上 下
36 / 42

36~ミリーナ視点~

しおりを挟む
ああ、私の日記が読まれていく。でも今更止められはしないし、止める気もはい。

キャロエの存在を知ってから、ハワードと会うように仕向け、二人が関わっていくのを見てタイミングを見計らってキャロエに復讐の相手を伝えた。

その時の一回だけだ。まだゼロの生んでいないキャロエに出会ったのは。

我ながらよいタイミングだったと思う。信じられないと言いながら、絶望したような瞳は今でも思い出せる。人の死とは別で、人間を見る中では一番好きな表情にぞくぞくした。

別に信じなくてもよかった。キャロエは孤独な存在だったから、余計なことを言う周りの人間はいないし、疑いさえ持てば、最初はそれで十分。

愛とやらが続くか見物であったし、今まで幸せそうだった二人がぎくしゃくし、幸せの崩れていく瞬間を眺めているだけでも私は楽しかった。

これが復讐となり、血生臭い話となればより楽しいだろうなんて思いながら。

そんな中でハワードは、ぎくしゃくする前に放った種が幸か不幸か、キャロエのお腹に子を宿したことで、どこかぎくしゃくした関係から感じとれずにはいられなかったハワードは、自分のした過ちを勇気を持って話すべきか悩んでいたから、私は二人を繋ぐ子供が二人の愛を紡いでくれるはずと背中を押した。

子が堕ろせなくなったタイミングで。

どちらにしろキャロエはハワードなしでは孤独。子供を堕ろせたとしても、キャロエはハワードから離れられなかっただろう。そういう確信があった。

ハワードがいなければ罪の子に逆戻りなのだから。進んでも去っても地獄。キャロエはまさに私の観察という名の実験材料に相応しいと感じ、文通を始めた。

『復讐を手伝いましょうか?真実を教えたものより』

そんな手紙を最初に送って。

キャロエからは、最悪返信は来ないとも考えていたけれど、案外早くに、いつか耐えきれなくなったときには……と返事が来たので、私は確信せずにはいられなかった。

すでにキャロエには復讐の炎が心の中で育ちつつあると。

キャロエにも自覚はあったのだろう。その文通を最初に、ときどき子を愛せない、ゼロに罪はないのにといった懺悔か何かよくわからないものが届くようになった。

急に現れた怪しいやつでも、両親の処刑の後、孤独に生きてきたキャロエにとっての捌け口が私しかいなかった証拠。

それだけキャロエは追い詰められていた。だからこそしばらくはその手紙とときどき隠れて様子を見に行くだけで私は満足できていた。………そう、しばらくは。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約なんてするんじゃなかった——そう言われたのならば。

ルーシャオ
恋愛
ビーレンフェン男爵家次女チェリーシャは、婚約者のスネルソン伯爵家嫡男アンソニーに振り回されていた。彼の買った時代遅れのドレスを着て、殴られたあざを隠すよう化粧をして、舞踏会へ連れていかれて、挙句にアンソニーの同級生たちの前で「婚約なんてするんじゃなかった」と嘲笑われる。 すでにアンソニーから離れられやしないと諦めていたチェリーシャの前に現れたのは、長い黒髪の貴公子だった。

妹が私の婚約者を奪うのはこれで九度目のことですが、父も私も特に気にしていません。なぜならば……

オコムラナオ
恋愛
「お前なんてもういらないから。別れてくれ。 代わりに俺は、レピアさんと婚約する」 妹のレピアに婚約者を奪われたレフィー侯爵令嬢は、「ああ、またか」と思った。 これまでにも、何度も妹に婚約者を奪われてきた。 しかしレフィー侯爵令嬢が、そのことを深く思い悩む様子はない。 彼女は胸のうちに、ある秘密を抱えていた。

お望み通りに婚約破棄したのに嫌がらせを受けるので、ちょっと行動を起こしてみた。

夢草 蝶
恋愛
 婚約破棄をしたのに、元婚約者の浮気相手から嫌がらせを受けている。  流石に疲れてきたある日。  靴箱に入っていた呼び出し状を私は──。

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

浮気で得た「本当の愛」は、簡単に散る仮初のものだったようです。

八代奏多
恋愛
「本当の愛を見つけたから、婚約を破棄する」  浮気をしている婚約者にそう言われて、侯爵令嬢のリーシャは内心で微笑んだ。  浮気男と離れられるのを今か今かと待っていたから。  世間体を気にした元婚約者も浮気相手も、リーシャを悪者にしようとしているが、それは上手くいかず……。  浮気したお馬鹿さん達が破滅へと向かうお話。

わたしは不要だと、仰いましたね

ごろごろみかん。
恋愛
十七年、全てを擲って国民のため、国のために尽くしてきた。何ができるか、何が出来ないか。出来ないものを実現させるためにはどうすればいいのか。 試行錯誤しながらも政治に生きた彼女に突きつけられたのは「王太子妃に相応しくない」という婚約破棄の宣言だった。わたしに足りないものは何だったのだろう? 国のために全てを差し出した彼女に残されたものは何も無い。それなら、生きている意味も── 生きるよすがを失った彼女に声をかけたのは、悪名高い公爵子息。 「きみ、このままでいいの?このまま捨てられて終わりなんて、悔しくない?」 もちろん悔しい。 だけどそれ以上に、裏切られたショックの方が大きい。愛がなくても、信頼はあると思っていた。 「きみに足りないものを教えてあげようか」 男は笑った。 ☆ 国を変えたい、という気持ちは変わらない。 王太子妃の椅子が使えないのであれば、実力行使するしか──ありませんよね。 *以前掲載していたもののリメイク

学院内でいきなり婚約破棄されました

マルローネ
恋愛
王立貴族学院に通っていた伯爵令嬢のメアリは婚約者であり侯爵令息、さらに生徒会長のオルスタに婚約破棄を言い渡されてしまう。しかも学院内のクラスの中で……。 慰謝料も支払わず、さらに共同で事業を行っていたのだがその利益も不当に奪われる結果に。 メアリは婚約破棄はともかく、それ以外のことには納得行かず幼馴染の伯爵令息レヴィンと共に反論することに。 急速に二人の仲も進展していくが……?

処理中です...