いので……」
小さな声だが、ミリアは噛まずに返答する。
ここ数年で、お団子屋のおばちゃんとは、ミリアは言葉を噛みながらも、あまり恥ずかしがらずに会話ができるようになっていた。それでも、ミリアが言葉を噛まずに返事を返すのは珍しい。
いつもは、自分に視線が集まったり、話しかけられると、必要以上に恥ずかしがったりだとか、テンパって慌ててしまう。
だが、今のミリアには、自分のそんな感情に気づく余裕が無く、頭の中が真っ白になっている。
そして、ミリアは感が良い。
だから、今起きてる事が何となく分かってしまう。
今、何故、自分の頭の中がこんなに真っ白なのか。
おばちゃんが何であんなに焦っていたのか。
お母さんが、何であんなに泣いて怒っていたのか。
それに、何でお父さんは今ここにいないのか。
──ただ、1つだけ分からない事がある。
あの時のお母さんは物凄く怒っていた。
そして、お母さんのあの目は奪われた何かを取り返しに行った目だ。私は、今までずっとお父さんやお母さんと一緒にいたから、些細な動作や視線や空気で、お父さんとお母さんの大体の気持ちは分かる。
でも、お母さんは何を取り返しに行ったのだろう?
それだけが、今の私には分からなかった。
46
お気に入りに追加
489
あなたにおすすめの小説
辺境の契約魔法師~スキルと知識で異世界改革~
有雲相三
ファンタジー
前世の知識を保持したまま転生した主人公。彼はアルフォンス=テイルフィラーと名付けられ、辺境伯の孫として生まれる。彼の父フィリップは辺境伯家の長男ではあるものの、魔法の才に恵まれず、弟ガリウスに家督を奪われようとしていた。そんな時、アルフォンスに多彩なスキルが宿っていることが発覚し、事態が大きく揺れ動く。己の利権保守の為にガリウスを推す貴族達。逆境の中、果たして主人公は父を当主に押し上げることは出来るのか。
主人公、アルフォンス=テイルフィラー。この世界で唯一の契約魔法師として、後に世界に名を馳せる一人の男の物語である。
勇者に幼馴染で婚約者の彼女を寝取られたら、勇者のパーティーが仲間になった。~ただの村人だった青年は、魔術師、聖女、剣聖を仲間にして旅に出る~
霜月雹花
ファンタジー
田舎で住む少年ロイドには、幼馴染で婚約者のルネが居た。しかし、いつもの様に農作業をしていると、ルネから呼び出しを受けて付いて行くとルネの両親と勇者が居て、ルネは勇者と一緒になると告げられた。村人達もルネが勇者と一緒になれば村が有名になると思い上がり、ロイドを村から追い出した。。
ロイドはそんなルネや村人達の行動に心が折れ、村から近い湖で一人泣いていると、勇者の仲間である3人の女性がロイドの所へとやって来て、ロイドに向かって「一緒に旅に出ないか」と持ち掛けられた。
これは、勇者に幼馴染で婚約者を寝取られた少年が、勇者の仲間から誘われ、時に人助けをしたり、時に冒険をする。そんなお話である
「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~
平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。
三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。
そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。
アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。
襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。
果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。
婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。
なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。
そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。
そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。
彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。
それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる