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第41話 妖怪世話焼き爺

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「──ユキマサ! 早く私を抱えて逃げるのです!」
「逃げるのかよ? あの爺さん、どうみても、お前のか何かだろ? ……アリス?」

 最初は誘拐犯かと思ったが……よく考えたら、白昼堂々と人の賑わう露店街で、執事服を着こなし、たった1人で、ただでさえ目立つ〝ゴスロリロリッ子〟の誘拐を決行するとは考えにくい。

(ギルドだって、ここからそう遠くはないんだぞ?)

「私の事はアリスと呼ぶのです! そんな事より、急いで、あの〝妖怪ようかい世話焼き爺せわやきじじい〟から逃げるのです!」

「どんな妖怪だよ?」
「いいから早く逃げるのです! あのじじいに捕まると、世にも恐ろしい事に、朝から晩まで、ひたすらに世話を焼かれてしまうのです!」

 ひぃぃぃ~。と嫌がるアリスちゃんお嬢様。

「まあ、執事なら世話ぐらい焼くだろ?」
「お前はバカなのですか? 1日中あのじじいに甲斐甲斐しく世話を焼かれる身にもなってみるのです!」

「……」

 う、まあ、確かにそう言われるとな?
 アルテナみたいな、超美人とかならまた別だが……

(今のは例えだぞ? あくまでも例えだ……うん……)

「お話は終わりましたかな? お嬢様、では帰りますよ。それに無事で何よりでございます。この〝執事長〟のジャン、生きた心地がしませんでしたぞ?」

「──ハッ! そ、そうです。確かユキマサは〝冒険者〟でしたね? この〝小金貨〟1枚を出すので、私をここから逃がすのですッ!」
「いや、別に冒険者は〝何でも屋〟じゃないぞ?」

「もう少しだけ、この街を散歩でもして見てみたいのです! 私はとても退屈なのです! 男なら、目の前に退屈しているレディがいれば、散歩ぐらい付き合うのがマナーなのを知らないのですか!」

 そう言われると、散歩ぐらい付き合わなきゃとか、思ってきちまうな。
 まあ、レディと言うよりは、ロリィだけどな。

「……はぁ、分かったよ。別に俺もこの街に詳しくは無いが、食後の散歩ぐらいなら少し付き合ってやる」

(にしても、まさか、7、8歳ぐらいのゴスロリロリッ子に、レディを扱うマナーを言われるとは……)

「──お待ちなされ。貴殿、どうやら、お嬢様がお世話になりましたようで、その事に付きましては深くお礼を申し上げます。……ですが、これ以上はでございます。もし聞き入れて貰えないようでしたら、失礼ながら、お嬢様の執事としては、見過ごすわけにはございませんな」

「回りくどいな? つまり、実力行使もやむを得ないって事か?」
「不本意ながら。この老体で一体どこまで持つかは分かりませんが、お嬢様の為ならば、一時期はみなから〝千撃せんげき〟と呼ばれ、持てはやされたこの力……つつしみはいたしませんぞ?」

 一瞬だけ、ゾワッとするような殺気を向けて来る。この〝妖怪世話焼き爺〟……かなりの手練れみたいだ。

(〝千撃せんげき〟──聞いたことあるな? 確か、システィアの言っていた〝アーデルハイト王国〟の奴だな?)

 しかも〝二つ名持ち〟って事はレベルは70越えか?

「……強いな? 爺さん?」
「貴殿も十分……いえ、十二分にお強いように見受けられますぞ? ですが、お嬢様の借りもありますので、殺しには向かいませんのでご安心ください」

「だったら向かってくるんじゃねぇよ? 別に危害を加える気も無いし、俺は変な幼女趣味も無い。それに少し街を散歩したらギルドまで送るぞ?」

「だれが幼女なのですかッ!」

 アリスは、すかさず突っ込みをいれてくる。
 どうやら幼女扱いはお気に召さないらしい。

「この話の流れだとお前しかい無いだろ?」
「幼女と言う方が幼女なのです!」

「お前……じゃあ、もしあの爺さんが『幼女』って言ったら、あの爺さんも幼女なのか?」

 〝妖怪ようかい世話焼き爺せわやきじじい(幼女)〟
 ……飛んでもねぇな!

「お、お前は、何ておぞましい例えをするのですか!? そんな大事件は、私が起こる前にコイツは解雇クビにして、リッチの餌にしてやるのです!」

 俺と同じ事を想像した様子のアリスは、ぶるりと身体を震え上がらせる。

「おい、待て……リッチってお前の持ってた〝熊のぬいぐるみ〟の名前だろ? あれ、人食うのか!?」
「言葉のあやなのです。大体、あんな爺を食べてリッチが腹を壊したらどうするのです!」

(そこかよ……?)

「来るぞ?」

 ──ガキーンッ!!

 痺れを切らした様子の通称──〝妖怪世話焼き爺〟が剣を抜き、仕掛けてくる。

 俺は、瞬時に、エルルカに貰った剣──〝月夜かぐや〟を〝アイテムストレージ〟から取り出し、攻撃を受け止める!

「──!? これはこれは! 素晴らしい〝黒剣〟でございますね。貴殿によくお似合いかと思いますぞ? それと今のは〝アイテムストレージ〟ですかな?」

 急に現れた〝月夜〟で、攻撃を受け止めた俺に、最初は少し同様を見せるが、直ぐにエルルカ製作の〝月夜〟を誉めてくる。

「ああ、この剣は制作者から、直々に貰ったんだが、俺も良い剣でとても気に入っているよ」

「このクラスの剣の制作者と言うともしや──」

(よし、今だな……?)

 〝妖怪世話焼き爺〟に少し考える間があった為……
 その隙に、俺はアリスを脇に抱えながら、ひょいッ──と、そこらの露店よりも、高めの建物の屋根の上に飛び上がり、屋根を走りながら、極力人のいない所を目指して逃げる。

「これは不覚でございます! お嬢様!!」

 下の方からは〝妖怪世話焼き爺〟の叫びが聞こえるが、取り敢えず、今は逃げよう。

「ゴー、ゴー! なのですッ!」

 すこぶるご機嫌な様子のアリスを抱えて、街の屋根から屋根へと走っていると、すぐに後ろから俺達を追いかけてくる〝妖怪世話焼き爺〟の姿がある。

「ほほほ。逃がしはしませんぞ?」

 軽やかな身のこなしで、剣を手に持ちながら、息ひとつ切らさずに付いてくる。

(さて、どうするか……)

「──そこまでだ! 貴様、その剣を下ろせ!!」

 すると、俺達と〝妖怪世話焼き爺〟の間に割って入ってくる影がある。

 何にも臆すること無く、堂々たる振る舞いの、その男は金髪の前髪を後ろに流し、全身をシルバーベースの所々に金色の線が入った鎧を身に纏っている。

 そして、俺達では無く後方の〝妖怪世話焼き爺〟へと立ちはだかる……この金髪の男を俺は知っている。

(……というか、後100年は忘れられそうにない)

 それは昨日さくじつ〝強烈な自己紹介〟を披露してくれた人物であり〝副マスフォルタニア〟からは〝ロリコン紳士〟と呼ばれていた……自称〝全世界の幼女を明るい未来へと導く愛の戦士〟──クシェラ・ドラグライトであった。
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