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第56話 アイテムストレージ
しおりを挟むその後、あちらこちらの店を回り、俺は調理器具や食器に、布団や食材の他にも、生活に必要そうな物を大量に購入し〝アイテムストレージ〟にしまう。
食材も〝元いた世界〟にもあった物を始め、この〝異世界独自〟の見たこと無い奇妙な物や、目新しい物が沢山あり、かなりの量を購入してしまった。
……ちなみに調味料として、この世界にも味噌や醤油も売っていたので、勿論これらも購入した。
新鮮さもあり、俺は特に気にはならなかったが……
アトラの話だと、今日は比較的あまり品揃えは良くない方らしい。
当然、全部の店を回りきる時間も無かったので、今度またの機会にでも、見てまわればいいだろう。
(それに、クレハが『この街のことなら大体は分かるからいつでも聞いてね』って言ってたから、暇な時に、ゆっくり案内してもらえないか聞いてみるか)
「……コイツ、あれだけの数の物と量を、本当に全部〝アイテムストレージ〟にしまったのです」
その俺の様子を見て、アリスは唖然としている。
「お前も〝アイテムストレージ〟持ってたろ?」
「私のは〝アイテムストレージ(小)〟なので、収納数は今のところ2つが限界なのです。お前みたいに、そんな馬鹿スカと収納できる方がおかしいのです! もしかして、お前の〝アイテムストレージ〟は(大)だとか言わないのですよね?」
「いや、俺の〝アイテムストレージ〟は(大)だぞ?」
「……もう、驚いてはやらないのです」
プイッとアリスはそっぽを向いてしまう。
「──大丈夫だ、頼んでない。でも、確か、武器屋のレノンも〝アイテムストレージ(大)〟はかなり珍しいと言っていたな? あと昔の〝大商人〟がこのスキルを持っていたとか、持ってなかったとか?」
「お前はどれほど昔の話をしているのですか? ……それはフィップが生まれるより前の話なのです。しかもその〝大商人〟ですら〝アイテムストレージ〟にしまった食材が腐らないだなんて、ハチャメチャな効果は無かったのですよ?」
(確かクレハも〝アイテムストレージ〟に収納した食材が〝腐らなくなる〟何て効果は聞いたこと無いって言っていたな)
まあ、恐らく、これは俺の〝ユニークスキル〟の
──〝異能〟の恩恵だろう。
クレハとエメレアには軽く話したが……
俺の持つ〝ユニークスキル〟の〝異能〟──あらゆる能力や魔法、そしてスキルにも独自の〝追加効果〟が発生する。
つまり、俺の使った魔法やスキルには、通常ではあり得ない筈の〝独自効果〟が追加されているみたいだ。
この異世界でも普通は〝回復魔法〟では治せない筈の病気が俺の〝回復魔法〟で治す事ができたのは──この〝ユニークスキル〟の〝異能〟による独自効果が追加された事による物だ。
そして今回の〝アイテムストレージ(大)〟のスキルへの〝追加効果〟は多分は──〝収納した食材が腐らない〟みたいな感じだろう。
いや、正確には、腐らない理由が何なのかが分からないから、まだハッキリとは言えないが……
──例えば──
・ストレージ内は真空的な状態であり食材が腐らない。
って、のと……
・実はストレージ内は時間が止まっている。
って、のじゃ、食材が腐らないという結果は同じでも、それまでの過程の能力の度合いが全然違うし、他への応用もまるで違う形になるからな。
(まあ、これも、暇な時にでも色々試したりして、確認してみるか……)
──俺の〝アイテムストレージ〟のスキルで、
確実なのは今の所……
・収納数に制限は特に無い。
・収納した食材は腐らない。
・自身の持ち物なら瞬時に出し入れが可能。
・生きてる物は収納できない。(死体は可能)
という、この四点だ。
十二分に便利なスキルだ。
グッバイ、賞味期限。
「──その食材が腐らないとかも、もしそれがマジな話なら、お前がいれば各国の流通は勿論だが、軽い食料問題なら解決すんじゃねぇのか?」
日が傾き夜に近づくに連れて、何だか生き生きとしてきているフィップが、割りと現実的な問題の解決策を言い出す。
「てか、こいつは本当に何なのです? 昼間に会った顔を隠した白い服の娘もそうですが……この都市には、こんな得体の知れないのが、そこら辺をうようよと闊歩してるのですか?」
(白い服の娘。ノアのことか……)
「いや、お嬢、流石にそれはねぇよ。さっきの白いのもそうだが、こんなのがそこらをうようよと闊歩してる都市なら、夜のあたしでも守りきるどころか、お嬢一人抱えて逃げ切きれるかも怪しいぜ?」
俺をこんなのと言いながら指をさすフィップ。
(てか『夜のあたし』って事は、やっぱ吸血鬼は夜のが強いんだな……これも覚えておこう)
「まあ、でも、この都市には、あの白いのとこれの他にも〝大聖女〟だとか〝英雄ロキ〟までいるんだったな……まあ、そこら辺なら敵対は無いと思うが……一応、警戒レベルはあげとくか……」
「英雄ロキ? ロキって、ギルドマスターのあのロキか?」
「ん、他に誰がいんだよ?」
どうやら、あのロキらしい。
あの胡散臭いの……英雄だったのか?
