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第六章 初恋は時空を超えて

よってたかって責めないで

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「よぉ、ハナコ! 昨日ぶり!」

 ひとり歩く廊下でマサトに呼び止められて。

「マサト……あなた、生徒会で忙しいのでしょう? どうして毎日わたくしのところにやってくるのよ」
「俺がいたって仕事増やすだけだし。この前も重要な書類捨てちまってダンジュウロウに怒られた」

 ああ、マサトってば肉体労働専門だったっけ。
 だとしてもわたしにまとわりつく理由にならないんじゃ?

「なぁ、ハナコ。シュン王子も反省してるみたいだぞ? そろそろ仲直りしたっていいんじゃないか?」
「仲直りってあなた……」

 子供のケンカじゃないんだから。
 こっちは公衆の面前でファーストキスを奪われたのよ?
 それをわたしが駄々こねてるみたいに言うなんて。

「あっ、そうだ! この前渡した俺の召喚札、毎日持ち歩いてるか?」
「召喚札? あれなら部屋に置いてあるけど」
「なんでだよ。いざというときに呼べないんじゃ意味ないだろ? 明日からちゃんと持って来いよな」

 いや、マサトを呼び出して、わたしに何の得があるってのよ。
 それにそもそもアレは、山田けにって手渡してきたんじゃないの?

「じゃ、俺行くわ。また明日な!」

 言いたいことだけ言うと、マサトはあっという間に廊下の向こうに消えて行った。

「なんなの、あれ」
「ハナコ嬢……」

 ふぁっ、びびびびっくりしたっ。
 なんだダンジュウロウか。いきなり背後に立たないでよ。
 影が薄すぎて幽霊でも現れたかと思ったじゃない。

「驚かせたか? すまない、たまたま姿を見かけたもので」
「ごきげんよ……ろしくはなさそうですわね、ダンジュウロウ様」

 なんか顔色が悪いって言うか、死相が出てそうなやつれ具合なんですけど。
 あ、そっか。ダンジュウロウ、いま山田の代わりに生徒会仕切ってるんだっけ。
 そんな状態になるほどやらなきゃならないことが山積みなのかな? 生徒会って言っても、たかだか学生が執り行う範囲のことなんじゃ。

「最近あまり眠れていなくてな」
「まぁ、それはたいへん。睡眠魔法でもお使いになれば?」
「いや、いまは寝ている場合ではないんだ。責任ある仕事を任されていてな……」

 ああ、寝る時間が確保できないってわけか。
 ダンジュウロウは真面目キャラだから、手を抜いたり他人任せにできないんだろうな。
 で、何でもかんでもひとりで抱え込んで、パンクしちゃう損な性分。

「……ハナコ嬢」
「なんですの?」
「あ、いや、何でもない」

 ふいと顔を逸らすダンジュウロウ。
 その割には何か言いたげに見えるんですけど?

「すまない、本当に何でもないんだ。自分の負担を軽くするためにハナコ嬢に無理強むりじいするなど……やはりあってはならないことだ」

 わたしに無理強いを?
 なるほど。ポンコツと化した王子の穴埋めが大変だから、ダンジュウロウもわたしに折れろって頼みにきた口か。

「悪いが今の言葉は忘れてくれ。王子の偉大さを思い知らされたからと言って、打ちひしがれている場合ではないな」

 力なく笑ったダンジュウロウの顔、もはや土気色なんですけど。
 だからと言って、わたしが山田を許すのはまた別の次元の話なわけで。
 ダンジュウロウも忘れろって言ってるし、ここは遠慮なく聞かなかったことにしようっと。

「良く分からないけれど、ダンジュウロウ様がそうおっしゃるのなら……」
「ああ、そうしてくれ。なに大丈夫だ。卒業まで一睡もしなくとも人間死にはしない」

 いや、死ぬって。

「ときにハナコ嬢、今日は他に誰も連れていないのだな」

 誰もって、取り巻き令嬢のこと? 
 最近は無理に拘束しないよう気をつけてるんだってば。

「ええ。それが何か?」
「いや、学園内ではできる限りひとりにきりにならないでくれ。でないと余計にシュン王子が……」

 山田がどうだっていうのよ?
 わたしの不機嫌な空気を察知したのか、ダンジュウロウは口ごもった。
 君、わりと常識人だよね。そんなトコは嫌いじゃないよ。
 だけど山田がわたしの何を心配しようと、こっちの知ったこっちゃないんですけど?

「とにかく人気ひとけのない場所には近づかないようにしてくれないか?」
「分かりましたわ」

 これ以上いらん負担かけるのも、さすがに忍びないもんね。
 ダンジュウロウ君、頑張って生き抜いてくれ。生徒会の人員増やすように、健太にアドバイスしとくから。
 そんなことを思いつつ、力なく立ち去るダンジュウロウの背を見送った。

 そのとき鳥が羽ばたく音がして。

『ぴんっぽんっぱんっぽんっ。ハナコ・モッリさんに連絡シマス』

 目の高さで白い鳩が、羽ばたきながら滞空飛行してる。
 これは校内放送鳩って言って、生徒を呼び出したりするときに使われる魔法のひとつ。
 その鳩のクチバシから、可愛らしい声が発せられていく。

『理事長がお呼びデスっ。至急、理事長室までお越しくだサイっ』

 ふぇっ、理事長室っ!?
 わたしなんかやらかしたっけ!?

 フランク学園の理事長は、何を隠そう山田のおじい様。
 そんな理事長からの呼び出しだなんて、イヤな予感しかしないんですけど。

『繰り返しマス。ハナコ・モッリさん、至急、理事長室までお越しくだサイっ。繰り返しマス……』

 まるで逃がさないようにするみたいに、鳩はわたしの周りをぐるぐる飛び続ける。

 これってやっぱ、山田に関するお呼び出しだよね?
 って言うか、なんでみんなしてか弱いわたしに圧かけてくんのっ。
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