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第53話 号外

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「遅いのです……」

 俺達が席に付くと〝リッチ熊のぬいぐるみ〟を抱えたアリスが、とても不機嫌な様子で待っていた。

「待たせたな? 悪かったよ」

 俺は素直にアリスに謝っておく。
 理由はどうであれ、待たせてしまったのは事実だ。

「チッ、本当に無駄な時間だ。殺すなら殺すで、さっさと片付けちまえばよかったろ? あの手の馬鹿はあたしは好かん。今後──万が一にも、あたしのお嬢に怪我でもさせたらどうするつもりだ?」

 ドカッと、椅子に腰掛けながら、物騒な事を言うフィップは引き続きキレ気味である。

(……そういや、アリスが〝魔王信仰〟に襲われた時も、容赦なくフィップは敵の首を跳ねていたな?)

 てか、こいつ、アリス大好きだろ? 

 仕事だから云々とかでは無く、純粋にアリスを大事にしてる感じが、ひしひしと伝わってくるんだよな……

「待つのです。いつ誰がお前の者になったのですか!」
 すかさず、突っ込むアリスに、
「──ッ、言葉のあやだよ……」
 と、ちょっと言葉に詰まるフィップ。

 まあ、話しはそこそこに……俺達は小腹も空いてきたので、それぞれ料理を注文する。

 アリスはこの店で一番辛い物。
 アトラはパスタ。
 俺は米を使った料理。
 フィップは酒とつまみを適当に。

 と、見事に全員バラバラな物を注文する。

 俺達のさっきのやり取りを見ていたらしい……奥から出てきた店員は緊張した様子で注文を取ると「すぐにお持ちします!」とダッシュでこの場を去って行く。

「それで、そこの女は誰なのですか?」

 いつの間にか同じテーブルに付き、料理の注文を済ませた、俺の隣に座るアトラにアリスが声を向ける。

「コイツか? コイツはアトラだ」
「……え、以上ですか!? 何か私の紹介、雑すぎはしませんか!?」

 わーわーと、納得がいかない様子のアトラ。

「そういや、お前何で〝給仕服ウェイトレス〟姿なんだよ?」

「あ、これですか? 今日は何かこの姿で出歩きたい気分だったんです。あ、仕事は夜からですよ!」

「こいつの頭の中は花でも咲いてるのですか?」

「え、そう見えますか? 聞きましたか、ユキマサさん、私、お花みたいって言われましたよ!」

 アリスに馬鹿にされた事に気づかないアトラは、嬉そうに「誉められました~♪」と喜んでいる。

「あ、というか、ユキマサさん、このとっても可愛い黒い女の子は誰ですか? ていうか、本当に可愛いです! 撫でていいですか!?」

「そこの、熊のぬいぐるみを抱えたゴスロリロリッ子はアリス。確か〝アーデルハイト王国〟の王女様だった筈だ──」

 ぴたッ……とアトラの動きが止まる。

「あ、アーデルハイト王国の、お、王女様ですか!? そ、そんな……! 可愛くて、その上、偉いだ何て反則ですよ! でも、何でこんな所に? 護衛は……はッ……とんでもない有名な方がいましたね!」

 ……気づいてなかったのか? まあ、俺も勿論、最初は気づいてなかったけど。あまり、王女アリスの方は有名じゃないというか、顔は知られてないのか?

「お嬢は〝王位継承権〟も〝第一位〟の正真正銘のお姫様だ。あまり気安く触れるなよ? てか、あたしだって最近は撫でれて無いんだぞ……」

 フィップは先に運ばれてきた──
(ワインか? あれ?)
 赤い酒をグラスに注ぎ、ぐびッと飲みながらアトラを軽く睨む。てか、やっぱ、お前アリス大好きだろ?

「ほえぇ……てっきり、ユキマサさんと〝桃色の鬼ロサラルフ〟さんの子供かと思いましたよ……よかった、クレハさんにどうお話しようかと、内心ヒヤヒヤしてましたよ……」

「おい、何で、そうなるんだよ? それに俺はまだ16だぞ? こんな年の子供がいるわけないだろ?」

「いや、ほら、ユキマサさんモテそうなんで……何て言うか、あはは……それにフィップさんめちゃくちゃ美人じゃないですか! あれ、ていうかユキマサさん16歳だったんですかッ!?」

「──へぇ、このむすめ、意外に口が上手いじゃねぇか? てか、ユキマサ、お前……16歳だったのか? あはは、最近の若いのは頼もしいじゃねぇか」

 おつまみで出てきたハムを、アリスにも少し分けると、フィップもハムを口に運び、今度は楽しそうにケラケラと笑っている。

「若いのって……てか〝吸血鬼〟ってのは寿命とかも長いのか?」

「──? 何だ急に……その変な質問は? 遠回しにあたしの歳でも探ってんのか? 後、女性に歳は聞くもんじゃないぜ?」
「いや、別にそういう訳じゃないんだが……」

(……あー、やべ、踏んだかな? 〝異世界の常識地雷〟──それにどうやら、女性に歳を聞くって言うのは、この異世界でも〝マナー違反〟らしい……)

「まあ、あたしは気にしないからいいけどな? ちなみにあたしの歳は378だ。それと〝吸血鬼〟は、確かに〝人間ヒューマン〟や他の亜人と比べると、エルフと並んで平均寿命は長いからな」

 378歳か、俺が聞いた事のある歳の中じゃ……
 三世紀ぐらい飛び抜けて長寿だな。

 ──ん? アルテナ? 女神様の歳? 

