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9~さらなる未来にて~
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城を去ってから数年経ち、私ももう本格的なおばさんになっている。今ならあのマリアンヌを笑ってやることもできないくらいには年はとったとわかる容姿だと思う。
「聖女様!おはようございます!」
「「「おはようございます!」」」
「ふふ、おはようございます」
私はあれから色々なところを旅して最後に落ち着いた場所が城からかなり離れた辺境の小さな町にある教会だった。孤児が集められたその教会は決して裕福とは言えない環境だけど、教会の子たちは決して自分を不幸とは思わないほどに町のみんなから大事にされている。
毎日誰かしら町の人が訪れては子供たちに何かを持ってきていたり、お手伝いを頼んではお駄賃をあげたりと優しさ溢れるこの町はとても居心地がよかった。
そんな教会で孤児のリーダーとも言える子の挨拶と一緒に今日も私に挨拶をしてくれる元気な子たち。今日もいい日になりそうだとこの時は思っていた。
しかし、それはひとりの人物が現れたことで崩れる。
「レイン……っああ、ああ……っようやく見つけた」
「え?でん、か……?」
それは昼を過ぎて夕方に差し掛かるくらいの時間。干していた洗濯を取り込んでいたいた時だった。
何故かぼろぼろで大人になりきった殿下が目の前に。いくらぼろぼろでもその姿、声で殿下とすぐにわかったけど、それはそれ。何故王子様でもある彼がそんなぼろぼろの姿で私の目の前にひとりでいるのか。
「レイン、許してくれ……っすまなかった……俺はっ」
「え、ちょ……何をっ!」
そんな彼から逃げることも忘れ驚いていたが、急に土下座して謝り始める殿下に私は慌てるしかなかった。今の殿下から黙って消えたのは私なのにと。
「思い、出したんだ……レインが俺の婚約者だったことを」
「え?」
まさか私が離れたことで聖女の力から解放されたのだろうか?なんて思うが、ぼろぼろであろうと見た目は私より遥かに若く見える。もしかして記憶だけが戻ったのだろうか?
「レインが逃げるのも当たり前だ……っ俺は、俺が、レインと婚約破棄しようとしたくせに…………っ図々しいにも程がある!」
「殿下……」
顔をあげた殿下は涙に濡れていて余計に酷くなる顔。だけどその瞳は真剣で、まさかあの日のことを謝罪される日が来るとは思いもしなかった。
「せめて、せめて謝りたくて……っもう、俺の顔を見るのも、嫌かもしれないが……だけど、俺は、レインが好きで好きで……っ嫌われたとしても諦められないんだ…………っ!」
「………」
ぼろぼろな姿で溢れ出る涙でさらに酷くなるその姿。鼻水まで出てなんとカッコ悪い人なんだろうと思うものの、愛しく感じるのはあの日の殿下に恋してた自分か、母親として育ててきたつもりの子として想う気持ちか、今の自分ではわからない。
でも年をとった故に知らず知らずに自分の気持ちに余裕ができていたのだろうか。今なら私は殿下を許すことができそうだ。それでもそれを口に出す気にはなれない。だって今でさえなくさぬその気持ちに答えられる自信が私にはないから。
「たの、む……お願い、します……っ俺を傍に、傍に置いて……っ逃げないでくれ……っ」
まるであの日と立場が逆転したかのようだ。それでも私はここまで酷くすがりついた覚えはないけど。
私に会って謝罪して泣きべそかいて……どれだけ私を想っているのかが伝わってくる。母親に対する執着としては異常。ならばやはり本当に彼は私を恋愛対象として見ているのだろう。
「逃げないわ……でも、私もう見た目通りのおばさんよ?」
これが今の私の精一杯。土下座姿勢から変わらぬ彼にしゃがんで視線を合わさればくすりと笑って首を傾げて事実を伝える。伝えずとも見た目からわかるだろうけど。
「れ、レインは……、可愛いっ!綺麗だっ!ほ、本当に……っ」
とたんに真っ赤になって必死に伝える彼に少しばかりおばさんの乙女な部分が刺激された気がした。案外二度目の遅い青春は近いかもしれない。
「私、まだ独身なの……頑張ってね?」
「……っ……ああ!」
王子様としての責務は大丈夫なのかとか、なんでそんなにぼろぼろなのか聞きたいことは山ほどあるとはいえ、それだけ私を必死になって探してくれていたんだと思えてならない。
誰にも聖女探しはしないよう言い含んでいたから余計に。だからこそ一人で私を探し出すまで頑張っただろう彼に希望を与えるような物言いになってしまった。
涙と鼻水でぐちゃぐちゃな顔で彼はようやく笑顔を私に見せて返事を返す。簡単にほだされてしまいそうだと思ってしまう辺り、案外彼と私が再び結ばれる日は近いかもしれない。
おわり
あとがき2
ハッピー………エンド?体こそ戻らなかったが、レインがいなくなり狂いに狂って記憶が戻った様子の王子様がようやくレインを見つけて自分がレインの婚約者だったと知り、それ故必死な様子が伝わったでしょうか?
