暴君皇帝は幼妻にご執心

まだ足りないらしい

「お騒がせいたしました……おほほ」

しばらく傍観してようやく正気を取り戻したとばかりの女性がどことなく血を浴びながら淑女らしく笑うも見た目は全然淑女らしさはない。伯爵はぴくぴくと虫の息状態。今までのことを思えば助けたいとは思わないが、あまりの惨状に可哀想と思わなくもない。

「突然来たのもあるからな。今回に限ってはまあ、見なかったことにする」

「あら、噂とは違いお優しいのですね」

女性は陛下に怯えることなく、笑みを浮かべて言いのけた。怖いもの知らずなのだろうか？

「まあ、優しいかもしれないな。見なかったことにするわけだ。だからまだあの伯爵は罰を受けてない……こちらで処理させてもらうが、異論はないな？」

「おほほ、もちろんですわ」

あの伯爵を見てさらに追い詰めようとする辺り女性を気遣って見なかったことにしたわけではないらしい。でも、まあ、体罰で終わってはそのままの地位にまたあぐらをかきそうではあるから判断として間違ってはいない気がする。

それに女性の慣れている様子からして………多分、これだけのことを今までしてきたのではないかなとも思ったり………。それで反省しないのなら伯爵は徹底的にやらないとだめなんだと思う。

なんだかんだ私だって怒ってるしね！それに私以外の犠牲者を増やしたくもない。

「では改めて………罪については本人が一番知っているでしょうから省きましょう。当然貴族ではいられませんから伯爵の当主の座が空きますが、ご夫人がされますか？」

仕切り直しとばかりに宰相様が口を出し、女性に尋ねれば、女性は首をゆっくりと横に振った。

「いえ、もういっそ爵位は返還いたしますわ。これでも侯爵家に嫁いでいる身ですし、恋愛結婚ですの。しかしながら、ゲースゲスゲスは貴族として醜聞の塊の家名です。これ以上の醜聞がないように侯爵家に了承を得て、兄を教育しきるまではと領地などの管理をしていたのですが、どうしても侯爵家に戻る必要があって目を離した隙に………スモール家の方には特に申し訳ありませんでしたわ」

なんというか女性はやはり事情を知った上で伯爵に怒っていたようだ。とても過激ではあったけれど。にしてもあっさり爵位返還とはよっぽど伯爵家に未練はないように思う。まあ家名自体が恥とも言えるなら仕方ない。

「いえ………侯爵夫人が謝る必要は……」

「あら、そういえば名乗ってませんでしたね。失礼しました。私、カーメル・トルンタ、トルンタ家当主の妻にございます」

「トルンタ家といえば確か……祖父方が……」

「ええ、さすがは宰相様……義祖父はスモール家に忠誠を誓った方です。最近は体調が思わしくなく、それで侯爵家に戻っていました。まあそれにより、スモール家がこの兄に迷惑を被られているのも遅れてしまい………今に至ります」

「あの………何故、トルンタ侯爵家たる大旦那とも言える高位のご貴族がスモール家に忠誠を………」

私が疑問に思ったことをトールも感じたのか、戸惑いながらトルンタ侯爵夫人に問いかけた。

「もちろん、トルンタ家はスモール家の縁者だからですわ」

なんだろう？これから何かデジャヴなことを言われる気がするのは。