上 下
57 / 350

第56話 アイテムストレージ

しおりを挟む


 その後、あちらこちらの店を回り、俺は調理器具や食器に、布団や食材の他にも、生活に必要そうな物を大量に購入し〝アイテムストレージ〟にしまう。

 食材も〝元いた世界〟にもあった物を始め、この〝異世界独自〟の見たこと無い奇妙な物や、目新しい物が沢山あり、かなりの量を購入してしまった。

 ……ちなみに調味料として、この世界にも味噌や醤油も売っていたので、勿論これらも購入した。

 新鮮さもあり、俺は特に気にはならなかったが……
 アトラの話だと、今日は比較的あまり品揃えは良くない方らしい。

 当然、全部の店を回りきる時間も無かったので、今度またの機会にでも、見てまわればいいだろう。

(それに、クレハが『この街のことなら大体は分かるからいつでも聞いてね』って言ってたから、暇な時に、ゆっくり案内してもらえないか聞いてみるか)

「……コイツ、あれだけの数の物と量を、本当に全部〝アイテムストレージ〟にしまったのです」

 その俺の様子を見て、アリスは唖然としている。

「お前も〝アイテムストレージ〟持ってたろ?」

「私のは〝アイテムストレージ(小)〟なので、収納数は今のところが限界なのです。お前みたいに、そんな馬鹿スカと収納できる方がおかしいのです! もしかして、お前の〝アイテムストレージ〟は(大)だとか言わないのですよね?」

「いや、俺の〝アイテムストレージ〟は(大)だぞ?」
「……もう、驚いてはやらないのです」

 プイッとアリスはそっぽを向いてしまう。

「──大丈夫だ、頼んでない。でも、確か、武器屋のレノンも〝アイテムストレージ(大)〟はかなり珍しいと言っていたな? あと昔の〝大商人〟がこのスキルを持っていたとか、持ってなかったとか?」

「お前はどれほど昔の話をしているのですか? ……それはフィップが生まれるより前の話なのです。しかもその〝大商人〟ですら〝アイテムストレージ〟にしまった食材がだなんて、ハチャメチャな効果は無かったのですよ?」

(確かクレハも〝アイテムストレージ〟に収納した食材が〝腐らなくなる〟何て効果は聞いたこと無いって言っていたな)

 まあ、恐らく、これは俺の〝ユニークスキル〟の
 ──〝異能いのう〟の恩恵だろう。

 クレハとエメレアには軽く話したが……
 俺の持つ〝ユニークスキル〟の〝異能〟──あらゆる能力や魔法、そしてスキルにも〝追加効果〟が発生する。

 つまり、俺の使った魔法やスキルには、通常では筈の〝独自効果〟が追加されているみたいだ。

 この異世界でも普通は〝回復魔法〟では治せない筈のが俺の〝回復魔法〟で治す事ができたのは──この〝ユニークスキル〟の〝異能〟によるが追加された事による物だ。

 そして今回の〝アイテムストレージ(大)〟のスキルへの〝追加効果〟は多分は──〝収納した食材が腐らない〟みたいな感じだろう。

 いや、正確には、腐らないが何なのかが分からないから、まだハッキリとは言えないが……

 ──例えば──
・ストレージ内は的な状態であり食材が腐らない。
 って、のと……
・実はストレージ内は時間が止まっている。
 って、のじゃ、食材が腐らないというは同じでも、それまでの過程の能力の度合いが全然違うし、他への応用もまるで違う形になるからな。

(まあ、これも、暇な時にでも色々試したりして、確認してみるか……)

 ──俺の〝アイテムストレージ〟のスキルで、
 確実なのは今の所……
 ・収納数に制限は特に無い。
 ・収納した食材は腐らない。
 ・自身の持ち物なら瞬時に出し入れが可能。
 ・生きてる物は収納できない。(死体は可能)
 という、この四点だ。

 十二分に便利なスキルだ。
 グッバイ、賞味期限。

「──その食材が腐らないとかも、もしそれがマジな話なら、お前がいれば各国の流通は勿論だが、軽い食料問題なら解決すんじゃねぇのか?」

 日が傾き夜に近づくに連れて、何だか生き生きとしてきているフィップが、割りと現実的な問題の解決策を言い出す。

「てか、こいつは本当に何なのです? 昼間に会った顔を隠した白い服のむすめもそうですが……この都市には、こんな得体の知れないのが、そこら辺をうようよと闊歩してるのですか?」

(白い服の娘。ノアのことか……)

「いや、お嬢、流石にそれはねぇよ。さっきの白いのもそうだが、こんなのがそこらをうようよと闊歩してる都市なら、のあたしでも守りきるどころか、お嬢一人抱えて逃げ切きれるかも怪しいぜ?」

 俺をこんなのと言いながら指をさすフィップ。

(てか『夜のあたし』って事は、やっぱ吸血鬼は夜のが強いんだな……これも覚えておこう)

「まあ、でも、この都市には、あの白いのとの他にも〝大聖女〟だとか〝英雄ロキ〟までいるんだったな……まあ、そこら辺なら敵対は無いと思うが……一応、警戒レベルはあげとくか……」

「英雄ロキ? ロキって、ギルドマスターのあのロキか?」
「ん、他に誰がいんだよ?」

 どうやら、あのロキらしい。
 あの胡散臭いの……英雄だったのか?

