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第七章 いざ、最終決戦

ラスボスは山田

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「やっぱりひとりじゃ上手くいかないわね……」

 目の前には散乱したティッシュのボール。
 魔法の自主練って言っても、初歩の参考書程度じゃどうにもならなくて。
 これで才能が開花するくらいなら、とっくに芽が出ていただろうし。ここは魔法学の先生に相談するのが得策かしら?

 ってなわけで、迎えた補習の日。
 わたくし効率よく魔法を使えるようになりたいんです。そう相談したら、前のめりで協力してもらえることに。

 補習は基礎をみっちりと、翌日の放課後からは出された課題をこなす毎日を送ってる。
 おかげで魔力切れを起こさないコツがちょっとずつ分かってきたって感じ。魔法学の先生、厳しいけど教え方が上手いんだ。今まで毛嫌いしててごめんなさい。

「ではハナコ君、昨日出した課題の成果を見せてもらおうか」
「はい、先生」

 机にはティッシュのボールがみっつ並んでる。
 そこに神経を集中して、一気に魔力を解き放った。

「すばらしい!」

 いち、に、さん、と、ボールは一直線にゴミ箱に飛び込んでいった。
 しかも手をかざすことなく、頭でイメージするだけでできちゃったよ!

「先生、わたくし……」
「ああ、ハナコ君、良く努力したね。たった数日でこの進歩だ。君の才能はまだまだ伸びるに違いない」

 よっしゃーっ、先生のお墨付きいただきました!

「わたくしそろそろティッシュ以外のものにも挑戦してみたいですわ」
「いや、焦らない方がいい。簡単な魔法で基礎を押さえておけば、のちのち応用が利くようになるからね」
「なるほどですわ、急がば回れですわね」
「では次の課題だ。精度はまずまずになってきたので今度は速度を増す訓練に移行しよう」
「はい、先生。ご指導のほどよろしくお願いいたしますわ」

 ちょっとスポコンなノリになってきたけど、スパルタ授業も成果が出ればだんだん楽しくなってきちゃって。
 今度は何ができるようになるんだろうって、寝る間も惜しんで課題をこなしてる。

「であるからして、この魔法の様式は……」

 実践の前に魔法の理論の講義を受けていたんだけど。
 あ、なんかくしゃみが出そう。
 とっさにハンカチで口元を押さえたものの、淑女としてちょっと恥ずかしい感じのくしゃみが出ちゃったし。

「し、失礼いたしましたわっ……きゃあっ」

 な、なんで?
 ちゃんと座ってたハズのに、いきなり椅子から転げ落ちたんですけど。真横に倒れて、思いっきり肘を打ち付けちゃったじゃない。

「いたたですわ」

 手を差し伸べてきた先生、なんだか信じられないモノをみる目つきでわたしを見てる。
 そりゃいきなり椅子から落ちたら驚くだろうけどさ。大丈夫とかちょっとくらい怪我の確認してくれたって。

「ハナコ君……きみ、いま転移魔法を使ったね?」
「……はい?」

 先生、いま転移魔法っておっしゃった?
 え、だってこのわたしが、んなバカな。

「どんな感覚だったか言ってみるんだ。こういったものは時間とともに薄れていってしまうからね」
「えぇと……くしゃみをしたらいきなり体が椅子からずれて……」

 そうよ、体がちょうど半分くらいはみ出して、それでバランス崩して真横に倒れちゃったんだよ。
 ってか、おしり半分ぶんの転移魔法ってなにっ!?

「距離は短くとも転移魔法は転移魔法だ。訓練を続ければ移動距離も延ばせるかもしれない」

 なんたること!
 ハナコってば何気に大器晩成なんじゃ!?

「とはいえ焦りは禁物だ。いずれそこを目指すにしても、魔力切れをおこさないよう今は一歩一歩基礎を固めよう」
「はい、先生……!」

 なんて驚愕の出来事があった週末。
 リュシアン様にお呼ばれして、学園の理事長室にある転移サークル経由でお城にやってきた。
 正面玄関から訪問すると、警備の関係上、奥に通されるまで半日がかりになっちゃうからね。茶飲み友達のよしみで、特別待遇してもらってる。

「リュシアン様、本日はお招きありがとうございます」
「うむ、待っておったぞ、ハナコ嬢」

 とは言え、周りには近衛兵とかも控えてるから、普段みたいに気さくにはおしゃべりしたらマズイよね。
 いくら仲良くしてもらってるからって、お城ではきちんと王族と公爵令嬢として接しないと。

「休日に呼び出してすまんの。最近はあまり保健室に来てくれなんだから、わしもさびしくてな」
「申し訳ございません。わたくし少々卒業があやうくて、無理を言って補習を受けさせて頂いているんですの」
「それならいっそ留年して、もう一年学生生活をたのしんだらよかろうに」
「もう、リュシアン様ったら。そんなわけには参りませんわ」
「かっかっか、いい考えだと思ったんだがのぅ。その方がわしもハナコ嬢と気軽に茶を飲めるというものじゃ」

 気負ってたわたしとは正反対に、リュシアン様はいつもと変わらない笑顔を向けてくれて。おかげでちょっと緊張が解れてきたって感じ。
 あ、そうだ。ちょうどいいから留学のこと、リュシアン様に相談してみようかな?

