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第42話 追いかけっこ

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「……お前、何でここにいるんだよ?」

 いや、ホントに……

(まあ、何となく理由はわかるけどさ? ──どっから嗅ぎ付けたんだ? 偶然か? 偶然なのか?)

 この場に、いつの間にか颯爽さっそうと現れた──
 自称〝全世界の幼女を明るい未来へ導く愛の戦士〟に、俺は率直な疑問を投げる。

「おお、兄弟! 兄弟ではないかッ! そして、そちらの〝尊き幼女のお姫様〟は、お怪我は無いか?」

 クシェラはぶんぶんと手を振って来る。

「誰が兄弟だ! てか、いつの間に、俺はそこまでお前の評価が上がってんだよ!?」

 昨日、初めてあった時は『馬の骨にして、魔王領に放り投げてやろうか?』とか言ってたクセによ。

「それにお前の兄弟は〝双子の妹〟のクシェリだろ! 俺はお前の兄弟になった覚えはないぞ!」 

「──ここは私に任せろ! いやはや、待て待て、何も言わずともよい。何か理由があるのだろう?」

(こいつ、全ッ然、俺の話、聞いてねぇし……)

「そこに嫌がる〝幼女のお姫様〟を追い回すがいて、その逆に、その幼女のお姫様を救おうとする、誇り高き戦士がいた。その私と〝同じ志を持つ者〟を、私がと呼ぶ事に他に理由が必要か?」

 まあ、理由が必要かは知らんが……

 人の事をと呼ぶには、相手の許可とか、許可とか、あと、許可とかは必要なんじゃないか?

 俺も理沙の事を兄妹みたいとか言っちゃってるけどさ? でも、それとこれは話のベクトルが違う筈だ。

「あの〝きらめく残念〟は何なのですか……?」

 先程まで『ゴーゴー!』とテンションMAXだった、アリスちゃんお嬢様も……クシェラを引きつった顔で見ながら──〝煌めく残念〟と呼び、クシェラの登場に本気で頭に「?」を浮かべて顔をしかめている。

「あれは自称〝全世界の幼女を明るい未来へと導く愛の戦士〟だ。ちなみに、この都市の冒険者だ。俺も昨日、初めて会ったんだが、恐らくは悪い奴じゃない」

「今は敵じゃないとだけ認識しといてやるのです」
「妥当な判断だな」

「──さて、話は終わりましたかな?」

 何を隠そう、この爺さんは、今の今までの、このやり取りを俺達に追い付きながらも、黙ってみてくれていたのである。

(流石は〝妖怪世話焼き爺〟と言った所か……気が利いてやがる……)

「貴様はこの私が相手だッ! 貴様──〝アーデルハイト王国〟の〝千撃せんげき〟だな? 私は幼女の為なら、例え〝千撃せんげき〟や〝剣斎けんさい〟が相手だろうと、私は一歩も譲りはせんし、手加減もせんぞ!!」

 〝引くなら今の内だぞ?〟と剣を向け、威嚇するように、クシェラは言葉を言い放つ。

「これはこれは。素晴らしいなお覚悟をお持ちのようですな? こちらはをいたしますが、もし立ちふさがると言うのであれば、多少の怪我の御覚悟はしなされよ──冒険者の若者よ」

 相変わらずの落ち着いた喋りで、静かな〝敵意〟を、ひしひしと向けている爺さんは、いくつもの〝死地〟を越えてきた迫力がある。

「──何をやっているのです!? 奴が時間を稼いでる間に逃げるのです! 人の命を無駄にするのはよく無いのです!」

「いや、死んでないからな?」

 〝妖怪世話焼き爺〟も手加減するって言ってるだろ?