「……そんな事より、ユキマサ。お前は冒険者なんて辞めて私達の国に来るのです。今日、私がいるのにもかかわらず、魔法をっ飛ばして来たそこのピンクよりは、手厚く迎えてやるのですよ?」

(そういや『減給なのです』とか言ってたな?)

「い、いや、お嬢、だからそれは……悪かったって……それに、ユキマサの件はあたしも賛成だが──でも、お嬢はあたしのだからな? 嫁にはやらねぇぞ……?」

 フィップは最後の方の言葉には、今日イチの殺気を放ちながら、俺を睨んでくる。

「だ、だれが、嫁だの、婿だの、話をしたのですか!」

 顔を赤くし怒るアリスを見て……

「あ~、やっぱアリスちゃん王女様、かわい~です~! ね、ハトラ~!」

 と、アトラは自身の左手の甲に乗る、のハトラに幸せそうに話しかける。

「気持ちはありがたいが、アリスの国でも、兵士だの執事だの、何だのでも働くつもりは無い。悪いな」

 アルテナとの魔王を倒すって言うもあるしな。
 ──とにかく、まずはそれを片付けてからだ。

「むぅ……」

 俺の返事に納得いかないアリスはふくれっ面だ。

「あ、じゃあ、私の家の料理屋〝ハラゴシラエ〟で働きませんか? 今、うちは何と、前代未聞の人手不足に見舞われてるんです! まかないは、朝昼晩3食付きで、それに今なら恐らくは〝極めてややかなり厳しめ〟ぐらいの難易度と言っても差し支え無い筈の──〝女将おばさん面接〟に合格すれば、もれなく住み込みも可能で、シャワーも付いて来ますよ!」

 このタイミングで、飲食店の店員募集を始めたアトラを見て、アリスとフィップはとしながら、目をパチクリしてアトラの話を聞いている。

 だが、熱烈ねつれつなアトラの勧誘は止まらない──!

「それに、フウラちゃんを始め、住み込みの従業員の皆さんは凄く仲がいいんですよ! あと、月に1回は夜中に──〝減給覚悟! 女将さんの部屋の前を片足ケンケンで往復チャレンジ!! ボコりもあるよ! ~Let'sレッツ、人類の肝試し大会~〟とかも、秘密裏ひみつりに開催されてます! 優勝者には、もれなく翌日のまかないのデザートを総取りですよ!」

(ボコりもあるのか?)

 まあ、夜中にそんな企画で、部屋の外を片足ケンケンで歩き回られて起こされたら、そりゃキレてもおかしく無いよな……

「あ、ちなみに私は優勝経験ゼロです! むしろ女将おばさんに途中で見つかってしまい、翌日は罰として、休憩中の時間も〝床の雑巾がけ〟を午前、午後の1日で計2回を命じられました……で、でも、すごく良いお店ですよ!」

 何故か自信満々に勧誘してくるアトラは──〝皆の応募待ってるぜ!〟とばかりに、最後はキメ顔でガッツポーズ。

 それをアリス達は、先程から変わらず……時が止まったかのように、ポカーンと口を半開きで眺めてる。

「あー……うーん……そうだな……よし……止めとくよ」

 長々と説明してくれたアトラには悪い気がしたが、俺は少しだけ考える仕草をした後に断りをいれる。

「ガーン! な、何故ですか!? うぅ……今日は色々と断られる日です……はッ──! でも、私にはハトラがいました! やっぱり今日は良い日です!」
「あたし、この嬢ちゃんのメンタル中々好きだぜ?」

 どうやらフィップはアトラを気に入ったみたいだ。

「そーいや、アトラ? そのハト……ハトラを飼う許可とか女将さんに貰わなくてもいいのか?」

 と、ふと思った疑問を投げると……

「──え……? …………ハッ!!!!」

 最初は質問の意味が理解できてない顔をし、その後、少しの時間の差で目を見開き、今その事にようやく気づいたらしく、驚愕の表情を浮かべるアトラの顔はみるみると青ざめていく。

(だから、どんだけ女将さん怖いんだよ……? てか、やっぱり考えてなかったのか?)

