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後日談

そうだ実家に行こう

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 のミシェルは、外出日は町でエドガーと過ごすことが多い。
 女子力の高い彼は、まるで女同士のように話が合うし、ミシェルの事情を知っているので、ルーカスとはまた違った意味で彼女の偽装生活を手助けしてくれる。
 ルーカスもだが、脅しのような切っ掛けだが良い協力者に恵まれたと思う。

「ごめん。今度の休みは会えない」

 小さな町にある数少ないカフェは、定番のデートスポットだ。
 都会のように洗練されているとは言いがたい店内だが、それでも他の店に比べれば利用しやすい。
 何よりこの辺りで甘い物を食べられる場所は限られている。
 味覚は年相応の女子であるミシェルは、アドリア学院入学後は常に甘味に飢えていた。
 その点でも、外出日の町デートは欠かせない。なぜなら騎士科の男子は、一人でカフェでケーキを食べたりしないからだ。

「なにか用があるの?」
「一度実家に帰ろうと思って……」

 休みに合わせて外泊届を出せば、授業を極力休まない形で帰省できる。
 一連の騒動が終わり、今後のことについてミシェルは一度家族と話す決意をした。

「ふぅん。実家って遠いの?」

 今日のエドガーの衣装は、ライムグリーンと白のワンピースだ。
 彼は基本ワンピースを着ている。
 以前理由を聞いたら「一枚で完結するって楽じゃん」と、お洒落とは真逆の、合理的な答えが返ってきた。

「そんなに遠くないかな。日帰りは無理だけど、一泊すれば問題ないくらいの距離だよ」

 バルト騎士団は東部の治安維持を担っているので、その本拠地である伯爵邸も首都からは離れた場所に建っている。
 学院も同じく東部にある。乗合馬車を乗り継ぐと一日がかりになるが、辻馬車なら数時間で帰れる距離だ。

「じゃあオレも行く!」
「ええ!?」
「ミハイルさんとお付き合いしてるエリスです、ってお父様に挨拶しないとね」
「嘘でしょ!?」
「うそうそ。でもさ、正体知って協力してくれる人がいるって知れば親御さんも安心するでしょ。それに会えるなら、一度弟さんと話してみたくてね」

 エドガーとミシェルは同じ年齢だが、彼の方が世慣れしている。
 社会を知らない彼女と違って、色々経験しているので悪いようにはならないだろう。

「……変なことしないなら、いいよ」
「その辺の引き際は、わきまえてるから安心してよ」

 彼には家庭の事情を話している。
 上手く立ち回ってくれるのなら、心強いのでミシェルは了承した。



 帰省といっても、短時間滞在するだけなので荷造りの必要は無い。
 だが学校を離れるので洗い物などは、出かける前に片付けておかなければいけない。
 ルーカスは、いつもとは違ったタイミングで洗濯しようとするルームメイトに声をかけた。

「はあ!? あの野郎連れて実家に挨拶? 何考えてんだ!?」
「違いますって。僕に同行してアシストしてくれるつもりみたいです」
「また簡単に騙されやがって! それを世間では、家族に紹介するって言うんだよ!」
「また、ってなんですか。僕は騙されたことなんてありませんよ」
「チッ。もういい。アシスト要員が必要なら俺も行く」
「どうしてそうなるんですか!?」
「お前の事情一番知ってんのは俺だろ。外で話だけ聞いてるヤツよりは、よっぽど頼りになるだろうがよ」

 情報量の点ではその通りだが、コミュニケーション能力の時点で大きく劣る。

「不安しか無いのでお断りします」
「この俺のどこが不安なんだ」
「主に人との会話が」
「喧嘩売ってんのか」
「事実でしょう。ルーカス様を連れて行って、家族や騎士団の皆に喧嘩を売られたらたまりません」
「記憶を取り戻した今の俺はラブ&ピースな人間だぞ。理由もないのに他人に噛みついたりしねぇよ」

 胸を張ってみせるが、どうにも信用しきれない。

「理由があればするんですね」
「そりゃするだろ」
「……」

 これは駄目だ。ミシェルはルーカスを置いていくことに決めた。
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