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第68話 浄化の結晶

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 つんつん。

 左半身に温かくて凄く柔らかな感覚がある。
 それと、朝っぱらから鼻孔を刺激する女の子特有のとてもいい匂い──そして、頬を指でつつかれるという……あまり記憶に無い感覚と共に俺は目を覚ます。

「んっ……ん……?」
「あ、起きた? ユキマサ君、おはよう」

 朝から元気なクレハが俺に挨拶する。

「ああ、おはよう……お休み……」

 朝が苦手な俺は、ボーっとする頭で、無意識にクレハを更に抱き締めながら──甘美なる二度寝に入る。

「──/// ちょ、ちょっと、ユキマサ君、お、起きて!」

 じたばたとするクレハだが、その動きのわりには、手足にあまり力を込めてる感じは無い。

 つんつん……

「……」

 つんつん……つんつん……

「…………」

 つんつん……つんつん……つんつん……

「……わ、分かった、起きる、起きるよ?」

 四度に渡る、左ほほへの優しい襲撃を受け──どうやら……これ以上は睡眠を取らしては貰えそうに無い俺は、しぶしぶながら起床を決意する。

「もー、おはよう。ユキマサ君、朝苦手だよね?」
「……お、よく分かったな?」

「後、やっと、寝惚ねぼけてるのも直ってきたみたいだね……」

 ──そして、ようやく俺は今の自身の体勢に気づく。

 これは、もう誰がどう見ても……俺がクレハを、両手で思いっきり抱き締めてしまっている状態だ。

 そして毎度の如く、クレハの柔らかい部分が、互いの服の上からながらも、余すこと無く触れる形になってしまっている。

「──!? わ、悪い……」

 今日も俺は朝から、寝る時の癖というか……寝相の悪さを炸裂させ、慌てて離れながらクレハに謝る。

(てか、俺、この異世界に来てから……毎日、同じ台詞で、1日1回はクレハに謝ってないか……?)

「べ、別に、ユキマサ君なら……いいんだけどさ……///」

 顔を赤くしたクレハは、ベッドから上体を起こしつつ、少し乱れたパジャマを軽く直す。

「……てか、いつもより起きるの早くないか?」
「あ、うん。今日はお弁当も作らなきゃだから、早めに起きたかったんだ」

(弁当か……何か、クレハと初めてあった時のおにぎりの事を思い出すな……)

「弁当って事は、どっか出掛けるのか?」

 あ、まあ、普通にお弁当持ちの可能性もあるが。

「うん。今日はミリアのお母さんのお墓参りの日なんだ──」

 *

 クレハの部屋から一足先に部屋を出た俺は、例の如く──〝アイテムストレージ〟を応用した早着替えで、寝巻きから私服に一瞬で着替える。

 ちなみに、クレハは部屋でお着替え中である。

 すると、朝から元気な声が聞こえてくる。

「──おはよう。ユキマサさん、よく眠れたかい?」

「ああ、おはよう。婆さんも早起きだな? クレハには、今日はミリアの母さんの墓参りだと聞いてるが、婆さんも行くのか?」

 すっかり病気も治り、元気なクレハの婆さんに俺は挨拶を返しながら、そんな質問をする。

「あたしは今日はギルドに少し呼ばれていてね。そっちに行かなきゃならないのよ……ごめんなさいね」

 本当に申し訳なさそうに婆さんは謝ってくる。

「いや、謝る必要は無いんだが。それにギルドに呼ばれてる? 確か、昔ギルドで教官をやってたとか聞いたが、復帰でもするのか?」

 何年前の話しかは知らないが、クレハの婆さんは元騎士で、騎士を引退した後は、ギルドの騎士の養成所で教官をしていたと聞いている。
 そこでシスティアもクレハの婆さんに色々と教わったりもしたらしい。

「ええ、まだ分からないけど、そんな感じの話かしらね? 軽くリーゼスにも頼まれてしまったからねぇ」

 リーゼスと言うと……あの色黒の爺さん──ギルドの〝第2騎士隊長〟リーゼス・ロックの事か? 