「ど、ど、ど、ど、どうしましょう!? 女将おばさんに何の相談も無くハトラを〝テイム〟までして、飼うことを勝手に決めたのがバレたりしたら、タダでは済みませんよ! 私とハトラのピンチです、ユキマサさん助けてください!」

 ガタガタと震えながらアトラは俺に懇願してくる……

「助けるって、俺にどうしろってんだ?」

 そしてよく見ると鳩のハトラは、パタパタとその白い翼でアトラを〝落ち着いて〟みたいな感じで宥めている。

 そしてこれも心無しか、何処か申しなさげに『くるっぽ……』とショボくれてるように見える。

「も、もし私が女将おばさんに追い出されたら、ユキマサさん、ほとぼりが冷めるまで、私を拾ってください! あ、ハトラも一緒です!」

「いや、俺はクレハの家に居候の身なんだが……? まあ、それはもしお前が追い出されてから考えろよ?」

 女将さんも別に追い出しはしないと思うが……
 まあ、怒りはするかもしれないけどさ?

「わ、分かりました。……て、えぇ! ユキマサさんはクレハさんと同棲してたんですか!? ビックリです! でも、ちょっと羨ましいです……!」

 アトラは目を見開いて驚いた後に、少し顔を赤くし、ムーと小さくムクれている。

(ホント、女子からもクレハは大人気だな……)

「あと、別に変にやましい事は無いからな?」
「何だ、恋人いたのか? 確かに、よく見るとムッツリそうだしな、お前……?」

 へぇ? と、ニヤリと笑いフィップが絡んでくる。

 この酔っぱらい吸血鬼め……

「いや、そういうんでも無いんだが……ヒュドラの件の後……街の宿が空いてなくてな、1日泊めて貰ったんだ。それで……まあ、その後も色々あって、そのまま住ませて貰ってる。俺も行く宛も無かったしな……」

「なるほど、そうだったんですね!」

 あっさり納得するアトラ。

「まあ、クレハやクレハの婆さんの好意に完全に甘えてる形になるがな──さっきも言ったが、別に変にやましい事とかは無いからな? おい、フィップ、ニヤニヤしてんじゃねぇよ!」

 ……まあ、一緒の布団で寝たりとか、寝相で抱き付く形になったりとかはあったけどさ?

 それでも、変な……というか……
 所謂──はしてない。

「へぇ、まあ、信じといてやるよ?」

 ケラケラとフィップは楽しげに笑う。
 
「……そりゃどうも。あと、そろそろギルド戻るがいいか?」

「あたしは構わないぜ? それなりに楽しめたしな」
「私も買いたい物は買えたので今日は満足なのです」

 実はアリスは、俺が買い物の最中に偶然見つけた〝鬼唐辛子〟と〝悪魔デビル唐辛子〟をご機嫌で購入していた。

 ちなみにアリスが直接買いに行くと、まず店員にのでフィップに買わせていた。

 そして大好物である辛い物の〝鬼唐辛子〟と〝悪魔デビル唐辛子〟を買えた、アリスちゃん王女様は、ルンルン気分でご満悦な様子なのである。

「あ、私もそろそろ仕事になるので賛成です!」

 皆の確認も取れたので、
 俺達はギルドに戻る事にする。

 俺も結構色々と買っちまったが。まあ、魔王討伐の買い出しとしては、最初はこんなもんだろう──。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。

なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。 そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。 そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。 彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。 それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

王女に婚約破棄され実家の公爵家からは追放同然に辺境に追いやられたけれど、農業スキルで幸せに暮らしています。

克全
ファンタジー
ゆるふわの設定。戦術系スキルを得られなかったロディーは、王太女との婚約を破棄されただけでなく公爵家からも追放されてしまった。だが転生者であったロディーはいざという時に備えて着々と準備を整えていた。魔獣が何時現れてもおかしくない、とても危険な辺境に追いやられたロディーであったが、農民スキルをと前世の知識を使って無双していくのであった。

死んで全ての凶運を使い果たした俺は異世界では強運しか残ってなかったみたいです。〜最強スキルと強運で異世界を無双します!〜

猫パンチ
ファンタジー
主人公、音峰 蓮(おとみね れん)はとてつもなく不幸な男だった。 ある日、とんでもない死に方をしたレンは気づくと神の世界にいた。 そこには創造神がいて、レンの余りの不運な死に方に同情し、異世界転生を提案する。 それを大いに喜び、快諾したレンは創造神にスキルをもらうことになる。 ただし、スキルは選べず運のみが頼り。 しかし、死んだ時に凶運を使い果たしたレンは強運の力で次々と最強スキルを引いてしまう。 それは創造神ですら引くほどのスキルだらけで・・・ そして、レンは最強スキルと強運で異世界を無双してゆく・・・。

とある婚約破棄の顛末

瀬織董李
ファンタジー
男爵令嬢に入れあげ生徒会の仕事を疎かにした挙げ句、婚約者の公爵令嬢に婚約破棄を告げた王太子。 あっさりと受け入れられて拍子抜けするが、それには理由があった。 まあ、なおざりにされたら心は離れるよね。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...