記憶がなかったからこそレインに甘えてこれた彼ですが、この話の内容で1の部分冒頭のことが思い出されては立つ瀬がないでしょう。
婚約破棄しようとした女に恋をして狂うほどに必死になる。果たしてこれはざまぁに入るのか。
感想くださった方、望む結果になりましたら幸いです。
「聖女様!おはようございます!」
「「「おはようございます!」」」
「ふふ、おはようございます」
私はあれから色々なところを旅して最後に落ち着いた場所が城からかなり離れた辺境の小さな町にある教会だった。孤児が集められたその教会は決して裕福とは言えない環境だけど、教会の子たちは決して自分を不幸とは思わないほどに町のみんなから大事にされている。
毎日誰かしら町の人が訪れては子供たちに何かを持ってきていたり、お手伝いを頼んではお駄賃をあげたりと優しさ溢れるこの町はとても居心地がよかった。
そんな教会で孤児のリーダーとも言える子の挨拶と一緒に今日も私に挨拶をしてくれる元気な子たち。今日もいい日になりそうだとこの時は思っていた。
しかし、それはひとりの人物が現れたことで崩れる。
「レイン……っああ、ああ……っようやく見つけた」
「え?でん、か……?」
それは昼を過ぎて夕方に差し掛かるくらいの時間。干していた洗濯を取り込んでいたいた時だった。
何故かぼろぼろで大人になりきった殿下が目の前に。いくらぼろぼろでもその姿、声で殿下とすぐにわかったけど、それはそれ。何故王子様でもある彼がそんなぼろぼろの姿で私の目の前にひとりでいるのか。
「レイン、許してくれ……っすまなかった……俺はっ」
「え、ちょ……何をっ!」
そんな彼から逃げることも忘れ驚いていたが、急に土下座して謝り始める殿下に私は慌てるしかなかった。今の殿下から黙って消えたのは私なのにと。
「思い、出したんだ……レインが俺の婚約者だったことを」
「え?」
まさか私が離れたことで聖女の力から解放されたのだろうか?なんて思うが、ぼろぼろであろうと見た目は私より遥かに若く見える。もしかして記憶だけが戻ったのだろうか?
「レインが逃げるのも当たり前だ……っ俺は、俺が、レインと婚約破棄しようとしたくせに…………っ図々しいにも程がある!」
「殿下……」
顔をあげた殿下は涙に濡れていて余計に酷くなる顔。だけどその瞳は真剣で、まさかあの日のことを謝罪される日が来るとは思いもしなかった。
「せめて、せめて謝りたくて……っもう、俺の顔を見るのも、嫌かもしれないが……だけど、俺は、レインが好きで好きで……っ嫌われたとしても諦められないんだ…………っ!」
「………」
ぼろぼろな姿で溢れ出る涙でさらに酷くなるその姿。鼻水まで出てなんとカッコ悪い人なんだろうと思うものの、愛しく感じるのはあの日の殿下に恋してた自分か、母親として育ててきたつもりの子として想う気持ちか、今の自分ではわからない。
でも年をとった故に知らず知らずに自分の気持ちに余裕ができていたのだろうか。今なら私は殿下を許すことができそうだ。それでもそれを口に出す気にはなれない。だって今でさえなくさぬその気持ちに答えられる自信が私にはないから。
「たの、む……お願い、します……っ俺を傍に、傍に置いて……っ逃げないでくれ……っ」
まるであの日と立場が逆転したかのようだ。それでも私はここまで酷くすがりついた覚えはないけど。
私に会って謝罪して泣きべそかいて……どれだけ私を想っているのかが伝わってくる。母親に対する執着としては異常。ならばやはり本当に彼は私を恋愛対象として見ているのだろう。
「逃げないわ……でも、私もう見た目通りのおばさんよ?」
これが今の私の精一杯。土下座姿勢から変わらぬ彼にしゃがんで視線を合わさればくすりと笑って首を傾げて事実を伝える。伝えずとも見た目からわかるだろうけど。
「れ、レインは……、可愛いっ!綺麗だっ!ほ、本当に……っ」
とたんに真っ赤になって必死に伝える彼に少しばかりおばさんの乙女な部分が刺激された気がした。案外二度目の遅い青春は近いかもしれない。
「私、まだ独身なの……頑張ってね?」
「……っ……ああ!」
王子様としての責務は大丈夫なのかとか、なんでそんなにぼろぼろなのか聞きたいことは山ほどあるとはいえ、それだけ私を必死になって探してくれていたんだと思えてならない。
誰にも聖女探しはしないよう言い含んでいたから余計に。だからこそ一人で私を探し出すまで頑張っただろう彼に希望を与えるような物言いになってしまった。
涙と鼻水でぐちゃぐちゃな顔で彼はようやく笑顔を私に見せて返事を返す。簡単にほだされてしまいそうだと思ってしまう辺り、案外彼と私が再び結ばれる日は近いかもしれない。
おわり
あとがき2
ハッピー………エンド?体こそ戻らなかったが、レインがいなくなり狂いに狂って記憶が戻った様子の王子様がようやくレインを見つけて自分がレインの婚約者だったと知り、それ故必死な様子が伝わったでしょうか?
記憶がなかったからこそレインに甘えてこれた彼ですが、この話の内容で1の部分冒頭のことが思い出されては立つ瀬がないでしょう。
婚約破棄しようとした女に恋をして狂うほどに必死になる。果たしてこれはざまぁに入るのか。
感想くださった方、望む結果になりましたら幸いです。
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