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第19話 エメレア襲来
しおりを挟む──ったく、何なんだ!? こいつは……?
クレハの部屋の前に立ち塞がり、戦闘体制でクレハの部屋を死守する……エメレアに俺は頭をかかえる。
……そしてエメレアの目を見るに本気みたいだ。
「──な、なんの騒ぎ!? って、あれ? エメレアちゃん?」
バタン! と、自身の部屋から何事かと、飛び出して来たクレハが状況を確認すると──いつの間にか自分の部屋を死守している、エメレアを見つけ『えーと?』と困ったように首を傾げている。
「クレハ! 良かった! 無事だったのね!」
本気で涙を浮かべ喜ぶエメレア。
「えっと……うん、私は無事だよ?」
と、クレハは返事を返すが……
表情を見るに、やはり困惑気味の様子だ。
「クレハ、この男に何かされなかった!? というか何でこの〝黒い変態〟がここにいるの!?」
(だから、誰が〝黒い変態〟だ、誰が……)
「えっと……色々あって、ユキマサ君には昨日は家に泊まってもらったの」
……できれば、色々の部分をもう少し詳しく、尚且つ誤解を生まないようにエメレアに伝えてくれ。
──じゃないと、死人が出るぞ……?
「…………ぐはッ──」
ほらみろ。効果は抜群みたいだ……
大ダメージ(精神)を食らったエメレアは、一度床に倒れるが──ゆっくりと起き上がると、悪鬼羅刹の如く俺を睨み、惜しみ無い殺気をぶつけてくる。
「……覚悟はできてるでしょうね? ユキマサ?」
ふひひひひ……と、不気味な笑いを浮かべ──ゆらり……ゆらり……とエメレアがこちらに歩いてくる。
……てか、エルフってこんな感じの種族だったか?
まあ〝元いた世界〟の勝手なイメージだけどさ?
いや、エメレアがこうなだけか。少なくとも、同じエルフで、ギルドの副ギルドマスターでもある、フォルタニアは真面目だったし。
「──おい、何か誤解して無いか?」
「ユキマサ……私の親友に何をしたの? まさか、私のクレハを泣かせたり、いやらしい事とかしてないでしょうね……? それを証明できたら、話しだけなら、聞くだけは聞いてあげるわ」
「……」
(いやらしい事とは、何処までが、エメレアのラインか知らないが、クレハを泣かせたかと言えば、泣かせたな?)
1つ目は、お婆ちゃんの病気を治したら泣いた。
2つ目は、昨夜に魔王の話で、クレハの両親の話になり、昔を思い出させてしまい、泣かせてしまった。
「いやらしい事ってのが、何処から何処かまでなのか、分からないが──昨日クレハは2回泣いた……俺のせいかと聞かれたら、無関係とは言いきれないな?」
と、素直に打ち明ける。これは、どちらも俺が居なければ、昨夜に泣くことは無かった筈だ。
ピキッ……とエメレアは再び固まる。
「ちょ、ちょっとッ! ユキマサ君、言い方! 言い方があるよ! それじゃ勘違いしちゃうでしょ!」
「……く……クレハ……それ……ほ……んと……?」
声に成らない声を、何とか声を絞り出すエメレア。
「えーと、うん。泣いちゃったのは本当だけど、それは嬉しかったのと、お母さんとお父さんの昔の事を思い出したからだよ?」
「そ、そうなの…………?」
クレハの説明のお陰で、エメレアは少し落ち着きを取り戻す。
「うん。それに一緒に抱き合って寝ちゃったのも、私の寝相が悪かったせいだから! ……まあ、でも、ユキマサ君の腕が私を離してくれなかったのもあるけど……」
やっと、鎮火しかけてた〝エメレア火山〟に、巨大隕石をぶちこむような発言をするクレハ。
「《風刃よ・我が命を聞き届け・彼の──》」
エメレアは再び固まるかと思いきや……
無表情で、魔法の詠唱を唱え始める。
「ちょちょちょ、ちょっと待って! エメレアちゃん、ストップッ! ストーップ!!」
「──ッわ! クレハ! 何で止めるの!?」
必死にクレハが止めにかかり詠唱が止まる。
「もうッ、一回こっち来て!!」
──ヒュンッ! パッ!!
クレハが〝空間移動〟を使い、クレハとエメレアの二人が一度家の外に出る。
そして、一瞬にして辺りが静かになる。
……てか、エメレアは何なんだよ?
クレハが大好きなのは分かるが……まあ、言動はあれだが、友達──いや、親友を思っての事だろう。クレハやミリアの為に限っては、全てに於いて善意100%だしな。
……俺には悪意100%だけど。
(というか、何か取り残されたな?)
ポツンと、その場で5分ぐらい待つと……
──ヒュンッ! パッ!! と二人が帰ってくる。
「おかえり」
「うん、ただいま……」
申し訳なさそうな表情のクレハと、何か全身をぐったりとさせ、今にも倒れそうな様子のエメレア。
「……一先ず、クレハの貞操が無事なのは分かったわ」
クレハの貞操が無事って……
かなりストレートに言って来たな?
「え、エメレアちゃん!!」
顔を真っ赤にし抗議するクレハ。
「う……ご、ごめんなさい」
恥ずかしがりながら怒るクレハに、エメレアは流石にデリケートな部分だったと反省し、素直に謝る。
「…………」
じっ……と俺を無言で見るエメレア。
(今度は何だ?)