 ……さあ、少なくとも俺は知らないな? 

 それに、別に年齢なんて──フィップやアルテナ程の美人なら、何も気にならないだろう? 

 少なくとも俺は気にしない。

 フィップも、アルテナも、見た目はどう見ても20代にしか見えないしな……長寿ってのもあるのだろうが、自体にも違いがありそうだ。

「あ、私は15歳ですよ!」
「そうか、後、お嬢は8歳だ」

「フィップ、なぜ、お前が答えるのですか!」

 さっき、フィップに貰ったハムを爆弾唐辛子(スープ屋の親父から貰ったらしいやつ)に巻き付けて、もぐもぐと食べているアリスが歳をバラされ怒っている。

「うぅ~、アリスちゃん王女様、超~可愛いですねー! 妹に妹に欲しいです! わ、私の妹になって貰えませんか! し、幸せにしますから!」

「嫌なのです」
 
 決死の告白も虚しく撃沈したアトラは──
 ──ガーン! とわりとガチで凹んでいる……。

 すると、そのアトラからヒラリと1枚の紙が落ちたので「何か落ちたぞ?」とアトラに教える。

「ああ、これ、こないだの号外ですね。てか、これユキマサさんの事が書かれてますよ?」

(……なんだそりゃ? 初耳だぞ?)

「ちょっと見ていいか?」
「あ、はい、どうぞ!」

 アトラから号外とやらを受け取り目を通すと……

 〝──特別変異種指定魔獣ヴァルタリスのヒュドラ討伐!──〟

 と、デカデカと書いてある。

(ああ、これの事か……)

 一応、一通り目を通すと〝ドロップアイテム〟から〝魔石〟なる物が回収されたとの事や、第8隊や冒険者による〝変異種ヴァルタリス〟のヒュドラの特殊性や、解毒剤の効かない毒の存在の報告記事──それの対策として、冒険者や騎士への、解毒剤の上位互換に当たる〝聖水〟の補充をうながす内容のような文章が書かれている。

 後、勇敢に戦うも、命を落としてしまった騎士や、冒険者への、敬意を表す賛辞と、ロキギルドマスターからの謝罪文が載っている。

 そして下の方へ読み進めると、
 〝──白獅子しろしし、再来か!?〟
 と、書いてある、何だこれ?

 引き続き俺はそれ読んでみると
 〝だが、残念、白獅子では無かった!〟
 と、一行後の文には直ぐに否定文が書いてある。

(いや、違うのかよ! いいよそういうの……!)

 てか、普通に突っ込んじまったじゃねぇか!

 つーか、倒したのは俺だしな……
 そりゃ違うに決まってるか。

 〝倒したのは〝スイセン服〟の黒い少年? 実際討伐に向かった第8騎士システィア隊長に聞いた実体とは!?〟

 何だこれは? インタビュー記事か?
 でも、流石はシスティア、あまり俺の情報は語らず、亡くなってしまった隊の者達への謝罪の言葉が多い。 

 ──そして終わりの方に気になる文を見つける。

 〝黒い少年の正体を見た。匿名・ギルド騎士隊員〟からの一言。

(何だ、この匿名のギルド隊員は……?)

 『──えーと、あれは黒い変態でした。世の女性も男性も、特に女性の皆さん気をつけてください! ……でも、少しはイイ所も、あ、あります!』
 
 そんな一文が乗せられている。

(…………)

 〝との声も上がっておりますので、未だ正体不明の──少しイイ所もある、黒きヒュドラ殺しの変態(?)には皆様もお気お付けください!〟

 この文で、この号外は終わっている──。

(…………)

「あのー? ユキマサさん、お料理来ましたよ?」

 黙って号外を読む俺に、アトラが声をかけて来る。
 
「……エメレア……エメレア……だろこれ……」
「え? 私はアトラですよ?」

「エメレア……エルラルド……!」

 俺は読んでいた〝号外新聞〟を見て額に手を当てる。

「私はアトラですってば! エメレアさんじゃ無いです!」

 わー、わー、と騒ぐアトラ。

「いや、お前の事じゃねぇよ」

 さっきのチンピラ男達が何で俺の事を、噂の〝黒い変態〟と言ったのか、これで謎が解けたぞ。

 あの野郎……次、会ったら、問いただしてやるから覚えておけよ──。
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