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第25話 八柱の大結界2
しおりを挟む「ちょ、ちょっと待ってください! 残りの魔術柱の4つ目の場所が〝アーデルハイト王国〟にあるなんて、聞いた事もありませんよ!」
身を乗り出し驚いた表情で、クレハがフォルタニアの発言に対し、少し焦った様子で追求する。
エメレアやミリアも「「!?」」と、明らかに驚いた表情している。
「そうですね。意図的にこの情報は伏せられています。この事は人類の中でも、一部の者しか知りません。申し訳ありませんが、内密にお願いします」
さらっと、爆弾級の発言をしたらしい、フォルタニアは、口に人差し指を当てて『内密にお願いします』と言っている。
「わ、分かりました……」
「聞かなかった事にします」
「わ、分かりましゅた……した……」
クレハ、エメレア、ミリアはそれぞれの言葉で、誰にも言わないと返事をする。それに対し、フォルタニアは「助かります」とだけ返事する。
「……というか、その〝八柱の大結界〟の魔術柱ってのは、あと残り4本しかねぇのか……?」
人類、結構追い詰められてないか?
「残念ながら。魔術柱は〝60年前の魔王戦争〟で2本。〝7年前の魔王戦争〟で1本。そして20年前に魔族の襲撃により1本が破壊され、残りは先程お話しました4本のみとなります」
「魔族に? そういや、聞いてなかったが、魔族ってのは、魔王の眷族や配下みたいな認識でいいのか?」
「概ね、その認識で問題ありません。魔族自体も大変強力な力を持っておりますのでお気を付けください」
まあ、20年前に魔族に魔術柱を1本破壊されたって事は、魔王抜きで破壊されたって事だろうしな。
魔王では無くとも、その眷族の魔族は人類にとっては十分に脅威なのだろう……
「──それにしても、本当にご存じ無かったのですね……〝天聖〟も〝八柱の大結界〟の事も……」
一通り説明をしてくれたフォルタニアは「ふぅ……」と一息つくと、改めて俺の無知さに驚きを示す。
(悪いな。何せ、異世界2日目なんでね……)
「まあな、正直かなり助かるよ」
「そうですか。嘘はありませんね……」
その俺の答えに、フォルタニアは自身のスキル〝審判〟で、嘘か嘘では無いかを確かめたみたいだが、それでも信じがたいと言う様子だ。
「フォルタニアさん、気を付けてください! 何せ、ユキマサですから! スキル無効だとか、何かよく分からない能力とかの可能性があります!」
「なるほど、その発想は私にはありませんでした。でも、大丈夫ですよ。私はユキマサ様を信じてみたいと思いますので」
「信じてみたい……? どういう意味だ?」
何か含みのある言い方だな?
「秘密です。でも、いつかお話できる時が、来ることがあれば、私はとても嬉しいです──」
ふふ。と笑うフォルタニアは少し楽しそうな半面、その表情には何処か寂しげな雰囲気がある。
「まさか……フォルタニアさんまで、ユキマサの毒牙にかかってないわよね?」
むむむ……と顎に手を当てエメレアは考え込む。
(おい、何だ、毒牙って……!?)
「ユキマサ様。もしよければ〝7年前の魔王戦争〟の話もお聞きになられますか?」
と、フォルタニアは提案してくれるが……
「此方から聞いといてあれだが。その話は今はいい」
俺は隣に座るクレハを少し横目に見ながら、フォルタニアの提案を断る。
(〝7年前の魔王戦争〟でクレハは両親を亡くしている。それを、わざわざクレハのいる場所で話さなくてもいいだろう。それぐらいは俺でも分かる……)
だが、その視線に気づいた様子の俺の左隣に座り黙って話を聞いていたクレハは……
「ユキマサ君、私は大丈夫だよ」
俺の左腕の袖を掴みながら、そう言っては来るが、やはり声のトーンは少し暗い。
「はぁ……無理すんな? わざわざ、今ここで、その話を聞く必要は無い」
わざわざ付き添いまでしてくれてたのに、それで思い出したくない事まで思い出してどうすんだ?