「何だか知らねぇけど、お言葉に甘えるぞ?」

 俺はクシェラにそう言い残し──再び走り出す。

 クシェラはこちらを少し振り返り、グッと親指を立てて、キリッと白い歯を見せてニヤリと笑う。

「これはこれは。まんまと逃げられてしまいましたな」
「……わざとであろう? 何が狙いだ?」

「ほほほ。お嬢様が随分と楽しそうにしておられたので……それとこの〝大都市エルクステン〟の冒険者は、どれ程の物かと少し知って置きたく思いましてな?」

 と、一度は収めた腰の剣を再度抜き……
 妖怪世話焼き爺は、クシェラに向かい合う。

 そして〝妖怪世話焼き爺vsロリコン紳士〟という、世にも珍しい戦いが、幕を開けるのだった──。




 ──〝大都市エルクステン〟ギルドマスター室──

「──失礼します! 〝東の露店通り〟にて、熊のぬいぐるみを持った、黒い服を着た長い黒髪の幼い少女が目撃されたそうです!」

 バタバタ、ドンッ! と部屋に入り、直ぐに状況を報告をするのは、ギルドの〝第3騎士隊長〟である──背中に白い翼の生えた、綺麗な長い緑髪の鳥人族ハルピュリアの女性──ヴィエラ・フローリアだ。

「それは本当ですか! よくぞ見つけてくれました! そこまで特徴が一致していれば、それは〝アーデルハイト王国〟のアリス王女で、ほぼ間違いないでしょう。直ぐに護衛を送り保護してください!」

 ギルドマスターのロキ『ご苦労様でした』と微笑みながら、ホッとして落ち着いた様子で返す。

「後は、が有ったとはいえ……アリス王女の失踪と聞いて、朝からあちこちを、風のように飛び回っている〝千撃せんげき〟殿へのご連絡ですね」

 ──と、ロキは今朝〝アーデルハイト王国〟の兵士達が、ギルドに慌てての協力依頼をしに来た時に忘れていった、王女直筆のとてもシンプルな置き手紙に目を落とす。

 [ 街に遊びに行ってくるのです。 
              ―アリス― ]

 よく見ると手紙の最後には、熊のぬいぐるみ(?)の、似顔絵らしき絵が可愛らしく描かれている。

 ──バタバタ、ドンッ!!

「ギルドマスター、ヴィエラ騎士隊長! し、失礼いたします!!」

 更に慌ただしい音と共に、第3騎士隊の男性隊員が慌てた様子で部屋に入ってくる。

「どうしました?」

 急ぎな用件なのは、様子から見て直ぐに察する事ができた為、ロキは優しげな声音で返すが、その声には少し緊張の色がある。

「ほ、報告します! ──〝東の屋台通り〟にてアリス王女殿下らしき人物を発見いたしましたが、何者かに連れ去られた模様です! 現在は千撃せんげき殿が後を追っていますが……」

「どうしたの? 続けなさい?」

 口ごもるの部下にヴィエラが報告を急かす。

「ハッ! 申し訳ありません。現在千撃せんげき殿は冒険者──クシェラ・ドラグライトと交戦中との事です!」

 ビシッと姿勢を正し、男性隊員は状況を述べる。

「連れ去られた? ──それは事実ですか? それに冒険者? ……いえ、この場合、問題はクシェラ・ドラグライトと言うことですね」

 連れ去られた。という言葉に、ロキは少し緊張を走らせるが、クシェラの名前が出ると、ロキは問題の着眼点を少し逸らす。

「ハッ! それと少なくとも──クシェラ・ドラグライトの他にもう1人、王女を抱えた男が、千撃せんげき殿に追いかけられ、逃走する姿が目撃されています!」

「クシェラ・ドラグライトというと……確か、身寄りの無い幼い女の子だけを集めた孤児院を運営してる、ちょっと変わった冒険者ね? 双子の妹のクシェリとは、私も少し交流があるわ」

 ヴィエラも、クシェラとは直接の関わりは無くとも、一風変わった人物として、印象は強いようだ。

「そうですね。前に、フォルタニアさんに彼の事は少し調べてもらいましたが──『言動には少し難あり』との事ですが、その他の事については、完全なまでに潔白でしたね」

 『何か引っ掛かりますね?』とロキは考え込む。

「王女様を連れ去った男の特徴は分かりますか?」

「ハッ! その男は黒いを着た、この辺ではあまり見かけない、黒髪の少年との事です!」

「「……は?」」

 ロキとヴィエラは、2人してポカーンと口を開け、今の報告から、先日のヒュドラの〝変異種ヴァルタリス〟の件の、1人の黒髪の少年の事を思い浮かべるのだった──。
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