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君がいないと

ラーメン

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「……先輩、先輩、先輩……先輩、大丈夫ですか?」
「え、あ、ごめん。ごめんごめん、何の話だっけ?」
「なんの話もしてないですよ……先輩、本当に大丈夫ですか? 体調が悪いとかそういうのありませんか?」
 ラーメンの湯気越しに聞いてくる香菜ちゃんに「ははは」という作り笑いしかできなかった。

 今は⋯⋯あ、そうだ金曜日だ。
 ええと、確か学校はちゃんと行けてそして帰りに香菜ちゃんに捕まって、真斗とか阿部さんとかに強引に「行ってこい!」って背中押されてそれで……そっか、だから僕は今ラーメン屋さんにいるんだ。うん、思い出した。
 それに……今悩んでることとかも全部。
 星月さんの事が全部、全部。
 
 ……あ、そうだ、確かここはテレビでも紹介されたことのある名店、味の保障は十分なはずだよね。
 しっかり味わおう……うーん、豚骨。

「……やっぱり先輩今日なんかおかしいですよ? どうかしましたか?」
「……え、そう? いつも通りだと思うけどなぁ」
「……先輩、悩みがあるんですか? 私でよければ相談に乗りますよ?」
 心配そうに聞いてくれる香菜ちゃん。
 その声に少し気持ちが和らいで、ちょっとだけ相談する気持ちになった。
 一人で抱え込むのもよくない気がして。

「それじゃあちょっと聞いてくれる?」
「はい、大丈夫ですよ、先輩の話なら!」
「ありがとう。それじゃあね……香菜ちゃんって今まで彼氏とかいたことある?」
「ふえっ!? ど、どうしたんですか急に……え、その、えっと、いません、いません、私は今までオールフリーです! ……今好きな人はいますけど……」
 そういってもじもじしだす香菜ちゃん。
 ちらちらと目線が合う。
「それじゃあ、その好きな人でいいんだけどさ……どうしてその人の事好きになったとかある?」
「え、あ、その……だってすごく優しくしてくれて、いっぱい私の事手伝ってくれたり、お出かけしてくれたり……もう先輩、恥ずかしいです、羞恥プレイですか!」
 そういって真っ赤な顔をしてぷりぷり怒り出す。
 デリカシーが足りてなかった、ごめんなさい。

「ごめん、好きな人の事話すのは恥ずかしいよね、ごめん……それじゃあ、最後に質問していい? ……その人の事考えるとどうなるとか……ある?」
「え、あの……ナンデソンナシツモンスルンデスカ? そ、そうですね……どんな時でも会いたくなったり、心がぽわーんってなったり、一緒にいたら楽しかったり、ちょっと心配になったり……って本当にどうしたんですか、先輩やっぱり変ですよ!」
「うん、そうだよね、ごめん、忘れて、やっぱ今日僕変だ……そ、それよりさ、ラーメン早く食べないと伸びちゃうから食べよ。ほら、今日は僕がおごるからさ。うん僕がおごるから」
「……ありがとうございます。いただきますね」
 すすったラーメンはやっぱりとんこつ味で、その濃さが僕の喉には少ししんどかった。


「このお店のラーメン美味しかったですね! 豚骨だけどそこまでしつこくなくて……また行きたいですね!」
「うん、そうだね、また行きたいね」
 ラーメンでほてった身体に夜風が気持ちいい。
 あったまった身体を冷やしているとギュッとズボンのすそを掴まれる。
「……あの先輩、その……」
「……どうしたの?」
「……いえ、やっぱり何でもないです! 明日の学校も頑張りましょうね!」
 そういってラーメンでほてった顔をにっこりさせる香菜ちゃん。
 そうか、明日は土曜日だけど登校日、すっかり忘れていた。

 思い出したことに少しほっとしていると今度は香菜ちゃんに手をぎゅっと握られる。
「……先輩、その困ったことあったらすぐに私に相談してくださいね? 私はその……いつでも先輩の味方ですから!」 
「……ありがとう、ごめんね」
「もう、なんで謝るんですか……」
 けど、この優しさには甘えられない気がした。
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