「リュシアン様、実はわたくしロレンツォ様に……」

 卒業したらイタリーノ留学に誘われてることを話したら、リュシアン様、ちょっと考え込んで。

「ふむ、前例がないわけではないが、行ったのはみな男ばかりゆえな。しかしハナコ嬢が望むなら、わしが後ろ盾をしてやれぬこともない」
「本当ですの? わたくしうれしいですわ!」

 リュシアン様の協力があれば、安心して行って来れそう。

「その前に冬休みに一度、イタリーノ国に遊びに来ないかと誘われておりまして」
「ならばわしもハナコ嬢について行くとするかな。国王時代に何度か訪問したことはあるが、公務ばかりで楽しむどころではなかったからのぅ」
「まぁ、ぜひ! わたくしもリュシアン様とご一緒したいですわ」

 リュシアン様がいれば、ロレンツォもわたしに変なことはできないだろうし。
 そのことだけネックに思ってたんだよね。来てくれるとホント助かるよ!

「ダメだ、ハナコ!」
「しゅ、シュン様!?」

 ふぉっ、びっくりしたっ。急に背後にあらわれないでっ。
 っていうか、なにがダメだってのよ?

「冬にイタリーノに行くなど許可できない。まして留学などもってのほかだ」
「まぁ、なぜシュン様がそのようなことをおっしゃいますの?」
「ヤーマダ国の王子として言っている。いくらハナコでもそのようなことは認められない」

 そんなこと言って、ハナコだからこそ許せないんじゃないの?
 リュシアン様だって了承してくれてることなのに。

「権力でわたくしの行動を妨げるとおっしゃいますの?」
「国の情勢を見て当然の措置そちだ」
「ではシュン様はあの日にわたくしとした約束を反故ほごになさると言うのですね?」
「そう思われても仕方がないが……それでも今回ばかりは、わたしは絶対に折れる気はない」
「分かりました。それではわたくし、今日をもってシュン様にお別れを申し上げますわ」

 レッドカードで、ゲームオーバー。
 無理強いしてくるなら、卒業を待たずに見限らせてもらうから。

 キッと睨みつけても、山田ってば動揺ひとつ見せなくて。
 なんか拍子抜け。ゆいなに好感度カンストしてるって言われたけど、案外そうでもなかったんじゃ?

「とにかくわたくしはイタリーノに行かせていただきます」
「ダメだと言った」
「リュシアン様には許可をいただきました。王子のお立場だからと言って、シュン様にわたくしを止める権利はないはずですわ」

 つんと顔を逸らして背を向けると、山田は手首を取ってきた。
 無理やり正面を向かされる。
 勝手に触ってんじゃないわよ。もうお終いだって言ったでしょう?

「命令だ。絶対に出国はさせない」
「横暴ですわ。リュシアン様も何かおっしゃってくださいませ」
「うぅむ。確かにイタリーノ国とは現在微妙な関係にあるからのぅ」
「ですがここ百年、国家間は良好だと」
「少々問題が生じておってな。ゆえにわしも同行しようと思ったのじゃが……」

 え、そうなの?
 そんな話、健太からは聞いてないんだけど。

「とは言えハナコ嬢を止める理由としては、ちと足らぬのも事実じゃな」
「おじい様……!」
「まぁ聞け、シュン王子よ。お前の言いたいこともよく分かる。ゆえにここはひとつ、ふたりで勝負をしてはどうじゃろうか」
「勝負を?」
「ああ、シュンとハナコ嬢でガチンコ対決じゃ」

 わたしが負けたら留学は無しってこと?
 何でもこなせる山田相手だと、何気にわたしが不利じゃない?

「勝負内容はハナコ嬢が決めるといい。それで良いな、シュン」
「はい、わたしに異論はありません」

 ちょっとリュシアン様、それもう決定事項なの?
 いいわよ、この勝負受けて立ってやる。
 何が何でも勝利をもぎ取って、イタリーノでイケメンゲットするんだから……!

「分かりました。では勝負方法は魔法対決でお願いいたしますわ」
「魔法で……? 本当にそれで良いのかの?」
「ええ、もちろん。少々ハンデはつけさせていただきますけれど」

 余裕の笑顔を向けると、戸惑いながらもリュシアン様は了承してくれた。

 決戦は冬休み直前の金曜日。
 ラスボスとして相手に不足なし。

 目にもの見せてあげるから、山田、首を洗って待ってなさいよ!

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