上 下
1 / 284

プロローグ

しおりを挟む


 外は晴天。暑い夏の日差しが窓から射し込める。
 まだ少し眠たげな様子で、孤児院の自室のベッドから起き上がりながら、16歳にしては少し大人びた雰囲気の黒髪の少年──稗月倖真ひえづきゆきまさは呟いた。

「退屈だな……」

 そう呟いた瞬間、部屋全体が光の渦に包まれる。

「──!? なんだ? これ……」

 見慣れた自分の部屋が、謎に渦巻く光の渦に包まれるという摩訶不思議な現象に流石に驚いていると……

 ──バタバタバタ!

 部屋の外から誰かが此方こちらに走って来る足音がする。

「は……何、この光……ちょっと倖真ゆきまさ!! また、何かやらかしたの!?」

 同じ孤児院に住む幼馴染みの声だ。
 恐らく、朝食の時間になっても、一向いっこうに起きて来ない俺を呼びに来てくれたのだろう。

「てか、眩しっ! 倖真ゆきまさ、ドア開けるよ!」

 理沙がドアノブに手をかけるわずかな音が鳴る。

「──理沙りさか!? 流石に様子が変だ! 来るな!」

 俺はそれ以上の言葉を発する間も無く──
 そして理沙によって、部屋のドアが開かれる前に、俺はあっという間に光の渦へと吸い込まれていった。


 時を遡ること少し前。
 ──孤児院の台所──
 炊きたてのごはんと味噌汁、これぞ日本の朝食と言わんばかりの良い香りが台所に漂っている。そしてこの孤児院の今週のである、栗毛色の長い髪をポニーテールにした16歳の少女──花蓮理沙はなはすりさは朝食を作り終え、皿へ盛り付けを終えると満足気な顔で口を開く。

「これでよしっと!」

 すると、背後から聞き慣れた声が聞こえてくる。

「理沙ねぇお腹すいたぁ! ご飯まだー? あ、テーブルの掃除と朝の洗濯は終わったよ!!」

 中学生ぐらいの女の子と、その後ろに小学生ぐらいの男女が台所に入ってくる。孤児院の子達だ。

 どうやら、自分達の分担仕事が終わると、お腹が空いて、こちらの様子を見に来たらしい。

「ご苦労様、ご飯もうできてるよ。後は運ぶだけだから手伝ってね? それと倖真ゆきまさはもう起きてる?」
「え、倖兄ゆきにぃ? 倖兄なら、まだ降りてきてないよ。多分、まだ寝てるんじゃない?」

 はぁ、まったくもう……

「ごめん。私、ちょっと倖真ゆきまさ起こしてくるから、皆で朝食運んでおいてもらって良いかな?」
「はーい。了解! ごっはん♪ ごっはん♪」

 ご機嫌に鼻唄を歌いながら、可愛らしい笑顔で了解する。
 理沙は「じゃあ宜しくね」と言い残し、倖真ゆきまさを起こす為、倖真の部屋へ向かう。

(全く、毎回いつまで寝てるのだろう……)

 これではせっかく作った朝食が冷めてしまうではないか!
 部屋に着いたら少し怒ってやろう──

 そう思うと少し楽しくなってきた。

 バタバタバタ! と、駆け足で倖真ゆきまさの部屋の前まで来ると急に、部屋全体が眩しく光り出す。

「は……何、この光……ちょっと倖真ゆきまさ!! また、何かやらかしたの!?」

 よく見ると、その光はように動いているように見える──『これは一体どういう状況なのか?』と、理沙は目の前の光景に首を傾げる。

「てか、眩しっ! 倖真ゆきまさ、ドア開けるよ!」

 すると中から珍しく焦った声で返事が返ってくる。

「──理沙か!? 流石に様子が変だ! 来るな!」

 そうは言われても、この状況ではドアを開けざるを得なく、理沙はガチャッと部屋のドアを開けるが……

 ──そこに、倖真ゆきまさの姿はなかった。

「…………へ……いない? え、何……どういうこと……部屋の中から倖真ゆきまさの声はしたよね? ……って言うかさっきの光は何!? 今度は何やらかしたのッ!」

 現状の整理ができず理沙は頭を抱え、焦る……

「取り敢えず……こういう時は、まずさんに連絡だ。というか、他に頼りになりそうな人がいない……」

 慌ててポケットから、携帯電話を取り出し、
 通話履歴から牧野へと電話をかける。

 だが、数秒たっても、全然呼び出さない携帯電話に違和感を感じ、携帯の画面を見てみると……

 ──圏外になっている。

 ……は? ……圏外!?
(もう、何でこのタイミングで……!)

