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まさか私と婚約破棄しようとした殿下にあんなことを言われるなんて思わなかった。まるで拗ねるように言われたその言葉は好きな人を口説くようにも聞こえるけど、母親を誰にもとられたくないと言われたようにも思える。

意外と私は殿下に女としては見られなくとも母親としてなら良好なままでいられるかもしれないなんて暢気に考えたその日から殿下は随分と甘えたになった。

「レイン、ひざまくらして」

「レイン、ぎゅってしてあげる」

可愛いお願いばかりである。なんなら母親をとられたくない心境だろうか?

「レインはぼくのだからね!」

「レイン、ぼくからはなれないでね」

「レイン、さっき、あのひととなにはなしてたの……?」

将来マザコンになったらそれはそれで心配だなと思いながらも好かれるのは悪くなく私も内心でれでれだし、これはこれで幸せかもなんて思ったり。

そうそうあれからマリアンヌという女性もめげずに殿下に会おうとして玉砕していたわ。聖女と確定した私すら無視して突撃とはお前絶対いじめられるタイプじゃないだろと叫びたい。

「殿下お久しぶりでございますわ」

それは少し前のこと。まるで待ち構えていたとばかりに私を無視して幼い殿下に話しかけるマリアンヌ。殿下のだれ?おばさん発言はすっかり忘れているらしい。

「? レイン、このおばさん、だれかな」

「ぐぅ……っ」

殿下、マリアンヌにクリティカルヒットダメージ!まあ、子供だもの。正直よね……うん、素直が一番。私はだったけど?

「このは殿下の婚約者候補です」

そう驚いたことに後からマリアンヌを調べれば、私が婚約者になる前に候補者として一応あがってはいたのよね。だから婚約解消を私が果たした今、再び婚約者候補に戻れたわけ。おばさん呼びはもちろんわざと。きっと私を睨むマリアンヌに少しばかりすっきりした。最初におばさん呼ばわりしたの殿下ですよー?

「え、これが……?」

「ま、マリアンヌ・マーケですわ……」

殿下の言葉にひきつった笑顔で自己紹介をするマリアンヌ。どうやら幼いピュアな殿下にはあまり貴女は魅力的ではないみたいですね?

「殿下、女性にこれがなんて失礼ですよ……ふふっ」

あ、だめ。注意するつもりが笑ってしまったわ。

「わ、笑ってんじゃないわよ!」

「キャーコワイ、デンカタスケテー」

あの時のやり返しだとばかりに言ってみたけど私に演技力はない。棒読みにも程がある。

「おばさん!レインをいじめるな!」

「マリアンヌですわ!」

でも殿下はちょろかった……。殿下?マリアンヌがおばさんと呼ばれすぎてもはや涙目ですよ?母親(仮)を守ろうとするのは嬉しいですが、ちょろすぎです。将来がより心配になりました。

でもこれだけ信じやすい子ならマリアンヌの嘘泣きに騙されるのも仕方ない気がしてきた。まあ、許せないことですけども……逆なら別。うん、母親を守ろうとする幼子は可愛いものです。可愛いは正義って名言をどこかで聞いた覚えがあるけどあれは本当だと思う。

考えた人、尊敬いたします。
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