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第13話 乙女の正装
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謁見の広間に向かう廊下を、アメリはロランと並んで進んでいた。その後ろにほかのメンバーもついて来る。
歩くたびアメリの胸がゆさゆさ揺れる。大きく開いた襟ぐりは防御力が弱すぎて、慎重に歩かないとうっかり中身がこぼれ落ちてしまいそうだ。
しかも足が前に出るたびに、白い太ももがスカートのスリットから惜しげもなく顔をのぞかせていた。
廊下に均等に立ち並ぶ衛兵たちの視線が痛い。
真面目腐った顔で警護をしているが、目線だけはアメリの胸と足の動きを追っているのが丸わかりだ。
胸元とスカートを押さえて歩きづらそうにしているアメリを、先ほどからロランが横目でちらりと見やってくる。
もたもたするなという合図だと思い、アメリは歩数を増やして小股で何とかロランについて行こうとした。
「聖剣の乙女……言いたくはないが、その服はどうにかならないのか?」
前を向いたままロランが言った。アメリにだけ聞こえた小声は、苦々しさを含んでいる。
さすがにアメリもムッとして、横目でロランを睨み上げた。
「わたしだって着たくて着てるわけじゃありません。これが正装だって言うんだから仕方がないでしょう?」
「正装……? それがか?」
先ほどアメリが思ったことを、ロランがぼそりと呟いた。
「あっ!」
気を散らしたとたん、アメリの爪先が敷かれた赤い絨毯にとられた。
廊下に手をつく寸前にロランに抱きとめられる。
「大丈夫か?」
「は、はい、ごめんなさい、迷惑かけて」
「やはりその服は問題だな……」
いやな顔をされると思ったのに、ロランは思案顔で呟いた。
腕の中で見上げると、アメリはロランとばちりと目をあわせた。結構な至近距離で、しばし無言で見つめ合う。
ひゅっと息を吸い込んだかと思うと、首を痛めるかと言う勢いでロランがアメリから顔を逸らした。
次いで両肩に手を置かれ、密着していた体を引きはがされる。
この下品な化粧と衣装が気に入らないのだ。
ロランの反応に傷ついたアメリは、さらにロランから離れようと一歩下がろうとした。
「ご無事ですか!? 聖剣の乙女様!」
わらわらと集まってきたのはそこかしこにいた衛兵たちだ。
遠くにいた者まで鼻息荒く駆け寄ってきて、何を大袈裟なとアメリは首をかしげた。
「あ、はい、わたしは大丈夫です」
一応お礼は言おうとアメリは衛兵たちを振り向き笑顔を向け……ようとして、いきなりロランの腕に引き寄せられた。
「やはりこの服は問題があり過ぎだ……!」
そう叫んだかと思うとロランは乱暴にマントを脱いだ。
かと思うと目にも止まらぬ速さで、アメリの体をすっぽりと覆い隠してくる。
「へ……あの、勇者……?」
ぽかんと見上げると、ロランは衛兵たちに睨みを利かせているところだった。
対して衛兵たちは、なぜか不満そうな雰囲気を醸し出している。
ロランが大きく舌打ちをすると、みなそそくさと持ち場に戻っていった。
「行くぞ、聖剣の乙女」
「あ、はい」
肩を抱かれた状態で、アメリは再び歩き出した。
「あの、勇者……助かりました。このマント、移動中は借りててもいいですか?」
「謁見時にもずっと羽織っていてくれ」
「え、でも……」
アメリにしてみればありがたかったが、勇者の正装である豪華なマントだ。
この状態で王様の前に出たら、失礼に当たらないだろうか。
「いいか? 謁見時は許可が出るまで頭を下げる必要がある」
「はい、聞きました。片膝をついて頭を低くするんですよね?」
「その格好でそれをやる勇気はあるか?」
想像して、アメリは顔を青ざめさせた。
足が顕わになるくらいならまだマシだが、最悪重みで胸が服の外にこぼれ落ちるかもしれない。
「絶対に無理デス」
「だろう?」
初めてロランの優しさに触れた気がした。
うれしくて、アメリの口元がむにむにとゆるんでしまう。
「マントのことで何か言われたら俺のせいにすればいい。君の格好はあまりにも……」
そこまで言って、ロランははっとしたように口をつぐんだ。
それ以上は言葉を続けようとしてこない。
「あまりにも?」
しびれを切らして聞いてみる。
難しい顔をして、ロランは仕方ないと言った感じで口を開いた。
「君の格好は、あまりにも……あまりにも過ぎる」
不機嫌そうに顔を逸らされる。
拒絶されたように感じて、アメリの顔から笑顔が消えた。
結局ロランは、下品なアメリの横には立ちたくないのだ。マントを貸してくれたのも、恐らくそれが理由なのだろう。