 そして画面にはも表示されていた。

 ──電波を阻害しています♪
         女神アルテナより──と。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~

雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。 元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。 ※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。

追放幼女の領地開拓記~シナリオ開始前に追放された悪役令嬢が民のためにやりたい放題した結果がこちらです~

一色孝太郎
ファンタジー
【小説家になろう日間1位!】 悪役令嬢オリヴィア。それはスマホ向け乙女ゲーム「魔法学園のイケメン王子様」のラスボスにして冥界の神をその身に降臨させ、アンデッドを操って世界を滅ぼそうとした屍(かばね)の女王。そんなオリヴィアに転生したのは生まれついての重い病気でずっと入院生活を送り、必死に生きたものの天国へと旅立った高校生の少女だった。念願の「健康で丈夫な体」に生まれ変わった彼女だったが、黒目黒髪という自分自身ではどうしようもないことで父親に疎まれ、八歳のときに魔の森の中にある見放された開拓村へと追放されてしまう。だが彼女はへこたれず、領民たちのために闇の神聖魔法を駆使してスケルトンを作り、領地を発展させていく。そんな彼女のスケルトンは産業革命とも称されるようになり、その評判は内外に轟いていく。だが、一方で彼女を追放した実家は徐々にその評判を落とし……? 小説家になろう様にて日間ハイファンタジーランキング1位! 更新予定:毎日二回(12:00、18:00) ※本作品は他サイトでも連載中です。

異世界転生令嬢、出奔する

猫野美羽
ファンタジー
※書籍化しました(2巻発売中です) アリア・エランダル辺境伯令嬢(十才)は家族に疎まれ、使用人以下の暮らしに追いやられていた。 高熱を出して粗末な部屋で寝込んでいた時、唐突に思い出す。 自分が異世界に転生した、元日本人OLであったことを。 魂の管理人から授かったスキルを使い、思い入れも全くない、むしろ憎しみしか覚えない実家を出奔することを固く心に誓った。 この最強の『無限収納EX』スキルを使って、元々は私のものだった財産を根こそぎ奪ってやる! 外見だけは可憐な少女は逞しく異世界をサバイバルする。

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

聖ロマニス帝国物語

桜枝 頌
恋愛
 北大陸にある聖ロマニス帝国と、南大陸にあるヴェルタ王国は、歴史上何度も戦争をしていた。  激戦地となるのは決まって二つの大陸を繋ぐような地形で存在するフロリジア公国。この公国は北の聖ロマニス帝国に帰属している。  現代、フロリジア公国は爵位と国の継承問題で揺れている。前公妃の娘で第一公女ジュエリアは継承順位第一位ではなく第二位。継承順位第一位は後妻であるセルマ公妃の娘で、ジュエリアの妹のミア公女になっていた。  ミアの婚約者はヴェルタ王国の王族、ジュエリア公女の婚約者は帝国近衛士官のシベリウス。公室の現状に、国民の誰もが近い将来戦争が再び起こることを覚悟した。  そしてなぜか完全な政略結婚で決められたはずのシベリウスが、初対面からジュエリアを溺愛し執着している……。 ※タイトル一部削除変更しました🙇🏻‍♀️

もしも○○だったら~らぶえっちシリーズ

中村 心響
恋愛
もしもシリーズと題しまして、オリジナル作品の二次創作。ファンサービスで書いた"もしも、あのキャラとこのキャラがこうだったら~"など、本編では有り得ない夢の妄想短編ストーリーの総集編となっております。 ※ 作品 「男装バレてイケメンに~」 「灼熱の砂丘」 「イケメンはずんどうぽっちゃり…」 こちらの作品を先にお読みください。 各、作品のファン様へ。 こちらの作品は、ノリと悪ふざけで作者が書き散らした、らぶえっちだらけの物語りとなっております。 故に、本作品のイメージが崩れた!とか。 あのキャラにこんなことさせないで!とか。 その他諸々の苦情は一切受け付けておりません。(。ᵕᴗᵕ。)

処理中です...