 婆さんの歳は知らないが、見た感じは歳も近いだろうし、それに婆さん元騎士隊にいたのだから、その2人に面識があっても何も不思議じゃ無いだろう。

「──あ、お婆ちゃん、起きてたんだ、おはよう!」

 そんな話を、婆さんとしてる間に、着替えを終えたクレハが部屋から出てくる。

「ええ、おはよう。クレハ」

 優しい顔で婆さんはクレハに挨拶を返す。

「あ、それと、ユキマサ君、パジャマ出してくれる? すぐに洗濯しちゃうから!」

 その手には、この〝異世界〟の生活必需品の何種類かある〝ウィータクリュスタル〟という〝魔道具マジックアイテム〟の1つである──菱形ひしがたの形をした、小さめのペットボトル程度のサイズの緑色の結晶──〝浄化の結晶ラヴェ・クリュスタル〟を持ったクレハに『洗濯物を出して』と言われる。

「あ、ああ……でも、これも自分でやるぞ?」
「もぉ、それぐらいは私がやるから早く出して」

 俺は、そんなクレハのお言葉に甘え〝アイテムストレージ〟から、を取り出し、クレハに渡す。

 それを受け取ったクレハは──〝浄化の結晶ラヴェ・クリュスタル〟に軽く魔力を込め、それを発動させると……薄っすらとした黄緑色の光が、俺の寝巻きを包み込む。

 ──そして待つこと、数秒……

「はい、洗濯完了!」

 と、クレハが俺の寝巻きを返してくる。

 なんと、これで、この異世界の洗濯は完了なのだ。

 最初に見た時は俺も驚いたが、この〝浄化の結晶ラヴェ・クリュスタル〟を使えば、このほんの数秒で……洗浄、殺菌、消臭等の洗濯の行程が全て完了するのである。

 それに聞いた話だと──例え、真っ白な洋服を小一時間ほどに漬け込んだ、真っ黒な〝洋服の醤油漬け〟なる物があったとしても、この〝浄化の結晶ラヴェ・クリュスタル〟を使えば、ほんの数秒で、汚れや匂いも完璧に取れて、元通りの白い服に戻るらしい。

 それに水も使わないので、乾かす手間も無く、本当に数秒で洗濯が終わる。

 〝元いた世界〟だと、よく母さんや理沙が悩んでいた──雨の日だとか、服に付いた染みが取れないだとかの、家事あるあるの悩みは、この〝異世界〟では、この緑色の結晶1つあれば、全てが解決なのである。

 あと、糞や尿と言ったも、数瞬でされてので〝異世界〟のトイレとかでも、これが使われている。

 洋風の便器の中に〝浄化の結晶ラヴェ・クリュスタル〟と〝火の結晶イグ・クリュスタル〟が置かれており、使用する前に〝浄化の結晶ラヴェ・クリュスタル〟を発動し、用を足すというシンプルな仕組みだ。
 ちなみに、火の結晶イグ・クリュスタルはトイレの際に使用した、ペーパー等を燃やす用で使う。

 勿論、無限に使えるわけでは無く〝浄化の結晶ラヴェ・クリュスタル〟は、1つで約Tシャツ1000枚分、トイレだと約500回程度を使うと──が無くなり〝魔物〟とかみたいに、ラグが走って消えて無くなってしまうらしい。

 だが、それでも十分以上に便利な品物だ。

 ……流石は魔法の世界だな。特に〝浄化の結晶ラヴェ・クリュスタル〟は、理沙が聞いたら『何これ、欲しい!』とか言って目をキラキラと輝かせる事だろう。

「ありがとう」
「うん、どういたしまして……///」

 クレハは毎日、俺の〝寝巻き〟と、今着ているアルテナに貰った〝和服〟を今みたいに洗濯してくれるのだが……洗濯した服を渡してくれる時に、クレハはいつもほんのりと顔を赤らめて、何処か嬉しそうな様子で渡してくるのは何故だろう……世話好きなのか?

「あらあら、仲良しさんだねぇ~」

 それを見た婆さんが『ふふ』と楽しそうに笑っていて、それを聞いたクレハが「お、お婆ちゃん!」と更に顔を赤くしながら、優しく抗議するのだった──。
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