気持ちがさらにしぼんでしまって、アメリは足取り重く謁見の広間に辿り着いた。
歩くたびアメリの胸がゆさゆさ揺れる。大きく開いた襟ぐりは防御力が弱すぎて、慎重に歩かないとうっかり中身がこぼれ落ちてしまいそうだ。
しかも足が前に出るたびに、白い太ももがスカートのスリットから惜しげもなく顔をのぞかせていた。
廊下に均等に立ち並ぶ衛兵たちの視線が痛い。
真面目腐った顔で警護をしているが、目線だけはアメリの胸と足の動きを追っているのが丸わかりだ。
胸元とスカートを押さえて歩きづらそうにしているアメリを、先ほどからロランが横目でちらりと見やってくる。
もたもたするなという合図だと思い、アメリは歩数を増やして小股で何とかロランについて行こうとした。
「聖剣の乙女……言いたくはないが、その服はどうにかならないのか?」
前を向いたままロランが言った。アメリにだけ聞こえた小声は、苦々しさを含んでいる。
さすがにアメリもムッとして、横目でロランを睨み上げた。
「わたしだって着たくて着てるわけじゃありません。これが正装だって言うんだから仕方がないでしょう?」
「正装……? それがか?」
先ほどアメリが思ったことを、ロランがぼそりと呟いた。
「あっ!」
気を散らしたとたん、アメリの爪先が敷かれた赤い絨毯にとられた。
廊下に手をつく寸前にロランに抱きとめられる。
「大丈夫か?」
「は、はい、ごめんなさい、迷惑かけて」
「やはりその服は問題だな……」
いやな顔をされると思ったのに、ロランは思案顔で呟いた。
腕の中で見上げると、アメリはロランとばちりと目をあわせた。結構な至近距離で、しばし無言で見つめ合う。
ひゅっと息を吸い込んだかと思うと、首を痛めるかと言う勢いでロランがアメリから顔を逸らした。
次いで両肩に手を置かれ、密着していた体を引きはがされる。
この下品な化粧と衣装が気に入らないのだ。
ロランの反応に傷ついたアメリは、さらにロランから離れようと一歩下がろうとした。
「ご無事ですか!? 聖剣の乙女様!」
わらわらと集まってきたのはそこかしこにいた衛兵たちだ。
遠くにいた者まで鼻息荒く駆け寄ってきて、何を大袈裟なとアメリは首をかしげた。
「あ、はい、わたしは大丈夫です」
一応お礼は言おうとアメリは衛兵たちを振り向き笑顔を向け……ようとして、いきなりロランの腕に引き寄せられた。
「やはりこの服は問題があり過ぎだ……!」
そう叫んだかと思うとロランは乱暴にマントを脱いだ。
かと思うと目にも止まらぬ速さで、アメリの体をすっぽりと覆い隠してくる。
「へ……あの、勇者……?」
ぽかんと見上げると、ロランは衛兵たちに睨みを利かせているところだった。
対して衛兵たちは、なぜか不満そうな雰囲気を醸し出している。
ロランが大きく舌打ちをすると、みなそそくさと持ち場に戻っていった。
「行くぞ、聖剣の乙女」
「あ、はい」
肩を抱かれた状態で、アメリは再び歩き出した。
「あの、勇者……助かりました。このマント、移動中は借りててもいいですか?」
「謁見時にもずっと羽織っていてくれ」
「え、でも……」
アメリにしてみればありがたかったが、勇者の正装である豪華なマントだ。
この状態で王様の前に出たら、失礼に当たらないだろうか。
「いいか? 謁見時は許可が出るまで頭を下げる必要がある」
「はい、聞きました。片膝をついて頭を低くするんですよね?」
「その格好でそれをやる勇気はあるか?」
想像して、アメリは顔を青ざめさせた。
足が顕わになるくらいならまだマシだが、最悪重みで胸が服の外にこぼれ落ちるかもしれない。
「絶対に無理デス」
「だろう?」
初めてロランの優しさに触れた気がした。
うれしくて、アメリの口元がむにむにとゆるんでしまう。
「マントのことで何か言われたら俺のせいにすればいい。君の格好はあまりにも……」
そこまで言って、ロランははっとしたように口をつぐんだ。
それ以上は言葉を続けようとしてこない。
「あまりにも?」
しびれを切らして聞いてみる。
難しい顔をして、ロランは仕方ないと言った感じで口を開いた。
「君の格好は、あまりにも……あまりにも過ぎる」
不機嫌そうに顔を逸らされる。
拒絶されたように感じて、アメリの顔から笑顔が消えた。
結局ロランは、下品なアメリの横には立ちたくないのだ。マントを貸してくれたのも、恐らくそれが理由なのだろう。
気持ちがさらにしぼんでしまって、アメリは足取り重く謁見の広間に辿り着いた。
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