「……そんな事より、ユキマサ。お前は冒険者なんて辞めて私達の国に来るのです。今日、私がいるのにもかかわらず、魔法を吹っ飛ばして来たそこのピンクよりは、手厚く迎えてやるのですよ?」
(そういや『減給なのです』とか言ってたな?)
「い、いや、お嬢、だからそれは……悪かったって……それに、ユキマサの件はあたしも賛成だが──でも、お嬢はあたしのだからな? 嫁にはやらねぇぞ……?」
フィップは最後の方の言葉には、今日イチの殺気を放ちながら、俺を睨んでくる。
「だ、だれが、嫁だの、婿だの、話をしたのですか!」
顔を赤くし怒るアリスを見て……
「あ~、やっぱアリスちゃん王女様、かわい~です~! ね、ハトラ~!」
と、アトラは自身の左手の甲に乗る、鳩のハトラに幸せそうに話しかける。
「気持ちはありがたいが、アリスの国でも、兵士だの執事だの、何だのでも働くつもりは無い。悪いな」
アルテナとの魔王を倒すって言う先約もあるしな。
──とにかく、まずはそれを片付けてからだ。
「むぅ……」
俺の返事に納得いかないアリスは膨れっ面だ。
「あ、じゃあ、私の家の料理屋〝ハラゴシラエ〟で働きませんか? 今、家は何と、前代未聞の人手不足に見舞われてるんです! まかないは、朝昼晩3食付きで、それに今なら恐らくは〝極めてややかなり厳しめ〟ぐらいの難易度と言っても差し支え無い筈の──〝女将さん面接〟に合格すれば、もれなく住み込みも可能で、シャワーも付いて来ますよ!」
このタイミングで、飲食店の店員募集を始めたアトラを見て、アリスとフィップはポカーンとしながら、目をパチクリしてアトラの話を聞いている。
だが、熱烈なアトラの勧誘は止まらない──!
「それに、フウラちゃんを始め、住み込みの従業員の皆さんは凄く仲がいいんですよ! あと、月に1回は夜中に──〝減給覚悟! 女将さんの部屋の前を片足ケンケンで往復チャレンジ!! ボコりもあるよ! ~Let's、人類の肝試し大会~〟とかも、秘密裏に開催されてます! 優勝者には、もれなく翌日のまかないのデザートを総取りですよ!」
(ボコりもあるのか?)