いや、別に付き添いじゃなくてもだが──
「……うん、ありがとう」
「礼を言われるような覚えは無いぞ?」
……むしろ、俺が謝るぐらいだ。
「クレハ……」
「……う………えっと……ぅ……」
恐らく、クレハの両親のその事も知っているであろう、エメレアとミリアは、そんなクレハを見て、上手く言葉が出ない様子だ。
「という事だ。悪い。気を使わせたな」
俺はフォルタニアに謝る。
(俺のせいだな……この空気は……)
「も、申し訳ありません! 知らずとは言え大変失礼な事を!」
事情を察したフォルタニアは、慌てて謝っている。
「い、いえ、気にしないでください!」
頭を下げるフォルタニアに、手をパタパタさせ『頭をあげてください』と少し困った様子のクレハ。
「本当に申し訳ありません……あ、お茶のおかわりをお持ちしますね」
少し重くなってしまった空気を変える為か、フォルタニアは、空になったお茶のおかわりを煎れに行く。
「──ユキマサ。貴方クレハの両親の件知ってたの?」
フォルタニアが席を外すと、いつになくエメレアが、俺に対して睨むでも、驚くでも無く、真剣な眼差しで話かけてくる。
「成り行きでな。昨日クレハから聞いた」
俺が昨日クレハの家に泊まらせて貰ったのが、気に入らないらしいエメレアだが、ここは空気を読んでか「そ……」とだけ返してくる。
「……あ、ミリア! それとね、言いそびれちゃってたけど、お婆ちゃんの病気が治ったのよ!」
先程から誰がどう見ても、ショボンとショボくれているミリアにエメレアが、クレハの婆さんの病気が治った事を伝える。
(ホント、こいつはミリアやクレハには気が利くというか、何と言うか、憧れちまうぐらい優しいな……)
「え……!? ほ、本当ッ!!」
興奮した様子のミリアはガバッと立ち上がる。
「ええ、本当よ! それが治してくれたらしいんだけどね──とにかく、お婆ちゃんの病気は治ったわ! 今度システィアさんも誘って、皆でお祝い持って会いにいきましょ!」
……どうも、ユキマサです。
俺をそれ呼ばわりで、指をさすエメレアだが……
まあ、まだ変態とか、誑しだとか言われないだけ、エメレア的には少しは機嫌が良いのか?
「うん! 会いたい!」
ぱあぁ! と、まるで花が咲くようにミリアが笑顔になり、その笑顔を見て、エメレアもクレハも少し表情が和らぐ。
すると、その時……
──コンコン、コンコンッ!
ギルドマスター室のドアがノックされる。
「〝第2騎士隊長〟リーゼスと〝第3騎士隊長〟のヴィエラです。副ギルドマスター、こちらにおられますか? 報告がございます!」
ドアの向こうからは、キリッとした感じだが、優しげな女性の声がする。
その声を聞くと、フォルタニアはお茶を用意しながら、チラっと俺の方を見て『部屋に入れても?』と目線で聞いてくる。……律儀だな。
まだ、俺は、左腕の袖をクレハに掴まれている状態なので、右手で『構わん』と、フォルタニアに軽くジェスチャーをする。
確認が取れたフォルタニアは、
「はい、私でしたらこちらに。私のお客人と第8隊の友人がおりますが、どうぞ入って来てください」
と、返事を返す。
すると、ガチャッとドアが開き……
「「失礼します!!」」
ドア越しの声の張本人であろう、20代中半ばぐらいの女性と──口髭を生やした白髪頭の小柄だが、筋肉質で少し色黒の爺さんが入ってくる。
──そして、俺はその女性に注目する。
見た目は長い緑髪の美女だが……俺がまず最初に目がいったのは、その美女の背中にある、白くて立派な大きな翼だ。恐らくはさっきチラっと話に出てきた〝鳥人族〟だろうか? ……タイムリーだな。
「バタバタしており申し訳ありません──それでどうなされましたか? リゼース隊長、ヴィエラ隊長?」
フォルタニアの視線から推測するに、この色黒の爺さんが〝第2騎士隊長リーゼス〟で、隣の鳥人族の緑髪美女が〝第3騎士隊長ヴィエラ〟だろう。
すると、色黒爺さんが、一歩、前に出て口を開く。
「では、わしの口から報告を〝アーデルハイト王国〟の王族の方々は無事に到着いたしました。ですが、道中に少し不可解な数の魔物と魔獣と、そして双火熊の〝変異種〟と遭遇との事ですじゃ──」
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