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「い……っは、離せ!」

「はいよ」

「な……っ」

リドル様は殿下の手首を掴む形でエヴァン様を庇い、その掴む力が強かったのだろう。殿下の顔は痛みで歪められ引っ張って離そうと試みたせいか、簡単に離されたことで誰にも支えられることなく尻餅をつく。

その様子にくすくすと笑う声。皆様は最初から笑顔だったけれど、こんな笑う声までは出ていなかった。

「ユーザ様!」

ただ一人だけは殿下に駆け寄ったが。

「助かったよ~、リドル」

「気にすんな」

そんな様子を気にもせず攻略対象のお二人は元々仲はいいのか、お礼を言っては特に気にした素振りを見せないと気安い関係が伺える。

乙女ゲームではヒロインの取り合いで優等生もどきのチャラ男、不良騎士と一番喧嘩していた二人だったため不思議な気分だ。

「り、リドル……お前まで!お前たちなどもはや私の側近に相応しくない!貴様らも笑うなぁあぁぁ!」

ようやくリアンヌの手を借りながら立ち上がっては顔をこれでもかと真っ赤にして怒鳴り散らす殿下。そんな中、だんだんと何故こんな人を好きになっていたのだろう?と思い始める。

ラフィーナ様の気持ちに釣られていたのだろうか?……もしそうだとしてラフィーナ様がこんな殿下を見ても好きでいられたのならそれは違うだろう。それは誰にもわからないこと。

私としてはヒロインみたいに今の殿下を見て好きだった気持ちを保つことはできず冷めていくばかりだ。ヒロインと私では立場が違えど、それはそれとして涙した時間が無駄に感じるほどに冷めてしまっている。結局私の殿下への想いはその程度だったのかもしれない。

王とは、民の言葉を傾けるべきで自分が納得いかないからと喚き散らすのは違う。いつでもどんなときでも冷静に、何故そんな事態になっているのか見極めて話をするべきだ。

なのに今の殿下はただ自分が納得いかないからと身分を、権威を振りかざそうとしているようにしか見えない。

その地位は民あってのことで決して振り回していいものではないと言うのに。

「殿下、貴方には失望しました」

気がつけばそんな言葉が出ていた。何かずっと抱えていたわだかまりがすぅ……っとなくなっていくようなそんな感じに、私は悟る。

私はこの国を、民を愛していることに。

殿下を通して国を見ていた。だからこそ王妃として認められなかったことが国から、民からも見放されたようで辛かったのだと。でも今の殿下は愛する国から見放されようとしている存在。それはまだ私は国から、国を作る民から見放されていないのではないかと言う希望をもたらしてくれた。

次は泣いたりなんかしない。悪役令嬢ラフィーナ様のように堂々とするんだと希望は私の背中を押してくれた。
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