まあ、夜中にそんな企画で、部屋の外を片足ケンケンで歩き回られて起こされたら、そりゃキレてもおかしく無いよな……
「あ、ちなみに私は優勝経験ゼロです! むしろ女将さんに途中で見つかってしまい、翌日は罰として、休憩中の時間も〝床の雑巾がけ〟を午前、午後の1日で計2回を命じられました……で、でも、すごく良いお店ですよ!」
何故か自信満々に勧誘してくるアトラは──〝皆の応募待ってるぜ!〟とばかりに、最後はキメ顔でガッツポーズ。
それをアリス達は、先程から変わらず……時が止まったかのように、ポカーンと口を半開きで眺めてる。
「あー……うーん……そうだな……よし……止めとくよ」
長々と説明してくれたアトラには悪い気がしたが、俺は少しだけ考える仕草をした後に断りをいれる。
「ガーン! な、何故ですか!? うぅ……今日は色々と断られる日です……はッ──! でも、私にはハトラがいました! やっぱり今日は良い日です!」
「あたし、この嬢ちゃんのメンタル中々好きだぜ?」
どうやらフィップはアトラを気に入ったみたいだ。
「そーいや、アトラ? そのハト……ハトラを飼う許可とか女将さんに貰わなくてもいいのか?」
と、ふと思った疑問を投げると……
「──え……? …………ハッ!!!!」
最初は質問の意味が理解できてない顔をし、その後、少しの時間の差で目を見開き、今その事に漸く気づいたらしく、驚愕の表情を浮かべるアトラの顔はみるみると青ざめていく。
(だから、どんだけ女将さん怖いんだよ……? てか、やっぱりそれ考えてなかったのか?)
「ど、ど、ど、ど、どうしましょう!? 女将さんに何の相談も無くハトラを〝テイム〟までして、飼うことを勝手に決めたのがバレたりしたら、タダでは済みませんよ! 私とハトラのピンチです、ユキマサさん助けてください!」
ガタガタと震えながらアトラは俺に懇願してくる……
「助けるって、俺にどうしろってんだ?」
そしてよく見ると鳩のハトラは、パタパタとその白い翼でアトラを〝落ち着いて〟みたいな感じで宥めている。
そしてこれも心無しか、何処か申しなさげに『くるっぽ……』とショボくれてるように見える。
「も、もし私が女将さんに追い出されたら、ユキマサさん、ほとぼりが冷めるまで、私を拾ってください! あ、ハトラも一緒です!」
「いや、俺はクレハの家に居候の身なんだが……? まあ、それはもしお前が追い出されてから考えろよ?」
女将さんも別に追い出しはしないと思うが……
まあ、怒りはするかもしれないけどさ?
「わ、分かりました。……て、えぇ! ユキマサさんはクレハさんと同棲してたんですか!? ビックリです! でも、ちょっと羨ましいです……!」
アトラは目を見開いて驚いた後に、少し顔を赤くし、ムーと小さくムクれている。
(ホント、女子からもクレハは大人気だな……)
「あと、別に変にやましい事は無いからな?」
「何だ、恋人いたのか? 確かに、よく見るとムッツリそうだしな、お前……?」
へぇ? と、ニヤリと笑いフィップが絡んでくる。
この酔っぱらい吸血鬼め……
「いや、そういうんでも無いんだが……ヒュドラの件の後……街の宿が空いてなくてな、1日泊めて貰ったんだ。それで……まあ、その後も色々あって、そのまま住ませて貰ってる。俺も行く宛も無かったしな……」
「なるほど、そうだったんですね!」
あっさり納得するアトラ。
「まあ、クレハやクレハの婆さんの好意に完全に甘えてる形になるがな──さっきも言ったが、別に変にやましい事とかは無いからな? おい、フィップ、ニヤニヤしてんじゃねぇよ!」
……まあ、一緒の布団で寝たりとか、寝相で抱き付く形になったりとかはあったけどさ?
それでも、変な……というか……
所謂──そういう事はしてない。
「へぇ、まあ、信じといてやるよ?」
ケラケラとフィップは楽しげに笑う。
「……そりゃどうも。あと、そろそろギルド戻るがいいか?」
「あたしは構わないぜ? それなりに楽しめたしな」
「私も買いたい物は買えたので今日は満足なのです」
実はアリスは、俺が買い物の最中に偶然見つけた〝鬼唐辛子〟と〝悪魔唐辛子〟をご機嫌で購入していた。
ちなみにアリスが直接買いに行くと、まず店員に止められるのでフィップに買わせていた。
そして大好物である辛い物の〝鬼唐辛子〟と〝悪魔唐辛子〟を買えた、アリスちゃん王女様は、ルンルン気分でご満悦な様子なのである。
「あ、私もそろそろ仕事になるので賛成です!」
皆の確認も取れたので、
俺達はギルドに戻る事にする。
俺も結構色々と買っちまったが。まあ、魔王討伐の買い出しとしては、最初はこんなもんだろう──。
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