悔しそうな顔をしているが……
先程みたいな、殺気を向けては来ない。
「──おや? その声はエメレアかい?」
すると、食器の片付けを終えた婆さんがこちらに普通に歩いて来て、エメレアに声をかける。
「お、お婆ちゃん!? 病気は大丈夫なの?」
サラっと元気に歩いてきた婆さんを見て、エメレアは『!?』と驚愕の表情をしている。
そーいや、エメレアは小さい頃からよく遊びにも来たりしてたらしいしな? 最近もこうして家に来た時は、病気の婆さんの心配もしていたのだろう。
「心配かけたわね。この通りすっかり治ったわ」
二の腕をぐッとしながら、陽気にポーズを取る婆さんは、エメレアに病気の完治を報告する。
「え、お婆ちゃんッ!? 病気治ったの? 本当、本当なの!? よかったぁぁぁぁぁ!!」
エメレアはギュッっと婆さんに抱きついた後に、両手を握って「え、本当!? 何で、何で! でも、よかったぁ!」と、ぴょんぴょん跳ねて喜んでいる。
「えっとね、エメレアちゃん、お婆ちゃんの病気は、ユキマサ君が治してくれたんだよ?」
そんな二人を嬉しそうに見ていたクレハが、クレハの婆さんの病気が治った経緯を教える。
「……は……!? ……ど、どうやって?」
驚くエメレアは俺の方を振り向く。
「えっと。ユキマサ君の回復魔法だと、病気も治るみたい」
「はぁぁぁぁぁぁ!? 何それ、そんなの聞いたこと無いわよ! 病気には、魔法は効かない筈でしょ!」
すると、エメレアは何やら考え込み始め……
「確かに言われてみれば……さっきは嬉しくて気づかなかったけど──完治は難かしいって言われた病気のお婆ちゃんが、体力も限界になって、凄く衰弱してきちゃってたのに……2日ぶりに会ったら、病気がすっかり治ってるなんて……普通はあり得ないわ──そして、あり得ないと言えばユキマサ。なるほど……!」
小さく何度も頷く。
「『なるほど……!』じゃねーよ!」
と、俺が突っ込みをいれると──
エメレアは顎に手を当て、探偵みたいなポーズで……
「ふーん……ふーん……ふーん……ちッ……ふーん」
俺の全身を、隅々まで見てくる。
(おい、今、さらっと舌打ちしなかったか?)
「……何だよ?」
「何でもないわよ……こんな〝あり得ない変態〟の一体どこがいいのかしら……?」
エメレアは、ぷいッとそっぽを向く。
そんなエメレアを婆さんはニコニコと笑って見ており、クレハは『えーと……あはは……』と苦笑い。
「あ、そろそろ本当にギルド行かなきゃ!」
「支度はできたのか?」
「うん、バッチリ!」
と、頷くクレハ。
「じゃあ、お婆ちゃん、行ってきます!」
クレハは婆さんに『行ってきます』を言う。
「ええ、クレハ。それにエメレアも、ユキマサさんもいってらっしゃいな。気を付けて行くんだよ」
「うん、行ってきます。お婆ちゃん今度はミリアとシスティアさんも連れて改めてお祝いに来るわね!」
と、エメレアは俺への表情とは、正反対の笑顔で、婆さんに嬉しそうに笑いながら言う。
友達思いと言うか、仲間思いと言うか……根は凄く良い奴なんだよな。
(いや、俺が嫌われてるだけか……)
「ええ。ミリアにもシスティアにも、また元気な姿で会いたいわ。いつでも遊びに来ておくれ」
またまた嬉しそうな婆さん。
「婆さん世話になったな。それに病気が治って嬉しいのはいいが、舞い上がって無理とかするなよ?」
「お世話になったのはこちらの方さね。ユキマサさん本当にありがとう。忠告通り無理もしないでおくよ」
「──何よ! 喜ぶのは良いことじゃない!」
と、エメレアは俺の発言が気に入らない様子だ。
「気を抜くなって事だ。それはお前達も一緒だぞ?」
「何よそれ……」
やはり納得がいかない様子のエメレア。
「油断大敵ってことだよ。エメレアちゃんも、油断しないで頑張ろ!」
エメレアの肩に軽く触れ、ニコッと笑いながら、クレハが声をかける。
「まあ、クレハがそういうなら……それに確かに油断大敵ね! 昨日のヒュドラの事もあるし、もっと強くもならなきゃ!」
なるほど、俺が言うから嫌って事か?
最早、清々しいぐらいの嫌われっぷりだな。
「準備できたなら行くぞ? エメレアも行くだろ?」
「そもそも私はクレハを迎えに来たのだけど? というか、何でユキマサが仕切ってんのよ!」
「喧嘩しないの! ほら、二人とも行くよ!」
クレハに注意されると、途端にエメレアは静かになる。
(お前、ホントにクレハの言う事は聞くんだな?)
相変わらず……キッ! と睨んでは来るが……
まあいい。何か、慣れてきたしな?
……いや、別に、慣れたくは無いんだけどさ。
でもまあエメレアはクレハが大好きなんだな。それだけはひしひしと伝わってくる。
良いことじゃねぇか、何かを誰かを好きってのはとても素敵なことだと誰かに聞いたことがある。
はて、いつ、誰に聞いたんだったかな? 凄く昔の記憶だ。それだけは思い出せる。
そんなことを思い出しながら俺はクレハとエメレアに続くのだった。
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